婚姻費用調停で聞かれること10選と調停を有利に進めるポイント
夫婦は婚姻中の生活費(婚姻費用)を分担する義務を負います。これを婚姻費用分担義務と言います。
別居中であっても婚姻費用分担義務を負うため、不足分があれば収入の多い側の配偶者に婚姻費用の支払い請求を行うことができます。
話し合いで解決しない場合は家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てることになります。
この記事では、婚姻費用分担請求調停でどのようなことを聞かれるのか、有利に進めるためのポイントについて解説します。
- 目次
婚姻費用分担請求調停で聞かれること
婚姻費用分担請求調停では調停委員が夫婦双方に様々な質問を行い、合意を図ります。婚姻費用分担請求調停の詳しい流れについては下記記事を参考にしてください。
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婚姻費用分担請求|調停の流れと別居中の生活費を請求する方法
調停を有利に進めるためには、事前に聞かれることを想定し、回答を準備しておくことが重要です。一般的によく聞かれる項目は以下となります。
- 双方の収入に関する情報
- 双方の支出に関する情報
- 双方の財産に関する情報
- 双方の借金や負債に関する情報
- 子供の有無や年齢・監護状況
- 結婚に至った経緯 婚姻費用分担請求調停を申立てた経緯
- 結婚後の生活実態に関する情報
- 将来に関する予測
- 婚姻費用の希望金額や支払い方法
それぞれの具体的な内容について下記で詳しく解説します。
双方の収入に関する情報
夫婦双方の職業や収入について質問されます。
婚姻費用は収入の多い側の配偶者が少ない側の配偶者に支払うものですので、婚姻費用の金額を決めるうえで重要なポイントになります。
調停では養育費・婚姻費用算定表を用いて金額を算出するため、調停委員が双方の職業・収入を聞き、おおよその目安を確認します。
「収入はいくらですか」というざっくりとしてものではなく、以下のような項目を細かく聞かれることになります。
- 月収
- 年収
- ボーナス
- 副業などの不定期な収入
上記の収入がある場合、それらを証明する資料の提出も求められます。収入を証明する資料としては以下のようなものがあります。
- 給与明細
- 年末調整・確定申告書類
- (自営業の場合)売上報告財務諸表 など
自営業の場合
自営業の場合は事業収入の流れまでを聞かれます。具体的には以下のようなことを聞かれたり、資料の提出を求められたりすることがあります。
- 売上高
- 利益
- 経費
- 帳簿記録
- 確定申告書類
- 銀行口座明細
- 契約書 ※事業内容による
- 発注書 ※事業内容による
- 請求書※事業内容による など
不動産や株式投資からの収入がある場合
不動産や株式投資からの収入がある場合は以下の情報を聞かれます。また、それを証明する資料の提出も求められます。
- 家賃収入:賃貸借契約書や預金通帳のコピー
- 配当・利益:株式や不動産投資の配当金、利益の実績を示す銀行の取引記録
- 社会保険補償給付:年金や公的給付金の支給通知書入金証明書 など
双方の支出に関する情報
夫婦双方の支出についても細かく聞かれます。下記の項目について、それぞれどちらがどれだけ負担しているかということについても答えられるようにしておきましょう。
- 住宅ローン
- 家賃
- 水道光熱費
- 食費
- (子供がいる場合)教育費
- 日常生活における交通費
- 医療費
- 各種保険料
- 衣料品や日用品
- 娯楽費 など
上記を裏付ける資料としては以下のようなものがあります。
- 家賃:賃貸借契約書
- 水道光熱費:領収書
- 食費:レシートやクレジットカードの明細 など
子供がいる場合は以下の項目についても聞かれます。
- 学校や塾の授業料
- 教材購入費用
- 習い事や部活動の費用 など
それぞれについての契約書や領収書を保管し、整理しておきましょう。
双方の財産に関する情報
状況によっては収入のほかに所有する資産の有無を聞かれることがあります。
一方の配偶者に多くの資産があれば、それを考慮して生活費を決めるほうが公平なケースがあるためです。
財産に関する情報を裏付ける資料としては以下のようなものがあります。
- 預貯金口座の残高:銀行口座の通帳、明細、残高証明書
- 不動産の情報(物件の所在地、面積、評価額、税務上の価値、抵当権や権利関係の有無):不動産登記簿謄本、評価証明書、固定資産税の課税明細書
- 投資商品の情報:取引明細書、口座の評価書 など
双方の借金や負債に関する情報
借金や負債がある場合は婚姻費用の金額を決める際に考慮することがあります。
婚姻費用を支払う側に多額の借金がある場合は収入が多くても手元に残るお金は低くなります。そのため、相場より婚姻費用の支払い額が低額になる可能性があります。
一方、婚姻費用を受け取る側に多額の借金がある場合、返済を考慮すると収支がマイナスになるケースもあります。
このような場合は婚姻費用を増額する理由になることもあります。ローン残高やクレジットカードの債務、その他借り入れに関する資料としては以下のようなものがあります。
- 借用書
- 振り込み・引き落としの記載のある通帳のコピー など
子供の有無や年齢・監護状況
子供の有無や年齢、監護状況についても聞かれます。子供が未成年や成人しているが親が経済的に支援しているような場合は子供にかかる費用を考慮しなければなりません。
子供が学生の場合は小中学生なのか高校、大学なのか、公立か私立かという点も重要です。
婚姻費用分担請求調停を申立てた経緯
婚姻費用は請求した時点を起点とします。そのため、婚姻費用分担請求調停を申し立てた経緯についても聞かれることがあります。
具体的には以下の項目を聞かれることがあります。
- 夫婦間で話し合いを行ったか
- (話し合いを行った場合)どのような点で話がまとまらなかったのか
- (話し合いができなかった場合)話し合いができなかったのはどのような理由か
- 内容証明郵便で請求をしているか
- (内容証明郵便で請求しているなら)請求したのはいつか
- 事前に夫婦でどのような話し合いを行ったか など
婚姻費用について合意しているにも関わらず不払いが続いている場合は支払いが遅れた理由や期間、金額を確認し、調整します。
一方、婚姻費用を請求することになったのがDVやモラハラ、不倫など一方の有責行為であった場合は婚姻費用の金額を調整することがあります。
結婚後の生活実態に関する情報
調停では算定表を基に婚姻費用を算出します。しかし、夫婦の生活実態にそぐわなければ、現実的な金額ではなくなります。
例えば、介護や支援が必要な家族がいる場合、医療費や介護費などの特別な支出が発生する可能性が高いです。
そのため、夫婦だけでなく、子供などの家族全員の生活実態について聞かれることがあります。具体的には以下のようなことを聞かれることがあります。
- 住居について(借家か持ち家か、持ち家の場合は住宅ローンの残債など)
- 家族構成と年齢 家族の健康状態 など
将来に関する予測情報
現在だけでなく、将来予想される事象についても聞かれることがあります。
例えば、現在は正社員で働いているが、退職し、再就職の予定がないのであれば、現在の年収で婚姻費用を算出するのは現実的ではありません。
また、現在公立高校に通う子供が来年から私立大学に通う予定であれば、学費などの費用が大きく変わります。
そのほか、健康に不安がある場合、状況によっては将来に関する予測情報として考慮しなければならない場合があります。
具体的には以下のようなことを聞かれることがあります。
- 昇給の可能性
- 転職の可能性
- 退職(再就職)の可能性
- 独立・企業の可能性
- 子供の教育費の増加の可能性
- 健康状態の変化の可能性 など
なお、将来に関する予測情報については、「事情が変更した時点で増額または減額請求などを行うべき」とされるケースもあります。
しかし、婚姻費用の増額や減額請求は「合意する際に予測可能であったかどうか」がポイントとなります。
現時点で将来の事情の変化が予測される場合は婚姻費用分担請求調停の段階で主張しておきましょう。
婚姻費用の希望金額や支払い方法
婚姻費用は算定表を基準に決めることがほとんどです。しかし、婚姻費用の支払い側と請求側で婚姻費用に対する希望や主張は異なります。
できるだけ双方が納得できるよう、調停委員が希望金額や支払方法を聞き取り、調整します。具体的には以下のようなことを確認されます。
- 婚姻費用の希望金額
- 支払い日
- 支払い方法 など
結婚に至った経緯
現在の夫婦関係を確認するために、夫婦の結婚に至った経緯についても聞かれることがあります。
結婚に至った背景によって、夫婦双方の経済状況や価値観、生活スタイルなどが窺える場合があるためです。
具体的には以下のようなことを聞かれます。
- 結婚の動機・目的
- 交際したきっかけ・交際期間
- 結婚後の生活スタイルの変化
ただし、婚姻費用は速やかに決めることが重要です。特に経済的に切迫している場合は早急に生活費を確保する必要があります。
そのため、結婚に至った経緯を聞かれないこともありますし、聞かれた場合でも深掘りされることはほとんどありません。
離婚調停と同時に申し立てた場合に聞かれること
婚姻費用分担請求調停は離婚調停と同時に申立てができます。
同時に申し立てることで、仮に離婚調停が不成立になった場合であっても、婚姻費用が調停成立となれば、婚姻費用だけでも受け取ることができます。
なお、婚姻費用は請求した時点を算定開始日とします。そのため、「離婚調停が不成立となったから婚姻費用を申し立てよう」とすると、それだけ算定開始日が遅れてしまいます。
離婚調停と婚姻費用分担請求調停を同時に申し立てた場合、前述の項目に加え、以下についても確認されることがあります。
- 離婚を決意した理由
- 夫婦関係の修復可能性
- 離婚条件(財産分与や慰謝料、養育費など)についてどう考えているか など
審判に進んだ場合に聞かれること
婚姻費用分担請求調停が成立しなかった場合は審判に移行します(家事事件手続法第272条第4項)。
審判では婚姻費用の分担について裁判官が判断をくだします。
基本的に審判で聞かれることは調停で聞かれることと同じです。ただし、審判では調停で主張したことや提出した資料に対してより踏み込んだ質問なされるケースがあります。
審判に進んだ際は、より踏み込んだ内容についても答えられるようにしておきましょう。
婚姻費用分担請求調停を有利に進めるための7つのポイント
婚姻費用分担請求調停を有利に進めるためのポイントは下記の7つです。
- 徹底して準備を行う
- 冷静になる
- 正しい情報を伝える
- 考慮してほしい事情については積極的に主張する
- 合理的な主張をする
- 急ぎの場合は保全処分の申立てを行う
- 弁護士に依頼する
それぞれについて下記で詳しく解説します。
徹底して準備を行う
調停は裁判所の手続きのため、一般の方は緊張してうまく話せないケースもあります。
調停で聞かれる可能性のある項目については回答を準備し、必要な資料を集め、整理しておきましょう。
冷静になる
感情的にならず、冷静に話し合いを進めましょう。
質問内容によっては気分を害したり、これまでの不満が爆発して感情的になったりする恐れがあります。
しかし、感情的になってしまえば調停委員の心証が悪くなり、不利になる可能性があります。
調停委員や相手方の主張には理解を示し、冷静な対応を心がけましょう。
正しい情報を伝える
調停委員や裁判所から聞かれた内容については正確な情報を伝えましょう。状況に変化があった場合は最新の情報を伝えましょう。
調停では調停委員の理解を得ることが重要です。嘘をついてしまえば、調停委員からの新表を失ってしまい、調停が不利に進む恐れがあります。
情報に変化があった場合、その事情を裏付けする最新の情報を提出しましょう。
考慮してほしい事情については積極的に主張する
婚姻費用分担請求調停で特に考慮してほしい事項があれば積極的に主張しましょう。積極的に主張すべき事項の例としては以下があります。
- 住宅ローンの負担分だけ婚姻費用を減額してほしい
- 子供に障害があり、高額な医療費がかかるため、婚姻費用を増額してほしい
- 相手方は実家で生活しており、住居関係費を負担していないため、婚姻費用を減額してほしい
- 子供の私立学校への進学が決まっているため、婚姻費用を増額してほしい など
主張する際は口頭だけでなく、書面にまとめておくほうが調停委員の理解が得られやすくなります。
このとき、主張内容を裏付ける資料も併せて提出するほうが良いでしょう。
なお、調停を申し立てる際、裁判所から申立書のほかに事情説明書の提出を求められることがあります。
調停での回答を整理することにもつながるため、事情説明書には具体的な情報を記載しましょう。
事情説明書の最後には「裁判所に配慮を求めること」という欄があります。
ここには調停で話し合う内容ではなく、調停の進め方に関する要望を書きます。
例えば「相手方と顔を合わせたくないので、呼び出し時間をずらしてほしい」「待合室がわからないようにしてほしい」といった事情があれば、この欄に記載しましょう。
なお、事情説明書は相手方に送る必要がないため、一通で足りますが、相手方が閲覧することができます。
そのため、相手方に知られたくない内容については記入を控えるか、「非開示の希望に関する申出書」を提出しましょう。
事情説明書、非開示の希望に関する申出書ともに下記の裁判所のウェブサイトに書式が掲載されています。
参考:裁判所「家事調停の申立て(https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/syosiki02/index.html)」※1
合理的な主張をする
調停では現実的で常識的な範囲で婚姻費用を請求しましょう。
過度な要求をすれば調停が不成立となる可能性があります。また、審判に進むと裁判官が婚姻費用を決定します。
過度な要求を避け、合理的な主張を行い、調停を成立させることに尽力するほうが賢明です。
急ぎの場合は保全処分の申立てを行う
婚姻費用分担請求調停や審判の成立を待っていると、生活できなくなるケースもあります。
このような場合は婚姻費用の分担の保全処分(婚姻費用の仮払いの仮処分)の申立てを検討しましょう(家事事件手続法第157条1項2号)。
保全処分の申立てが裁判所に認められれば、調停や審判を行っている間に支払い側の財産を仮差押えできます。
また、仮差押えには相手方にプレッシャーを与える効果もあるため、婚姻費用の支払いを促す効果も期待できます。
ただし、仮差押えは婚姻費用支払い側にとって不利益の大きいものです。そのため、裁判所に認めてもらえるとは限りません。
弁護士に依頼する
婚姻費用分担請求調停は弁護士なしでも対応可能です。
しかし、調停は裁判所を利用した手続きのため、うまく主張できなかったり、正しい判断ができなかったりする可能性があります。
弁護士に依頼すれば、法的な根拠に基づいた合理的な主張を行いやすく、相手から合意を得られやすくなります。
まとめ
婚姻費用分担請求調停で聞かれることは多岐に渡ります。有利に進めるためには事前準備を万全に行いましょう。また、調停では合理的で正しい主張を行いましょう。
婚姻費用分担請求調停を弁護士に依頼することで、事前準備から調停委員の質問対策までサポートしてもらえます。
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※1 裁判所「家事調停の申立て」
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