離婚届不受理申出をすべきケースとは?手続き方法と注意点
離婚は夫婦が離婚や離婚条件に合意をしたうえで離婚届を提出するのが前提です。基本的に、役所では書類に不備がなければ離婚届は受理されます。
そのため、話し合いがまとまっていないにも関わらず、配偶者が無断で離婚届を提出するということがあります。
これを回避するための手段として離婚届不受理申出があります。
この記事では以下のことを解説します。
・離婚届不受理申出とはどのようなものか
・離婚届を無断で提出するとどうなるのか
・離婚届不受理申出を行うメリット・デメリット
・離婚届不受理申出の手順
・離婚届不受理申出の取り下げ方法
・離婚届不受理申出後に離婚する方法
- 目次
離婚届不受理申出とは
不受理申出とは、本人が届け出たことが確認できない限り、届出を受理しないよう申し出ることです。
無断で届出が出され、戸籍に事実と異なる記載がなされることを防ぐための手段になります。
離婚届不受理申出は、無断で離婚届を提出されたとしても受理しないように届け出ることを言います。
離婚届を無断で提出するとどうなる?
相手の同意を得ずに無断で離婚届を提出すると以下の刑事罰に問われる恐れがあります。
- 相手方の署名欄を勝手に埋め、偽造した場合:有印私文書偽造罪(刑法第159条第1項)
- 偽造した離婚届を無断で役所に提出した場合:偽造有印私文書行使罪(刑法第161条第1項)
- 虚偽の離婚届を提出し、戸籍やコンピュータ上に虚偽の内容を記載・記録させた場合:公正証書原本不実記載罪、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪(刑法第157条1項)
しかし、離婚届を無断で提出しても、不備がなければ離婚届は受理されるのが実情です。これを防ぐために離婚届不受理申出という制度があるのです。
離婚届不受理申出を行うメリット
離婚届不受理申出を行うメリットには以下のようなものがあります。
- 勝手に離婚届を提出されても受理されずに済む
- 離婚の話し合いを妥協せずにできる
- 無料で手続きができる
それぞれについて以下で解説します。
勝手に離婚届を提出されても受理されずに済む
離婚届に記載しなければ済む話ですが、夫婦によって何等かの理由で必要事項を記載した離婚届を相手方に渡しているケースもあります。
また、相手方が離婚届の記入欄をすべて埋めてしまうこともあり得ます。
このような場合、こちらに離婚の意思がなくとも、相手方が離婚届を提出し、受理されれば離婚が成立してしまいます。
事前に離婚届不受理申出を行うと、申出人以外の人が提出した離婚届は受理されません。
そのため、相手方に勝手に離婚届を提出されたとしても、受理されずに済みます。
離婚の話し合いを妥協せずにできる
日本で離婚する夫婦のうち、約9割が話し合いで離婚を成立させています。
しかし、離婚の話し合いが長引くと、「こちらが妥協しなかったら勝手に離婚届を提出されてしまうかもしれない」などと不安になることもあります。
離婚届不受理申出を行うと、知らない間に離婚届が受理される恐れがありません。
そのため、慰謝料や財産分与、親権、養育費などの離婚条件について妥協せずに話し合いができます。
無料で手続きができる
離婚届不受理申出は役所で無料で手続きができます。
手続きも複雑ではないため、勝手に離婚届を出される恐れがあるなら申請しておくと良いでしょう。
離婚届不受理申出を行うデメリット
離婚届不受理申出には以下のデメリットがあります。
- 申出を行う本人が役所に出向いて手続きを行う必要がある
- 不受理申出が相手方にバレたらトラブルになる可能性がある
それぞれについて以下で解説します。
申出を行う本人が役所に出向いて手続きを行う必要がある
離婚届不受理申出は申出を行う本人が役所に出向いて手続きを行う必要があります。電話や郵送での手続きは認められないのが原則です。
平日日中に仕事をしている人や育児や介護で忙しい人にとってはデメリットと言えるかもしれません。
不受理申出が相手方にバレたらトラブルになる可能性がある
離婚届不受理申出を提出しても役所から相手方に通知が行くことはありません。
しかし、相手方が離婚届を提出しようとして受理されなかった場合、離婚届不受理申出をしていたことを知ることになります。
この場合、離婚届不受理申出の申出人に対し、役所から「離婚届が提出されたが不受理となった」という通知がなされます。
離婚届不受理申出を行ったことが相手にバレたら、その後の話し合いで揉める可能性もあります。
離婚届不受理申出を行うべきケース
ここまで解説したとおり、離婚届不受理申出は相手方が無断で離婚届を提出した際に受理されることを防ぐ効果があります。
以上のことから、以下のようなケースでは離婚届不受理申出を行うべきと言えます。
- 離婚条件に合意していないのに作成した離婚届を相手方が所持している
- 相手方が離婚を急いでいる
- 離婚届を作成したものの気持ちが変わった
- 親権獲得に争いがある
それぞれについて以下で解説します。
離婚条件に合意していないのに作成した離婚届を相手方が所持している
相手方の手元に離婚届がある場合、相手方の自由意思で離婚届を提出できてしまいます。
提出した離婚届に不備がなければ役所が受理するため、離婚届不受理申出をしていなければ離婚が成立してしまいます。
相手方が離婚を急いでいる
相手方が離婚を急いでいる場合、勢いで離婚届を提出する恐れがあります。
特に相手方に不倫や財産隠しがある場合、これらの事実が離婚前に判明すると、相手方にとって不利になります。
そのため、相手方が離婚を急いでいる場合は離婚届不受理申出をしておいたほうが良いでしょう。
離婚届を作成したものの気持ちが変わった
離婚は勢いでするものではなく、離婚後の生活も含め、後悔のないよう慎重に決めるものです。
また、話し合い当初は「離婚したい」と思っていても時間とともに気持ちが変わることもあります。
しかし、離婚届を作成している状態だと、こちらが悩んでいる間に相手方が勝手に提出することができてしまいます。
離婚届を書いたが、「離婚に迷いが出た」「離婚したくない」という気持ちが生じた場合は不受理申出をしておいたほうが良いでしょう。
親権獲得に争いがある
未成熟子がいる夫婦が離婚する場合、親権者を決めなければいけません。
離婚届には親権者を記載する欄があり、基本的にはこの欄に記載された人物が親権者に指定されます。
配偶者が親権者の名前を勝手に記載して提出すれば、親権を失う恐れがあります。
親権獲得に争いがあるのであれば、離婚届不受理申出を行っておくと良いでしょう。
離婚届不受理申出の流れ
離婚届不受理申出の流れは以下のとおりです。
- 必要書類を揃える
- 離婚届不受理申出に必要事項を記入する
- 市区町村役所・役場に提出
それぞれ順を追って解説します。
必要書類を揃える
離婚届不受理申出に必要な書類は以下です。
- 離婚届不受理申出書 1通
- 写真付きの本人確認書類(運転免許証、パスポート、住民基本台帳カード(顔写真付き)、マイナンバーカードなど)
申出書は住所地を管轄する役所・役場で入手できます。自治体によっては役所のウェブサイトからダウンロードできる場合もあります。
参考:大阪市「離婚届不受理申出( https://www.city.osaka.lg.jp/shimin/cmsfiles/contents/0000369/369897/43rikon-fujuri.pdf)」※1
離婚届不受理申出書に必要事項を記入する
必要書類を集めたら、離婚届不受理申出書に必要事項を記入します。必要事項は以下のとおりです。
- 申出人と配偶者の氏名、生年月日、住所、本籍
- 申出人の署名 申出人の連絡先 など
市区町村役所・役場に提出
離婚届不受理申出の申請場所は本籍地または住所地を管轄する役所・役場になります。 原則として郵送や電話での提出はできません。
離婚届不受理申出の申出人は本人の意思に基づかずに届出をされる恐れのある人になります。そのため、離婚届不受理申出については夫または妻が申出人になります。
なお、離婚届不受理申出は休日夜間でも提出可能です。ただし、夜間休日は届出を預かるのみで、内容を確認することはありません。
翌営業日に確認が行われ、書式に不備がある場合は提出し直すように言われることがあります。
修正して再提出となると受理されるまでに時間がかかるため、その間に離婚届が提出されてしまう恐れがあります。
できるだけ平日日中に提出することをおすすめします。
離婚届不受理申出の有効期限
離婚届不受理申出の効力に有効期限はありません。
以前は申出から6か月が有効期限でしたが、2008年5月から無期限に有効となりました。
離婚不受理届の効力が失効するケース
離婚届不受理申出の効力は無期限ですが、以下の4つのケースでは効力が失効します。
- 申出人が取り下げたケース
- 申出人が死亡したケース
- 申出人が離婚届を提出したケース
- 裁判離婚が成立したケース
協議離婚の場合、申出人が申出を取り下げるか、離婚届を提出しない限りは離婚届不受理申出の効力が続きます。
一方、裁判離婚で離婚が認められると自動的に離婚不受理届の効力が失効します。
離婚届不受理申出の取り下げ方法
離婚届不受理申出を行ったものの、「相手の態度が変わった」「離婚に合意した」などの理由で不受理申出が必要でなくなった場合は不受理申出を取り下げます。
離婚届不受理申出を取り下げるには、申出人本人が以下の書類を提出します。
- 不受理申出の取下書(役所で入手できます)
- 申出人の本人確認ができるもの(運転免許証、マイナンバーカード、パスポート、写真付き住民基本台帳カード、外国人登録証など)
不受理申出の取下書の様式は全国共通のため、他の市区町村のものでも使用可能です。
提出先は申出人の本籍地を管轄する役所・役場になります。なお、申出人本人が離婚届を提出する場合は不受理申出の取下げは必要ありません。
参考:札幌市「不受理申出の取下書(認知・婚姻・離婚)(https://www3.city.sapporo.jp/download/shinsei/procedure/02615_pdf/presen_02615_000.pdf)」※2
離婚届不受理申出を行う前に離婚届が受理された場合の対処法
離婚届不受理申出を提出する前に離婚届が提出されて受理されてしまった場合は以下の手順で対応しましょう。
- 戸籍謄本と離婚届の写しを取得する
- 離婚無効調停 離婚無効訴訟
- 市区町村役所・役場で戸籍訂正を行う
それぞれ順を追って解説します。
戸籍謄本と離婚届の写しを取得する
まずは役所に出向き、戸籍謄本を取得します。戸籍謄本で現在の戸籍を確認し、離婚が成立しているかどうかを確認しましょう。
申請すれば離婚届の写しも交付してもらえますので、取得しておきましょう。
離婚無効調停
離婚が成立していることを確認したら、家庭裁判所に離婚無効調停を申し立てます。
調停とは調停委員を介し、話し合いで解決を図る裁判所の手続きです。
調停では申立てた側が合意のない離婚であることを主張し、相手方と離婚の無効について話し合います。
このとき、証拠として戸籍謄本と離婚届の写しを提出すると良いでしょう。
相手方が離婚届を提出したことを認め、離婚の無効について同意できれば審判手続きで裁判所が離婚の無効を確認することになります。
離婚無効訴訟
調停では相手方はすでに離婚が成立していることを主張したり、離婚届を無断で提出したことを認めなかったりして話し合いがまとまらない可能性があります。
この場合、調停不成立となり、離婚無効訴訟を提起することになります。
離婚無効訴訟では双方の主張や提出した証拠を考慮しながら裁判所が離婚の無効について判断することになります。
市区町村役所・役場で戸籍訂正を行う
調停で離婚の無効に合意、または裁判で離婚が無効であると判断されたら役所に戸籍訂正の申請を行います。
申請が受理されれば戸籍から離婚の記載が取り消されることになります。
戸籍訂正は結果の確定から1ヶ月以内に行う必要があります。結果が確定したら速やかに手続きを行いましょう。
離婚届不受理申出後に離婚する方法
離婚届不受理申出を後に離婚する方法は次の2つです。
- 離婚届不受理の申出人が離婚届を提出する
- 離婚届不受理申出を取り下げた後に離婚届を提出する
それぞれについて以下で解説します。
離婚届不受理の申出人が離婚届を提出する
離婚届不受理申出を行うことで、申出人以外の人が離婚届を提出しても受理されなくなります。
一方、離婚届不受理申出の申出人本人が離婚届を提出すると、内容に不備がなければ受理されます。
申出人の提出した離婚届が受理されれば離婚が認められ、離婚届不受理申出の効力が失効します。
離婚届不受理申出を取り下げた後に離婚届を提出する
離婚届不受理申出を取り下げたあとに離婚届を提出し、受理されれば離婚できます。 この場合、以下の手順で行うことになります。
- 離婚届不受理申出を行う
- 離婚について話し合う
- 夫婦双方が離婚に合意する
- 離婚届の不受理申出を取り下げる
- 離婚届を提出する
離婚届不受理申出をしたことは相手に知られるのか
前述のとおり、離婚届不受理申出をしたことについて配偶者に通知されることはありません。
しかし、配偶者が離婚届を提出すると、離婚届は受理されません(戸籍法第27条の2第4項)。
提出しようとした離婚届が受理されないことにより、配偶者は離婚届不受理申出がなされたことを知ることがあります。
まとめ
離婚届が受理されると調停や裁判の手続きを経なければ離婚を無効にすることができません。こうなると時間も労力もかかってしまいます。
相手方に離婚届を勝手に提出される恐れがある場合は離婚届不受理申出を行うことをおすすめします。
そもそも、離婚を無断で提出される恐れがあるということは話し合いが困難な状態とも言えます。
納得できない状態で離婚に応じてしまうと離婚後の生活でトラブルに発展する恐れがあります。
離婚届不受理申出の方法や離婚の話し合いがまとまらない場合、提示された離婚条件に納得できない場合、離婚に応じたくないという場合は弁護士に相談し、アドバイスをもらうことをおすすめします。
※1 大阪市「離婚届不受理申出」
※2 札幌市「不受理申出の取下書(認知・婚姻・離婚)」
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