経営者特有の離婚問題|財産分与や損しないための注意点を解説
- 目次
経営者特有の離婚の特徴
離婚の手続き自体はサラリーマンであっても経営者であっても違いはありません。しかし、経営者の離婚には特有の問題があります。
まず、会社経営者は一般的なサラリーマンに比べて収入が多く、所有する資産も多い傾向があります。
そのため、経営者が離婚する場合、一般的なサラリーマン家庭と比べて、養育費や財産分与の金額が高くなる傾向にあります。
特に、会社の資産と個人の資産が混ざっているケースや会社の株式を夫婦で所有しているケースなど、通常の離婚と比べて財産分与が争点となることが多いです。
また、経営者は、配偶者を会社の役員としていたり、従業員として雇用していたりしていることが多いため、離婚後の委任契約や雇用契約の解消に関しても問題が生じるケースがあります。
このように、経営者の離婚には通常の離婚とは異なる特殊性があります。そのため、十分な対策をしたうえで離婚手続きを進めることが重要です。
財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となる財産は夫婦が婚姻生活中に築いた共有財産に限られます。
婚姻生活中に築いた財産であれば、どちらの名義であるかにかかわらず、原則として共有財産に含まれます。
財産分与の対象となる共有財産としては、一般的には以下のようなものが挙げられます。
- 現金
- 預貯金
- 株式や投資信託などの有価証券
- 不動産
- 保険(生命保険、学資保険など)の解約返戻金
- 退職金
- 自動車
- ゴルフ会員権
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経営者の財産分与の注意点
経営者が財産分与を行う際は以下のような点に注意が必要です。
夫婦で会社の株式を保有しているケース
家族経営の会社の経営者の夫婦の場合、経営者だけでなく配偶者も会社の株式を保有していることがあります。
会社の株式を夫婦で所有している場合、それが婚姻後の資産を原資として取得したものであれば夫婦の共有財産に該当します。
そのため、それぞれの保有する株式も財産分与の対象に含まれます。
しかし、株式を有する株主は会社の実質的所有者であり、会社経営に関する決定権を有しています。
離婚後も元配偶者が株式を保有することになると、会社が重要な方針決定をする際、その都度元配偶者の協力を得なければなりません。
離婚したあとも元配偶者と顔を合わせなければならなくなると精神的にも負担となりますし、迅速な経営判断に支障が出る可能性もあります。
そのため、離婚する際は株式の譲渡を受けるなどして、会社経営に支障が出ないように処理する必要があります。
また、株式が財産分与の対象になるケースでは、その評価も問題になることがあります。
上場会社の株式であれば市場価格によって評価すれば良いのでそこまで問題にはなりません。
しかし、非上場会社の株式の場合は市場価格がないため、純資産価額方式や類似業種比準方式といった評価方法を用いることになります。
- 純資産価額方式:離婚成立時の会社の資産と負債を基準にして1株当たりの評価額を計算する方法
- 類似業種比準方式:規模や業種などが類似した上場会社の株式を参考にして平均株価と1株当たりの配当金額、年利益金額、純資産価額を比較して対象株式の価格を計算する方法
上記の評価方法は非常に複雑なため、状況によって、株式の評価のために鑑定が必要になることもあります。
なお、鑑定費用をどちらが負担するかは当事者の話し合いによって決めることになりますが、決まらない場合は鑑定を求める側が負担することになります。
法人名義の財産は財産分与の対象となるのか
財産分与は夫婦の共有財産を分与する制度ですので、あくまでも夫婦個人が保有している財産が対象になります。
そのため、夫または妻が経営する会社に法人名義の多額の資産があったとしてもそれは財産分与の対象外となります。
しかし、家族経営の会社の場合、法人の財産と経営者個人の財産とが明確に区別されていないことがあります。
法人名義の財産であっても実質的には経営者個人の財産と評価することができる場合は、例外的に財産分与の対象になることもあります。
退職金
一般的なサラリーマンと異なり、「役員である会社経営者には退職金がない」と誤解している方も少なくありません。
たしかに、会社経営者には普通のサラリーマンのように退職金規定に従った退職金の支給はありません。
しかし、株主総会決議などによって退職慰労金を支給することは可能です。
また、多くの会社では、役員に対する退職金の支払いにあたり、会社のキャッシュフローへの影響を抑えるため、節税対策として長期平準定期保険や逓増定期保険などの生命保険や小規模企業共済に加入していることがあります。
このように、会社経営者も会社から退職金に相当する金銭を受け取ることがあります。
そのため、退職金の支給が確実な時期に離婚した場合は退職金も財産分与の対象に含まれる可能性が高いと言えます。
特に経営者の場合は退職金も高額になる傾向にあります。財産分与における退職金の扱いには特に注意を払う必要があります。
経営者の財産分与の割合は2分の1なのか
財産分与をする場合、その割合は原則として2分の1とされています。
婚姻中の共有財産は互いの協力によって財産形成がなされたと考えられています。
そのため、夫がサラリーマンで妻が専業主婦など、夫婦の収入に偏りがあったとしてもこの原則は変わりません。
しかし、経営者は自分で会社を経営することによって、多くの資産形成を可能にしたという側面があります。
財産分与は夫婦の財産形成に対する貢献度によって財産を分与する制度です。
そのため、会社経営者のように個人の特殊な才能や能力によって財産形成がなされたという場合は、財産分与の割合を修正することもできます。
過去の判例でも以下のような事情がある場合には財産分与の割合を修正することができると判断しています(大阪高判平成26年3月13日)。
- 夫婦の一方が、スポーツ選手などのように、特殊な技能によって多額の収入を得る時期もあるが、加齢によって一定の時期以降は同一の職業遂行や高額な収入を維持し得なくなり、通常の労働者と比べて厳しい経済生活を余儀なくされるおそれのある職業に就いているなどの事情がある場合
- 高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合
配偶者を雇用している場合は解雇できるのか
配偶者を会社の従業員として雇用しているケースでは、離婚に伴い「配偶者を解雇したい」と考える経営者も多いと思います。
しかし、従業員を解雇する場合、労働法上の厳格な解雇規制を満たす必要があり、解雇には客観的に合理的な理由があることが要求されています(労働契約法16条)。
「経営者と離婚した」という事情は、あくまでも夫婦個人の問題であり、雇用契約上の問題とはなり得ません。
そのため、「離婚した」という事情をもって配偶者を解雇することは不当解雇となります。
もっとも、離婚したあとも同じ会社で働き続けることは、従業員である元配偶者としてもやりづらい面があるでしょう。
そのため、夫婦でよく話し合い、離婚にあたって配偶者の側から退職を申し出てもらうなど、解雇ではなく円満に退職してもらえるように進めていくと良いでしょう。
配偶者が共同経営者・役員の場合の問題点
配偶者が会社の役員になっているケースでは、会社との関係は雇用契約ではなく委任契約になります。
委任契約の場合は役員の任期が定められているため、任期満了が近い場合、「任期満了後に再任しない」という方法で配偶者を役員から外すことができます。
原則として役員の任期は2年とされています。しかし、定款で別の規定を設けることも可能ですので、定款を確認してみると良いでしょう。
任期満了まで相当期間が残っている場合は株主総会の普通決議により解任することも可能です。
しかし、正当な理由なく解任した場合、配偶者から損害賠償を求められることがあります。
通常、離婚を理由に解任することは正当な理由とみなされません。やはり、配偶者と話し合いをして任意に辞任してもらうのが良いでしょう。
経営者の離婚問題は弁護士へ
経営者の離婚では、財産分与だけでなく、親権や養育費、慰謝料などについても通常の離婚とは異なる配慮が必要になる場合があります。
離婚問題以外にも、会社の株式の処理の方法や役員・従業員の地位の解消といった問題も絡んでくるため、通常の離婚に比べて複雑な手続きが必要になることが多いです。
経営者の複雑な離婚問題を適切に対処するには専門知識が必要不可欠です。
経営者が離婚を考えたら、まず弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に離婚問題を依頼すれば、弁護士が相手方と交渉してくれるため、会社経営に専念することが可能です。
経営者の離婚は、財産分与の対象となる財産の選択や評価、財産分与の割合などをどうするかによって最終的に手元に残る財産が大きく変わります。
自分だけで離婚を進めてしまうと思いもよらない不利益を被るおそれもあります。
不利益を回避し、有利に離婚するためにも、弁護士を頼るようにしましょう。
まとめ
経営者の離婚には特殊性があるため、特別の配慮が必要になります。
離婚に向けた対策や離婚した場合の影響などについて正確に予測するためにも、離婚を考えたら早めに弁護士に相談するようにしましょう。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は経営者をはじめ、さまざまな離婚問題に精通した弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。
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