養育費の逃げ得を防げ!強制的に回収する方法と未払いの予防策

養育費の未払いが社会問題となっています。
養育費の支払いは「逃げ得」と言われることがありますが、強制的に支払わせたり、罰則を科したりすることはできないのでしょうか。
この記事では、養育費が逃げ得と言われる理由や養育費の支払いを逃げ得にしない方法を解説します。
「養育費を払ってくれない」「養育費を回収したい」とお考えの方は最後までご覧ください。
- 目次
「逃げ得」とは
逃げ得とは、支払い義務があるにも関わらず養育費や慰謝料などの金銭を支払わないまま雲隠れし、支払い義務から免れようとすることを言います。
「養育費は逃げ得」と言われる理由
未成熟子を持つ夫婦が離婚する際、親権を持たない親(非監護親)には養育費の支払い義務が生じます。
しかし、「養育費の取り決めをせずに離婚した」「支払い能力がない」などの理由で養育費を支払わないケースも多く、養育費の未払いが社会問題となっています。
このような状況を鑑み、2020年4月に施行されたのが改正民事執行法です。
これにより、債務者(養育費の支払い義務者)が財産開示に応じない場合、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰が科されるようになりました。
民事執行法改正前も財産開示に応じない場合に罰則がありましたが、「30万円以下の過料」という行政罰でした。前科がつかないことに加え、金額も30万円以下ということで「養育費を払うくらいなら罰金を払ったほうがマシ」と考える人もいたようです。
「養育費逃げ得」に関する実態調査
平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果によると、養育費の取り決めをしているひとり親家庭は、母子家庭42.9%、父子家庭20.8%で、養育費の取り決めを行わないまま離婚しているケースが多いことがわかりました。
また、養育費の受給状況について見てみると、「現在も受けている」が母子家庭で24.3%、父子家庭で3.2%と非常に低い水準であることがわかります。
上記は改正民事執行法施行前のデータではありますが、「養育費が逃げ得」という状況により、多くのひとり親家庭が養育費を受け取れていないことがわかります。
参考:厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000188168.pdf)」※1
養育費の支払いを「逃げ得」にしない回収方法
養育費の未払いが起きたら、債務者(養育費の支払い義務者)に養育費を支払うよう催促をします。
それでも養育費が支払われない場合、強制執行によって養育費を回収する方法があります。
強制執行とは、裁判所の手続(調停や審判など)や公正証書などで取り決めたとおりに金銭を支払わらない人に対し、預貯金や給与などの財産を差し押さえ、差し押さえた財産のなかから強制的に支払いを受ける制度になります。
強制執行を行うには、まず債務者の住所地を管轄する裁判所に以下の書類などを提出し、申立てを行います。
- 強制執行の申立書(表紙、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録)
- 債務名義(調停調書、判決書、和解調書、強制執行認諾文言付公正証書など)の正本
- 債務名義正本の送達証明書 ・第三債務者(法人)の資格証明書(商業登記事項証明書または代表者事項証明書)
- 申立手数料 ※債権者と債務者がそれぞれ1名、債務名義1通の場合は4,000円
- 郵便切手 ※申立先にお問い合わせください
このほか、債権者や債務者の住所、氏名に変更がある場合は住民票や戸籍謄本などが必要な場合があります。詳しくは申立先の地方裁判所にお問い合わせください。
債務名義があれば調停や裁判を起こすことなく強制執行を行えますが、債務名義がない場合は養育費請求調停を申し立てる必要があります。調停が成立すれば調停調書、調停不成立となった場合は審判書が債務名義になります。
強制執行の申立てが受理されれば、債務者に対して裁判所から差押命令が送達されます。差押命令が送達された日の翌日から1週間が経過すれば、債権者(養育費を受け取る側)が取り立てを行うことができます。
なお、差し押さえにあたり、債務者の財産を開示させる「財産開示手続」が必要となります。
法改正前は債務者が無視したり、虚偽の申告をしたりしても制裁が軽く(過料最大30万円)、実効性に欠けるものと言わざるを得ませんでした。
また、財産開示手続を行う場合、債務名義は裁判での判決や調停調書などに限定されており、公正証書を作成しても財産開示手続はできないという状況でした。
債務者の給料を差し押さえる場合は給料支払い者の情報(会社名や氏名・住所)が必要です。
しかし、債務者が転職した場合、給料支払い者の情報を知ることは困難であり、個人が探偵などを使って調べることは費用対効果が悪いため、養育費回収を断念するケースが少なくありませんでした。
改正民事執行法の施行により、強制執行認諾文言付公正証書でも財産開示手続が可能となりました。
また、法改正前は財産開示手続の開示拒否や虚偽申告に対して30万円以下の過料という行政罰でしたが、「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」の刑事罰になり、前科がつくようになりました。
さらに、裁判所を通じて、日本年金機構や自治体から債務者の転職先の情報も取得できるようになったため、債務者の財産を把握しやすくなりました。
養育費の支払いを「逃げ得」にしないための予防策とは
協議離婚の場合、離婚の際に養育費についてしっかりと取り決めておき、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくことが重要です。
こうすることで非監護親が養育費の支払いから逃げた際、速やかに強制執行を行い、差し押さえによって養育費の回収を行うことができます。
「相手と関わりたくない」「早く別れたい」という気持ちはわかりますが、一時の感情だけで養育費の取り決めをしないことはもったいないですし、経済的に困窮するリスクも高くなります。
養育費の受け取りは子供のための権利です。離婚時は必ず養育費の取り決めを行い、強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておきましょう。
「養育費の逃げ得を防ぎたい」「支払いから逃げられた」なら弁護士に相談
改正民事執行法の施行により、養育費の差し押さえを行いやすくなりました。
しかし、現時点では養育費の未払いがあっただけで刑事罰が科されるわけではなく、法的な手続きを適切に行う必要があります。また、どのような財産を差し押さえるかの判断も重要になります。
養育費の請求には時効があります。また、そもそも養育費の取り決めを行っていない場合は遡って請求できないのが原則です。
弁護士なら強制執行において適切な対応ができますし、離婚の段階であれば将来起こり得るリスクを想定し、効果的な公正証書を作成することができます。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚や養育費問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。
※1 厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果」
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