うつ病を理由に離婚できる?

その他離婚理由
弁護士監修
うつ病を理由に離婚できる?

心の病気は生涯を通じて5人に1人が罹患すると言われています。

厚生労働省の発表によると、令和2年の気分[感情]障害(躁うつ病を含む)に分類される推計患者数は入院・外来合わせて約119万人という結果でした。

うつ病は特別な人が罹患するものではなく、誰もがかかる可能性がある病気です。一方、回復するまで何年もかかったり、再発を繰り返したりするケースもあります。

配偶者がうつ病になり、賢明に支えようとしたものの、疲弊してしまい、離婚を考えることもあるでしょう。

この記事では、配偶者のうつ病を理由に離婚できるのかについて解説します。

配偶者のうつ病に悩んでいる方、うつ病に罹患して悩んでいる方、配偶者のうつ病で離婚を考えている方は最後までお読みください。

目次
  1. うつ病を理由に離婚できる?難しい?
  2. うつ病による離婚率
  3. うつ病で離婚できる条件
    1. うつ病の回復に相当期間努めてきたが関係継続が困難であること
    2. 回復が見込めない強度の精神病
    3. 離婚後にうつ病の配偶者が問題なく生活できること
  4. うつ病の配偶者と離婚する方法と流れ
    1. 話し合い
    2. 離婚調停
    3. 離婚裁判
  5. 慰謝料や離婚後の親権、養育費はどうなる?
    1. 慰謝料
    2. 親権
    3. 養育費
  6. まとめ

うつ病を理由に離婚できる?難しい?

夫婦が話し合い、合意できればうつ病を理由に離婚できます。話し合いで合意が得られない場合は訴訟を提起し、離婚裁判へと進みます。

裁判で離婚が認められるためには民法で定める法定離婚事由が必要です。

民法第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

そもそも夫婦には互いに助け合う義務(相互扶助義務)があるため、うつ病に罹患した側の配偶者が相互扶助の義務を果たすことができない場合は離婚事由になります。

一方、配偶者のうつ病を理由に離婚を考える際、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」に該当するかどうかが争点となります。

うつ病は適切に治療すれば治る可能性のある病気です。そのため、「回復の見込みがない強度の精神病」とは判断されにくい傾向があります。

また、「回復の見込みのない強度の精神病」と判断されたとしても、それだけで離婚が認められるわけではありません。

夫婦には相互扶助義務があるため、裁判所は「配偶者が病気になったらまずは配偶者の病状が回復するよう支えるべき」と考えます。

うつ病になったからといってすぐに配偶者を見捨てる行為を裁判所は容認せず、「配偶者の回復のためにどれだけ賢明に対応したか」を重視します。

うつ病による離婚率

うつ病による離婚率

うつ病だけを理由にした離婚率について公表されている正確な統計データはありません。

なお、「病気」を理由にした離婚率は、司法統計によると10%未満という結果でした。

「病気」のなかにうつ病も含まれていると考えれば、うつ病を理由にした離婚率はごくわずかと言えます。

参考:裁判所「司法統計第19表 婚姻関係事件数-申立ての動機別申立人別(https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/253/012253.pdf)」※1

うつ病で離婚できる条件

うつ病で離婚するためには以下の条件を満たす必要があります。

うつ病の回復に相当期間努めてきたが関係継続が困難であること

前述のとおり、夫婦には相互扶助義務があるため、たとえ配偶者がうつ病であったとしても、夫婦で協力して支え合い、乗り越えていくよう努力する必要があります。

そのため、配偶者のうつ病を理由に裁判で離婚を認めてもらうためには「うつ病の配偶者を支えるために努めてきたが、どうにもならない」という事実を立証する必要があり、具体的には以下のようなものがあります。

  • うつ病になった配偶者を看病や介護・サポートしてきた期間:日記やメモ
  • それでもなお回復する見込みがない状態であること:精神科医師による配偶者の診断書
  • うつ病により夫婦が共同生活を継続することが困難であること:別居の事実を証明するもの・メモや日記
  • 婚姻関係の継続を強いることは酷であること:配偶者による暴力や暴言の録音・録画、診断書 など

回復が見込めない強度の精神病

ここでいう「強度の精神病」については、統合失調症、躁うつ病、アルツハイマー病、偏執病などが挙げられます。

回復が見込めない強度の精神病かどうかについては、専門医の診断結果を参考に判断をくだします。

離婚後にうつ病の配偶者が問題なく生活できること

離婚後にうつ病の配偶者が困窮する恐れがある場合、離婚を認めてしまうと精神病患者を見捨てることになるため、裁判所は離婚を認めない可能性があります。

そのため、「離婚後にうつ病の配偶者が問題なく生活できること」も重要になります。

「離婚後に配偶者が問題なく生活できる」と判断されるケースとしては以下のようなものがあります。

  • 離婚後に生活を送れるだけの財産分与を十分に行う
  • 配偶者の家族からサポートを受けることができる
  • 配偶者本人が十分な資産を持っている
  • 障害年金を受け取ることができる
  • 入通院・治療の目途が立っている など

うつ病の配偶者と離婚する方法と流れ

うつ病の配偶者と離婚する方法と流れ

うつ病の配偶者と離婚する方法と流れについて解説します。

話し合い

まずは夫婦で離婚について話し合うところから始めます。夫婦が互いに合意できれば、役所に離婚届を提出し、受理されれば離婚が成立します。これを協議離婚と言います。

ただし、うつ病の配偶者に「離婚したい」と伝えると、落ち込んでしまい話し合いに応じてくれなくなったり、逆上してトラブルに発展したりするケースもあります。

また、最悪の場合、自殺を考えたりする可能性もあるため、離婚を切り出す際は相手の状況に合わせ、十分に配慮する必要があります。

離婚に合意できたら、トラブルを避けるためにも離婚協議書を作成し、取り決めた内容を書面で残しておきましょう。

なお、弁護士に依頼し、配偶者との交渉を代行してもらうことでトラブルを避けやすく、スムーズに離婚を進めやすくなるでしょう。

離婚調停

話し合いで離婚に合意できない場合は家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。調停とは、調停委員を介して話し合い、合意を図る手続きです。

離婚調停では、診断書や日記、録音、録画など、自分の言い分を客観的に立証できる証拠を揃え、調停委員に自分の主張を理解してもらい、味方につけることが重要です。

離婚裁判

調停で離婚が成立しない場合は離婚裁判に移り、裁判所に離婚を認めてもらうことになります。

離婚裁判では、双方の言い分や証拠に基づき、裁判所が離婚を認めるかどうかの判断をくだします。

配偶者が離婚に応じない場合であっても、裁判所が離婚を認めれば離婚ができます。

ただし、精神病というのは「本人の責任」と言い切ることは難しく、離婚後に困窮する恐れがあります。

そのため、裁判所はうつ病だけを理由に離婚を認めることに消極的な傾向があります。

なお、法定離婚事由のなかで「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当すると判断された場合は離婚が認められる可能性もあります。

例えば、以下のようなケースがあります。

  • うつ病の配偶者からDVやモラハラの被害を受けている
  • 長期間にわたり別居状態である など

慰謝料や離婚後の親権、養育費はどうなる?

慰謝料や離婚後の親権、養育費はどうなる?

配偶者がうつ病であることは慰謝料や親権、養育費などの離婚条件に影響をおよぼすのでしょうか。 以下で項目別に解説します。

慰謝料

離婚の慰謝料が請求できるのは、配偶者の有責行為によって権利が侵害された場合になります。

配偶者がうつ病に罹患して精神的苦痛を被ったかもしれませんが、配偶者もなりたくてうつ病になったわけではありません。

また、配偶者は病気を患っており収入が十分に得られていないケースも多いため、慰謝料請求は難しいのが実情です。

ただし、うつ病の配偶者が勝手に家を出て行ったケース(悪意の遺棄)や不貞行為、DV・モラハラがあるといった場合は慰謝料請求ができる場合もあります。

親権

未成熟の子供がいる場合、離婚時に親権者を決める必要があります。

配偶者がうつ病だからといってあなたが親権を獲得できるとは限りません。

基本的に裁判所は子供の利益を重視して親権者を決めます。具体的には以下の要素を総合的に鑑み、判断することになります。

  • 監護実績
  • 離婚後の養育環境
  • 経済的な安定性 など

親がうつ病であることは親権者指定には直接的に影響はしません。

もちろん、心身の健康状態は考慮されますが、うつ病が軽度であれば親権者指定にはあまり影響しないというのが一般的です。

一方、うつ病に罹患している場合、経済的に困窮しているケースも多く、子供を養育する能力が十分でない場合もあります。

このような事情により、うつ病に罹患している親よりうつ病でない親のほうが親権者として望ましいと判断される可能性はあります。

なお、あなたが離婚を考えたのは、うつ病の配偶者と共同生活を送ることが困難になったからにほかなりません。

うつ病の親を見て育つことで子供の精神面には少なからず影響があると考えられます。

夫婦で話し合う際はどちらのもとで育てたほうが子供にとって望ましいかを最優先に考え、親権者を決めることが重要です。

養育費

あなたが親権を獲得した場合、元配偶者に養育費を請求できます。

うつ病に罹患していても養育費の支払い義務は変わりません。

しかし、養育費の金額は双方の収入や子供の年齢・人数によって変わります。そのため、うつ病によって働けず無収入という場合は養育費を支払ってもらうことは難しいでしょう。

一般的には無職で収入がないという場合も「働こうと思えば働くことができる能力がある」とみなされれば、一般的な平均賃金をもとに養育費が算定されます。

しかし、うつ病が原因で離職している場合、働ける能力があるとはみなされない可能性があります。

一方、うつ病の配偶者が親権を獲得した場合、あなたが養育費を支払うことになります。この場合は通常より多めに支払う必要が出てくる可能性もあります。

まとめ

うつ病の配偶者を支えるうちに心身ともに疲弊してしまい、離婚を考えることもあるでしょう。

双方が合意しなければ、うつ病だけを理由に裁判で離婚を認めてもらうのは難しいのが現状です。

もちろん離婚できる可能性がまったくないわけではありませんが、うつ病で離婚を認めてもらうためには、状況に応じた証拠を集め、適切に対応する必要があります。

一般的な離婚と比べ、うつ病の配偶者と直接交渉するとトラブルに発展する恐れもあります。

うつ病の配偶者と離婚したいと思ったら、弁護士に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。

当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。

※1 裁判所「司法統計第19表 婚姻関係事件数-申立ての動機別申立人別

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