養育費に連帯保証人をつけることはできる?注意点と未払いを防ぐ方法
近年、養育費の未払いが社会問題化しています。
政府統計ポータルサイトe-Statの「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果」によると、養育費を「現在も受けている」と回答した母子家庭の割合は28.1%と非常に低い結果でした。
一方、「養育費が支払われたことがあるが現在は支払われなくなった」という母子家庭の割合は約14.5%と、最初は支払われていたものの段々支払われなくなるケースがあることもわかります。
離婚後、養育費が支払われなかったときのために連帯保証人をつけたいと考える方もいるのではないでしょうか。この記事を最後まで読むことで以下のことがわかります。
- ・養育費に連帯保証人をつけられるのか
- ・養育費の連帯保証人をつけるメリット
- ・養育費に連帯保証人をつける際の条件
- ・養育費に連帯保証人をつける際の注意点
- ・効果的に養育費の未払いを防ぐ方法
- 目次
連帯保証人とは
た際、主債務者と同様の返済義務を負う人を言います。
銀行や貸金業者からお金を借りる際、保証人や連帯保証人をつけるように言われることがあります。
保証人の場合、債権者から返済を求められたら「先に主債務者に請求してほしい」と主張することができます(催告の抗弁権)。
また、主債務者が返済できる資力があれば、それを理由に主債務者の財産に強制執行を行うよう、貸金業者や銀行に主張することができます(検索の抗弁権)。
さらに、保証人が複数いる場合、保証人は保証人の人数で按分した金額のみを負担します(分別の利益)。
連帯保証人はこれら3つの権利を有していません。債権者から返済を求められたら、主債務者に資力がある場合であっても連帯保証人が全額を返済しなければなりません。
同意があれば養育費に連帯保証人をつけられる
結論からいうと養育費に連帯保証人をつけること自体は可能です。
ただし、連帯保証人をつけるためには、養育費の支払い義務者と連帯保証人の候補者の同意が必要です。勝手に名前を借りて連帯保証人とすることはできません。
書面締結が必要
連帯保証契約は書面による締結が必要です(民法第446条第2項)。
養育費に連帯保証人を付ける場合も口約束ではなく、書面締結が必要になります。
連帯保証人は支払い能力と本人の意思を確認してから選ぶ
連帯保証人を誰に頼めばいいかわからないこともあるでしょう。
このとき、支払い義務者が「自分が候補者を見つけてくる」と言ってくるケースもあります。しかし、相手に任せっきりではいけません。
法的には誰が連帯保証人になっても問題ありません。
しかし、養育費は子供が経済的に自立するまで支払われるべきものです。そのため、支払い能力がある人を選ぶべきでしょう。
支払い義務者が候補者を選んできた場合であっても以下の点について必ず自分で確認することが重要です。
- 本当に支払い能力があるのか
- 養育費の連帯保証人になる意志があるのか
一般的には、連帯保証人は支払い義務者の親がなるケースが多いです。
連帯保証人の候補として適任者がいない場合は物や債務・債権による「人以外」の保証も検討すると良いでしょう。
養育費に連帯保証人をつけるメリット
養育費に連帯保証人をつけるメリットについて、権利者と支払い義務者にわけて解説します。
権利者側のメリット
養育費を受ける側(権利者)のメリットは、養育費が不払いになった際に連帯保証人から支払いを受けられることです。
また、連帯保証人をつけたことで支払い義務者側にプレッシャーを与える効果が得られ、支払いがスムーズになる可能性があります。
支払い義務者側のメリット
連帯保証人をつけることは支払い義務者にもメリットがあるケースもあります。例えば、養育費を受け取る側が頑なに離婚に応じないケースです。
離婚に応じない理由のなかには、養育費が支払われなくなることが不安だというケースがあります。
そのため、養育費に連帯保証人をつけることで離婚後の経済的不安が和らぐため、離婚協議がまとまりやすくなる可能性があります。
養育費に連帯保証人をつける際の注意点
養育費に連帯保証人をつけること考えたら以下の点に注意しましょう。
- 支払い義務者が亡くなったら債務が消滅する
- 公証役場や家庭裁判所は消極的
- 審判・判決では連帯保証が認められない
- 連帯保証人をつけることは強制できない
- 連帯保証期間
それぞれについて下記で詳しく解説します。
支払い義務者が亡くなったら債務が消滅する
養育費の連帯保証人は支払い義務者の親がなるのが一般的です。しかし、この連帯保証契約は支払い義務者と親子関係にあるからこそ生じる固有の義務と言えます。
そのため、支払い義務者が亡くなった場合は連帯保証人の義務も消滅します。また、養育費の支払い義務は相続の対象外となります。
公証役場や家庭裁判所は消極的
離婚協議書を公正証書にする際に連帯保証人について定める場合、公証人が否定する可能性があります。
前述のとおり、養育費の支払い義務は親だからこそ生じる固有の義務です。親以外の誰かに転用することはありません。
また、支払い義務者が死亡すれば連帯保証義務も消滅します。
これらの事情により、養育費を連帯債務にすることで将来的に争いに発展する可能性が高くなります。
そのため、公証人や裁判官によっては養育費に連帯保証人をつけることに対して難色を示す場合があるのです。
もちろん、連帯保証人をつけること自体が禁じられているわけではありません。
公証役場や家庭裁判所が難色を示したとしても、当事者が合意していれば連帯保証を養育費につけることは可能です。
審判・判決では連帯保証が認められない
養育費の支払いについて合意できない場合、審判や裁判所の判決によって養育費を定めることになります。
審判や判決では養育費に連帯保証人をつけることは認められていません。当事者同士の協議によって取り決めた場合にのみ養育費に連帯保証人をつけることができます。
連帯保証人をつけることは強制できない
養育費の支払い義務があるのは親のみです。約束通り支払われるか不安な気持ちはわかりますが、誰かが連帯保証人にならなければならないわけではありません。
養育費に連帯保証人をつけることができるのは、あくまで候補者当人が了承している場合に限ります。
合意が得られない場合は連帯保証人をつけることをあきらめましょう。
連帯保証期間
連帯保証人が負う連帯保証債務の期限の消滅は以下のいずれかになります。
- 養育費の支払いが済んだ
- 主債務者が亡くなった
本来、養育費の支払い義務は親のみが負う一身専属的な義務です。そのため、主債務者である親が亡くなると同時に連帯保証債務も消滅します。
養育費の連帯保証契約書を作成する際のポイント
養育費の連帯保証契約書を作成する際のポイントは以下の2つです。
- 極度額を定める
- 公正証書にしておく
下記で詳しく解説します。
極度額を定める
連帯保証契約では、保証内容に将来発生する不特定の債務(根保証)が含まれる場合は保証上限を決める必要があります(民法第465条の2)。
これは、限度額を定めない場合は保証人側に不利な契約になるためです。
養育費の金額や支払期間が明確に定まっていない場合は根保証に該当する可能性があるため、上限金額を定めておきましょう。
なお、限度額を定める場合も、金額が高すぎると公序良俗に反するとして契約が無効になる恐れがあります。
限度額を決める際は弁護士に相談して決めることをおすすめします。
一方、養育費の支払い金額と支払い期間が決まっている場合は保証上限を決める必要はありません。
公正証書にしておく
養育費の連帯保証契約について書面を作成する際は証拠能力の高い公正証書にしておきましょう。
強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておけば、養育費の未払いが起きた際に速やかに支払い義務者と連帯保証人の財産を差し押さえ、養育費を回収できます。
この場合、公正証書に養育費の取り決めだけでなく、権利者、支払い義務者、連帯保証人の三者が当事者となる連帯保証契約について記載する必要があります。
連帯保証契約を締結する際は以下の項目を記載することが一般的です。
- 連帯保証契約を結ぶという旨
- 連帯保証債務(この場合養育費)の金額や支払期日、支払い方法など
- 連帯保証の極度額(限度額)
- 主債務者(この場合支払い義務者)の氏名(自署)、住所、実印
- 債権者(この場合権利者)の氏名(自署)、住所、実印
- 連帯保証人の氏名(自署)、住所、実印
前述のとおり、公証人は連帯保証人を付けることに難色を示す可能性が高いです。公正証書の作成が思うように進まない恐れがあることに注意しましょう。
連帯保証人より有利に養育費の未払いを防ぐ方法
養育費に連帯保証人をつけることは、当事者間の協議で合意をしたうえで書面締結ができない限り難しいのが現状です。
また、公正役場は連帯保証人をつけることに難色を示す可能性が高く、公正証書化も容易とは言えません。
公正証書ではない離婚協議書では、養育費の未払いが起きた際に速やかに強制執行を行うことができません。
以上を踏まえると、養育費の未払いを防ぐためには、連帯保証人をつけることに注力するより、以下の対処法のほうが有利と言えます。
- 連帯保証人なしの公正証書を作成する
- 養育費保証サービスを検討する
- 弁護士に相談する
それぞれ以下で詳しく解説します。
連帯保証人なしの公正証書を作成する
公正証書は通常の契約書と比べて証拠能力が高く、信頼性が高い文書になります。また、原本を公証役場で保管するため、改ざんや紛失の心配もありません。
さらに強制執行認諾文言を付与することで未払いがおきたときに速やかに支払い義務者の財産を差し押さえ、養育費を回収できます。
連帯保証人をつけるより、法的効力を持つ書面作成のほうが養育費の回収において圧倒的に有利なのです。
養育費保証サービスを検討する
養育費の未払いが心配なら養育費保証サービスの検討も選択肢のひとつです。
養育費保証サービスは手数料がかかりますが、支払い義務者が養育費を支払わない場合に保証会社が立替払いをするサービスです。
立替払いをした保証会社は支払い義務者に対してあとから取り立てを行います。
最近は養育費確保を支援する取り組みを実施している自治体も増えており、なかには保証会社への費用を補助する取り組みもあります。
ただし、相手方との養育費の交渉や文書の作成は弁護士の独占業務のため、保証会社には依頼できません。
弁護士に相談する
養育費の未払いが不安なら弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士ならあなたに代わって支払い義務者との交渉を行いますので、養育費の金額も適切に決めることができます。
弁護士が相手方との交渉を代行することで相手方にプレッシャーを与える効果も期待できます
また、公正証書を作成する際も弁護士が内容の確認や公証人との調整などのサポートやアドバイスを行うため、安心です。
「どうしても連帯保証人をつけたい」という場合も交渉力の高い弁護士への依頼することで協議がスムーズに進みやすくなります。
まとめ
支払い義務者と候補者から合意が得られれば養育費に連帯保証人をつけることは可能です。
しかし、連帯保証人の負担は非常に重いため、合意を得るためには高い交渉力が必要と言えます。
また、公証人や家庭裁判所は否定的であることから、養育費連帯保証人を養育費につけることは難しいのが現状です。
養育費の未払いが心配な場合は、連帯保証人だけを考えるのではなく、強制執行認諾文言を付与した離婚公正証書を作成するなど他の手段も検討しましょう。
いずれの場合も、弁護士に依頼すれば、相手方との交渉から公正証書の作成までサポートしてもらえるため、スムーズに進めることができます。
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