親権を停止するとどうなる?申立て方法と子供を守るためにすべきこと
児童相談所に寄せられる児童虐待の相談件数は年々増加傾向にあり、令和3年度中に全国225か所の児童相談所が対応した件数は速報値で20万7,659件になり、過去最多を更新しました。
民法では児童虐待から子供を守るために親権制限制度が設けられており、昨今の児童虐待件数の増加を鑑みて、平成24年に新設されたのが親権停止制度です。
この記事では、親権停止とはどのようなものか、親権喪失との違いや手続きの方法について解説します。
「元配偶者が親権者になっているが、子供が虐待を受けているか心配」
「子供がネグレクトを受けているかもしれない」
このようなお悩みをお持ちの方は最後までお読みください。
- 目次
親権停止とは
親権停止とは家庭裁判所の審判により、一定期間親権行使を止めることを言います(民法834条の2第1項)。
(親権停止の審判)
第八百三十四条の二 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。 2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。
参考:e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089))※1
親権停止は親子関係の断絶ではなく、親子を一定期間引き離し、関係修復を図ることを目的としています。
民法にはすでに親権制限制度や未成年後見制度がありましたが、昨今の児童虐待の状況を鑑み、平成23年に見直しが行われ、親権停止制度が新設されました。
子の利益を害するものとは
前述のとおり、親権停止は「父または母による親権の行使が困難または不適当であることにより子の利益を害するとき」に認められると定められています。
「父または母による親権の行使が困難な場合」とは例えば以下のようなケースです。
- 親権者が服役中である
- 親権者が精神疾患などで長期入院中である
- 親権者が薬物中毒である など
「父または母による親権の行使により子の利益を害するもの」として、代表的なものに児童虐待があります。 厚生労働省では児童虐待を以下のように分類しています。
身体的虐待 | 殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など暴力行為による虐待 |
性的虐待 | 子供に性的行為を行う、性的行為を見せる、性器を触る・触らせる、子供の裸を撮影する など |
ネグレクト | 家に閉じ込める、十分な睡眠や食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など |
心理的虐待 | 言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子供の目の前で家族に対して暴力をふるうなど |
実際、令和4年に裁判所が親権停止を認容した事例のうち、児童虐待が原因として認められた割合は8割を超えています。
親権喪失・管理権喪失との違い
親権制度には親権停止のほか、親権喪失、管理権喪失の3つがあります。
平成23年の民法見直しまでは親権喪失と管理権喪失の2つでしたが、新たに加わったのが親権停止になります。それぞれ以下の違いがあります。
内容 | 認められるための要件 | |
---|---|---|
親権停止 | 一定期間親権行使を止めること | 親権の行使が困難または不適当であることにより、子の利益を害するとき |
親権喪失 | 期限を定めずに親権を失わせること | 親権者による虐待または悪意の遺棄があるとき。 その他、親権の行使が著しく困難または不適当であることにより、子の利益を著しく害するとき |
管理権喪失 | 親権のうち財産管理権のみを失わせること | 管理権の行使が困難または不適当であることにより、子の利益を害するとき |
親権喪失には「著しく」という文言がありますが、親権停止に「著しく」という文言はありません。また、親権停止には期限がありますが、親権喪失は無期限です。
親権喪失は取り消しがなされなければ、親権者は永久的に親権を失うことになります。そのため、親権喪失が認められるための要件は厳しくなっています。
なお、親権喪失を申し立てる原因が2年以内に消滅する見込みがある場合は親権停止となる可能性があります。
親権は大きく身上監護権と財産管理権で成り立ちます。管理権喪失が認められたということは、財産管理権のみを行使できなくなることを意味します。
管理権喪失が認められるのは下記のようなケースです。
- 子供のお金を使い込んだ
- 子供が贈与や相続などによって得た財産を自分の借金済にあてた など
親権停止の期間
親権喪失と異なり、親権停止は一定期間、親権行使をストップすることになります。親権停止の期間は親権停止が必要な理由が消滅するまでとなっており、最長2年間になります。
親権停止の効果
親権停止期間中、親権を停止された親権者は子供と日常的に関わることができなくなります。 例えば、親権者であれば通常行っている下記のようなことができなくなります。
- 一緒に住む
- 食事を作る
- 身の回りの世話をする
- 子供の財産を管理する など
親権停止中の子供の親権はどうなるのか
離婚後、親権者の親権が停止した場合、自動的に他方の親が親権を獲得するわけではありません。
離婚後は単独親権となるため、親権停止が認められると未成年後見が開始されると定められています(民法838条1号)。
未成年後見人とは、未成年者に対する親権者がいない場合に未成年の法定代理人となり、未成年者の監護養育や財産管理、契約などの法律行為を行う人を指します。
未成年後見人は自動的に決まるわけではなく、親権停止とは別に手続きを行う必要があります。
平成23年に改正された児童福祉法により、この未成年後見制度についても見直しが行われました。
- 改正前:未成年後見人は法人不可、一人でなければならない
- 改正後:法人可、複数人選任可
改正前、未成年後見人は一人の個人である必要がありましたが、改正により、未成年後見人は法人でも良く、複数でも良いことになりました。
これにより、適切な未成年後見人選任されるまでは児童相談所の所長が親権を代行することもできるようになりました。
親権停止の申立て方法
親権停止の申立て方法を解説します。
親権停止の申立先
親権停止は子供の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行う必要があります。申立が受理されると裁判所で審理が行われます。
親権停止を行う際は、申立人に申立て理由を聞き、状況調査を行います。
また、審判を受ける親権者、子供が15歳以上の場合は直接子供から意見を聴きます。状況によっては。子供が15歳未満の場合でも意見を聴くことがあります。
審理の結果、裁判所が審判を行います。審判後2週間以内に不服申し立てがなされない場合は審判が確定します。
親権停止の申立てができる人
親権停止の申立てができるのは以下の人です。
- 子供本人
- 子供の親族
- 児童相談所長
- 未成年後見人
- 未成年後見監督人
- 検察官
未成年後見監督人とは、親権停止制度導入に伴い、新規で追加されたもので、未成年後見人の事務を監督する役割があります。具体的には以下のような職務を担います(民法851条)。
- 後見人の事務を監督する
- 後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求する
- 急迫の事情がある場合に、必要な処分をする
- 後見人またはその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表する
なお、親権停止の申立ては却下されることもあります。特に親族からの申立ては却下されるケースが少なくありません。
一方、児童相談所からの申立ては却下されることがほとんどないと言えます。親権停止を誰が申し立てるのかというのも非常に重要です。
親権停止の申立てに必要な書類
親権停止の申立てに必要な書類は以下です。
- 申立書
- 子供の戸籍謄本
- 現在の親権者の戸籍謄本(子供と同じ戸籍であれば不要)
- 申立人の戸籍謄本
- 親権停止を申し立てる理由(子供の福祉に反していること)を証明する書類
- 収入印紙(800円/子供一人)
- 切手 ※申立先の裁判所による
緊急性が高い場合は審判前の保全処分を行う
令和4年の裁判所のデータによると、親権停止の審理は6か月以内に終わることがほとんどであることがわかります。
しかし、審理期間が6か月を超えるケースは4割弱と、決して少なくはありません。
親権停止の審判がおりるまである程度期間を要するため、深刻な虐待があるなど緊急性の高いケースでは、審判と同時に「審判前の保全処分」を申し立てることもできます。
「審判前の保全処分」が認められれば、審判の結果が出てその効力が生じるまでの間、親権者は一時的に親権行使をできなくなります。
その間に親権者の代わりに親権を行使できる職務代行者については、裁判所が選任します。
参考:裁判所「親権制限事件及び児童福祉法に規定する事件の概況-令和4年1月~12月-(https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2023/20230517zigyakugaikyou_r4.pdf)」※1
親権停止中に親権者がすべきこと
「もう一度子供と暮らしたい」「親子関係を修復したい」と考えるのであれば、自分の行動を振り返り、親権を停止された原因を取り除き、状況を改善することが求められます。
例えば、「精神的に不安定である」「アルコール依存症である」という場合は、医療機関やカウンセリングに通うなど、同じ過ちを繰り返さないよう策を練りましょう。
特に子供に虐待をしていたという場合は専門的のカウンセリングや医療機関を受診することが必要になることもあります。
親権停止の原因が続いている場合の対処法
親権停止の期間に更新や延長制度はありません。期間を超えても親権停止にいたった原因が続いている場合は再度親権停止の申立てを行う必要があります。
親権停止への不服申し立て
親権停止の審判に納得できない場合は家庭裁判所に不服申し立てを行います。これを即時抗告と言い、審判の日から2週間以内に申し立てる必要があります。
なお、審判の結果によって、即時抗告ができる人は以下となります。
- 審判が却下された場合:申立人
- 審判が認容された場合:親権者や親権者の親族
「審判前の保全処分」に対する即時抗告
親権停止の審判と同時に「審判前の保全処分」を申し立てたものの、「審判前の保全処分」が却下されることもあります。
このとき、「審判前の保全処分」について即時抗告不服申し立てができる人は以下となります。
- 保全処分が却下された場合:申立人
- 保全処分が認容された場合:保全命令を受けた親権者や親権者の親族など
即時抗告は保全命令の告知を受けた日の翌日から2週間までとなります。また、職務代行者の選任については即時抗告を行うことはできません。
保全処分が認容されたケースでは、即時抗告を行えば保全処分の執行がすぐに停止されるわけではありません。
保全処分の執行を止めるためには、別途即時抗告に伴う執行停止の申立てを行う必要があります。
親権停止を申し立てる前に弁護士に相談
親権停止となる理由が客観的に見て明らかであっても却下されるケースもあります。また、親権停止は裁判所による手続きのため、書類の準備や法的な手続きなど専門知識が必要になります。
「親権停止を申し立てたい」と考えたら、事前に弁護士にご相談することをおすすめします。
まとめ
親権停止などの親権制限制度は子供を虐待などから守るための制度です。 一方、親権停止は期間が限られているとはいえ、子供を親権者から引き離すことになります。
また、親権停止は一定期間が経過すれば親権者のもとに子供を返すことになるため、親権停止に至った原因が改善されていない場合は別の対策が必要になります。
親権問題は子供の将来への影響が大きく、繊細な問題です。1人で悩まず、まずは弁護士にご相談ください。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は親権停止などの親権問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。
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