部活離婚の回避方法とは?話し合い時の注意点と教員の離婚のポイント

「部活離婚」とは、文字通り、教員(教師)である配偶者が部活動を優先し、家庭を顧みないことによって離婚することを言います。
夫の部活動が忙しく、家にいなくなった状態の妻のことを「部活未亡人」、部活に忙しい教員の親を持つ子供を「部活孤児」、部活に忙しく結婚を諦めることを「部活非婚」と呼ぶこともあります。
この記事を最後まで読むことで以下のことがわかります。
・部活が忙しいことを理由に離婚できるのか
・部活離婚の回避法
・部活離婚する際のポイント
- 目次
部活離婚とは
部活離婚とは、学校の部活顧問が部活動に拘束されることで、家庭を顧みることができず、家庭崩壊や離婚問題に発展することを言います。
授業や学校行事などの通常業務に加え、早朝・休日出勤、試合の引率など、部活顧問の労働環境は厳しいものがあります。
2025年3月にAERA dot.とAERA編集部は部活動顧問に関するアンケートを実施しました。
調査結果によると、部活動の顧問になった理由は「学校や管理職からの打診」によるものが64%と最も多く、「部活動顧問はやらざるを得ない」「断れない」という状況であることが推測できます。
また、同調査では「私生活が犠牲になっている」と回答した割合が77%を占める結果となりました。
配偶者の部活動が家庭や私生活に影響をおよぼしていることがわかります。
参考:AERA DIGITAL「部活顧問「人生を奪われ、楽しいことはひとつもない」 妻は「部活未亡人」化、離婚秒読みの教員も(https://dot.asahi.com/articles/-/255223?page=1)」※1
部活が忙しいことを理由に離婚できるのか
結論から申し上げますと、夫婦が話し合いで合意できればどのような理由であっても離婚できます。
そのため、配偶者の部活が忙しいことを理由に夫婦が合意すれば離婚ができます。
法定離婚事由があれば裁判で離婚が認められる
話し合いで合意できない場合、最終的には裁判の手続きで離婚を認めてもらうことになります。
しかし、裁判で離婚を認めてもらうためには、民法で定める以下の法定離婚事由が必要です。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上生死不明
- 回復の見込みがない強度の精神病
- 婚姻を継続し難い重大な事由
なお、④の回復の見込みがない強度の精神病については2024年の民法改正により、削除されています。
部活が忙しいことを理由に離婚が認められるかどうかについては⑤の婚姻を継続し難い重大な事由に該当するかが問題です。
もっとも、ただ部活が忙しく、家庭を顧みないというだけでは離婚は認められない可能性が高いと言えます。
一方、部活が忙しいことが原因で、配偶者がイラつきを強くし、配偶者から過度なモラハラや、DVを受けているという場合は離婚が認められる可能性があります。
また、部活動をきっかけに学校関係者と不倫関係にいたった場合などは①の不貞行為を理由に離婚が認められる可能性があります。
部活離婚の回避法
部活離婚の回避方法は「夫婦で話し合い、妥協点を見出す」に尽きます。
このとき、「〇〇のとき、あなたは傍にいてくれなかったわよね」「家庭と部活、どっちが大事なの?」などと相手を責める言い方をしてはいけません。
以下のように、「私」を主語にして、具体的に自分の意思や要望を伝えましょう。
- 「(私は)腰を痛めたときに子供の世話が難しくて困った。(私は)次回はあなたに仕事を調整してもらって子供の世話をしてほしいと思っている」
- 「〇〇(子供の名前)、運動会に向けて練習頑張っているみたい。(私は)たまにはあなたが応援に行ってあげると喜ぶと思う」 など
一方、教員側はまずは冷静に意見や要望を受け止めます。そのうえで、どうすれば妥協点が見出せるかを考え、歩み寄る姿勢を見せることが重要です。
感情的になって、「こっちは仕事なのだから仕方ないだろう」「家のことは君に任せたい」などと、突き放すような言い方をしてはいけません。
各家庭によって、適切な解決策は異なりますが、具体的な例としては以下のようなものがあります。
- 適切なコミュニケーションを心がける
- 「大会に向けて追い込みの時期だから、それ以外の時期で調整してみるよ」などと提案する
- 部活動顧問の外部委託を勤務先にお願いする など
部活動の在り方についての国の動き
部活動顧問の外部委託は私立学校ではすでに導入を進めているところもありますが、公立学校での導入は難しい現状がありました。
このような状況のなか、スポーツ庁は公立中学校の運動部活動改革で、2023年から休日の中学部活動を段階的に地域移行すると提言しています。
平成30年のスポーツ庁の「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」において、ガイドライン作成の趣旨として以下の記載があります。
○ 本ガイドラインは、義務教育である中学校(義務教育学校後期課程、中等教育学校 前期課程、特別支援学校中学部を含む。以下同じ。)段階の運動部活動を主な対象と し、生徒にとって望ましいスポーツ環境を構築するという観点に立ち、運動部活動が 以下の点を重視して、地域、学校、競技種目等に応じた多様な形で最適に実施される ことを目指す。
・ 知・徳・体のバランスのとれた「生きる力」を育む、「日本型学校教育」の意義 を踏まえ、生徒がスポーツを楽しむことで運動習慣の確立等を図り、生涯にわたっ て心身の健康を保持増進し、豊かなスポーツライフを実現するための資質・能力の 育成を図るとともに、バランスのとれた心身の成長と学校生活を送ることができる ようにすること
・ 生徒の自主的、自発的な参加により行われ、学校教育の一環として教育課程との 関連を図り、合理的でかつ効率的・効果的に取り組むこと ・ 学校全体として運動部活動の指導・運営に係る体制を構築すること
引用元:スポーツ庁「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン平成30年3月
また、令和2年9月には「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」の資料において以下の記載があります。
1.休日の部活動の段階的な地域移行(学校部活動から地域部活動への転換)
休日の部活動における生徒の指導や大会の引率については、学校の職務として教師 が担うのではなく地域の活動として地域人材が担うこととし、地域部活動を推進する ための実践研究を実施する。その成果を基に、令和5年度以降、休日の部活動の段階 的な地域移行を図るとともに、休日の部活動の指導を望まない教師が休日の部活動に 従事しないこととする。
引用元:スポーツ庁「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について
なお、具体的な実践研究の内容は以下のとおりです。
- 地域人材を確保・研修・マッチングする仕組みの構築
- 地域部活動の運営団体の確保
- 平日・休日の一貫指導のための連携・協力体制の構築
- 費用負担の在り方の整理
- 生徒のスポーツ環境充実に向けた学校と地域の協働体制の構築
資料によれば、全国各地の拠点校において実践研究を行い、その成果を基に、全国展開につなげるとしています。
「地域クラブ活動への移行に向けた実証事業」の採択自治体数は、2023年339市区町村、2024年510市区町村と着実に増加しています。
一方、人口規模や自治体によっては地域移行が難しいケースがあるという課題も見えてきています。
部活動顧問の働き方については国も問題視しており、動き始めています。
しかし、自治体や勤務先によっては外部委託の導入実現が難しいこともあります。
地域移行や外部委託は自分だけでどうにかできるものではありません。家庭内でできる取り組みについても検討することが重要です。
このとき、「地域移行という取り組みがある」「外部委託を申し出てみる」ということも踏まえて話し合いを行えば、前向きな話し合いができる可能性もあります。
また、夫婦での話し合いが難しい場合は夫婦カウンセリングの活用も検討すると良いでしょう。
部活離婚する際のポイント
部活動をはじめとした教員(教師)の離婚には特有の問題があります。それぞれについて以下で解説します。
婚姻費用・養育費
教員は教育への意識が高く、「自分の子供には十分な教育を受けさせたい」と考えるケースが多いです。
すでに私立学校へ通わせていたり、通わせる予定であったりする場合は相当分の婚姻費用や養育費の請求を行いましょう。
婚姻費用や養育費や支払い義務者と権利者の収入を基に算定されるのが基本ですが、私立学校等で教育費が高額になる場合は、一定の上乗せを請求できる可能性があります。
児童手当
児童手当とは、0歳から18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子供を養育している人に支給される手当です。
児童手当の変更の届出先は勤務先が公立学校かどうかによって変わります。
公立学校以外に勤務している場合は現住所を管轄する自治体に届出を行います。
公立学校に勤務している場合、勤務先から児童手当が支給されます。そのため、自治体と勤務先に届出を行う必要があります。
退職金
教員は勤務先の倒産リスクが少なく、退職金がなくなるケースも少ないと言えます。
そのため、将来の退職金を財産分与に含めて算出されるケースが多いです。
他の職業の場合、退職金を含めずに財産分与の話し合いを行うこともあるため、見落としがちなポイントになります。
慰謝料
部活動をきっかけとした不倫やDV・モラハラがあったという場合は不法行為に対する慰謝料請求が認められる可能性があります。
慰謝料を請求する際は、不倫やDV・モラハラの事実を立証する証拠を集める必要があります。
どのような証拠を集めるべきかについては弁護士にご相談ください。
夫婦が同業であることが多い
教員は夫婦とも教員であるケースが少なくありません。
教職員の世界というのは狭く、勤務先が違っていても、上司や同僚が配偶者のことを知っていることがあります。
特に勤務先が公立学校の場合、自分たちの子供も同じ区域の学校に通っているケースがあります。
そのため、勤務先に居づらくなったり、周囲に噂が広まることで子供の生活に悪影響がおよぶ可能性もあります。
まとめ
部活動顧問の働き方については国も問題視しており、動き出しています。
配偶者の部活を理由に離婚を考えた場合も、まず夫婦で話し合い、代替案を考えるなど歩み寄ることが重要です。
一方、教員(教師)の離婚は財産分与や婚姻費用、養育費、離婚後の生活など、注意すべき点があります。
話し合いをしたものの離婚は避けられないという場合は、弁護士にご相談ください。
※1 AERA DIGITAL「部活顧問「人生を奪われ、楽しいことはひとつもない」 妻は「部活未亡人」化、離婚秒読みの教員も」
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