ペーパー離婚とは?手続きの流れと注意点、メリット・デメリットを解説

基礎知識
ペーパー離婚とは?手続きの流れと注意点、メリット・デメリットを解説

現行の民法では夫婦同姓が義務付けられています。そのため、結婚すると男女のどちらか一方は姓を変えなければなりません。

日本国内において選択的夫婦別姓に議論されていますが、今のところ実現の見込みはありません。

近年、夫婦別姓や多様な夫婦の在り方といった観点から、ペーパー離婚という選択についてメディアなどで目にすることが増えました。

この記事では以下のことを解説しています。

・ペーパー離婚とは何か
・ペーパー離婚と偽装離婚の違い
・ペーパー離婚のメリット・デメリット
・ペーパー離婚の手続きの流れ
・ペーパー離婚をする際の注意点

目次
  1. 婚姻とは
  2. ペーパー離婚とは
    1. ペーパー離婚は違法?偽装離婚との違いは?
  3. ペーパー離婚のメリット
    1. 夫婦別姓が可能
    2. 民法上の拘束から解放される
  4. ペーパー離婚のデメリット
    1. 偽装離婚と思われやすい
    2. 世間からの理解が得られにくい
    3. 法定相続人になるためには遺言書の作成が必要
    4. 子供・親権の問題
    5. 公的な手続きに手間や時間がかかる
    6. 戸籍に離婚歴がつく
    7. 各種控除が受けられない
  5. ペーパー離婚の手続きの流れ
    1. 離婚届を提出する
    2. 世帯変更届を行い、妻(未届)または夫(未届)と記載する
    3. 公正証書を作成する
    4. 名義変更を行う
  6. ペーパー離婚を行う際の注意点
    1. ペーパー離婚すべきかよく考える
    2. 偽装離婚に間違われないようにする
  7. ペーパー離婚後に関係を解消する場合
  8. ペーパー離婚後の再婚について
  9. ペーパー離婚は弁護士に相談しよう
  10. まとめ

婚姻とは

ペーパー離婚がどのようなものかを理解するために、まずは婚姻の基本情報について知っておきましょう。

婚姻は男女の意思の合致により成立するというのが原則です。

日本国憲法 第24条
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

つまり、男女双方に婚姻の意思があれば婚姻関係は認められることになります。

なお、法律婚として認められるためには以下の要件を満たし、婚姻届を提出し、受理される必要があります。

  • 婚姻適齢であること
  • 重婚ではないこと
  • 近親婚ではないこと など

民法第739条(婚姻の届出) 
婚姻は、戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
2 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

ペーパー離婚とは

ペーパー離婚とは法律上の夫婦が離婚届を提出して事実婚状態になることを言います。

つまり、婚姻の意思が合致しており、年齢などの要件を満たしている状態で離婚届を提出することを指します。

ペーパー離婚は違法?偽装離婚との違いは?

「ペーパー離婚は違法ではないか」「偽装離婚と何が違うのか」と疑問を持たれるかもしれません。

偽装離婚は財産隠しや生活保護・児童扶養手当の不正受給などを目的に離婚届を提出し、実際は別れていないにも関わらず書類上の離婚をすることを指します。

「生活保護を受給したい」「児童扶養手当を受給したい」など、不当な経済的利益が目的で離婚した場合は公正証書原本不実記載罪などの刑事罰に問われる可能性があります。

刑法第157条
公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

婚姻生活を続けているにも関わらず離婚届を提出するという点では、形式上は偽装離婚とペーパー離婚は同じです。

ただし、「夫婦別姓になりたい」「職場で名乗る姓と一致させたい」という理由であれば違法とは言えません。

つまり、離婚届を提出する理由によって違法か適法かが変わるということです。

ペーパー離婚のメリット

ペーパー離婚のメリット

ペーパー離婚のメリットとしては大きくわけて次の2つがあります。

  • 夫婦別姓が可能
  • 民法上の拘束から解放される

それぞれ以下で解説します。

夫婦別姓が可能

ペーパー離婚の大きなメリットに「夫婦別姓が可能」があります。

近年、選択的夫婦別姓という言葉を耳にすることが増えました。先の自民党総裁選でも選択的夫婦別姓が争点のひとつでした。

民法では夫婦同氏の原則があるため、婚姻届を提出することで夫か妻のいずれかの姓を名乗る必要があります(民法第750、751条)。

日本では基本的に妻が夫側の姓に変更することが多いです。しかし、近年女性の社会進出が活発になり、核家族や単独世帯など家族の形態が変化してきました。

また、家族の在り方が多様化し、同時に男女平等やジェンダーレスなど個人のアイデンティティを尊重する動きも高まるようになりました。

婚姻によって姓を変えるという法律の規定が現在社会に馴染まないと感じる方も増えています。

婚姻に伴う改氏(改姓)により、どちらか一方だけが仕事や日常生活で不利益を被ること、周囲に姓が変わったことを説明しなければならないことなどに煩わしさを感じる人もいます。

また、自分の旧姓に思い入れがあったり、旧姓を使用することを望んでいたりするケースもあります。

法律婚によって姓を変えた側が、旧姓に戻る手段としてペーパー離婚を選択することがあるのです。

民法上の拘束から解放される

夫婦には民法で定める義務があります。

夫婦の義務 内容 根拠となる民法
同居義務 夫婦として同じ場所に住み、生活を共にする義務 第752条(同居、協力及び扶助の義務)
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
協力義務 夫婦としての共同生活を協力して営む義務
扶助義務 夫婦が互いに助け合い、同レベルで生活できるように保障する義務
貞操義務 配偶者以外の者と性的関係を持たない義務 第770条(裁判上の離婚)
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1配偶者に不貞な行為があったとき。
婚姻費用分担義務 夫婦がその負担能力に応じて婚姻費用を分担する義務 第760条(婚姻費用の分担)
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

法律婚をすると夫婦の義務に拘束されます。相手方との夫婦関係を継続したいが、夫婦の義務から解放されたいという場合にペーパー離婚を選択することがあります。

ペーパー離婚のデメリット

ペーパー離婚のデメリット

ペーパー離婚には以下のデメリットがあります。

  • 偽装離婚と思われやすい
  • 世間からの理解が得られにくい
  • 法定相続人になるためには遺言書の作成が必要
  • 子供・親権の問題
  • 公的な手続きに手間や時間がかかる
  • 戸籍に離婚歴がつく
  • 各種控除が受けられない

それぞれについて以下で解説します。

偽装離婚と思われやすい

前述のとおり、ペーパー離婚は形式上、偽装離婚と似ています。また、ペーパー離婚と偽装離婚の違いがわからないという方も少なくありません。

そのため、「児童扶養手当を不正受給するためじゃないか」「生活保護を受給する目的ではないか」など、あらぬ噂を立てられる恐れがあります。

世間からの理解が得られにくい

同じ人と結婚・離婚を繰り返すことに対して世間からの理解が得られにくいのもデメリットです。

そのため、「なぜ離婚したのに同居しているのか」と聞かれることもあります。

偽装離婚と勘違いされ、世間からの理解が得られにくいのもデメリットです。

「夫婦別姓が目的だ」と説明しても、夫婦別姓についての理解がない、または夫婦別姓に価値を感じていないという方も少なくありません。

特に子供がいる場合、両親の姓が違うことで「あの家は変わっている」と近所や学校の先生から思われることもあります。

法定相続人になるためには遺言書の作成が必要

法律婚の場合、配偶者が死亡すると他方は法定相続人になります。民法でも配偶者像相続権の規定があります。

しかし、ペーパー離婚後は事実婚状態ですので、配偶者が死亡しても他方は法定相続人にはなれません。

民法上の縛りを受けないということは民法上の保護もなくなるということです。

法定相続人になるためには互いに相手方を法定相続人にするという旨の遺言書を作成する必要があります。

なお、遺言書を法的に有効なものにするためには特定の要件を満たす必要があります。

遺言書の法的有効性を高めるためには公正証書遺言にすることをおすすめします。

どのような条件を満たす必要があるのか、どのように遺言書を作成すれば良いかについては弁護士にご相談ください。

子供・親権の問題

子供・親権の問題

共同親権の導入が議論されていますが、2024年12月現在、未成熟子がいる夫婦が離婚届を出す際は夫婦のどちらを親権者にするか決めなければなりません。

夫婦と子供が以前と変わらぬ生活を送っていても、ペーパー離婚後、夫婦のどちらか一方は親権者ではなくなります。

親権者が亡くなった場合、自動的にもう一方の親に親権が移行するわけではなく、後見が開始されるのが原則です(民法838条1号)。

他方の親が親権を得たい場合は親権者変更の申立てを行う必要があります。

なお、事前に非親権者を未成年後見人に指定することもできます。遺言で未成年後見人を指定していた場合はその意思が尊重されるのが原則です(民法839条1項)。

しかし、遺言がない場合は管轄の家庭裁判所に「未成年後見人選任の審判」を申し立てることになります(民法第840条1項、児童福祉法第33条の8)。

未成年後見や親権者変更は親権者が亡くなったからといって容易に認められるものではありません。

子供の教育や住居の確保、財産管理などの条件を果たせるかについて裁判所が慎重に審理することになります。

そのため、必ずしももう片方の親が親権者に指定されるとは限りません。

未成年後見や親権者変更を行うためには法的知識が必要です。詳しくは弁護士にご相談ください。

関連記事≫≫
親権者を変更したい!親権を変更する方法と調停手続きについて解説

公的な手続きに手間や時間がかかる

ペーパー離婚は離婚届を役所に提出します。

結婚して姓が変わった人は、離婚により旧姓に戻ります。そのため、銀行口座やクレジットカード、免許証などの名義変更が必要になります。

また、勤務先の氏名変更手続きや子供の学校や保育園の保護者名の手続きなども発生します。

戸籍に離婚歴がつく

婚姻すると夫婦の戸籍は新しく編成されます。

ペーパー離婚は離婚届を提出し、この戸籍から抜けることになります。そのため、戸籍に離婚歴が記載されます。

「形式上の離婚であって関係性は変わらない」といっても、戸籍上は離婚したことになるのです。

各種控除が受けられない

法律婚の場合、条件を満たすことで配偶者控除や配偶者特別控除が受けられるため、税金の支払いを抑えられます。

しかし、事実婚の場合は配偶者控除や配偶者特別控除を受けることはできません。

また、死亡保険金の受取人をパートナーに指定することはできますが、生命保険料の控除を受けることはできません。

ペーパー離婚の手続きの流れ

ペーパー離婚の手続きの流れ

ペーパー離婚の手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 離婚届を提出する
  2. 世帯変更届を行い、妻(未届)または夫(未届)と記載する
  3. 公正証書を作成する
  4. 名義変更を行う

以下で順を追って解説します。

離婚届を提出する

まずは役所に離婚届を提出します。結婚によって姓が変わった人は離婚届が受理されることで自動的に旧姓に戻ります。

また、離婚届は当事者のどちらか一方が提出することも可能です。2人が揃って提出する必要はありません。

世帯変更届を行い、妻(未届)または夫(未届)と記載する

離婚届が受理されたら事実婚としての届出が必要です。 具体的には以下の手順で行います。

  1. 役所で世帯変更届を行う
  2. 住民票に「妻(未届)」または「夫(未届)」と記載してもらう

世帯変更届とは、引っ越しをせず、世帯構成を変更する届出です。こうすることで、公的に事実婚を証明することになります。

なお、状況によっては本人確認書類や戸籍謄本などの書類を求められる可能性があります。事前に役所に確認しておきましょう。

公正証書を作成する

ペーパー離婚後は事実婚状態となります。

事実婚は法律婚と比べて夫婦関係を証明しにくく、相続などの法的な保護が狭くなります。

そのため、いざというときに備えて以下の2種類の公正証書を作成しておきましょう。

  • 婚姻関係契約公正証書
  • 遺言公正証書

それぞれについて、以下で解説します。

婚姻関係契約公正証書

婚姻関係契約公正証書は事実婚関係であることを証明する公正証書です。日常生活でのトラブルのほか、事実婚を解消する際にも重要になります。

婚姻関係契約公正証書に記載する事項は以下のとおりです。

  • 趣旨と目的:ペーパー離婚行う趣旨と目的(当事者間に婚姻意思があること)
  • 夫婦間の規定や義務:一般的な規定。同居、協力、扶助の義務、貞操の義務など
  • 財産関係および生活費の負担:最低限額や割合など
  • 子の出生に関わる規定:養育監護、認知など
  • 双方の両親の扶養について(ペーパー離婚は相手方両親の扶養義務を負わないため、定めておくと良いでしょう)
  • 契約解消時の規定:どのような場合に関係を解消(離婚)するか など

公正証書遺言

前述のとおり、遺言書を作成していない場合、ペーパー離婚後に配偶者が死亡した際に法定相続人にはなることはできません。

遺言書は自筆でも作成できますが、「遺言書が無効である」という主張がなされる可能性もあります。

遺言を作成する際は公正証書遺言を作成することをおすすめします。

なお、夫婦のどちらが先に亡くなるかはわかりません。そのため、夫婦双方が公正証書遺言を作成しておきましょう。

名義変更を行う

ペーパー離婚により姓が変わった場合は各種名義変更が必要です。例えば、以下のような手続きが必要になります。

  • 健康保険
  • 国民年金、厚生年金
  • 印鑑登録
  • マイナンバーカード
  • 免許証
  • パスポート
  • 不動産や自動車の名義
  • 銀行口座
  • クレジットカードの名義 など

ペーパー離婚を行う際の注意点

ペーパー離婚を行う際の注意点

ペーパー離婚を行う際は以下の点に注意しましょう。

  • ペーパー離婚すべきかよく考える
  • 偽装離婚に間違われないようにする

それぞれ以下で解説します。

ペーパー離婚すべきかよく考える

ここまで説明したとおり、ペーパー離婚には「旧姓に戻ることができる」などのメリットだけでなく、デメリットもあります。

ペーパー離婚を検討する際は、デメリットを受け入れられるかよく考えましょう。

特に子供がいる場合や子供を望んでいる場合は子供への影響まで考えて慎重に判断しましょう。

偽装離婚に間違われないようにする

ペーパー離婚は形式上偽装離婚に似ています。そのため、偽装離婚に間違われないようにすることが重要です。

例えば、ペーパー離婚後に夫婦が自分の収入で生活しているのであれば、生活保護の申請や児童扶養手当などの申請は控えましょう。

借金がある場合も離婚届提出前後に自己破産をすると偽装離婚と疑われる恐れがあります。

自己破産を考えている場合はいつ離婚すべきか弁護士に相談すると良いでしょう。

ペーパー離婚後に関係を解消する場合

事実婚状態から関係解消をする場合もまずは双方で話し合います。合意が得られない場合は内縁関係調整調停の利用も検討しましょう。

事実婚の関係解消時も慰謝料や財産分与の請求は認められています。

年金分割については事実婚の間に当事者の一方が他方の被扶養配偶者として国民年金の第3号被保険者と認定されていた期間についてのみ請求できます。

夫婦の間に子供がいる場合、夫が子を認知しているのであれば養育費の請求も認められています。

ペーパー離婚後の再婚について

ペーパー離婚をした相手と再度法律婚をすることも可能です。

なお、離婚は配偶者控除などの控除を受けられなくなる一方、寡婦控除などの控除を受けられる可能性があります。

年末年始に婚姻届と離婚届を提出する行為が繰り返されている場合、「偽装離婚をしている」と疑われる恐れがあります。

ペーパー離婚後に再婚を考えている場合はタイミングも考えて行いましょう。

ペーパー離婚は弁護士に相談しよう

ペーパー離婚は夫婦別姓や夫婦の義務から解放されるといったメリットがありますが、多くのデメリットがあります。

トラブルを回避するためにも弁護士に相談しながら進めていくことが重要です。

弁護士なら、偽装離婚を疑われないためにアドバイスや、法的に有効な公正証書の作成についてもアドバイスしてもらえます。

まとめ

ペーパー離婚は夫婦が離婚届を提出し、事実婚状態になることです。

夫婦別姓を目的に選択するケースが多いですが、法定相続人になれない、周りの理解が得られにくいなどのデメリットもあります。

子供がいる場合や子供を希望している方は子供のことも考えて慎重に判断する必要があります。

それでもペーパー離婚をしたいと思ったら、ここで紹介した手続きや注意点を参考に慎重に手続きを進めましょう。

「夫婦別姓を希望するがペーパー離婚すべきか」

「ペーパー離婚するためにはどのような手続きをとればいいのかわからない」

このようなお悩み方はまずは弁護士に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。

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