離婚訴訟(裁判)の訴状とは?訴状の書き方とは?
話し合いで離婚が成立しない場合、離婚訴訟(裁判)に移行します。
離婚訴訟は家庭裁判所に訴状を提出することから始まります。
弁護士に依頼する場合は弁護士が訴状の準備を行いますが、自分で訴訟を行う(本人訴訟)場合、自分で訴状を作成する必要があります。
この記事では、離婚訴訟における訴状とは何か、適切な訴状の書き方や注意点について解説します。
- 目次
離婚訴訟(裁判)の訴状とは?
訴状とは、裁判を起こす側がその言い分を記載し、裁判所に提出する書類を言います。離婚訴訟では、離婚を請求する側が法的な主張を記載し、裁判所に提出します。
離婚訴訟(裁判)の訴状の注意点
離婚訴訟の訴状を作成する際は以下の2つに注意しましょう。
- 当事者について
- 請求の趣旨
当事者について
離婚訴訟の訴状には当事者の本籍を記載します。
人事訴訟(離婚や認知など夫婦や親子関係についての紛争を解決する訴訟)では、裁判の結果が戸籍に影響をおよぼします。そのため、当事者の表示には本籍を記載することになります。
なお、人事訴訟では通称などを用いることができず、戸籍上の表示を用いる必要があります。
訴状の当事者の表示(本籍地、氏名)を記載する際は戸籍謄本を参照し、一致しているか確認しましょう。
離婚調停の管轄は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所と定められています(家事事件手続法245条1項)。
一方、離婚訴訟は原告(離婚を求めて訴訟を起こす側)・被告(相手方)どちらかの住所地を管轄する家庭裁判所が管轄となります(人事訴訟法4条1項、2条、1条)。
離婚訴訟では合意管轄(どこの裁判所で裁判を行うかを合意で決めること)や応訴管轄(原告が管轄権のない裁判所に訴えを提起した場合に被告が訴訟に応じることで当該裁判所に管轄が発生すること)は認められていないため、注意しましょう。
請求の趣旨
離婚訴訟では、離婚を認めるかどうかの判断と同時に離婚に伴う条件も決めることができます。
本来、離婚に伴う条件は独立した家事審判で定めるものですが、便宜上、離婚訴訟のなかで付随的に判断するという意味で「附帯処分等」と呼ばれています。
養育費や面会交流などの子の監護に関する処分や財産分与、年金分割を離婚請求と同時に請求する場合は附帯処分の申し立てを行う必要があります。(人事訴訟法32条1項)
付随処分の申し立てには申立ての趣旨や理由を記載し、証拠となる文書の写しを添付しなければなりません(人訴規19条2項)。
しかし、基本的に付随処分等は非訟事件(訴訟手続きによらず、裁判所が後見的な立場で処理するもの)のため、訴訟事件(法規を適用して紛争を解決する民事司法)とは扱いが異なります。
また、申立段階で主張内容を明示すること自体が困難であることや「当事者による内容の主張は希望にすぎない」ということから、申立段階において申立人が非訟事件の主張内容を特定する必要はないと考えられています。
その一方、付随処分等については非訟事項の一般論をそのまま適用すべきではないという考え方もあり、素人が判断することは困難と言えます。
離婚訴訟で訴状を作成する際は弁護士に相談しながら進めるほうが良いでしょう。
離婚訴訟(裁判)の訴状の書き方(被告が配偶者のみの場合)
離婚裁判の訴状は裁判所のウェブサイトから入手できます。
引用元:裁判所「離婚・訴状(https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/2019_rikonsojou_743kb.pdf)」※1
引用元:裁判所「記入例 離婚訴訟(https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2022/2022_rikonsojyou_rei.pdf)」※2
離婚訴状には下記の項目を書くことになります(民事訴訟規則53条1項)。
- 請求及び申立ての趣旨(相手方に請求する内容)
- 請求の原因等(請求を特定するために必要な事実)
- 請求を理由づける事実(立証が必要な事由ごとに当該事実に関連する事実や証拠を具体的に記載)
慰謝料請求の訴状の書き方(浮気・不倫相手への請求)
浮気・不倫相手へ慰謝料請求のように訴状のフォーマットがないケースもあります。
このような場合、訴状はA4用紙を縦長の向きにし、片面に上から横書きで作成します。また、
1行37文字以内、1ページ26行以内、字体は明朝体、フォントは12ポイントとし、用紙の左側30mm以上、上側35mm以上を余白として確保しましょう。
浮気・不倫相手への慰謝料請求の場合、訴状には下記の項目を記載します。
- 冒頭に「訴状」と記載
- 申立年月日
- 提出する裁判所・部所名(「〇〇地方裁判所 民事部 御中」など)
- 事件名「慰謝料等請求事件」または「損害賠償請求事件」など
- 当事者の表示(原告、被告それぞれの住所氏名と連絡先)
- 訴訟物の価格(請求金額) ・請求の趣旨(請求したい内容を簡潔にまとめたもの) ※「被告は、原告に対して、金〇〇円を支払え」など
- 請求の原因(申立てにいたるまでの事実経緯や紛争の内容など)
- 添付書類 (証拠書類・附属書類など)
複数枚になった場合はまとめて左側2か所をホチキスで留めます。
調査嘱託申立書(預貯金等)の書き方
離婚の際、財産分与を行い、婚姻中の夫婦の共有財産を公平にわけます。このとき、相手方が財産隠しを行い、財産分与の負担を不当に免れようとすることがあります。
財産分与請求時に相手方が財産の開示に応じない場合、調査嘱託を申し出、相手方名義の預貯金について調査することがあります。
調査嘱託とは他国の機関や一般団体などに裁判所が一定の調査を求めることです(民事訴訟法186条)。
取引履歴については別居日などから一年程度遡った期間などに限定します。
なお、調査嘱託申立書には下記の項目を記載します。
- 証明すべき事実
- 嘱託先(所在地・名称・担当・電話番号など)
- 調査対象者(住所・氏名・生年月日・性別など)
- 調査事項(いつの時点の預金残高など)
参考:裁判所「調査嘱託申立書(https://www.courts.go.jp/chiba/saiban/tetuzuki/l4/Vcms4_00000347.html)」※3
文書送付嘱託申立書(預貯金の取引履歴)の書き方
財産分与の基準時以前に資金移動があった場合、前述の調査嘱託では相手方の財産を適切に把握できない可能性があります。
そのため、資金移動の可能性がある事案では文書送付嘱託によって、金融機関から残高証明書を取得することがあります。
文書送付嘱託とは、他国の機関や一般団体などに裁判所が文書を送るよう求めるものです(民事訴訟法226条)。
調査嘱託や文書送付嘱託に強制力があるわけではありませんが、正当な理由があれば開示してくれるケースがほとんどです。
なお、文書送付嘱託申立書には下記の項目を記載します。
- 文書の表示
- 文書を所持している者
- 証明すべき事実 裁判所
参考:裁判所「文書送付嘱託申立書(https://www.courts.go.jp/yamaguchi/vc-files/yamaguchi/file/111-Soufu-shokutaku.pdf)」※4
調査嘱託申立書(確定拠出年金)の書き方
確定拠出年金とは、拠出された掛け金を加入者が自ら運用し、運用結果に基づいて給付額が決まる年金制度です。
事業者が掛け金を拠出する企業型年金と加入者自身が拠出する個人型年金(通称iDeCo)の2つがあります。
離婚の際、婚姻中の厚生年金納付実績を夫婦でわけることができます。また、相手方の財産分与の基準時の確定拠出年金時価評価額は調査嘱託の申立てを行うことで確認できます。
申立書に記載する項目は以下となります。
- 嘱託先(所在地・名称・担当・電話番号など)
- 調査対象者(住所・氏名・生年月日・性別など)
- 調査事項(いつの時点の時価評価額かなど)
子の陳述書(親権の希望を裁判所へ提出)
子供の年齢が15歳以上の場合、親権者指定にあたり、子供の意見を聞くことが義務となります(人事訴訟法32条4項)。
一般的には、裁判所が証人尋問を行ったり、調査官が直接会って話をしたりすることで聴取を行いますが、裁判所によって、子供が意見を述べるための書類を準備しているケースもあります。
裁判所に書類が準備されている場合、以下の項目を記載することが多いです。
- どちらの親が親権者になることを希望するか
- 両親に対する希望
- その他心配なこと など
第三者閲覧制限の申立書
民事訴訟は公開されており、誰でも傍聴が可能です。また、事件の内容を知らずに傍聴しても理解できないことが多いため、書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求できるようになっています。
しかし、訴訟の内容によっては、訴訟記録を第三者に閲覧されることで当事者が大きな不利益を被るケースもあります。
そのため、民事訴訟法92条により、当時者の申立てにより、訴訟記録の一部をマスキングするなどで閲覧を制限することができます。
以下は訴訟記録のうち、指定箇所の閲覧・謄写できるものを訴訟当事者に限定することを求める申立書の一般的な記載例です。
参考:裁判所「閲覧等制限の申立て(https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/file/21003001.pdf)」※5
民事訴訟法改正により、2023年2月20日、「当事者に対する住所、氏名等の秘匿制度」が施行されました。
住所や氏名が当事者に知られることで申立人(または法定代理人)が社会生活を営むのに著しい支障を生じるおそれがある場合、氏名・住所を記載せずに民事訴訟手続きを進めることが可能になります。
主にDVや性犯罪を想定した制度ですが、他の分野でも適用できます。
なお、当該制度を適用するためには、別途裁判所に対して秘匿事項届出書面を提出し、秘匿決定の申立てを行う必要があります。
裁判所が秘匿決定をすると、秘匿される住所または氏名について代替事項が定められます。訴状には秘匿決定で定められた代替事項を記載するだけでよく、判決による強制執行も可能です。
ただし、強制執行を行う際は、現住所とのつながりを証明する必要などが生じ、手続きが複雑になる可能性もあります。
離婚訴訟(裁判)の訴状の費用は?
離婚裁判の訴状は裁判所のウェブサイトからダウンロードして使用できます。そのため、自分で作成する場合は費用がかかりません。
有利な結果を獲得したいのであれば、弁護士に訴状の作成を依頼することをおすすめします。
なお、訴状の作成にかかる弁護士費用については、各法律事務所にお問い合わせください。
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