3号分割は適用できる?熟年離婚を考えている主婦が知るべき年金分割制度。
夫の浮気やモラルハラスメントなどに悩みながらも子ども達のためや生活のため、となかなか離婚に踏み切れなかった専業主婦は多いと思います。
子どもの自立や夫のリタイアなどを機に、そういった方々が第二の人生を歩き出そうと離婚を決意することを熟年離婚といいます。
老後の生活の基盤のひとつになるのが、これまで年金保険料を納税してきたことによって受給権が発生した年金です。
専業主婦が熟年離婚した場合、夫婦で使うはずだった年金はどのように分割されるのでしょうか。
この記事では、年金分割制度のなかでも専業主婦などの家事従事者が対象となる3号分割について説明し、合意分割との違いについても解説します。
- 目次
年金分割制度とは
年金分割制度は平成16年に厚生年金保険法の改正(平成19年4月1日施行)により厚生年金保険法の改正により定められたものです。
老後に受給する年金は納めた年金実績に応じて多くなります。年金分割は夫婦が離婚後に受給する年金を公平にするための制度です。
年金制度の仕組み
年金分割の説明にあたり、まず日本の年金制度の仕組みを簡単に説明します。
日本の年金制度は大きく分けると3階層にわけられ、階層を重ねることで受取ることができる年金の金額が増える仕組みになっています。
国民年金
一番基礎の部分となる第1階層は国民年金や基礎年金といい、日本国内に居住する20歳から60歳までの全ての人に加入義務があります。
国民皆年金という社会保障制度により、健康的で文化的な最低限の老後の生活を国民全員が送れるように相互扶助しようという趣旨があるからです。
厚生年金
第2階層は会社員・公務員、教職員など企業などの組織に勤務する人々が加入する厚生年金です。
基礎年金部分に加えて、厚生年金には、雇い主が従業員の収入に応じた上乗せ保険料として報酬比例分とよばれる保険料を天引きにより支払います。
報酬比例の年金保険料は基礎年金に上乗せして支払われる保険料であるため、年金もそれに応じて加算して受取ることができます。
厚生年金は会社員などが加入するものです。妻が専業主婦の場合は、自身で厚生年金保険料を支払うことはありません。
しかし、上述のように夫婦の生計と家計はひとつですので、妻が夫の扶養に入っている場合、第3号被保険者として厚生年金を受給する資格があります。
確定拠出年金
第3階層は確定拠出年金とよばれる任意の年金保険です。国民年金と厚生年金に上乗せして年金保険料を支払うことによって、受給できる年金を増やすことができます。
これまでの日本の会社は終身雇用を前提として従業員を採用していたので、多くの大企業は退職金もかねて従業員のために企業負担で加入をしていました。これを企業型年金といいます。
しかし、近年の働き方の多様化や転職が一般化していったことを踏まえて、キャリアも資産も自己責任での運用が適切だという考え方に世のなかがシフトしていきました。
そのため、「企業型年金制度を用意しないでその分給与を増やします」という企業も多く出てきました。
企業型年金がない場合は、個人が自己判断で金融機関に対して年金保険の申込みをし、運用指図をして資産運用をしていくか決定していきます。
このように、現代において、第3階層は社会福祉制度ではなく資産運用という色彩が強いエリアといえます。
3号分割制度とは
後述しますが、そもそも年金分割は夫婦で分割割合に対する合意がなければ分割できません。一方、3号分割は夫婦の合意を必要とせず、年金を分割できる制度です。
民間企業などに勤務していた者と専業主婦(夫)からなる夫婦が離婚する場合、就労していた側に支給された年金納付実績を夫婦で半分に分割し、夫婦間の公平をはかるのが3号分割です。
熟年離婚の世代は夫が働きにでて妻が家庭を切り盛りしている夫婦がほとんどですので、便宜上、専業主婦と会社員からなる夫婦を想定して説明します。
3号分割制度の意義
婚姻中は夫婦の家計や生計はひとつです。
そのため、婚姻期間に支払ってきた年金保険料は「夫婦が助け合うことにより工面して、共通の家計から支払ってきた」と考えるのが自然です。
たとえば、会社員と専業主婦の組み合わせの場合、夫が会社に出勤して働いている間に、妻が家事・育児・介護など家庭内の労働を担います。
家事分担をアウトソースして、仕事と両立したりしようとすると、多大なコストや負担が発生します。
妻が家事をいっさい引き受けてくれるからこそ、夫は仕事に集中し、お金を稼ぐことができるのです。
熟年離婚が増えた背景に年金分割制度がある
新たな年金分割制度は平成19年4月1日からはじまったものですが、以前の年金はどうなっていたのでしょうか。
後述しますが、年金分割制度で分割できるのは年金の加算部分に相当する「厚生年金の報酬比例部分」です。
年金分割制度が誕生する前は、会社が給与から天引きで支払っていた報酬比例部分は離婚後すべて就労していた夫の取り分となっていました。
そのため、専業主婦である妻は国民皆年金である老齢基礎年金部分しか受給ができず、結局経済的な理由から離婚に踏み切れないというケースが多発していました。
年金分割制度の導入によって、経済的な不安が軽減され、熟年離婚の件数が急増したのは、このような背景があったといわれています。
なお、老齢基礎年金とは、国民年金や基礎年金を受け取る際の名称です。
年金分割が可能な期間とは
離婚すると夫婦の家計は元通り個人同士の家計に戻ります。そのため、年金分割が受けられる年金の範囲は婚姻期間中に共同の家計で年金保険料を支払っていた部分のみです。
熟年離婚で婚姻年数が長い場合は、それだけ分割を受けられる範囲が広くなるため、年金分割制度により救われた主婦は大勢います。
年金分割で対象となる年金は?
専業主婦が会社員として勤務していた夫と離婚する場合、具体的に年金分割を請求できる範囲はどうなるでしょうか?
答えは、婚姻期間中に年金保険料を支払っていた期間の、第2階層目の厚生年金のうち報酬比例部分です。
厚生年金には国民年金も含みますが、国民年金保険は20歳から60歳までの全国民に加入義務があり、専業主婦も対象です。
専業主婦の場合、実際には国民年金の支払いをおこないません。しかし、夫の加入する厚生年金の財源から妻の国民年金も支払われてることになるのです。
したがって、国民年金については専業主婦も年金保険料の支払がなされていたということになり、分割を受けるまでもなく受給する権利があります。
一方、報酬比例部分は会社員の報酬に比例して支払われる上乗せ部分ですので、合意がなければ会社員であった夫のみが受給権があります。
この比例報酬部分について夫婦が話し合い分割割合を決めることを合意分割、合意がなくても妻が受給できるように制度設計されたものが3号分割なのです。
第3階層目の確定拠出年金は、現代社会については社会保障というよりは個人の資産運用の側面が大きいといわれています。
そのため、年金分割の制度趣旨には馴染まないことから年金分割制度の対象外となります。
なお、夫婦が共同財産から資金を出した財産については離婚時に清算対象となり、請求できる可能性はあります。これを財産分与といいます。
このような場合は諦めず離婚時に主張をしていくことが大切です。
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3号分割が受けられる場合とは
夫婦で合意することなく厚生年金の報酬比例部分の分割を受けるためには、以下の条件を全て満たさなければなりません。
- 平成20年4月1日以降に第3号被保険者期間がある
- 平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間に夫の厚生年金加入記録がある
- 離婚から2年以内の請求である
- 平成20年5月1日以後に離婚している、または事実婚関係を解消している
結婚してからずっと専業主婦だった人が熟年離婚する場合、上記条件を満たす場合が多いと思いますが、場合によっては以下のように結婚時期に注意しなければなりません。
それは「平成20年4月以降の結婚期間のみ3号分割制度の対象になる」という点です。
逆に、平成20年3月以前の結婚期間については3号分割制度の対象外であるため、年金分割を受けるためには夫の合意が必要になります。
年金分割の相場
3号分割対象でない場合の分割割合
3号分割制度の対象外の場合は夫の合意が必要になるので、分割の可否と割合を含めて協議します。ただし、相場としては、やはり法定で決まった50%前後に落ち着くことが多いです。
3号分割の分割割合
一方、3号分割制度の適用が受けられる場合、妻からの意思表示のみで年金分割対象部分の50%を強制的に分割してもらえます。 年金分割では50%が最大の分割割合です。
合意の手間もなく、最大の割合で分割できる3号分割はメリットが大きいといえます。
3号分割の年金分割手続き
3号分割による年金分割の場合は、年金事務所に請求をすれば自動的に年金額を再計算して分割をしてもらえます。
ただし、年金分割には請求期限があります。離婚日の翌日から起算して2年以内に年金事務所に請求する必要があるのです。
もっとも請求期間をすぎていても請求期間内に離婚調停を起こしている場合は、年金事務所の裁量により分割してもらえるケースもあります。諦めずに相談してみましょう。
一方、合意分割の場合は手続きも夫婦でおこなわなければなりません。
3号分割の注意点
3号分割は、合意分割と比べて手間もかからず最大限の割合で分割してもらえることを説明しました。
ただし、そもそも年金分割の恩恵を受けるためには自分自身に年金受給資格がなければなりません。
また、分割できるのは年金金額そのものではなく年金納付実績です。離婚してすぐに受けとれるわけではありません。
熟年離婚とはいえ年金受給年齢に達するまでの生活費は財産分与など年金分割以外の手段を考える必要があります。
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まとめ
専業主婦が熟年離婚を考えるなら、離婚後の生活を十分に考慮して計画を立てましょう。離婚では年金分割以外にももらえるお金がありますので弁護士に相談してみると良いでしょう。
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