ADRとは?離婚調停との違いと利用するメリット、手続きの流れ

裁判・調停
ADRとは?離婚調停との違いと利用するメリット、手続きの流れ

日本では離婚する夫婦の約9割が話し合いで離婚を成立させています。話し合いによる離婚が困難な場合、日本では訴訟前に離婚調停を行う必要があります。

離婚調停は当事者の話し合いによる解決手段ですが、裁判所で行うため、敷居が高いと感じるかもしれません。

このような場合、裁判所が関与しないADR(裁判外紛争解決手続)による手続きも選択肢に入れると良いでしょう。

調停や裁判と比べて、ADRについてご存知の方はそう多くないかもしれませんが、ADRならではのメリット・デメリットもあります。

この記事ではADRと離婚調停の違いや利用するメリットについて解説します。

目次
  1. ADR(裁判外紛争解決手続)とは
    1. ADR(裁判外紛争解決手続)の種類
    2. ADR(裁判外紛争解決手続)は何をしてくれるのか
    3. ADR(裁判外紛争解決手続)と調停の違い
  2. ADR(裁判外紛争解決手続)のメリット
    1. 平日夜間・土日も利用できる
    2. 裁判所より早期解決が期待できる
    3. 手続実施者を選べる場合がある
  3. ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する流れ
    1. ADR機関へ相談・申立
    2. 手続実施者(あっせん人・調停人・仲裁人)の選任
    3. ADR機関から相手方へ連絡・意思確認
    4. 当事者双方が同席して話し合い
    5. ADR成立・不成立
  4. ADR(裁判外紛争解決手続)の注意点
    1. 調停前置したことにならない可能性がある
    2. 民間ADRの合意書では強制執行できない
    3. 利用機関によって費用が違う
  5. 民間ADR一覧
  6. まとめ

ADR(裁判外紛争解決手続)とは

ADRは「Alternative Dispute Resolution」の略称で、直訳すると「代替的な紛争解決方法」という意味になります。何の代替かと言えば裁判の代替になります。

代表的なものに以下のようなものがあります。

  • 東京弁護士会の紛争解決センター
  • 東京三弁護士会の金融ADR
  • 事業再生ADR
  • 交通事故紛争処理センター(紛セ)など

離婚に関するADRを離婚ADRと呼ぶこともあります。

ADR(裁判外紛争解決手続)の種類

ADR(裁判外紛争解決手続)は提供主体によって3つの種類にわけられます。

  • 司法型ADR:裁判所が行うもの ※民事調停や家事調停、裁判上の和解など
  • 行政型ADR:行政機関・行政関連機関が行うもの ※公害等調整委員会や建設工事紛争審査会国民生活センターの紛争解決委員会など

民間型ADR:民間のADR事業者が行うもの

なお、民間ADR事業者の代表例としては下記があります。

  • 地域の士業団体(弁護士会や司法書士会など)
  • 業界団体(家電製品や自動車、ソフトウェアなど)
  • 消費者団体
  • NPO法人 など

この記事では民間ADRのことをADRとして説明します。

民間ADRのうち、法務大臣の認証を受けたものを「かいけつサポート」と言います。

「かいけつサポート」は裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(以下ADR法と呼ぶ)で定められた基準をクリアしています。

法務大臣の認証を受けた民間ADRを利用すると時効更新(ADR法第25条)などの法的効力が付与されます。

これは、民間ADRを利用中に消滅時効が完成することを防止するためのものです。 民間ADRを選ぶときは法務大臣の認証を取得しているかどうか確認しましょう。

ADR(裁判外紛争解決手続)は何をしてくれるのか

ADR(裁判外紛争解決手続)では状況や内容に応じて下記の手続きを行います。

  • 調整(あっせん・調停):当事者間の合意による解決をサポートする手続き
  • 裁断(仲裁):当事者同士が第三者の審理・判断(仲裁)に従うことに合意(仲裁合意)した場合に仲裁人が解決策を判断する手続き

調整型の場合、手続実施者から提示された解決案を拒否することができます。

一方、裁断型は手続実施者の判断に従う必要があり、裁判と同様の法的強制力があります。

ADR(裁判外紛争解決手続)と調停の違い

日本では調停前置主義が取られています。そのため、協議離婚が成立しない場合は訴訟を提起する前に家庭裁判所にて離婚調停を行う必要があります。

離婚ADRは家庭裁判所ではなく、民間のADRセンターで行います。

離婚調停では調停委員を介して話し合いを行いますが、離婚ADRでは手続実施者が調停人として同席し、当事者が対面で直接話し合いを行います。

ADR(裁判外紛争解決手続)のメリット

ADR(裁判外紛争解決手続)のメリット

ADRを利用するメリットは大きく以下の3つです。

  • 平日夜間・土日も利用できる
  • 裁判所より早期解決が期待できる
  • 手続実施者を選べる場合がある

それぞれ下記で解説します。

平日夜間・土日も利用できる

家庭裁判所の手続きである離婚調停は平日日中しか利用できません。また、一回あたり少なくとも2時間程度拘束されます。

そのため、平日日中に仕事をしている人などは裁判所に出頭するために数回仕事を休まければなりません。

一方、ADRは平日夜間や土日も利用できます。仕事などで平日日中に時間を割くことができない人にとっては利便性が高いと言えるでしょう。

裁判所より早期解決が期待できる

前述のとおり、調停は平日日中に行われます。また、年末年始は裁判所の受付もお休みとなります。

離婚調停は基本的に月1回のペースで行われます。しかし、状況によっては次の期日まで1か月以上空くこともあるため、離婚調停は数ヶ月~1年以上かかる傾向があります。

また、家庭裁判所は常に混んでいる状況です。

離婚ADRは利用者も多くないこともあり、離婚調停と比べると予約を取りやすいため、早期解決を望む方はADRも選択肢の一つとして考えてみると良いでしょう。

手続実施者を選べる場合がある

離婚調停は調停委員を介して話し合いを行う手続きですが、調停委員を選んだり変更したりすることはできないのが原則です。

一方ADRはどのような人が在籍しているのかを確認してから依頼できます。また、手続実施者を自分で選べるケースもあります。

ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する流れ

ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する流れ

民間ADRを利用する流れは以下となります。

  1. ADR機関へ相談・申立
  2. 手続実施者(あっせん人・調停人・仲裁人)の選任
  3. ADR機関から相手方へ連絡・意思確認
  4. 当事者双方が同席して話し合い
  5. ADR成立・不成立

ADR機関へ相談・申立

ADRを利用する場合、まずはADRに持ち込める問題かどうかを相談したうえで申立てを行います。

ADRの趣旨(相談内容が話し合いで解決する)に適さない場合は申立てを行っても受理されない可能性があります。

ADRの申立をする際は申立手数料が必要です。これについては後述します。

手続実施者(あっせん人・調停人・仲裁人)の選任

申立が受理されると紛争の内容に応じて手続実施者が選任されます。ADR機関の主導で選任するケースが一般的ですが、申立人が手続実施者を選べる場合もあります。

ADR機関から相手方へ連絡・意思確認

ADR機関からADRの申立てがあった旨を相手方に連絡し、出席を呼びかけます。

当事者同士の話し合いによる紛争解決が目的の場合、相手方が手続に応じない場合はここで終了となります。

当事者双方が同席して話し合い

相手方が手続に応じる場合は決められた日程で期日が開かれ、当事者同士の話し合いが行われます。ほとんどの場合、3回以内の期日で解決を目指すことが多いです。

申立人と相手方が同席のうえで話し合うのが原則ですが、事情によっては別々で行える場合もあります。

ADR成立・不成立

期日開催後、合意に達した場合はADR成立、合意に至らない場合はADR不成立となります。ADR成立の場合は合意書(和解契約書など)を作成します。

成立手数料は解決金額によって変わり、負担割合は当事者の合意または手続実施者が決めることになります。ADR不成立の場合は手続きが打ち切られ、成約手数料も発生しません。

ADRはスピード解決を目的としています。そのため、上訴などの制度は設けられておりません。

なお、ADR不成立となるのは調整型のみとなります。

ADR(裁判外紛争解決手続)の注意点

ADR(裁判外紛争解決手続)の注意点

ADRを利用する際は以下の点に注意する必要があります。

  • 調停前置したことにならない可能性がある
  • 民間ADRの合意書では強制執行できない
  • 利用機関によって費用が違う

下記で詳しく解説します。

調停前置したことにならない可能性がある

離婚裁判を起こすためには事前に離婚調停を行う必要があります。

裁判所の手続きである離婚調停と民間の離婚ADRは別のものになります。離婚ADRで話がまとまらないからといってすぐに訴訟を提起できるわけではなく、離婚調停を申立てる必要があります。

なお、法務大臣の認証を受けた離婚ADRで手続きが終了した場合は改めて離婚調停を行う必要はないとされています。

ただし、調停が必要かどうかについては、最終的には離婚訴訟を受け付ける側の裁判所の職権で判断されます。

裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律 第五条(民間紛争解決手続の業務の認証)  
民間紛争解決手続を業として行う者(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。)は、その業務について、法務大臣の認証を受けることができる。

第二十七条(調停の前置に関する特則)
民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)第二十四条の二第一項の事件又は家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)第二百五十七条第一項の事件(同法第二百七十七条第一項の事件を除く。)について訴えを提起した当事者が当該訴えの提起前に当該事件について認証紛争解決手続の実施の依頼をし、かつ、当該依頼に基づいて実施された認証紛争解決手続によっては当事者間に和解が成立する見込みがないことを理由に当該認証紛争解決手続が終了した場合においては、民事調停法第二十四条の二又は家事事件手続法第二百五十七条の規定は、適用しない。この場合において、受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付することができる。

民間ADRの合意書では強制執行できない

離婚調停で合意ができれば、合資した内容が調停調書にまとめられます。

調停証書は確定判決と同等の効力があり、取り決めた内容が履行されない場合はすみやかに強制執行を行い、給与や銀行口座の差し押さえができます。

離婚ADRで合意に至った場合、合意書を作成しますが、この合意書には法的効力がありません。ただし、裁判手続きに進んだ場合、この合意書は有力な証拠になり得ます。

なお、離婚ADRで離婚した場合、調停離婚ではなく、協議離婚となります。

利用機関によって費用が違う

離婚調停の費用は収入印紙1,200円と予約郵券です。予約郵券は申立先の家庭裁判所によって価格が違いますが、1,000円前後になります。

婚姻費用などの金銭を争う場合はさらに金額が追加されますが、大きく変わることはありません。また、調停期日が増えても金額は変わりません。

一方、ADRはどの機関を利用するかによって費用が異なります。ほとんどのADRでは下記のような金額となることが多いです。

【手数料の目安】

手数料の種類 費用相場 負担する人
申立手数料 10,000円程度 申立人
期日手数料 それぞれ5,000円程度 申立人・相手方双方

【成立手数料の目安】

解決額 成立手数料の費用相場(%)
300万円以下の部分 6〜8%
300万円超〜3,000万円以下の部分 2〜4%
3,000万円超〜5,000円以下の部分 1〜2%
5,000万円超〜1億円以下の部分 0.7〜1%

上記のとおり、離婚ADRは申立時の手数料だけでも1万円程度かかります。また、期日ごとに費用が発生するため、回数が増えれば金額も増えます。

民間ADR一覧

民間ADRを選ぶ際は法務大臣の認証を取得しているかどうかを確認することが重要です。

法務大臣の認証を受けた民間ADR事業者は下記からご覧になれます。

参考:法務省「かいけつサポート(https://www.ADR.go.jp/jigyousha/)」※1

まとめ

離婚ADRと一口に言っても、提供主体や解決手法によって様々です。

夜間休日も利用できる点はメリットになるかもしれませんが、利用機関によってはADR不成立後にすみやかに離婚訴訟に進むことができないなどの注意点があります。

こうなると、離婚調停を申立てた場合より時間もお金もかかってしまう可能性もあります。

離婚ADRと離婚調停のどちらのほうが良いのかはケースバイケースになります。そもそも、離婚協議の段階から弁護士をつけ、協議離婚成立を目指すほうが結果的に良い場合もあります。

不利益を回避し、後悔のない離婚を目指すためにも、まずは弁護士に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。

当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚・男女問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。

※1 法務省「かいけつサポート

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