祖父母は面会交流できる?孫との関係を守るポイントと改正民法を解説
離婚によって子供と離れて暮らす側の親には子供と面会する権利があります。
面会交流は親同士の話し合いで決めるか、合意が得られない場合は家庭裁判所に申立てを行い、裁判所に認められれば面会交流ができるようになります。
両親が離婚しても親子関係は変わらないのと同様に、祖父母と孫との関係も変わりません。
「孫に会いたい」という祖父母の方や、「祖父母に孫を会わせてあげたい」という方もおられるのではないでしょうか。
これまで、民法には祖父母の面会交流についての規定がありませんでした。
しかし、令和6年5月17日、家庭裁判所の審判によって、父母以外の親族と子供の面会交流を規定する民法の改正案が成立しました。
この記事では、改正民法で面会交流がどのように規定されるのか、祖父母と孫とが面会交流する方法や面会交流時のポイントについて解説します。
- 目次
祖父母には面会交流に関する規定はない
民法では離婚後の子供との面会交流について以下のように定めています。
民法第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
現行の民法には祖父母について面会交流に関する規定はありません。そのため、祖父母が孫との面会交流を求めて調停・審判を申し立てることはできないのが実情です。
子供(孫)と親の面会交流の取り決めに関しては、まず親同士が話し合い、合意をはかります。
合意が得られない場合は父親または母親が家庭裁判所に申立てを行うことになります。
祖父母と孫の面会交流を認めないという最高裁の判例がある
2021年3月、祖父母による面会交流の審判の申立ては認められないという判決が最高裁によってくだされました。事案の概要は以下のとおりです。
- 平成24年1月、父親Aと母親Bが結婚
- 平成28年、子供Cが生まれる
- 父A、母B、子Cは、Bの両親(DとE)の自宅でDとEと同居していたが、平成29年1月頃、父Aが家を出て行く形で別居
- 父Aと母Bは平成29年3月以降1~2週間ごとに交替で子Cの監護を行い、母Bが子Cを監護する際にDとEが手伝っていた
- 母Bは平成30年6月に死亡、以後父Aが子Cを監護している
- DとEは家庭裁判所に対し、父Aを相手方とし、DとEと子Cとの面会交流について定める審判を申し立てた
上記について、最高裁は「審判の申立てを認めない」という決定をくだしています。
(1) 民法766条1項前段は,父母が協議上の離婚をするときは,父又は母と 子との面会交流その他の子の監護について必要な事項は,父母が協議をして定める ものとしている。そして,これを受けて同条2項が「前項の協議が調わないとき, 又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,同項の事項を定める。」と 規定していることからすれば,同条2項は,同条1項の協議の主体である父母の申 立てにより,家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているもの と解される。
他方,民法その他の法令において,事実上子を監護してきた第三者が,家庭裁判 所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく,上記の 申立てについて,監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできな い。なお,子の利益は,子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考 慮しなければならないものであるが(民法766条1項後段参照),このことは, 上記第三者に上記の申立てを許容する根拠となるものではない。
以上によれば,民法766条の適用又は類推適用により,上記第三者が上記の申 立てをすることができると解することはできず,他にそのように解すべき法令上の 根拠も存しない。 したがって,父母以外の第三者は,事実上子を監護してきた者であっても,家庭 裁判所に対し,子の監護に関する処分として上記第三者と子との面会交流について 定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当である。
引用:裁判所「 引用:最判令和3年3月29日決定|裁判所 – Courts in Japan(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90216)」※1
民法改正で親以外の親族の面会交流審判に関する規定が成立
令和6年5月17日、民法等の一部を改正する法律が成立し(令和6年法第33号)、 新たに民法第766条の2が設けられました。
【民法第766条の2】
家庭裁判所は、前条第二項又は第三項の場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときは、同条第一項に規定する子の監護について必要な事項として父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。
2 前項の定めについての前条第二項又は第三項の規定による審判の請求は、次に掲げる者(第二号に掲げる者にあっては、その者と子との交流についての定めをするため他に適当な方法がないときに限る。)がすることができる。
一 父母
二 父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)
前述のとおり、現行民法では祖父母の面会交流についての記載はなく、面会交流の申立ては認められていませんでした。
今回の民法改正により父母以外の親族(祖父母等)と子との交流についても裁判所が判断できるようになりました。
ただし、改正民法によって認められるのは面会交流の審判のみです。
また、審判の申立てが認められるのは「他に適当な方法がないとき」「子の利益のため特に必要があると認めるとき」に限られ、いつ・どのような場合でも申立てが認められるわけではありません。
そのため、申立を行えば必ず面会交流が認められるというわけではありません。
改正民法の施行日は公布から2年以内のため、遅くとも令和8年5月24日までには施行されることになります。
孫との面会交流を望む祖父母の方にとっては一歩前進と言えるかもしれません。
しかし、あくまで例外的な扱いであること、実務上は慎重な判断が求められると予想されることを頭に入れておきましょう。
祖父母が孫と面会交流する方法
現行民法であっても、祖父母と孫との面会交流が絶対に許されていないわけではありません。祖父母が孫との面会交流を行う方法は以下の2つです。
- 親の同意を得る
- 面会交流に同席させてもらう
それぞれ以下で解説します。
親の同意を得る
祖父母には面会交流の法的な定めはありません。しかし、監護親から同意が得られれば孫と直接面会交流することができます。
また、非監護親が面会交流の調停を申し立て、祖父母の面会について同意が得られれば、祖父母と子供が面会することもできます。
あくまで認められていないのは祖父母が家庭裁判所に面会交流の申立てを行うことです。親の同意があれば、孫と祖父母が面会交流することは可能です。
面会交流に同席させてもらう
2つめの方法は親子の面会交流に祖父母が同席させてもらう方法です。これも1つめの方法と同じく監護親の同意を得る必要があります。
ただし、面会交流は子の福祉を目的としています。そのため、祖父母が同席することで子の利益を害すると判断されれば、同席を拒否される可能性があります。
例えば、以下のようなケースでは祖父母の同席を拒否される可能性があります。
- 祖父母の同席禁止を公正証書や調停証書にて定めている
- 祖父母が子供(孫)に対して虐待する恐れがある
- 祖父母が子供(孫)を連れ去る恐れがある
- 子供(孫)が祖父母の同席を嫌がっている など
面会交流の同意を得るための3つのポイント
前述のとおり、孫との面会交流を行うためには監護親の同意を得る必要があります。監護親の同意を得るためにも以下の点に注意しましょう。
- 監護親と子(孫)の生活に配慮する
- 高額なプレゼントやお小遣いを渡さない
- 祖父母と子(孫)の面会について監護親が同意しても良いと思える関係を作る
それぞれ以下で詳しく解説します。
親と子(孫)の生活に配慮する
面会交流の目的は子の福祉です。子供には監護親との生活があります。
子供(孫)を心配する気持ちはわかりますが、親の悪口を子供(孫)の前で言ったり、生活に口を出したり、文句を言ったりしてはいけません。
親の悪口ばかり言っていると、子供(孫)から面会を拒まれてしまう恐れがあります。
また、子供(孫)からしても、自分の親の悪口を聞くのは気持ちの良いものではありません。
面会交流の日時や場所についても、監護親と子供(孫)の生活に支障が出ないよう配慮するようにしましょう。
高額なプレゼントやお小遣いを渡さない
祖父母が子供(孫)に高額なプレゼントやお小遣いを渡すのは監護親の教育方針に反する可能性があります。
また、祖父母から高額なプレゼントや小遣いを受け取ったことで子供が混乱する恐れもあります。
小遣いやプレゼントを渡したいという場合は事前に許可を得てから渡すようにしましょう。
親が祖父母との面会に同意してもいいと思える関係を作る
監護親が祖父母に子供を会わせても良いと思える関係性を作ることも重要です。
定期的に監護親と連絡を取り、面会交流に後ろ向きな姿勢を見せた場合は何が心配なのかを聞き出し、懸念事項を払拭しておきましょう。
まとめ
2024年8月現在、祖父母には孫との面会交流を行う法的な定めはありません。孫の面会交流を望むのであれば、監護親に同意を得るか、同席をお願いするしか方法がありません。
改正民法により、祖父母が孫と面会交流するための法的な手続きが整備されましたが、あくまで例外的な取り扱いとなります。
孫との面会交流でお悩みの方、面会交流について監護親との話し合いがまとまらないという方は弁護士にご相談されることをおすすめします。
※1 裁判所「 最判令和3年3月29日決定|裁判所 – Courts in Japan」
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