法定養育費とは?金額・いつから・請求方法を解説【2026年4月施行】
「離婚の際に養育費の取り決めができなかったら、子供の生活費を受け取れないまま生活を始めなければならないの?」
そんな状況を解消するため、2026年4月1日施行の改正民法で導入されたのが法定養育費制度です。
法定養育費制度は、養育費の取り決めがなくても離婚した日から一定額の養育費を請求できる制度です。
この記事では、法定養育費の概要についてわかりやすく解説します。
【この記事でわかること】
・法定養育費とは何か、何がどう変わるのか
・法定養育費の金額・請求期間
・請求できるケース・できないケース
・新設された先取特権と未払い時の回収手段
・法定養育費の課題と弁護士に相談すべき理由
- 目次
法定養育費とは
法定養育費とは、離婚の際に養育費の取り決めをしていなくても、支払い義務者に対して一定額の養育費を請求できる制度です。
2024年5月の成立した民法改正にて導入され、2026年4月1日から施行されています。
これまで、離婚時に養育費の取り決めをしていない場合、調停や審判を経なければ養育費を請求するのが難しいというのが実情でした。
そのため、話し合いが長引くほど「養育費の空白期間」が生まれ、その間の生活費が受け取れないという深刻な問題がありました。
今回、法定養育費が導入されたことで、離婚時に取り決めをしていない場合も、離婚した日に遡って一定額の養育費を請求できるようになりました。
参考≫≫
法務省民事局「父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました(https://www.moj.go.jp/content/001449160.pdf)」 ※1
法定養育費が導入された背景
今回、法定養育費が導入された背景には養育費の不払い問題があります。これは、日本の離婚後の子育てにおいて長年の課題でした。
養育費を支払い義務者に請求するためには離婚時に取り決めをする必要があります。
しかし、いざ取り決めをしようと思っても相手が交渉に応じなかったり、精神的な疲弊などにより取り決めができていなかったりする現状があります。
こども家庭庁の調査によると、2021年度における養育費の取り決めをしていない家庭の割合は、母子家庭で51.2%、父子家庭で69.0%という結果でした。
これにより、ひとり親家庭の大半が離婚時に養育費の取り決めをしていないということがわかります。
離婚時の取り決めがない場合でも、子供の生活を守るために最低限の養育費を速やかに請求するために導入されたのが、今回の法定養育費制度なのです。
参考≫≫
こども家庭庁「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査の結果を公表します(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/f1dc19f2-79dc-49bf-a774-21607026a21d/9ff012a5/20230725_councils_shingikai_hinkon_hitorioya_6TseCaln_05.pdf)」※2
法定養育費はいつから導入されたのか
法定養育費制度などを定めた改正民法は、令和6年(2024年)5月17日に成立し、同月24日に公布されました。
施行日は令和8年(2026年)4月1日です。 法定養育費が適用されるのは、2026年4月1日以降に離婚したケースに限られます。
施行日以前に離婚した方は対象外となるため注意が必要です。
法定養育費制度導入で何がどう変わるのか

今回の改正で養育費をめぐる状況は大きく変化しました。特に重要な変化は次の3点です。
- 取り決めなしでも養育費の請求権が自動的に発生する
- 未払い養育費は先取特権による差し押さえが容易になった
- 収入情報の開示命令が可能になった
それぞれについて以下で解説します。
取り決めなしでも養育費の請求権が自動的に発生する
法定養育費は、法律上の離婚した日から当然に発生します(改正後民法第766条の3第1項)。
収入や取り決めの有無など、個々の事情によらず、離婚したその日から子供一人当たり月額2万円を請求する権利が確保されます。
なお、支払い義務者は毎月末に当月分の法定養育費を支払わなければならないと定められています。
未払い養育費は先取特権による差し押さえが容易になった
今回の民法改正では、養育費債権に対して「先取特権」という特別な権利が認められるにようになりました(民法第306条3号、第308条の2)。
先取特権とは、支払い義務者のすべての財産から、他の債権より優先的にお金を回収する権利をいいます。
通常、養育費の未払いが起きた際、支払い義務者の給与や財産を差し押さえて回収します。
従来、相手方の給与や財産の差し押さえを行うためには公正証書や裁判所の判決、調停調書などの債権名義が必要でした。
改正民法施行後は債権名義や取り決めがなくても直ちに強制執行の申立てが可能になります。
なお、先取特権による差押上限額は子供一人当たり月額8万円です。
収入情報の開示命令が可能になった
養育費は父母双方の収入を元に金額を算出するのが基本です。
しかし、相手が財産開示を拒んだり、財産を隠したりするケースも少なくなく、正確に相手方の財産を把握するのは難しいというのが実情でした。
今回の民法改正では、裁判所に対して養育費の強制執行の申立てを一度行えば、収入情報の開示命令をはじめ、以下の手続きを同時に申請できるようになりました。
- 支払い義務者に対する財産開示
- 自治体に対する支払い義務者の給与情報提供命令
- 給与債権の差し押さえ命令
法定養育費の金額はいくら?
法務省は法定養育費の金額を子供1人当たり月額2万円とする方針を示しました。
| 子供の人数 | 法定養育費月額 |
|---|---|
| 1人 | 2万円 |
| 2人 | 4万円 |
| 3人 | 6万円 |
これは子供の最低限の生活を保障するための暫定的な費用ですので、個別の事情は反映されていません。
個別の事情に即した金額を請求したい場合は父母の協議や裁判所の手続きを通じた取り決めが必要です。
養育費算定表との違い
今回導入された法定養育費(子供一人当たり月額2万円)はあくまで暫定的かつ子供の生活維持に必要な最低保証金額です。
家庭裁判所が実際の養育費を算定する際は、養育費算定表を基に、父母それぞれの収入や子供の年齢・人数などを考慮して決定します。
養育費算定表に則って計算した金額のほうが、法定養育費(月額2万円を)を上回るケースがほとんどです。
中学生や高校生など、子供の年齢が高くなるにつれて必要となるお金は増えます。
法定養育費はあくまで最低限の金額です。「これ以上の養育費を支払わなくてもよい」というものではありません。
法定養育費はいつからいつまで支払われる?

法定養育費は、離婚の日から毎月末に支払うよう請求することができます。
支払い義務が終わるのは、以下のいずれか早い時点です(民法第766条の3第1項)。
- 父母間の協議で定めた日
- 家庭裁判所で養育費の審判が確定した日
- 子供が18歳(成年)に達した日
本来、養育費は子供が経済的に自立できるようになるまで支払われるべきものです。
また、実際の養育費の取り決めでは「子供が20歳になるまで」「大学卒業まで」とすることも多いです。
離婚時に取り決めをしていない場合でも、子供のために離婚後改めて協議や調停を行い、実情に合った期間と金額を設定することが大切です。
法定養育費を請求できるケース・できないケース
「自分のケースでは法定養育費を請求できるのか」
そう疑問に思われる方のために、法定養育費を請求できるケースとできないケースについて解説します。
請求できるケース
改正民法施行後、養育費の取り決めをせずに離婚したという場合は法定養育費を請求できます。
法定養育費を請求できるのは、子供の父母の一方かつ子供と一緒に暮らして子供の面倒を見ている人です。
「実際に子供と一緒に暮らして面倒をみている」という事実が基準となるため、親権者や監護者に指定されているかどうかは関係ありません。
また、婚外子の場合であっても、父親が認知していれば法定養育費を請求できます(民法第788条)。
なお、話し合いで離婚したか、裁判を通じて離婚したかなどの離婚方法は問われません(民法第771条)。
請求できないケース
法定養育費は養育費の取り決めがなされるまでの暫定的なものです。そのため、以下のようなケースでは法定養育費を請求できません。
- 2026年4月1日より前に離婚が成立している
- 離婚時にすでに養育費の取り決めを行っている(取り決めた場合は取り決めた額が適用される)
- 請求者が子供の監護を主として行っていない
法定養育費は遡って請求できる?
改正民法が施行された2026年4月1日以降に離婚したケースであれば、離婚した日に遡って法定養育費を請求することができます。
例えば、2027年5月1日に離婚し、現在が2027年10月1日だとすると、2027年5月分から遡って請求することができます。
ただし、法定養育費が請求できるのは改正民法が施行された2026年4月1日以降に離婚したケースに限られます。
2026年4月1日以前に離婚している場合は、2026年4月1日以降であっても法定養育費を請求することはできません。
法定養育費の注意点

法定養育費制度は、離婚時の取り決めがなくても離婚した日から子供のための最低限の生活費を請求できる、新しい制度です。
また、先取特権により、強制執行の申立てが容易になる、一度の申立てで相手の財産情報まで請求できるようになるなど、養育費の回収もスムーズに行えるようになりました。
その一方、以下のような課題や注意点について指摘されています。
- 金額が低い
- 支払い期間が限られている
- 養育費の取り決めをしなくて良いという誤解が生じる恐れがある
それぞれについて下記で解説します。
金額が低い
法定養育費はあくまで暫定的なものであり、最低限の生活を維持するためのものになります。
特に子供が中学生や高校生になれば必要な生活費も増大します。そのため、月額2万円という金額は不十分であると感じることが多いです。
支払い期限が限られている
本来養育費は子供が経済的に自立できるようになるまで支払われるべきものです。
実務では養育費の支払い期間を「子供が20歳になるまで」「大学を卒業するまで」などと取り決めることも多いです。
一方、法定養育費は以下のいずれか早い日になります。
父母間の協議で定めた日
家庭裁判所で養育費の審判が確定した日
子供が18歳(成年)に達した日
これについては、個別の事情が考慮されることはなく、延長されることはありません。
法定養育費は支払われる期間が限られていることを頭に入れておきましょう。
養育費の取り決めをしなくて良いという誤解が生まれる恐れがある
法定養育費はあくまで、暫定的かつ最低限の生活維持のためのお金です。
本来は話し合いや裁判所の手続きを通じて適切な金額を取り決めることが必要です。
しかし、法定養育費が導入されたことで「わざわざ取り決める必要がない」「養育費の取り決めをしなくてもいい」といった誤解が生じる可能性もあります。
このような誤解が生じてしまうと、適正な金額を確保するのが難しくなる恐れもあります。
養育費について弁護士に相談すべき理由
法定養育費は子供の最低限の生活維持のためのお金です。適切な養育費を受け取るためには、養育費を事前に取り決めておく必要があります。
養育費の取り決めを弁護士に相談すると以下のようなメリットがあります。
適切な養育費の金額を把握できる
適切な養育費を確保するためには、父母間の話し合いや裁判所の手続きで養育費を取り決めることになります。
具体的には、父母双方の収入や子供の年齢・人数などを組み合わせて金額を算出することになります。
また、個別の事情があれば、適切に主張することで増額が認められる可能性もあります。
弁護士に依頼すれば、あなたの状況に合った適切な金額を正確に把握することができます。
法定養育費が妥当な金額だと思い込んでいると、本来受け取れるはずの金額を大きく下回ってしまう可能性があります。
相手方との交渉を代行してくれる
養育費の取り決めを求めたり、相手方と交渉したりすることは大きな負担を伴います。
弁護士に依頼すれば、代理人と相手方と交渉してくれるため、負担を軽減できます。
また、当事者同士だと感情的な交渉に陥りがちですが、弁護士が代理人として交渉することで冷静な話し合いがしやすく、適切な条件を引き出しやすくなります。
法的手続きを代行してくれる
相手方が養育費の支払いに応じない場合、調停や訴訟など裁判所の手続きで解決を図ることになります。
調停や訴訟といった手続きは複雑で、法的な知識が必要になります。
弁護士は法的な知識が豊富なため、不利益を回避しながら適切に手続きを進めてくれますし、複雑な手続きを代行してもらえるため、安心です。
養育費以外の問題も併せて対応してもらえる
離婚は養育費のほか、親権や面会交流、財産分与、慰謝料など多岐にわたる問題が絡み合う問題です。
弁護士に依頼すれば離婚に関わる全ての問題について、適切にアドバイスをし、サポートしてもらえます。
よくある質問

ここからは法定養育費や養育費全般についてよくある質問をご紹介します。
Q. 改正民法施行前(2026年4月1日より前)に離婚した場合は請求できる?
2026年4月1日より前に離婚した場合は法定養育費を請求することはできません。
ただし、改正民法施行後(令和8年4月1日以降)に生じる養育費に限り、先取特権制度を利用できます。
Q. 法定養育費の支払いを拒否・減額できる?
支払能力を欠くために子供1人当たり月額2万円の支払いが困難であることを証明した場合には、その支払いを拒否することが認められています(民法第766条の3第1項)。
ただし、支払いを拒否するためには「資力がないこと」を証明する必要があります。
単に「払いたくないから」という理由で支払いを拒むことは認められません。
Q. 法定養育費と取り決めた養育費はどちらが優先されるのか
法定養育費はあくまで養育費の取り決めがなされるまでの暫定的なものになります。
そのため、父母間で正式な養育費の取り決めが成立した場合、取り決めた養育費が適用されます。
Q. 支払義務者が無職の場合はどうなる?
支払う側が無職であっても養育費の支払い義務が認められる可能性があります。
特に無職である期間が一時的である場合や働こうと思えば働けるといった場合は請求が認められる可能性があります。
ただし、相手方が「養育費を払いたくない」という理由で「無職だ」と嘘をついている場合もあります。
そのため、解雇通知書や離職票、診断書など「無職であること」を立証する資料を開示してもらうと良いでしょう。
なお、支払い義務の有無と回収の可能性は別問題です。
相手方の経済状況によっては差し押さえをしても回収できない可能性があることに注意しましょう。
まとめ
法定養育費についてポイントを以下に整理します。
- 2026年4月1日以降に離婚した場合、取り決めなしでも子供1人につき月額2万円の法定養育費を請求できる
- 法定養育費は離婚日に遡って請求できる
- 先取特権により財産の差し押さえが容易になった
なお、法定養育費(月額2万円)は暫定的かつ最低限度の金額です。子供の利益のためにも、速やかに適切な養育費を取り決めることは不可欠です。
しかし、実際には相手方との交渉がうまくいかず、取り決めができないケースも少なくありません。
適切な養育費を確保するためにも弁護士に相談・依頼し、アドバイスを受けたり、サポートを受けたりすることをおすすめします。
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※2 こども家庭庁「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査の結果を公表します」
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