離婚協議書の書き方と公正証書にする方法を徹底解説。
離婚には、協議離婚、調停離婚、裁判離婚といった種類がありますが、そのなかでも協議離婚が全体のおよそ9割を占めていると言われています。
協議離婚をする際には、離婚をすることだけではなく、親権などの子どもに関する問題、慰謝料や財産分与などの経済的条件など、たくさんのことを決めなければなりません。
そして、離婚後の争いを防ぐため、合意した内容をまとめた離婚協議書を作成する必要があります。
離婚協議書は自分で作ることもできますが、公正証書を作成しておくべきです。
今回は、離婚協議書がどういうものなのか、さらに離婚協議書の書き方や、公正証書にすべき理由などを解説します。
離婚協議書とは
離婚協議書とは、夫婦で話し合って決めた離婚に関する条件をまとめた書面のことをいいます。
調停離婚や裁判離婚の場合、裁判所が離婚条件などを記載した調停調書を作成したり、判決をくだします。しかし、協議離婚の場合、裁判所は関与しません。
後で相手から「そんな約束はしていない」と言われないようにするために、合意したことを証拠として残しておく必要があります。そのために作成されるのが離婚協議書です。
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離婚協議書の書き方
離婚協議書に書くべき内容
離婚協議書には、離婚の際に話し合って取り決めた条件などを記載します。 代表的なものとしては、次のようなものが挙げられます。
離婚協議書の具体的な書き方
表題など
まず、文書の表題に「離婚協議書」と書きます。 離婚協議書に限らず、契約書や合意書を作成する場合、当事者を甲、乙と記載するのが一般的です。
そこで、表題に続いて、次のような一文を書きます。
夫○○□□(以下、「甲」という。)と妻○○■■(以下「乙」という)は、下記のとおり合意した。
この文章の後に、具体的な内容について、項目ごとに第1条、第2条と分けて記載していきます。
離婚について合意したこと
甲と乙は、協議離婚することに合意した
と書きます。
協議離婚書作成時に離婚届も作成する場合には、
甲と乙は、協議離婚することに合意し、離婚届に各自署名押印した
と書きます。
また、いつまでにどちらが役所に離婚届を提出するかを記載することもあります。
親権者の指定
甲乙間の未成年の子○○△△(令和×年×月×日生、以下「丙」という)の親権者及び監護権者を甲(または乙)と定める
と記載します。
養育費
乙(親権者が乙の場合は甲)は、甲(親権者が乙の場合は乙)に対し、丙の養育費として令和×年×月から丙が20歳に達する日の属する月まで1ヶ月×万円を、毎月末日限り丙名義の○○銀行○○支店○○預金口座番号○○○○○○に振込の方法により支払う。振込手数料は乙(親権者が乙の場合は甲)の負担とする
などと記載します。
当事者間で合意ができれば、支払期間を大学卒業まで(22歳の3月まで)としたり、病気やケガで多額の治療費がかかる場合の費用の分担についてあらかじめ決めることもできます。
子どもとの面会交流
甲(親権者が乙の場合は乙)は乙に対し、乙が丙と月に◯回程度、面会交流することを認める
というように書きます。
面会交流の場所や時間については、細かく決めて離婚協議書に書く場合もあれば、
面会交流の日時、場所、方法などは、甲乙協議のうえ定める
というような記載に止める場合もあります。
慰謝料
甲(または乙)は、乙(または甲)に対し、慰謝料として金〇〇◯円の支払義務があることを認め、これを令和〇〇年◯月◯日限り、乙(または甲)名義の〇〇銀行〇〇支店〇〇預金口座番号〇〇〇〇〇〇に振込の方法により支払う。振込手数料は甲(または乙)の負担とする
というように書きます。
分割で支払を受ける場合には、「養育費」の項を参考に、慰謝料の総額、支払期間、1回あたりの支払額などを特定して記載してください。
なお、養育費と違って慰謝料は本来は一括で支払うべきもので、分割払いは支払を猶予するということです。
ですから、慰謝料や財産分与を分割でもらう場合には、支払いが滞ったときにはそれ以上支払を猶予せず、全額の支払いを請求することができる条項(期限の利益喪失約款)を加えるのが一般的です。
たとえば、
甲(または乙)が前項の分割金の支払いを怠り、その額が◯回分以上に達したときは、甲(または乙)は当然に期限の利益を失い、乙(または甲)に対し、前項の金員から支払い済みの金印を控除した残金全額を直ちに支払う
などと記載します。
財産分与
現金でもらう場合には、「慰謝料」の項を参考に、「慰謝料として」の部分を「財産分与として」に書き換えてください。
年金分割
年金分割を行う場合、あらかじめ日本年金機構などで発行される「年金分割のための情報通知書」を入手しておきましょう。
そのうえで離婚協議書に
甲と乙との間の別紙年金分割のための情報通知書記載の情報にかかる年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定め、甲乙協力のもと必要な手続を行う
と書き、情報通知書の写しを添付すればいいでしょう。
清算条項
離婚協議書を作成した後に新たな要求ができるようでは、いつになっても離婚問題が解決しません。ですから、協議書で一切が解決したことを明らかにする必要があります。 そのために加えるのが清算条項です。
甲および乙は、本協議書に定めるほか、互いになんらの再建債務のないことを相互に確認する
などと書きます。
公正証書
公正証書を作成する場合には、
甲及び乙は、本合意につき、強制執行認諾約款付公正証書を作成することを承諾した
と書きます。 公正証書については、次項で解説します。
署名押印など
末尾に、
本合意の成立を証するため本合意書を2通作成し、甲乙それぞれ署名押印のうえ、各1通保有する。
などと書き、その下に作成した年月日を記入し、双方が署名押印します。
公正証書にすべき理由
公正証書とは
公正証書とは、公証人が私人の嘱託を受けて作成する公文書のことをいいます。公証人とは、公正証書の作成や定款の認証などの事務(公証事務)を行う公務員です。
交渉事務には高度の法的知識が要求されるので、一般的には裁判官や検察官を定年退職した方が、法務大臣によって公証人に任命されます。
離婚協議書は、自分たちで手書きやパソコンで作成することもできますが、公正証書を作成することをお勧めします。
離婚協議書の例
離婚協議書
夫○○□□(以下、「甲」という)と妻○○■■(以下「乙」という)は、本日、下記のとおり合意し、離婚届に各自署名押印した。
記
第1条 (離婚の合意)
甲と乙は、協議離婚することに合意し、離婚届に各自署名押印した。
第2条(親権者及び監護権者)
甲と乙は、甲乙間の未成年の子である長男▲▲▲▲(令和 年 月 日生、以下「丙」)および長女△△△△(令和 年 月 日生、以下「丁」)の親権者をいずれも【父(または母)】である【甲(または乙)】と定める。 甲(または乙)は丙および丁の監護権者となり、それぞれが成年に達するまで、これを引き取り養育する。
第3条 (養育費)
1 乙(親権者が乙の場合は甲)は、甲(親権者が乙の場合は乙)に対し、丙および丁の養育費として令和×年×月から丙が20歳に達する日の属する月まで1ヶ月×万円を、毎月末日限り丙名義の○○銀行○○支店○○預金口座番号○○○○○○に振込の方法により支払う。振込手数料は乙(親権者が乙の場合は甲)の負担とする。
2 上記子らの進学・病気・事故など特別の出費を要する場合には、その負担につき当事者間で別途協議して定める。
第4条 (面会交流)
甲(親権者が乙の場合は乙)は乙(親権者が乙の場合は甲)に対し、乙(親権者が乙の場合は甲)が第2項記載の子と月に◯回程度、面会交流することを認める。なお、面会交流の日時、場所、方法などは、甲乙協議のうえ定める。
第5条 (慰謝料)
甲(または乙)は、乙(または甲)に対し、本件離婚に伴う慰謝料として金〇〇〇円の支払義務があることを認め、これを令和〇〇年◯月◯日限り(令和 年 月から令和 年 月まで毎月 日限り月額 万円ずつ)、乙(または甲)名義の〇〇銀行〇〇支店〇〇預金口座番号〇〇〇〇〇〇に振込の方法により支払う。振込手数料は甲(または乙)の負担とする。
第6条(財産分与)
甲(または乙)は、乙(または甲)に対し、本件離婚に伴う財産分与として金〇〇〇円の支払義務があることを認め、これを令和〇〇年◯月◯日限り(令和 年 月から令和 年 月まで毎月 日限り月額 万円ずつ)、乙(または甲)名義の〇〇銀行〇〇支店〇〇預金口座番号〇〇〇〇〇〇に振込の方法により支払う。振込手数料は甲(または乙)の負担とする。
第7条 (年金分割)
甲と乙との間の別紙年金分割のための情報通知書記載の情報にかかる年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定め、甲乙協力のもと必要な手続を行う。
第8条 (連絡)
甲および乙は、互いの連絡先に関し、移転その他による変更があった場合には、遅滞なく書面により他方に連絡することに合意した。
第9条 (清算条項)
甲および乙は、本協議書に定めるほか、互いになんらの再建債務のないことを相互に確認し、上記各条項のほか、名義の如何を問わず、金銭その他の請求をしない。
第10条 (公正証書)
甲および乙は、本合意につき、本件離婚協議書と同趣旨の強制執行認諾約款付公正証書を作成することを承諾した。本合意の成立を証するため本合意書を2通作成し、甲乙それぞれ署名押印のうえ、各1通保有する。
令和 年 月 日
(甲)住所 氏名 (印)
(乙)住所 氏名 (印)
公正証書のメリット
公正証書には、次のようなメリットがあります。
紛失のおそれがない
自分たちで離婚協議書を作り、1通ずつ保管した場合、紛失してしまう可能性もあります。
もし紛失してしまった場合、相手が離婚協議書の約束を守らなかったとしても、約束したことを証明する証拠がないということになってしまいます。
これに対して、公正証書を作成した場合、原本は公証人役場で保管され、写しを交付してもらうことになるので、万が一、手元の写しをなくしてしまっても、新たな写しをもらうことができます。
相手に偽造などと主張されることを防ぐことができる
自分たちで離婚協議書を作成した場合、後で相手から「偽造である(自分は署名押印していない)」「脅されて無理やり署名押印させられた」などと主張する可能性があります。
公正証書を作成する場合、公証人が本人確認をしたうえで文書を作成するので、偽造だという主張はできなくなります。
また、公証人が公証役場において双方に公正証書の内容を説明し、間違いないかを確認するので、脅されたなどという主張も通常はできなくなります。
裁判を起こすことなく強制執行ができる
自分たちで離婚協議書を作成した場合、相手が約束した慰謝料や養育費を支払わなかったときは、離婚協議書を証拠として裁判を起こす必要があります。
裁判を起こして勝訴判決を得るまでには早くても数ヶ月はかかってしまいます。数か月も養育費の支払いがない場合、生活が成り立たないこともあるでしょう。
これに対し、公正証書を作成し、強制執行認諾文言を付けておけば、金銭の支払いに関しては、裁判を起こすことなく強制執行することができます。
公正証書のデメリット
費用がかかる
費用がかかるというのが最大のデメリットです。 公正証書の作成費用は法令で決まっているので、費用の安い公証人を探すというわけにはいきません。
時間がかかる
また、公証証書を作成するには、原則として平日の日中に双方がそろって公証役場に行かなければなりません。
仕事の関係などでなかなか時間が合わず、作成までに時間がかかってしまう可能性もあります。
離婚公正証書の作成は弁護士に依頼を
「公正証書のメリットはわかったが、公正証書を作ってもらうにはどうしたらいいのかわからない」「公証役場がどこにあるかもわからない」という方も多いと思います。
また、公正証書は証拠としての価値が高いものです。したがって本来離婚の際に決めておくべきことを忘れて公正証書を作ってしまった場合、後で相手に要求することはできなくなります。
このような不安を解消したり、リスクを避けるためには、公正証書の作成を弁護士に依頼することが最善の方法です。
弁護士に依頼すれば、弁護士が依頼者の要望を聴き取り、離婚の際に決めておくべきことに漏れがないかを確認し、公証人との打ち合わせなども全て行ってくれます。
また、公正証書を作成した後、約束どおりの慰謝料や養育費の支払いがない場合、強制執行をすることになります。
このとき多くの方は強制執行のやり方がわからず、弁護士に依頼することになるでしょう。しかし、支払が滞った後であわてて弁護士を探すというのでは時間がかかってしまいます。
公正証書の作成の時点で弁護士に依頼をしておけば、支払いが滞った場合にはすぐに弁護士に連絡をして、迅速に強制執行に取り掛かることができます。
離婚協議書の作成を検討している方には、弁護士に公正証書の作成を依頼することをお勧めします。
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