二世帯住宅を理由に離婚できる?財産分与や住宅ローンはどうなるのか
二世帯住宅は親世帯との交流を図ることができる一方、気を遣うことが多く、ストレスを感じる人もいるでしょう。
また、二世帯住宅に暮らすことで義両親との関係や夫婦関係が悪化し、離婚を考えることもあるかもしれません。
この記事では、「二世帯住宅を理由にできるのか」「二世帯住宅は財産分与の対象となるか」「二世帯住宅で離婚リスクを回避する方法」について解説します。
二世帯住宅にお住まいの方だけでなく、二世帯住宅に住むことを検討中の方にも役立つ内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
- 目次
二世帯住宅を理由に離婚できる?
離婚協議や離婚調停のように当事者同士の話し合いで離婚する場合、夫婦の合意が得られればどのような理由であっても離婚が成立します。
そのため、話し合いで合意できれば二世帯住宅を理由に離婚ができます。
しかし、話し合いがまとまらず、裁判に進んだ場合は民法が定める法定離婚事由が必要になります。そのため、二世帯住宅だけを理由に離婚を認めてもらうことは難しいと言えます。
しかし、二世帯住宅がきっかけであってもそのほかの要素が加わって離婚を考えるようになったのであれば、その経緯や理由によっては離婚が認められる可能性があります。
二世帯住宅で生じやすい離婚リスクとは
二世帯住宅で生じやすい離婚リスクには以下があります。
プライバシーが確保できない
プライバシーの確保が難しいと離婚リスクにつながります。家族間の距離感や関心度が同じであればさほど問題になりません。
しかし、どちらか一方が関心を持ちすぎたり、距離間が近かったりした場合、トラブルに発展しやすくなります。
特に何か文句を言われるわけではないけれど、監視されているように感じてしまうとストレスになります。
また、逆の立場としても、相手の言動が常に気になるため、イライラが募ったり、不満を感じたりしやすくなります。
価値観が違う
世代の違う2つの世帯が同居すると、価値観の違いで衝突が起きやすく、ストレスを抱える傾向があります。
親世代と子供世代の価値観の違いは同居前から存在していますが、同居することで顕在化し、関係悪化へつながる恐れがあります。
生活スタイルが違う
世帯間で生活スタイルが異なるというのも離婚につながる恐れがあります。 些細なことではありますが、以下のようなことも家庭によって生活スタイルの違いがあります。
- お正月やお盆の過ごし方
- 夜型か朝型か
- 食事内容や時間帯などの食習慣 など
生活スタイルの違いによるストレスが続くと関係が悪化しやすくなります。
夫婦間の問題が浮き彫りになる
二世帯住宅に住み義両親との間に亀裂が生じているにも関わらず、配偶者が対応しようとしなかったり、耳を貸さなかったりすることもあります。
義両親とトラブルで自分の味方になってくれない、協力して乗り越えようとしない姿勢が浮き彫りになることで離婚話に発展することがあります。
二世帯住宅は財産分与の対象になるのか
離婚する際、財産分与を行い、婚姻中の夫婦の共有財産を公平にわけることになります。財産分与は、現金や預貯金だけでなく、不動産なども対象です。
では二世帯住宅は財産分与の対象になるのでしょうか。
土地・建物ともに親名義なら財産分与の対象にならない
土地・建物ともに親名義の場合、今住んでいる二世帯住宅は親のものであり、夫婦の共有財産ではありません。そのため、財産分与の対象にはなりません。
夫婦のどちらかがが所有している場合は財産分与の対象になる
二世帯住宅の所有者が夫婦のどちらかであり、所有権を得た時期が婚姻中であれば二世帯住宅は夫婦の共有財産となり、財産分与の対象になります(民法第762条第2項)。
そのため、二世帯住宅全部が財産分与の対象になります。
親と共有している場合は共有持分が財産分与の対象になる
二世帯住宅の名義が親と共有名義になっている場合、名義人ごとの持ち分が定められています。
そのため、夫婦のどちらか一方が有する持ち分に相当する価額のみが離婚時の財産分与の対象になります。
例えば、土地と建物を合わせて6,000万円の二世帯住宅で、夫と夫の父親が共有で名義を持っており、それぞれの持ち分は2分の1だと仮定します。
このとき、夫の持ち分の価額は6,000万円×1/2=3,000万円ですので、財産分与により、妻は夫の持ち分の半分の1,500万円を請求することができます。
夫婦のどちらか一方が婚姻前に取得した場合は財産分与の対象にならない
財産分与の対象となるのは「婚姻中の共有財産」です。婚姻前に取得した財産は特有財産と言われ、財産分与の対象外となります。
つまり、二世帯住宅の取得時期が婚姻前の場合は名義に関わらず財産分与の対象にはなりません(民法第762条第1項)。
また、土地・建物ともに親名義の二世帯住宅に住み、その後名義人である親が亡くなり、相続によって土地・建物を所有した場合も二世帯住宅は特有財産となります。
この場合も財産分与の対象外となります。
第762条(夫婦間における財産の帰属)
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
親からの援助がある場合はその分を差し引く
二世帯住宅の購入資金に親からの援助や婚姻前の預貯金が含まれているケースもあるでしょう。
親からの援助や婚姻前の預貯金は特有財産ですので、特有財産の分を差し引いて財産分与を行う必要があります。
離婚時に二世帯住宅の住宅ローンが残っている場合
離婚時の二世帯住宅の住宅ローンが残っている場合、オーバーローンかアンダーローンかによって財産分与の考え方が変わります。
- オーバーローン:住宅ローンの財産高>住宅の評価額
- アンダーローン:住宅ローンの残高<住宅の評価額
以下、それぞれについて解説します。
オーバーローン
オーバーローンの場合、二世帯住宅の評価はマイナス評価となります。そのため、二世帯住宅は財産分与の対象とはなりません。
この場合、住宅ローンの名義人がローンを返済しながら住み続け、財産分与は行わないというケースが多いです。
アンダーローン
アンダーローンの場合、住宅の評価額から残っている住宅ローンを差し引いた金額が財産分与の対象となります。
例えば、6,000万円の評価額の二世帯住宅で、残っている住宅ローンが2,000万円だとします。
この場合、住宅の評価額から残っている住宅ローンを差し引いた4,000万円が財産分与の対象となります。財産分与で請求できるのはその2分の1の金額(2,000万円)です。
なお、住宅ローンの名義人は離婚後も住宅ローンを返済することになります。
二世帯住宅の住宅ローンが残っている場合の注意点
住宅ローンは契約上、債務者と物件の所有者が一致していなければなりません。
そのため、離婚時の財産分与などで債権者(金融機関)に無断で物件の所有者が変更された場合、一括返済を求められる可能性があります。
また、財産分与時に住宅ローンが残っている状態で物件の所有者を変更する場合、住宅ローンの債務者の変更が必要です。
債務者を変更する場合は融資が可能か改めて審査が行われます。変更後の債務者の収入によっては既存の住宅ローンと同じ額を借り入れることができなくなる恐れがあります。
二世帯住宅を財産分与する方法
二世帯住宅を財産分与する方法は大きくわけて以下の2つになります。
- 換価分割
- 代償分割
それぞれ以下で解説します。
換価分割|二世帯住宅を売却して得た代金を財産分与する
最もシンプルな方法は二世帯住宅を売却し、得られた代金をわける方法です。このように、不動産などの財産を売却して得られた売却金をわける方法を換価分割と言います。
二世帯で暮らすことを想定して大きな住宅に住んだものの、離婚することで不要になることもあります。このような場合は換価分割がおすすめです。
なお、親が高齢な場合はリースバックという方法もあります。リースバックとは、不動産を売却後に売却先と賃貸契約を結ぶことで元の住居に住み続けるという仕組みです。
リースバックであれば転居する必要がなく、売却代金を配偶者に分与できます。
代償分割|二世帯住宅に住み続ける側が相手方に金銭を支払う
夫婦のどちらか一方が不動産を取得する代わり、もう一方に代償金を支払うことで財産分与を行う方法があります。これを代償分割と言います。
一般的には、二世帯住宅に住んでいた親世帯の実の子供が家に残り、配偶者へ金銭を支払うケースが多いです。
二世帯住宅を分割できない、または売却できない・したくないという場合におすすめです。
例えば、夫または妻名義の2世帯住宅の持ち分が4,000万円だとします。この場合、2分の1の2,000万円を離婚する相手に支払うことになります。
離婚後も家に住み続ける際の注意点
財産分与の対象となる住宅に住み続ける際は、以下の点に注意しましょう。
家の権利を確認する
財産分与された住宅に住み続ける場合、自分が以下のどのような権利に基づいて住むのかを確認しておきましょう。
- 所有権
- 共有持分権
- 賃貸権
- 使用借権
所有権
所有権とは特定のものを自由に使用収益処分できる権利です。所有権は時効によって消滅することはなく、所有権を持つ人は所有物に対して独占的に支配できます。
共有持分権
共有持分とは、1つの不動産を複数人で共同所有する際、各々の所有者が不動産に関して所有する所有権の割合です。
共有持分権とは、共有物の共有持分を保有することで生じる権利を言います。例えば、共有持分を有する共有物に対して、以下の権利を行使できます。
- 共有物を使用する権利
- 収益を上げる権利
- 維持修繕する行為
- 不動産を管理する行為
- 売却など処分する行為
なお、上記の行為や権利行使は共有者と共同で行う必要がある場合もあります。共有物を処分しようと思っても、他の共有者が反対すれば話が進まない恐れがあります。
賃借権
貸借権とは、賃貸借契約に基づく貸借人の権利を言い、居住者の権利を指します。貸借人は賃料を支払う義務を負う代わりに、居住目的で建物を使用する権利を持ちます。
譲渡や転貸するには賃貸人(オーナーや地主など)の承諾が必要です。
使用借権
貸主から借主が無償で物を借り、使用収益したあと、借りた物を貸主に返却することを使用貸借と言います。友人などから無償で本を借りたという場合も厳密には使用貸借になります。
使用借権はあまり借主の保護がなされません。返還時期などの定めがない場合、貸主はいつもでも返還請求ができるため、将来的に住まいを追い出される恐れがあります。
住宅ローンの債務者変更ができるか確認しておく
住宅ローンが残った家を財産分与する場合、金融機関からの再審査を受けなければ債務者変更ができません。
金融機関の審査に通るかどうかは、物件の価値や変更後の債務者の収入などによって異なります。また、名義変更を伴う場合は住宅ローンの問題と併せて考える必要があります。
二世帯住宅で離婚する場合は早い段階で金融機関と相談することをおすすめします。
財産分与で取り決めた内容を公正証書に残しておく
財産分与で取り決めた内容は、他の離婚条件も含めて公正証書にしておくことをおすすめします。
公正証書を作成することで相手方が財産分与の請求などに応じない場合は速やかに強制執行を行い、資産の差し押さえができます。
また、公正証書の原本は公証役場で保管されるため、改ざんや紛失のリスクを回避できます。
二世帯住宅の財産分与は弁護士に相談
二世帯住宅は財産分与の対象になるかどうかの判断が難しいものです。また、二世帯住宅の財産分与は親世代との交渉が必要です。
持分や住宅ローンの問題もあるため、通常の財産分与と比べて複雑になります。弁護士なら二世帯住宅が財産分与の対象になるかどうか、財産分与の割合や金額などを適切に判断できます。
また親世帯との交渉や配偶者との交渉も代行してもらえるため、スムーズに交渉が進みます。話し合いがまとまらず、調停や裁判に進んだ場合もサポートを受けることができるため、安心です。
二世帯住宅の離婚リスクを回避する方法
二世帯住宅の離婚リスクは間取りを工夫することで回避しやすくなります。二世帯住宅とひと口に言っても構造や間取りによって以下の3つにわけられます。
- 完全同居型
- 一部共有型
- 完全分離型
それぞれのケース別に離婚リスクを回避するポイントを解説します。
完全同居型の場合
完全同居型は、一戸の住宅を二世帯で完全に共有するタイプの住宅です。
玄関や浴室、トイレ、キッチンなどの設備を共有するため、世帯間で交流しやすく、他の2種類と比べて建築費用を抑えられるといったメリットがある一方、プライバシーを確保しづらいというデメリットもあります。
完全同居型はプライバシーを如何に確保できるかがカギとなります。そのため、防音や動線を工夫することが離婚リスクの回避策となります。具体的には以下のようなものがあります。
- リビングを通らずにトイレや浴室に行けるようにする
- 各寝室の扉や壁を遮音仕様にする
- 各世帯のスペースを通らずに家の出入りができるようにする
- 各世帯のスペースに階段を作らない
- 各世帯のスペースと駐車場を隣接させない
- 各世帯の寝室の真上にトイレや浴室など水回りの設備を設置しない など
一部共有型の場合
一部共有型とは、玄関や浴室など一部の設備を共有し、居住空間をわけるタイプの住宅です。適度にプライバシーを確保しながら、世帯間での交流が叶う間取りです。
ただし、トイレや浴室、洗面所などの水回りは生活リズムが異なるとトラブルになりやすい傾向があります。
一部共有型は共有スペースを如何に小さくできるかが離婚リスクの回避策となります。具体的には下記のようなものがあります。
- キッチンやトイレなどの水回りを各世帯でわける(1階と2階にそれぞれ配置するなど)
- 共有スペース使用時のルールを決めておく など
完全分離型の場合
完全分離型はすべての設備を各世帯でわけるタイプの住宅です。プライベートが確保しやすい反面、建築費用が嵩むというデメリットがあります。
完全分離型の場合、玄関を離して設置することが離婚リスクの回避策となります。
玄関の位置が近いとドアの開け閉めの音やインターホンの音などが伝わりやすく、プライバシーを確保しにくいことがあります。
玄関の位置を離し、インターホンの音量にも配慮しましょう。また、宅配や郵便の誤配を防ぐためにもポストや表札にも工夫をしましょう。
完全分離型の対処法には以下のようなものがあります。
- 上下階で世帯をわけている場合:床の遮音性を高める
- 左右で分けている場合:世帯を隔てる壁を遮音仕様にする など
近居・隣居も検討する
二世帯住宅を考えているが、離婚リスクが心配という場合は近居・隣居も検討しましょう。国土交通省は近居・隣居を以下のように定義しています。
- 近居:親と子の世帯の住まいが別々で、片道1時間以内の距離にある
- 隣居:親と子の世帯の住宅が隣同士あるいは、ごく近くである
近居・隣居は互いに行き来しやすい距離での別居ですので、プライバシーを確保しながら、家事や育児、介護のサポートがしやすくなります。
また、自治体によっては親世帯と同居・近居することになった世帯に対して転入・転居費用を補助するといった助成があります。
一例として千葉市の支援事業をご紹介します。
参考:千葉市「千葉市三世代同居・近居支援事業(https://www.city.chiba.jp/hokenfukushi/koreishogai/korei/sansedai.html)」※1
まとめ
二世帯住宅だけを理由に裁判で離婚を認めてもらうことは難しいと言えます。しかし、二世帯住宅で生活することで生じた離婚原因によっては、裁判で離婚が認められる可能性もあります。
二世帯住宅の財産分与揉めやすく、複雑なため、離婚を考えたらすぐに弁護士に相談されることをおすすめします。
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※1 千葉市「千葉市三世代同居・近居支援事業」
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