精神病を理由に離婚はできる?|夫、または妻が重度のうつ病の場合の離婚

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弁護士監修
精神病を理由に離婚はできる?|夫、または妻が重度のうつ病の場合の離婚

結婚式で一生を誓い合った夫婦でも、その誓いが必ずしも守られるとは限りません。

「何かの拍子に配偶者の方が精神を病み、一緒の生活が辛いものになってしまった」というケースは往々にしてある話です。

精神的なストレスが多い現代社会では、誰しもが精神病になってしまう可能性があるのです。配偶者が精神病となってしまった場合、それを理由に離婚は認められるのでしょうか。

また、離婚が可能であるならばその条件や注意点などについて、さまざまなポイントを紹介します。

目次
  1. 法律上離婚ができると定められている離婚原因は?
  2. 配偶者の精神病が離婚原因として認められる条件は?
    1. 「強度の精神病」と判断されること
    2. 「回復の見込みがない」と判断されること
  3. 回復しがたい精神病として離婚が認められる要素は?
    1. 離婚原因として認められる精神病か
    2. 夫婦関係を破綻させるほどの重度の精神病なのか
    3. 精神病の看護などに尽力した経過があるか
    4. 離婚条件に離婚後の生活の援助が含まれている
  4. 回復しがたい精神病に該当せずとも離婚を認められる事例
    1. 「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」に該当する場合
    2. 精神病以外に離婚理由がある
  5. 精神病を理由に離婚する場合の手続きの注意点
    1. 意思表示能力や判断能力がある状態か
    2. 子供の親権はどちらが持つのか
    3. 重度の精神病で慰謝料は請求できるのか
    4. 協議離婚・離婚調停は飛ばし、裁判離婚から進める
  6. まとめ

法律上離婚ができると定められている離婚原因は?

配偶者の精神病での離婚は、協議や調停といった話し合いではなく裁判によって行われることがあります。

その場合、すぐに離婚できるというものではなく、民法で定められた原因を満たしている場合にのみ離婚が認められます。その原因として定められているのは、次の5つの項目です。

離婚原因となる5項目(民法770条第1項)
  1. 配偶者に不貞行為がある
  2. 配偶者から悪意で遺棄された
  3. 配偶者が3年以上生死不明
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
  5. その他婚姻を継続しがたい重大な事由のある

離婚が認められる場合は、この4番目の項目に該当すると判断されるのが通例です。

また、それと同時に5番目の項目にも該当すると考えられることが多く、4番と5番の2点が該当すると離婚を認められるのが通例となっています。

配偶者の精神病が離婚原因として認められる条件は?

配偶者が精神病になったとして、それだけですぐに離婚が認められるわけではありません。夫婦には相互扶助の義務があり、軽度の精神病によるリスクはその義務の範疇だからです。

重要なのは、次の2つの要素を満たしているかどうかなのです。

「強度の精神病」と判断されること

1つ目の条件は、「強度の精神病」と判断されることです。

「強度の精神病」の定義ですが、これは先述した夫婦の相互補助義務を果たせない程度のものであり、物事の善悪の判断ができなくなってしまう心神喪失までのものではありません。

「夫婦間の意思疎通が困難になる」などが該当します。

精神病の度合いの判定は、専門医の診断によって行われます。素人判断での憶測による判断では裁判所では認めることはありませんから、専門医に受診することが必要です。

その結果を受けて、裁判所が法律に基づいて最終的な判断をくだすことになります。

「回復の見込みがない」と判断されること

2つ目の条件は「回復の見込みがないこと」です。

こちらも精神病の度合いと同じように専門医による診断と、裁判所の最終決定で決まります。

回復の見込みがあるかどうかの判定には、ある程度の長期間に渡って治療を続けたという事実が必要となります。

また、最近では医学の発展によって新薬の開発などが行われ、以前よりも回復の見込みがないと判断されるケースは少なくなっています。

さらに、診察を受けないなど本人が治療努力を怠っている場合、回復する可能性を自ら潰していると判断され、離婚の際に不利になることがあります。

回復しがたい精神病として離婚が認められる要素は?

回復しがたい精神病として離婚が認められる要素は?

離婚理由として精神病が認められる場合、どのような観点から判断されるのでしょうか。

これは、精神病の度合いや回復の見込みの有無だけでなく、さまざまな観点から判断されていて、以下のような部分が考慮されます。

離婚原因として認められる精神病か

精神病と言われて多くの方が連想するのは「うつ病」でしょう。

このうつ病というのも度合いが深刻であれば、もちろん離婚が認められるのですが、それ以外にも精神病にはいろいろな種類の病が存在しています。

離婚にはこの精神病の種類が重要で、離婚事由として認められる病気と、そうでない病気があるのです。

こちらも、「相互扶助ができる病気であるか」が争点になります。具体的には次に紹介するようなものがあります。

これらの病気があることを医師が診断し、それを証明することで裁判所の判断は傾き、より離婚できる可能性は高くなることでしょう。

離婚原因として認められる精神病

  • 躁うつ病
  • 統合失調症
  • 偏執病
  • 早期性痴ほう症
  • まひ性痴ほう症
  • 初老期精神病

上記の精神病は、離婚理由と認められている病気で、これらの病気の判断には専門医の診断が必要となります。

なぜこれらの病気が離婚理由として認められるのかというと、これらの病気が重度になると、「婚姻関係における相互扶助の義務が成立しないから」です。

これらの精神病は、症状によっては基本的な意思の疎通すら難しくなってしまい、介護をする配偶者に一方的な負担を強いることになってしまいます。

そうなれば、当然婚姻関係における基本要素である相互扶助が成立しないわけですから、離婚理由になるというわけです。

離婚原因として認められない病気

  • アルコール中毒
  • 薬物中毒
  • ヒステリー
  • ノイローゼ

離婚理由として認められないのは、上記のような病気です。これらはどれも離婚理由として認められるような病気と思うかもしれません。

しかし、前述の離婚原因として認められる病気と違い、重度であっても意思の疎通が可能であり、夫婦の相互扶助を維持できる可能性があると判断されます。

例えば、1日中お酒を飲み続ける重度のアルコール依存症であっても、専門医の治療を受けるなどして夫婦で力を合わせてそれを乗り越えていく努力をするべきで、これはその他の病気についても同様です。

精神病と一口に言っても、すべてが離婚に繋がるわけではありません。

精神病ではないが離婚原因として認められる可能性がある病気

  • 不治の病
  • 身体障害

精神病ではありませんが、状況によっては離婚が認められる例外的な病気となるのが、上記の2つの病気です。

事故や病気によって寝たきりになったり、植物状態になったりするといった状態がこれにあたります。

ただ、これらに罹っていたとしても必ずしも認められるわけではなく、ケースに応じて判断されます。

例えば、夫がこれらの病気に罹ったとして、夫婦が真摯に治療に取り組んだものの改善などが見られない場合、先述の民法第770条1項5号「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するとして、離婚が認められることがあります。

夫婦関係を破綻させるほどの重度の精神病なのか

専門医の診察を受け、その結果精神病と診断されたとします。しかし、そのあとすぐに離婚が認められるかというとそうではありません。

次に争点となるのは「その精神病によって夫婦生活に破綻が生じているかどうか」という部分です。

もし精神病になっていたとしても、夫婦生活が普通に行えるなど、その過程において改善の見込みがあるという場合は、離婚の理由にはなりません。

裁判所が客観的に判断した結果が重要になります。裁判所が、夫婦生活が破綻しているかどうかを判断するための主なポイントは、次に紹介する2つのポイントです。

医師による医学的な判断

第1の条件となるのが「医師による医学的な判断なのか」ということです。

「こういう症状だからこの病気に違いない」と素人が言ったところで、それは無意味です。回復の見込みの見解についても同様です。

症状の継続期間なども重要ではありますが、症状が今後回復するかどうかの判断は、医学的見地に基づいた診断でなければなりません。

しかし、医師の診断があれば離婚が必ず認められるというわけではありません。医師の診断というのは裁判所の判断材料の1つにしかすぎず、実際には他にもさまざまな状況を鑑みて判断されます。

重度な精神病かどうか

第2の判断基準は、「夫婦関係を破綻させるほどの重度な精神病かどうか」というものです。裁判所の判断は、正常な夫婦関係の継続が期待できる状況か否かを基準としています。

精神病という医師の診断がくだされたとしても、それが夫婦関係を破綻させるものでなければ離婚は認められないということです。

夫婦関係というのは、夫婦が互いに助け合い、正常な生活を営むことを指しています。

しかし、精神病によってそれが崩壊し、そしてその生活をやり直す気持ちを失うまでにいたっている場合、精神病による夫婦関係の破綻が認められるでしょう。

精神病の看護などに尽力した経過があるか

重度の精神病であると診断されたとして、それが回復見込みのあるものかそうでないのかは、短期的に判断することはできません。

精神病の回復が困難で離婚を認めてもらうには、「それまでに配偶者の治療に尽力してきたかどうか」が争点となります。

配偶者の精神病の治療のために専門的な医療機関を受診し、必要な治療を受ける、薬を試したなど、配偶者と共に長期に渡って闘病生活を続けてきた経緯が非常に強く考慮されます。

しっかりと治療に取り組んだ経緯があり、それでも回復が難しいと判断された場合にのみ、離婚が認められます。

離婚条件に離婚後の生活の援助が含まれている

もう1つ重要となるのが、精神病を患った配偶者に生活基盤が整っているかどうかです。

離婚をしたから後は関係ないということではなく、離婚後も配偶者が日常生活を継続できる手配をすることが重要です。

  • 療養や入院治療ができる施設の手配をする
  • 生活していくために必要な費用の送金を行う
  • 親族や子供による援助の体制を整えておく

上記のようなことが、基盤を整えるための行為として代表的なものです。離婚後もできる限り支援を行っていくという姿勢や意思を示しているかが強く考慮されます。

回復しがたい精神病に該当せずとも離婚を認められる事例

回復しがたい精神病に該当せずとも離婚を認められる事例

精神病が離婚理由として認められるためには、民法第770条1項で定められた「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」のみではありません。

これに該当せずとも離婚が認められるケースがあります。それは次の2つの場合です。

「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」に該当する場合

精神病で離婚が認められる場合、民法第770条1項4号が適用されますが、それ以外にも5号の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由のあるとき」が適用される場合でも認められます。

  • 精神病により家族に悪影響が出ている
  • 精神病によりDVや暴言がある
  • 精神病を理由に家事や子育てなどの家庭のことに一切協力しない

上記のようなケースでは、5号が適用されるケースとなっていて、精神病の症状によって婚姻生活が現実的に破綻していると判断されれば、離婚が認められることになります。

家族への悪影響やDVや暴言、育児協力をしないことなどの立証が必要となりますが、現実的な問題と立証されれば早期に離婚が認められることもあります。

精神病以外に離婚理由がある

  • 自身が不倫をしている(していた)場合
  • 生活費を渡さない場合
  • 家に帰らない
  • パートナーに家事や育児をすべて押し付けている
  • DVをしている

これらは、やはり民法第770条1項に触れるもので、そのなかで不倫は1号に該当し、生活費を渡さない、家に帰らないのであれば、2号や5号に抵触する理由と考えられています。

こうしたケースの場合、精神病かどうかは関係なく、一般的な離婚理由となりますので、裁判所の判断も早く短期間での離婚が認められることも多くなっています。

しかし、いずれのケースでも「婚姻生活が破綻している」ということが争点となりますので、それらの理由で婚姻生活が破綻している、改善が不可能であるといった立証をする必要があります。

精神病を理由に離婚する場合の手続きの注意点

精神病を理由に離婚が認められるということは説明しましたが、離婚に向けての手続きというのも重要です。

その手続きも普通の離婚手続きとは少し注意すべきポイントが違っています。その注意すべきポイントとは次のようなものです。

意思表示能力や判断能力がある状態か

重度の精神病の場合、その度合いによっては正常な判断が行えないということもあります。

重度の精神病と認められた場合、判断能力が欠如しているとみなされ、離婚の意思表示をしても無効になることがあるのです。

その場合は、成年後見人を相手に離婚裁判を起こすことになります。

成年後見人になれるのは家庭裁判所が指名した人物です。なれない条件はありますが後見人になるための条件はありません。

成年後見人は、財産管理や法律行為を代わりに行う代理権と被後見人が行った法律行為を取り消すための取消権が与えられます。

また、判断能力がない被後見人の代わりに離婚裁判を行うことができます。

子供の親権はどちらが持つのか

子供がいる場合、親権をどちらが持つかを決める必要があります。

子供の親権は、基本的には経済力や精神的・肉体的な健康状態を鑑みて決定されます。しかし、小さい子供の親権においては、夫である父親ではなく母親が親権を得ることが多くなっています。

その際、母親が軽度の精神病を患っていたとしても、子育てに支障が出ない範囲と認められれば、子供のことを考慮して親権を得ることができます。

よほどのことがない限り、母親が親権を主張すれば認められることになりますが、必ず認められるというわけではありません。

重度の精神病で慰謝料は請求できるのか

離婚の際には慰謝料が発生することがあります。ただし、精神病の配偶者と離婚する際の慰謝料は、精神病の原因によって変わります。

慰謝料を請求できるのは、「配偶者の行為が原因で精神病になり離婚へといたった」というケースです。

配偶者の暴力(DV)や暴言(モラハラ)、不貞行為によってうつ病を発症したというケースが一般的ですが、こういった場合は配偶者に対して慰謝料を請求することができます。

しかし、配偶者の行為と関係なく精神病になり、その精神病を理由に離婚をするケースでは、配偶者に対して慰謝料請求することは難しくなります。

では、うつ病を発症したことに対して精神病を患った側に慰謝料請求はできるのでしょうか。この場合、「うつ病を発症したこと」を理由に慰謝料請求することは難しいでしょう。

本人も好きでうつ病になったわけではありません。

ただし、うつ病を発症したことをきっかけに、配偶者に暴力や暴言を吐くようになった場合は精神病を患った側にも慰謝料が認められるケースがあります。

そのため、離婚するからといって慰謝料を請求するのはかなり難しくなります。

協議離婚・離婚調停は飛ばし、裁判離婚から進める

重度の精神病で離婚をする場合、その過程が一般的な離婚の手順と大きく変わります。

通常の離婚であれば、最初は夫婦が話し合いで妥協点を探る協議離婚を経て、家庭裁判所の調停委員を間に入れた調停離婚が行われ、それから離婚裁判を起こして行う裁判離婚といった3段階で行われます。

しかし、重度の精神病が原因で行われる離婚の場合、話し合いが成立しないこともあります。

その場合、協議と調停の2つのステップはなくなり、最初から離婚裁判を行う裁判離婚からのスタートとなります。裁判には複雑な手続きもあり、弁護士に相談すること考えましょう。

まとめ

重度の精神病を理由とした離婚は、普通の離婚よりもとても難しくなっています。これらを知識の少ない素人だけでやろうというのはなかなか大変だと感じる方は多いのではないでしょうか。

精神病を理由に離婚をするのであれば、専門家である離婚弁護士などに相談して、そのアドバイスを受けながら計画的に行うのが理想と言えるでしょう。

精神病の離婚でお困りであれば、ぜひ離婚弁護士相談リンクをご利用ください。

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