同意のない別居は同居義務違反?該当するケースと注意点・対処法
民法では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定めています。つまり、夫婦には同居義務があるのです。
一方、夫婦関係が悪化し、別居を考えることもあるでしょう。配偶者が別居に同意すれば問題ありませんが、無断で別居すると同居義務違反の責任を問われる恐れがあります。
この記事では、同居義務違反に該当するケース・しにくいケース、配偶者の同意を得ずに別居するリスクや離婚前の別居で不利にならないための対処法を解説します。
別居を考えている方だけでなく、配偶者に無断で出て行かれた方についての対処法も解説していますので最後までお読みください。
- 目次
夫婦には同居義務がある
民法では同居や相互扶助などの夫婦の義務を定めています。
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
夫婦は家族を構成する基本単位であり、生涯を共にする決意をしたことになるため、同居し、互いに支え合う必要があります。
そのため、正当な理由なく、同居を拒んだり、相手の同意なく別居したりすると同居義務違反に該当する恐れがあります。
民法によれば、「夫婦は必ず同居しなければならない」とも読めます。
しかし、暴力をふるわれていたり、夫婦関係が悪化したりしている状態で同居を続けることは、心身の健康や子供に悪影響をおよぼす恐れがあり、合理的ではありません。
別居に正当な理由があるかどうかについては下記の要素を総合的に考慮して判断されるため、別居したからと言って直ちに同居義務違反に該当するわけではありません。
- 別居にいたった経緯
- 別居した目的
- 別居の期間
- 別居に同意していない側の生活状況 など
同居義務違反が認められやすいケース
同居義務違反に該当するとみなされるケースとして主に以下のようなケースがあります。
- 話し合いができる状態にも関わらず無断で別居したケース
- 愛人と同居する目的で別居したケース
- 特別な理由もなく別居したケース
それぞれ下記で解説します。
話し合いができる状態にも関わらず無断で別居したケース
別居は夫婦が話し合い、同意を得たうえで行うのが望ましいです。
夫婦関係が悪くなく、話し合いができる状態にもかかわらず、無断で家を出て行った場合は同居義務違反に該当する可能性があります。
愛人と同居する目的で別居したケース
「愛人と一緒に暮らしたいから」という理由や、勝手に家を出た結果愛人と暮らすようになったという場合も同居義務違反だけでなく、不貞行為も該当する可能性があります。
特別な理由もなく別居したケース
特別な理由がなかったり、夫婦関係が良好にも関わらず身勝手な理由で家を出たりするケースも同居義務違反に該当する恐れがあります。
例えば以下のような理由で一方的に家を出るケースです。
- 嫌になったから
- 何となく
- 自由になりたいから
- 一人になりたいから
- 一緒に住みたくないから
同居義務違反が認められにくいケース
同居義務違反が認められにくいケースは主に以下のようなケースです。
- 互いに別居に合意しているケース
- すでに夫婦関係が険悪であるケース
- 一次的な別居であるケース
- DV・モラハラがあるケース
夫婦が互いに別居に合意していれば同居義務違反とはなりません。
また、夫婦喧嘩の際に「出て行ってやる」と言って、一時的に家を出て翌日に帰ってくるなどのケースも同居義務違反には該当しないと言えます。
一方、DVやモラハラ被害がある場合、加害者である配偶者と別居の話し合いをするのは現実的ではありません。
このような場合、身の安全を図るため、避難する目的で相手の同意を得ずに別居したとしても、「正当な理由がある」として同居義務違反にはならない可能性があります。
同居義務違反に該当した場合のリスク
同居義務違反は犯罪ではないため刑事罰を適用されることはありません。しかし、以下のようなリスクがあります。
- 離婚で不利になる可能性がある
- 悪意の遺棄として慰謝料を請求される恐れがある
同居義務違反に違反した場合、法定離婚事由の1つである悪意の遺棄とみなされ、有責配偶者となる恐れがあります。
有責配偶者からの離婚請求は認められないのが原則です。そのため、離婚を望んで別居したにも関わらず、離婚が認められないことがあります。
また、有責配偶者になると相手方から慰謝料を請求される恐れがあります。
相手の同意がなくても別居すべきケース
相手の同意がなくても、正当な理由があれば同居義務違反とはなりません。特に以下のケースでは相手が同意しなくても別居すべきと言えます。
- DV・モラハラがある
- 子供が配偶者から虐待を受けている
以下で詳しく解説します
DV・モラハラがある
配偶者からDVやモラハラを受けている場合、相手の同意なく別居しても同居義務違反に問われる可能性は低いと言えます。
ただし、相手方から「同居義務違反だ」と主張される可能性もあるため、別居前にDVやモラハラを立証できる証拠を集めておきましょう。
- DV
-
- 診断書
- DVによるケガの写真
- 暴力をふるわれている最中の録音・動画
- 警察や公的相談窓口への相談記録 など
- モラハラ
-
- 暴言を吐かれたときの動画・録音
- 精神科や心療内科などの診断書
- 配偶者から送られてきたLINEやメール
- モラハラを記録した日記やメモ
- 公的相談窓口での相談記録 など
子供が配偶者から虐待を受けている
子供が配偶者から虐待されている場合、子供の身の安全を図ることが最優先になります。そのため、配偶者の同意を得ないまま別居しても同居義務違反に問われる可能性は低いでしょう。
この場合も相手側から同居義務違反を主張される可能性がありますし、離婚時の親権争いで考慮すべき事情となるため、以下のような証拠を集めておきましょう。
- 子供に暴力をふるっている最中の録画、録音
- 子供に暴言を吐いている最中の録画、録音データ
- 診断書
- 暴力をふるわれてできたケガの写真
- 警察や児童相談所への相談記録 など
【別居された方へ】別居した相手に戻ってきてほしい場合
配偶者が勝手に家を出てしまい、戻ってきてほしいけれど相手が同居に応じないという場合、家庭裁判所に同居を求める調停を申し立てることができます(同居調停)。ただし、実務的には夫婦関係調整(円満)調停を申し立て、同居に応じてもらえるように話し合いをすることが多いです。
なお、相手方が調停に来ない場合、調停は不成立になります。また、相手方を強制的に調停に来させることはできません。
同居を命じる審判がなされても相手方を強制的に同居させることもできません。あくまで、同居は本人の意思によるものとなります。
円満調停から離婚調停に切り替えることもできる
最初は夫婦関係調整(円満)調停を進めていたものの、途中から離婚に話を変え、調停離婚を成立させることもできます。
夫婦関係調整(円満)調停から調停離婚が成立した場合も裁判所が調停調書を作成します。役所に調停調書を持参して手続きを行えば離婚ができます。
逆に、離婚調停を進めているうちに夫婦が翻意し、関係修復に進むことになった場合は円満調停を進めることもできます。
同居義務違反で慰謝料請求はできるのか
夫婦が互いに別居に同意している場合やDVを理由に家を出た場合、慰謝料請求は認められないのが原則です。
しかし、そのような事情がないにもかかわらず、別居を強行した場合には、具体的な状況にもよりますが、慰謝料請求が認められる可能性があります。
配偶者の同居義務違反を理由に慰謝料請求をするためには証拠が必要です。同居義務違反を理由に慰謝料請求をする場合は以下の証拠を集めましょう。
別居開始日や別居にいたった経緯を 立証できる証拠 |
・LINEやメールのやり取り ・置き手紙 ・住民票を異動させている場合は住民票 |
---|---|
別居以外の問題がある場合は それを立証する証拠 |
【不倫】 ・不貞行為の写真や録音、メール 【生活費の未払い】 ・給与明細や源泉徴収票 ・入金が途絶えたことがわかる通帳 【DV・モラハラ】 ・医師の診断書 ・通院記録 ・DVによってできたケガの写真 ・DV・モラハラ行為の動画や録音 ・公的機関への相談記録 |
別居開始日や別居にいたった経緯を立証できる証拠
別居が始まった際のメールやLINEのやり取り、置き手紙があれば証拠として残しておきましょう。これらはすべて別居が始まった日時とあなたが別居に同意していないということを立証する証拠になります。
履歴が消えてしまった、証拠が残っていないという場合、配偶者に「どうして家を出ていったの?戻ってきてほしい」などと連絡を取ってみましょう。
配偶者が連絡を拒否したり、同居を拒む内容の返信をしてきたりした場合は証拠として有効です。
また、配偶者が住民票を異動している場合は住民票を取得することで別居した日時を立証する証拠になります。
別居以外の問題がある場合はそれを立証する証拠
配偶者が一方的に別居しただけでなく、DV・モラハラがあった、不倫をしていた、生活費を払ってくれないといった問題がある場合はそれらの証拠も集めておきましょう。
DV・モラハラがあった場合は通院履歴や診断書、公的機関への相談記録、動画、録音などが記録として有効です。
同居中に不倫をしていたケースだけでなく、別居先が浮気相手の自宅であるケースや、別居先に浮気相手が出入りしているケースもあります。
配偶者が不貞行為を行っていることがわかる写真や動画、メールなどを保存しておきましょう
また、夫婦は収入に応じて婚姻費用を分担する義務があります。
配偶者の収入のほうが多いにも関わらず生活費を支払わない場合は配偶者の給与明細や源泉徴収票、未入金がわかる通帳などが証拠になります。
【別居したい方】離婚前の別居で不利にならないためのポイント
別居を考えている方が同居義務違反にならないためのポイントを解説します。
話し合ってから別居するのが基本
同居義務違反にならないためには、夫婦で話し合い同意したうえで別居することが原則です。基本的に夫婦双方が別居に同意していれば同居義務違反にはなりません。
子供のことは最優先で考える
子供がいる場合は子供のことを最優先で考えましょう。
子供を連れて別居する場合、住む場所だけでなく、転校や転園が必要になる可能性があります。学校や友達、生活環境が変わることは子供にとって大きな負担となります。
また、別居後に経済的に不安定になれば、生活水準を下げる必要があります。子供にやりたいことを我慢させなければならないケースもあるでしょう。
「別居したい」というのはあくまで親の気持ちの問題です。子供がいる場合は子供のことを十分に考えましょう。
一方、配偶者が子供に虐待をしていたり、子供の前で暴力をふるっていたりする場合は子供の身を守るためにも速やかに避難することが重要です。
どのような対応が適切かについては個々の状況によって異なるため、弁護士にご相談ください。
不倫はしないこと
別居して気が緩み、解放感から配偶者以外の異性と交際を始めるケースも少なくありません。
別居しただけでは婚姻関係が破綻したとは言えません。そのため、不貞行為があった場合、離婚や慰謝料を求められる可能性があります。
肉体関係がなかったとしても、別居中は不倫を疑われるような行為は避けましょう。
別居後の生活費(婚姻費用)について
民法では、夫婦には相互扶助義務があるとされ、収入の多い側が収入の少ない側に生活費を支払う必要があります。
基本的には相手の同意を得ずに別居した場合も生活費の請求が可能です。婚姻費用は家庭裁判所の算定表に基準となる金額が掲載されています。
婚姻費用をいくら請求できるのかについては、まずは算定表を使って計算してみると良いでしょう。
原則として婚姻費用は請求時点から認められます。別居後につらい思いをしないためにも早い段階で婚姻費用を請求しましょう。
一方、あなたが婚姻費用を支払う側の場合、婚姻費用分担義務に違反すると有責配偶者になる恐れがあるため、注意が必要です。
まとめ
相手の同意なく別居すると様々な問題が発生する恐れがあります。特に子供がいる場合は子供への影響も考慮しなければなりません。
配偶者が一方的に家を出ていき、生活費を払ってくれないというケースもあるでしょう。
離婚前の別居問題で悩んだらまずは弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士なら個別の状況に応じ、子供がいる場合の対応や別居前の準備、適切な別居の方法、別居中の生活費などアドバイスしてくれます。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚・男女問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。是非お役立てください。
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