養育費を払わない方法|払えない・払いたくないなら知るべき7つのこと
子供を持つ夫婦が離婚すると、親権を持たない親は親権者に対して養育費を支払う必要があります。
離婚はあくまで夫婦の問題です。離婚したからといって親子の関係がなくなるわけではありません。そのため、離婚後に子供と離れて暮らす親にも養育義務があるのです。
子供と一緒に生活している間も養育費は発生していたわけですが、離婚して子供と離れて暮らすうちに「払いたくない」と思うこともあります。
また、離婚後に生活や環境が変化することで取り決めた養育費を払うのが難しくなることもあるでしょう。
本記事では、「養育費を払うのが難しい」「減額したい」とお悩みの方に向けた対処法を解説していますので参考にしてください。
- 目次
養育費の不払いが社会問題になっている
「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、母子家庭のうち、養育費を受け取っているのは28.1%という結果でした。
つまり、ほとんどの母子家庭が取り決めどおりに養育費を受給できていないということです。
参考:厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188147_00013.html)」※1
養育費を払わないリスクとは
養育費を払わないとどのようなリスクがあるのでしょうか。以下で詳しく見ていきます。
財産の差し押さえ
養育費を支払わない場合、強制執行によって預金口座や給料などの財産を差し押さえされる可能性があります。
強制執行とは、債務者に対する債権者の請求権について、国が強制力を発動して実現する手続きです。養育費においては養育費を回収するために相手方の財産を差押えすることを意味します。
以下のケースでは、親権者は速やかに強制執行を行うことができます。
- 養育費の支払いについて離婚協議書に明記しており(強制執行認諾文言付き)公正証書を作成している
- 養育費の支払いについて調停が成立した
- 裁判で養育費の支払いが決まった
強制執行されることで給与や銀行口座を差し押さえられ、強制的に養育費を支払わされることになります。
2020年3月以前と4月以降の養育費の不払いに対する罰則の違い
2020年3月以前、養育費の不払いに関して懲役や罰金などの刑事罰が科させることはありませんでした。
しかし、2020年4月に改正民事執行法が施行されたことで、養育費の支払いに対して虚偽の回答をしたり、財産開示に応じなかったりした場合は刑事罰に問われるようになりました。
2020年3月以前 | 2020年4月以降 |
30万円以下の過料 | 6か月以上の懲役または50万円以下の罰則 |
前科がつかない | 前科がつく |
財産開示手続とは、債務者を裁判所が呼び出し、勤務先や銀行口座名、所有財産などについて質問できる手続きです。
民法改正前も、財産開示手続に応じない場合や虚偽の回答をした場合に「30万円以下の過料」という行政罰はありました。
しかし、過料は行政罰であって刑事罰ではないため、前科がつくわけではありませんでした。
今回の改正民事執行法によって罰則が強化され、「6か月以上の懲役または50万円以下の罰則」という刑事罰へ変更となりました。
養育費を払わずに済むケースとは
離婚後は取り決めたとおりに養育費を支払う必要がありますが、例外的に養育費を支払わなくても良いケースがあります。
親権者が再婚して子供と養子縁組をした
離婚後に元妻(親権者)が再婚し、新しい父親(親権者の再婚相手)と子供が養子縁組をした場合、養育費の支払い義務が免除される可能性があります。
子供が成年(成人)年齢に達した
子供が成年(成人)年齢に達した場合も養育費の支払いを免れることができます。
養育費の支払い終期は成年(成人)年齢までとするのが一般的です。現行民法では成年(成人)年齢は20歳ですので、20歳になったら養育費の支払いを拒むことができます。
ただし、離婚時に「大学を卒業する年の3月まで」「22歳になるまで」などのように養育費の支払い終期を決めている場合は、離婚時の取り決めどおりに支払わなければなりません。
なお、2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられますが、すでに取り決めた養育費の支払い終期が変わることはありません。
無収入になった
養育費は「金銭的に余裕があるときに支払えば良い」というものではありません。
養育費の支払い義務は生活保持義務と言い、「相手が自分と同じ程度の生活を維持できるようにする義務」です。
そのため、自分の生活レベルを犠牲にしてでも養育費を支払う必要があるのです。
ただし、完全に無収入となった場合は養育費の支払い義務を免れることができます。
具体的には、病気やリストラで失業して無収入となり、仕事がみつからないケースなどが該当します。借金をしたり、命を危険にさらしたりしてまで養育費を支払う必要はありません。
面会交流を拒まれても養育費の支払い義務はなくならない
「子供に会わせてもらえない」「子供と面会できない」などの理由で養育費の支払いを拒否するケースがあります。
しかし、養育費の支払いと面会交流は交換条件となるものではありません。
「面会させてもらえないから養育費を支払わない」「養育費を払ってもらえないから子供を会わせない」というものではないのです。
面会交流をさせてもらえない場合であっても養育費の支払い義務はなくなりません。
養育費を減額できるケースとは
養育費の支払いを免れることができない場合であっても、減額ならできるケースがあります。以下で詳しく見ていきましょう。
自分が再婚して子供ができた
あなた(養育費支払い義務者)が再婚し、子供ができた場合は養育費を減額できる可能性があります。
これは、新たに扶養すべき人が増えたことで、元配偶者との子供に支払うことのできる金額が減るためです。
予想外の事情により収入が減った
離婚する際には想定できなかった事情によって収入が減ってしまった場合は養育費を減額できます。
このとき、ポイントとなるのは「収入が減ったことを予想できなかった」という点です。離婚時に想定できそうな事情の場合は減額できない可能性があります。
どのような事情であれば養育費を減額できるかについては弁護士にお問い合わせください。
親権者の収入が増えた
離婚後、親権者の収入が増えた場合も養育費を減額できます。
一般的に、養育費の金額は裁判所が公開している養育費算定表によって決まります。
算定表は子供の年齢や人数、養育費を支払う側と受け取る側の収入のバランスによって決まります。そのため、養育費を受け取る側である親権者の収入が増えれば、養育費を減額できる可能性があるのです。
参考:裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について(https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html)※2」
養育費の免除や減額を請求する方法
収入が減った場合や再婚した場合など、養育費を減額したいと思ったらどうすれば良いのでしょうか。以下で詳しく見ていきます。
相手と話し合う
離婚時に取り決めた内容を変更する場合は、まず相手方と話し合うのが基本です。話し合いで合意できれば養育費の減額が可能です。
合意した内容については合意書を作成し、養育費を減額したことを書面の形で残しておきましょう。
書面で残していないと、あとから「減額に応じたつもりはない」などと言われ、トラブルに発展する可能性があります。
養育費減額調停を申し立てる
相手方と話し合っても養育の減額に応じてもらえない場合は、家庭裁判所に「養育費減額調停」を申立てます。調停とは裁判所で調停委員を介して話し合いを行う手続きです。
調停では、収入の変化や生活環境の変化など、養育費の減額が妥当であることを証明する資料が必要になります。
提出された資料を基に「養育費の減額が妥当かどうか」を調停委員が確認を行います。「減額が妥当」とみなされれば、相手方を説得してもらえます。
調停が不成立となった場合は、審判に移り、裁判官が養育費の金額について判断をくだします。
なお、養育費減額調停を申立てる際は以下の書類が必要です。
- 養育費(請求・増額・減額等)調停申立書
- 連絡先等の届出書
- 事情説明書
- 進行に関する照会回答書 非開示の希望に関する申出書 ※希望する場合
- 子供(未成年者)の戸籍謄本
- 申立人の収入を証明する資料(給料明細・源泉徴収票・確定申告書の写しなど)
- 収入印紙(子供一人当たり1,200円) 郵便切手 ※申立先の裁判所にお問い合わせください。
養育費を払えない・払いたくないと思ったら弁護士へ
養育費を払いたくない・払えないと思ったら、まず弁護士に相談しましょう。
収入が減った・再婚したなどやむを得ない理由がある場合は、所定の手続きを踏むことで養育費を免除あるいは減額できることがあります。
弁護士に相談し、減額や免除ができるかどうかを確認しましょう。減額・免除ができると判断された場合、弁護士に手続きを依頼すると有利に進めやすくなります。
まとめ
養育費を払いたくないからといって支払いを拒否し続けると財産を差し押さえされる可能性があります。また、場合によっては刑事罰に問われる可能性もあります。
やむを得ない事情がある場合は養育費を減額できる場合があります。弁護士に相談し、適切に対応することが大切です。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚や養育費に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。
※1 参考:厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」
※2 裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」
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