養育費の強制執行を会社が拒否?給与差し押さえに応じない場合の対処法

離婚後に子供と離れて暮らす側の親は養育費支払い義務を負います。
養育費は子供の健やかな成長のために必要なものです。
厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」の結果によると、養育費の支払いを「現在も受けている」と回答した割合は母子家庭で28.1%、父子世帯で8.7%と、非常に低い割合となっています。
養育費の支払いが滞った場合、一定の条件を満たせば、支払い義務者の給与を差し押さえることで、養育費を回収することができます。
しかし、給与の差し押さえを試みても、相手方の会社が協力しなければ事態はさらに複雑になります。
この記事では、養育費を回収するための給与差し押さえの仕組みから、会社が差し押さえを拒否した場合の対処法まで、具体的な方法を解説します。
給与を差し押さえて養育費を回収する仕組み
公正証書や家庭裁判所の調停や審判などで取り決めた養育費について支払いが滞った場合、債務名義に基づき、裁判所に強制執行を申し立てることができます。
養育費の強制執行とは、養育費の支払い義務を負った人に対し、財産を差し押さえる手続きのことをいいます。
強制執行で差し押さえができる財産には債権、動産、不動産などがあり、養育費の強制執行では給与や預貯金を差し押さえることが多いです。
なお、預貯金の差し押さえの場合、未払い分しか差し押さえができません。
一方、給与の差し押さえの場合、未払い分だけでなく、将来分の差し押さえも可能です。
また、毎月強制執行を申し立てる必要もなく、一度の申立てで毎月の給与から天引きで養育費を回収できます。
そのため、給与の差し押さえは養育費の不払い問題を解決する強力な手段となります。
なお、給与の差し押さえは債務者(養育費支払い義務者)が持っている給与債権に対する強制執行となります。
強制執行の申し立てが認められると、裁判所から相手の会社へ差押命令が送達されます。
これにより、支払い義務者が給与を勝手に受け取ることや、会社が勝手に支払い義務者に給与を支払うといったことができなくなります。
債務者(養育費支払い義務者)が債権差押命令正本を受け取ってから(債権差押命令が送達された日から)1週間が経過すると債権差押命令に基づく取立権が発生します。
これにより、債権者(養育費請求側)は支払い義務者の会社に取り立てができます。
なお、差し押さえの対象は一般的に給与の2分の1までとなります。
会社が強制執行を拒否する可能性がある
取立権が発生すれば、養育費請求側が支払い義務者の会社に請求し、支払いを受けるというのが通常の流れです。
差押命令は法的効力を持ちます。そのため、会社側は強制執行(裁判所からの差押命令)を拒否することができないというのが原則です。
しかし、実際には以下のような理由から、請求側との話し合いや差し押さえに応じない、あるいは手続きを先延ばしにする会社があるというのが実情です。
- 手続きが面倒
- 手続きの内容を理解していない
- トラブルを避けたい
- 相手方が会社に強く抗議している など
特に、会社と元配偶者が親族関係にあるなど、特別な関係にある場合で見られることがあります。
会社が差し押さえに応じない場合の対処法
会社が差押命令を無視したり、差し押さえに応じなかったりする場合でも、泣き寝入りする必要はありません。
この場合は以下の方法で養育費の回収を進めることになります。
- 取立訴訟
- 会社に対する強制執行
それぞれについて下記で解説します。
取立訴訟
相手方の会社が差し押さえに応じない場合、会社を相手取って取立訴訟を提起することになります。
取立訴訟は口頭弁論を経ることなく判断することができるため、速やかに手続きを進めやすくなります。
取立訴訟では、差押命令に基づき、相手方の勤務先である会社に対して、本来支払われるべき養育費をあなたに直接支払うよう求めます。
取立訴訟は会社の所在地を管轄する裁判所に対して提起します。 提出する書類は以下のとおりです。
- 訴状
- 差押命令正本
- 債務名義(公正証書、調停証書、判決書など)
- 送達証明書
- 会社とのやりとり記録
- 法人の資格証明書 など
上記のほか、提出が必要な書類がある可能性があります。
また、申立手数料(収入印紙4,000円)や郵便切手代(3,000円前後、申立先によって異なる)が必要です。事前に裁判所に確認しておきましょう。
有効な差押による取立権が発生していることが立証でき、養育費請求側の請求を認容する判断がなされれば、会社に対して支払いを命ずる判決が出ることになります。
会社に対する強制執行
取立訴訟で勝訴し、支払い命令が出てもなお会社が支払いに応じないことがあります。
このような場合、その判決自体を債務名義として会社の銀行預金や資産に対して強制執行を申し立てることができます。
これは、相手方の勤務先である会社自体を債務者として、財産を差し押さえる手続きです。
差し押さえる財産は会社の預金口座や売上債権などの財産を対象とすると効果的です。
なお、売上債権とは、売掛金や受取手形などの総称で、商品の販売などにより取引先から後日受け取るべき代金の権利をいいます。
動産や不動産の差し押さえと比べて、回収が容易というメリットがあります。
養育費の不払いに悩んだら弁護士へ
強制執行や取立訴訟など、法的手段には専門知識が必要です。裁判手続きは複雑なうえ、数ヶ月から1年程度の期間を要する可能性があります。
また、裁判手続きは平日日中に行われます。そのため、自分ひとりで対応しようとすれば大きな負担となります。
一方、「裁判を起こす」と伝えれば、会社側が支払いに応じるケースもあります。
法的手段を考える前にまずは弁護士に相談することをおすすめします。 弁護士は、あなたの状況に合わせて、最適な回収方法を提案してくれます。
まとめ
養育費の不払いは、子供だけでなく養育者にとっても深刻な問題です。しかし、泣き寝入りしてはいけません。
相手方の会社が差し押さえを拒否した場合でも、取立訴訟や会社に対する強制執行といった法的手段があることを知っておくことが重要です。
ただし、裁判などの法的手続きは自分だけで対応するのは負担が大きいものです。
専門家である弁護士の力を借りることで、養育費を確実に回収できる可能性が高まります。
養育費の不払いや強制執行の手続きなどでお悩みの方はまずは弁護士にご相談ください。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」なら、養育費問題に精通した弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお問い合わせください。
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