祖父母は孫の親権者になれる?必要な手続きと注意点
現在、法制審議会は離婚後共同親権導入に向けて民法改正の要綱案を取りまとめています。
親権問題は親だけでなく、祖父母が悩まれることもあります。
そもそも、祖父母は親権者になることは可能なのでしょうか。
この記事では、祖父母は孫の親権者になれるのか、孫の親権者になる方法や親権同様の権利を行使する方法について解説します。
- 目次
親権者とは
親権とは、子供の利益のために行使する権利です。
具体的には未成熟な子供が不利益を被らないために、養育監護し、財産を管理し、子供に代わって法律行為をする権利であり、義務になります。
親権者はその権利を行使する人であり、義務を負う人を指します。
民法第820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
親権者と保護者の違い
学校などの配布物に「保護者の方へ」という言葉を目にすることがありますが、親権者と保護者の違いは何でしょうか。
保護者とは、親権者だけでなく、現時点で子供を養育監護している方や未成年後見人なども含みます。
実際、教育現場では親権者だけが保護者になっているわけではなく、児童養護施設や療育施設、里親などが保護者として関わっているケースもあります。
状況によって祖父母や兄弟などが関わるケースもあります。保護者の対象範囲は広く、親権者に限っているわけではありません。
親権者と扶養者の違い
扶養者とは、経済的な援助が必要な親族に対して経済的な援助をする人をいます。
このとき、経済的な援助を受ける側を被扶養者と言いますが、一般的には保険や納税面で扶養されている人を指します。
離婚に伴い、母親が親権を獲得したものの、離れて暮らす父親が扶養者になっていることもあります。
被扶養者は年齢ではなく、経済的な側面で区別されるため、未成年でなくても被扶養者になり得ます。
親権者と監護者の違い
前述のとおり、親権は次の2つの権利があります。
- 身上監護権
- 財産管理権
一般的に、親権者は上記2つの件を行使しますが、それぞれをわけることも可能です。
例えば、離婚後に父親が親権者になったものの、海外出張などにより子供の養育監護が困難になったため、母親が監護者になるといったケースもあります。
祖父母は孫の親権者になれるのか
親権者になれるのは父母のみです。そのため、祖父母が親権者になることはできません。18歳未満の未成年者は、父母の親権に服します(民法第818条第1項)。
民法第818条
1 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
しかし、養子縁組をすることで法律上の父母になれば、祖父母であっても孫の親権者となれます。
祖父母が孫の親権を持つためには養子縁組を行う
前述のとおり、祖父母が孫の親権を持つためには養子縁組を行う必要があります。
養子縁組をするためには祖父母または孫の本籍地または居住地を管轄する市区町村役場に養子縁組届書や養子縁組に必要な書類を提出して手続きを行います。
ただし、祖父母が孫と養子縁組を行う際は以下の注意点があります。
- 祖父母双方との養子縁組が必要
- 孫が15歳未満の場合は現親権者の承諾が必要
- 孫が15歳未満かつ親権者のほかに監護者がいる場合
なお、この記事でご説明する養子縁組とは普通養子縁組のことを指します。
祖父母双方との養子縁組が必要
既婚者が未成年と養子縁組を行う際、配偶者とともに行う必要があるとされています(民法第795条)。
そのため、孫が未成年の場合、祖父母のどちらか一方ではなく、祖父母双方と養子縁組を行う必要があります。
民法第795条(配偶者のある者が未成年者を養子とする縁組)
配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。
孫が15歳未満の場合は現親権者の承諾が必要
孫の年齢が15歳未満の場合、祖父母と養子縁組を行うためには現親権者である父親または母親の承諾を得る必要があります。
孫が15歳未満かつ親権者のほかに監護者がいる場合
孫の年齢が15歳未満かつ親権者以外に監護者が別にいる場合、祖父母と養子縁組を行うためには、親権者だけでなく監護者の承諾を得る必要があります。
祖父母が親権獲得後に死亡した場合の親権について
孫と養子縁組を行い、親権者となった祖父母が亡くなった場合、自動的に父母に親権が移るわけではありません。
この場合、「親権者がいない」とみなされ、未成年後見人が選任されます。具体的には孫や親族などが家庭裁判所に申立を行い、再度未成年後見人を選任してもらうことになります。
親権者同様の権利を行使するには
ここまで説明したとおり、孫の親権を獲得するためには養子縁組を行う必要があります。
しかし、孫の状況によっては親の承諾が必要なため、養子縁組を行うことは現実的でないと思う方もいるでしょう。
でも諦める必要はありません。親権を獲得することはできなくても、親権者同様の権利行使を可能にする方法もあります。
孫に親権者が存在しないなら孫の未成年後見人になる
孫の父母が亡くなった場合、親権者が存在しない状態になります。
孫に親権者が存在しない場合、家庭裁判所に申し立てを行い、未成年後見人に指定されれば親権とほぼ同等の権利行使が可能となります。
未成年後見人とは、未成年者が成人になるまでの間、親権者に代わり、未成年者の身上監護」や財産管理を行う人を言います。
ただし、未成年後見人は家庭裁判所からの監督を受けます。そのため、未成年者の生活状況などを定期的に裁判所に報告する必要があります。
未成年後見人になりたい場合、以下の書類を準備し、孫の住所地を管轄する家庭裁判所に提出し、申立を行います。
- 申立書
- 孫と祖父母の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 孫の住民票または戸籍附票
- 親権者がいないことを証明する書類 孫の財産に関する資料 など
なお、申立時には以下の費用が必要になります。
- 収入印紙800円分 ※未成年者1人につき
- 連絡用の郵便切手 ※家庭裁判所によって金額が異なる
一方、親権者が存在する場合は親権喪失の申立てを行い、親権喪失の審判がくだされることで親権者が親権を喪失します。
その後祖父母が未成年後見人になることができれば上記と同様の権利行使ができるようになります。
民法第834条(親権喪失の審判)
父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。
ただし、親権喪失は親だけでなく子供にとって大きな出来事です。そのため、申立を行ったからといって必ずしも親権喪失が認められるわけではありません。
親権喪失の判断については家庭裁判所も慎重になります。そのため、実際に親権喪失の判断がくだされるケースは少ないのが現状です。
子供が未成年の場合は親権を代行する
稀に未婚かつ未成年の子供が出産するケースもあります。この場合、生まれた子供の母親が未成年のため、母親の親権者である祖父母が孫に対する親権を代行することになります(民法第838条)。
民法第838条(後見の開始)
後見は、次に掲げる場合に開始する。
1 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
2 後見開始の審判があったとき。
孫の監護権の取得は難しい
親権者と監護権者をわけて取得すること自体は可能です。「孫を養育するのが目的なら孫の監護権を取得すればいい」と思うかもしれませんが、現状は難しいと言わざるを得ません。
これまで、実際に養育をしている祖父母が孫の監護権指定を求めて争われてきましたが、令和3年の最高裁(令和3年3月29日第1小法廷決定)により、監護者指定の申立てが可能なのは父母のみと判断されました。
これにより、祖父母が孫の監護権を取得することは難しくなったと言えます。
なお、最高裁の判断は「規定がない」ということによるものです。状況によっては子供の福祉に反する場合もあるでしょう。今後の民法改正に期待したいものです。
参考:裁判所「令和2年(許)第4号 子の監護に関する処分(面会交流)申立て却下審判に 対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件 令和3年3月29日 第一小法廷決定(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/216/090216_hanrei.pdf)」 ※1
まとめ
祖父母が孫の親権を行使するには養子縁組しか方法がないのが現状です。養子縁組も簡単に認められるわけではありません。
それでも、子供が育児放棄や虐待などにあっていれば、何とかしてあげたいと思うのは当然です。
孫との養子縁組や孫を守るためにできることはないかとお悩みの方は弁護士にご相談ください。
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※1 裁判所「令和2年(許)第4号 子の監護に関する処分(面会交流)申立て却下審判に 対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件 令和3年3月29日 第一小法廷決定」
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