熟年離婚で後悔しない準備とは?
熟年離婚とは、長年連れ添った夫婦が何らかの理由に結婚生活に終止符を打ち、離婚することを指します。
熟年離婚に明確な定義はありませんが、熟年夫婦や婚姻期間が長い場合の離婚を言うことが多いようです。
年齢を重ねると若いときは違った問題が生じます。また、婚姻期間が長くなると離婚時に決めることも多く、複雑になります。
この記事では、熟年離婚で後悔しない準備や基礎知識について解説します。
熟年離婚の準備で知っておきたい基礎知識
熟年離婚に限らず、離婚では以下の金銭を請求できる場合があります。
年齢を重ねると条件の良い就職先を見つけるのが困難なため、請求できるお金はしっかりと受け取ることが重要です。
財産分与
離婚の際、婚姻中に築いた共有財産を夫婦で公平にわけることになります。これを財産分与と言います。
専業主婦(夫)であっても財産分与を請求できます。
外で働くことができたのは、専業主婦(夫)が家庭を支えてくれていたからだと考えられます。そのため、専業主婦(夫)であっても財産分与を受けることができるのです。
財産分与の対象となるものには下記のようなものがあります。
- 預貯金
- 有価証券
- 不動産
- 生命保険(解約返戻金が発生するもの)
- 車 など
なお、結婚前から所有していた財産や相続で得た財産などの特有財産については財産分与の対象外となります。
また、退職金については状況によって財産分与の対象となる可能性があります。
財産分与はプラスの財産だけでなく、借金やローンなどマイナスの財産も対象です。特に、住宅ローンの残った不動産については、残債と不動産の価値によって対処法が変わります。
婚姻期間が長いとそれだけ共有財産が増えますし、内容も複雑になります。そのため、熟年離婚は特に財産分与で揉めやすい傾向があります。
慰謝料
慰謝料とは精神的苦痛を被った場合に請求できる損害賠償金です。どちらか一方が離婚の原因を作った場合、離婚原因を作った側に対して慰謝料を請求できます。
離婚の際の主な慰謝料相場は下記となります。
- 不貞行為 50~300万円
- DV・モラハラ 30~300万円
上記のほかセックスレスや経済的DVなどでも慰謝料請求が認められる場合があります。また、慰謝料を請求するには不法行為があったことを立証できる証拠が必要です。
年金分割
サラリーマンなど厚生年金を支払っている場合、婚姻中の厚生年金納付実績を夫婦でわけることができます。これを年金分割と言います。
一方、自営業者などについては国民年金のみの支払いになるため、年金分割を行うことはできません。
年金分割には合意分割と3号分割の2種類があります。合意分割とはその名の通り、夫婦の合意によって按分(分割)割合を決める方法です。
一方、3号分割とは、按分割合を半分とする方法です。
熟年離婚での年金分割の注意点
年金分割は離婚をして他人になることでもらえますが、遺族年金は夫婦でなければもらうことができません。
熟年離婚になると、離婚後、ほどなくして相手方が死亡するケースも珍しくありません。相手方の死亡時に婚姻中であれば遺族年金がもらえます。
しかし、離婚している場合は年金分割を受け取れる一方、遺族年金は受け取れないということです。
また、65歳到達時点で以下の条件を同時に満たす場合、申請をすることで加給年金を受け取ることができます。
- 厚生年金の被保険者期間が20年以上
- 配偶者や子供を扶養している
加給年金とは、生計維持関係がある場合に加算される家族手当のようなものです。夫が妻を扶養している場合は夫の老齢厚生年金に加給年金が加算されます。
加給年金は対象者(上記の場合は妻)が65歳になると打ち切られますが、加給年金に切り替わって振替加算が妻の老齢基礎年金に上乗せされます。
振替加算は自分(妻)名義での支給ですので振替加算支給後に離婚しても支給され続けます。
しかし、振替加算が支給される前に離婚すると加給年金の支給は止まるため、振替加算を受け取ることができません。
養育費
夫婦の間に未成熟子がいる場合、親権者を決めなければ離婚できません。また、離婚後、親権を持たない側(非監護親)は親権者に対して養育費を支払う必要があります。
養育費は未成熟子がいるときに発生するため、子供が独立している場合は請求することができません。
最近は高齢出産も増えているため、熟年離婚であっても未成熟子がいるケースも少なくありません。
養育費については夫婦が合意で決めることができますが、裁判に進んだ場合は養育費算定表を用いて決めることが多いです。
熟年離婚で後悔しないための準備とは?
熟年離婚となると、健康面やお金、住居の問題など、若いときとは違う心配が増えます。熟年離婚で後悔しないための準備について解説します。
離婚後の老後資金や財産
熟年離婚後の心配ごととして「経済的にやっていけるのか」という問題があります。
最近は「長生きはリスク」とも言われます。自分がどれだけ生きるのかは知りようがありませんが、生きる分の生活費が必要です。
熟年離婚を考えるのであれば、以下のことを見積もっておきましょう。
- 離婚後はどこに住むのか
- 離婚後の生活費にいくらかかるのか
- 年金支給まで何年あるのか
- 離婚後働いて収入を得ることはできるのか
- 給与収入以外で得られる収入には何がいくらあるのか など
2021年の総務省の家計調査によると、単身世帯の一か月の消費支出は約16万円です。つまり一年間で約192万円の生活費が必要ということです。
厚生労働省の調査によると、令和3年時点の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳です。
このデータを考慮すると、現在40歳の場合、男性であと41年、女性であと47年生きる計算になります。
令和2年以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、平均寿命が短くなっていますが、基本的には平均寿命は年々延びる傾向にあります。
人生100年時代と言われています。平成に入ってからは5年で1歳程度平均寿命が延びていますので、40年後には平均寿命が今より延びている可能性もあります。
また、上記は平均値ですので90~95歳くらいまで生きることは想定しておく必要があります。
そうなると、年間192万円×50年=9,600万円、1億円近いお金が必要という計算になります。
年金など老後にどのような収入がいくら入るのかを踏まえ、貯金だけで賄っていけるのかなどを総合的に考えましょう。
老後の生活費を賄えないようであれば、就職や副業などの準備を始めましょう。
高齢になればなるほど就職先は少なくなります。今から手に職をつけ、老後の生活費を稼げるように準備を始めましょう。
参考:統計でみる日本「家計調査 / 家計収支編 単身世帯 年報(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200561&tstat=000000330001&cycle=7&year=20210&month=0&tclass1=000000330001&tclass2=000000330022&tclass3=000000330024&stat_infid=000032221008&result_back=1&cycle_facet=tclass1%3Atclass2%3Atclass3%3Acycle&tclass4val=0)」※1 参考:厚生労働省「1 主な年齢の平均余命(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life18-02.pdf)」※2
離婚後の住まい
持ち家だった場合、離婚後はどちらが済むのか、もしくは売却するのか、その際の財産分与なども十分に検討しましょう。
新たに家を借りる場合は通勤や家賃相場などを踏まえて物件を探しておきましょう。
高齢になると通院する機会も増えます。医療機関は充実しているか、公共交通機関や通院のしやすさなども考慮して探しましょう。
年齢が上がるにつれ、家を借りにくくなります。家を借りる際は早めに行動することが重要です。
介護について
今健康状態に不安がなくても、高齢になれば、風邪をひいたり、ちょっとケガをしたりしただけで車いすや寝たきり生活を余儀なくされることがあります。
将来、施設に入ることや子供に介護される可能性もあります。そのため、子供の家や施設から近いところを選ぶことも大切です。
また、「遠くの親類より近くの他人」とも言います。
子供の家から近いところに住むだけでなく、日ごろから近隣住民とコミュニケーションを取り、何かあったときに頼れるような関係性を築くことも重要です。
保険の手続き
離婚する際は加入している保険の手続きも発生します。以下で保険の種類別に解説します。
公的医療保険
国民皆保険制度により、すべての日本人は公的医療保険に加入しています。公的医療保険は大きくわけて、社会保険と国民健康保険があります。
国民健康保険料の納付義務者は世帯主ですが、世帯員は個々で保険料を支払うことになります。
婚姻中に配偶者を世帯主とした国民健康保険に加入しており、離婚後すぐに就職しないという場合、新たに自分を世帯主とした国民健康保険の加入手続きを行う必要があります。
配偶者の扶養に入っており、離婚後に国民健康保険に加入する場合、配偶者の会社を通じて資格喪失証明書(健康保険の被扶養者ではなくなったことを証明するもの)を取得します。
その後、資格喪失から14日以内に自分を世帯主とした国民健康保険加入手続きを行います。
なお、上記の国民健康保険加入手続きはいずれもお住まいの住所地を管轄する役所となります。
一方、離婚後に社会保険に加入する場合は勤務先で手続きを行い、国民健康保険に加入していた場合は役所にて脱退手続きを行います。
社会保険加入手続きについては勤務先にお問い合わせください。
国民年金保険
婚姻中配偶者の扶養に入っていた(第3号被保険者)場合、離婚後は第1号被保険者または第2号被保険者となります。
この場合、被扶養者(異動)届と被扶養配偶者非該当届を配偶者(第2号被保険者)の勤務先を通じて日本年金機構に提出し、第3号被保険者から外す手続きを取ります。
その後、第1号被保険者に変更する場合は本人が自治体に対して種別変更届を別途届け出ることになります。
一方、企業に勤め、条件を満たす場合は厚生年金保険に加入します。基本的には厚生年金と社会保険は同時に加入することになります。
生命保険
掛け捨て型でない生命保険は財産分与の対象ですので、離婚時の解約払戻金額を夫婦で半分ずつわけるというのが原則です。
もちろん、離婚時に保険を解約しなければならないわけではありません。状況によって、離婚時点の解約返戻金額を現金や預貯金などのほかの財産で清算する方法もあります。
解約しない場合、死亡保険金の受取人を配偶者としていたケースでは、離婚時に受取人を子供や自分の親族に変更するというのが一般的です。
そのほか、契約者や被保険者の氏名・住所、保険料払い込み方法などの変更が必要な場合があります。
なお、掛け捨て型の生命保険は財産分与の対象ではありませんが、継続の可否判断や上記と同様の変更手続きが必要な場合があります。
弁護士に相談
熟年離婚は婚姻期間が長いことが多いため、共有財産が多く、複雑になりがちです。また、再就職も若いときより難しくなります。
離婚後に困窮しないためにも、受け取ることのできるお金はしっかりと請求することが大切になります。
離婚を切り出す際は事前に共有財産には何がいくらあるのかを把握しておくことが重要です。
配偶者が財産を隠しているケースもあります。この場合、弁護士に依頼することで隠し財産を調べる方法があります。
特に年金分割は離婚する年齢も重要になります。離婚を切り出す前にまずは弁護士に相談しましょう。
まとめ
離婚する年齢やタイミングによって受け取ることのできるお金が変わる可能性があります。また、お金だけでなく健康面や介護などについても考える必要があります。
年齢を重ねれば就職しにくくなりますし、家も借りにくくなります。
離婚後の生活に備えてしっかりと準備を行い、受け取ることのできるお金はきちんと相手方に請求することが大切です。
熟年離婚を考えたら弁護士に相談しながら慎重に準備を進めましょう。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。
※1 統計でみる日本「家計調査 / 家計収支編 単身世帯 年報」
※2厚生労働省「1 主な年齢の平均余命」
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