アルコール依存症で離婚!夫(妻)の飲酒問題で離婚できる?
アルコール依存症は病気そのものだけでなく、お酒の飲み方や程度などさまざまな要素で夫婦関係に影響をおよぼします。また、子供がいる場合は子供の成長にも悪影響があります。 この記事では、アルコール依存症が家族や夫婦関係にどのように影響するのか、また配偶者のアルコール依存症を理由に離婚できるのかについて解説します。
- 目次
アルコール依存症とは
アルコール依存症とは、お酒を飲むことをやめられなかったり、飲酒量やお酒を飲む時間帯など飲酒の仕方を自分の力で制御できなかったりする状態をいいます。
アルコール依存症の患者数
厚生労働省の報告によると、2014年のアルコール依存症の生涯経験者数は約100万人を超えるとの報告がありました。
また、「アルコール依存症を現在有する者」のうち、「アルコール依存症の治療を受けたことがある」と答えた人は約22%しかいないという結果でした。
アルコール依存症によって治療が必要と判断された人の多くが、治療が必要にも関わらず適切な治療を受けていないことになります。
参考:厚生労働省「アルコール健康障害対策推進基本計画(https://www.mhlw.go.jp/content/12205250/000504366.pdf)」※1
アルコール依存症の診断基準
アルコール依存症はWHO(世界保健機関)による以下の診断基準(ICD-10)があります。
- 【アルコール依存症のIDC-10診断ガイドライン】
過去1年間に次の6項目のうち3項目以上が同時に1ヶ月以上続いたか、または繰り返し出現した場合 -
- 飲酒したいという強い欲望あるいは強迫感
- 飲酒の開始、終了、あるいは飲酒量に関して行動をコントロールすることが困難
- 禁酒あるいは減酒したときの離脱症状
- 耐性の証拠
- 飲酒にかわる楽しみや興味を無視し、飲酒せざるをえない時間やその効果からの回復に要する時間が延長
- 明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず飲酒
また、厚生労働省では「純アルコール量で1日平均60gを超える飲酒」のことを多量飲酒と定義しています。
これは、日本酒3合弱、ビール中瓶3本、25度の焼酎300mlに相当します。
多量飲酒が続くとアルコール依存症のリスクも高くなるといわれています。夫や妻のお酒の飲み方が気になったら一度チェックしてみると良いでしょう。
参考:厚生労働省「e-ヘルスネット アルコール関連問題の分類(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-06-003.html)」※1
厚生労働省「アルコール健康障害に係る参考資料( https://www.mhlw.go.jp/content/12205250/000615172.pdf)」※2
厚生労働省「依存症って?- 依存症を「正しく知って」「支える」ために-(https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000620866.pdf)」※3
アルコール依存症が家族におよぼす影響
アルコール依存症患者は飲酒することで配偶者に暴言や暴力をふるうこともあります。
また、常に飲酒をしているため、勤務態度や人間関係にも響き、降格や失職をするケースもあります。
家計が圧迫すると、子供が進学などの夢をあきらめざるを得なくなることもあります。
夫(妻)がアルコール依存症かもと思ったら
「配偶者のお酒の飲み方が異常だ」「夫(妻)がアルコール依存症かもしれない」と思ったときの対処法は下記の3つがあります。
- 保健所や精神保健福祉センターに相談する
- 病院に連絡する
- 配偶者暴力相談支援センターや警察に相談する
夫(妻)がアルコール依存症の疑いがあるが、どこに相談すべきかわからないという場合はお住まいの地域の保健所や精神保健福祉センターに相談すると良いでしょう。
一方、配偶者自身がアルコール依存症の疑いがあることを認識しており、治療の意志がある場合は、病院などの医療機関に連絡して依存症の治療を受けさせます。
飲酒して倒れた、意識障害や幻覚、幻聴の症状が出たという場合もすぐに病院に連絡しましょう。
アルコール依存症の治療はアルコール依存症を扱っている精神科やアルコール依存症専門外来を設けている病院などのアルコール依存症を専門に扱う医療機関を受診するようにしてください。
配偶者が飲酒をして暴力をふるう場合は配偶者暴力相談支援センターなどの公的機関や警察に相談しましょう。
アルコール依存症を治療して夫婦関係を修復する方法
アルコール依存症は、本人に「アルコール依存症だ」という自覚があることを確認してから治療を受けさせましょう。
アルコール依存症からの回復は、患者本人の「飲酒するわけにいかない」という意識が重要です。
以下のように、アルコール依存症患者の世話を焼き、手助けをする行為(=イネイブリング)は、依存症からの回復を遅らせることにつながります。
- 居酒屋のツケを肩代わりする
- 飲酒によって起こった問題の後始末をする
- 二日酔いで会社を休む際、本人の代わりに連絡をする
- 酔いつぶれた患者を迎えに行く など
アルコール依存症を治療して夫婦関係を修復するためにも、毅然とした態度を取ることが大切です。
アルコール依存症を理由に離婚するには
配偶者が治療を受けようとしない、話し合いに応じないなど、夫婦関係の修復が難しいと判断したら離婚を考えるのも当然でしょう。
配偶者のアルコール依存症を理由に離婚するには以下の3つの方法があります。
協議離婚
夫婦の話し合いで成立する離婚を協議離婚といいます。
裁判では民法で定める法定離婚事由がなければ離婚を認めてもらうことは難しいですが、協議離婚は夫婦が合意すればどのような離婚理由でも離婚は可能です。
しかし、配偶者のアルコール依存症を理由に離婚する場合はいくつか注意点があります。
離婚の話し合いはシラフのときに行う
前提として、離婚の話し合いはお酒を飲んでいないとき、つまりシラフのときに行いましょう。
飲酒した状態で離婚の話し合いを行っても、離婚に合意したことを忘れてしまったり、配偶者が激高して暴力をふるったりすることもあります。
暴言や暴力があるときは第三者を介す
飲酒によって暴言や暴力がある場合は夫婦だけで話し合うのはやめましょう。事前に専門機関に相談し、安全を確保したうえで第三者を介して話し合うことが大切です。
離婚の話し合いでは法的な知識が必要なことが多いため、弁護士に依頼することをおすすめします。
協議がまとまらなければ別居期間を作る
離婚の話し合いがまとまらなければ、一定期間別居するのも良いでしょう。
長期間の別居の事実が認められれば、後述する離婚調停や離婚裁判で「婚姻関係が破綻している」と認められやすくなります。
ただし、一方的に家を出るなど別居の仕方によってはあなたに原因があるとみなされることもあります。
配偶者のアルコール依存症を理由に別居をする際は事前に弁護士に相談するようにしましょう。
調停離婚
アルコール依存症が原因で離婚する場合、協議をせず初めから離婚調停を行う方法もあります。
前述のとおり、アルコール依存症で飲酒時に暴力や暴言がある場合や、お酒を飲まない状態を作り出せない場合は、まともに話し合うことは不可能です。
このようなときは、身の安全を確保したうえで家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。ただし、アルコール依存症を理由に離婚調停を行う際は以下のことに注意しましょう。
- 離婚調停を申し立てる際は「配偶者がアルコール依存症であること」を担当の職員に伝え、呼び出し時間や調停室への動線、待合室を変更して会わないようにしてもらう
- 離婚調停が始まったら、冒頭で「配偶者がアルコール依存症であること」を調停委員に伝える
- 配偶者がアルコール依存症により、乱暴な言動やむちゃくちゃなことをいう可能性がある場合はその旨を伝えておく 待ち伏せを防ぐため、配偶者より先に退庁させてもらうように調停委員に依頼する
なお、離婚調停は難航すると1年程度かかることもあります。一刻も早く解決したい場合は弁護士に相談すると良いでしょう。
裁判離婚
離婚調停は家庭裁判所で行うとはいえ、話し合いによって解決を目指す離婚方法です。
調停でも離婚が成立しない場合は裁判所の判決で離婚を認めてもらうため、訴訟を起こして離婚裁判を行うことになります。
アルコール依存症だけが理由での離婚は難しい
裁判で離婚を認めてもらうには、民法で定める法定離婚事由が必要です。法定離婚事由には以下の5つがあります。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 配偶者の生死が3年以上不明
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
法定離婚事由そのものにアルコール依存症という項目はないため、「夫(妻)がアルコール依存症」という理由だけで離婚を認めてもらえる可能性はほとんどありません。
また、アルコール依存症と診断されたということは「配偶者は病人」です。
夫婦には扶助義務や協力義務があるため、治療が必要な配偶者(病人)との離婚は認められにくいのが一般的です。
アルコール依存症で暴力がある場合は証拠が必要
アルコール依存症によって暴言や暴力がある場合、法定離婚事由である「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当すると判断されれば離婚が認められる可能性があります。
婚姻を継続しがたい重大な事由で離婚する場合は、お酒を飲んだ配偶者から暴言や暴力をふるわれている事実を証明する証拠が必要になります。
お酒を飲んだ配偶者から暴言や暴力被害を受けた証拠としては以下のようなものがあります。
- 暴力を受けてできたケガ・傷の写真
- 暴力を受けて受診した医療機関の診断書
- 暴力を受けていることを第三者に相談した事実を立証できるもの
- 暴力を受けていることを記録したメモや日記
なお、暴力を受けていることを警察や配偶者暴力支援センターの相談記録も証拠として有効です。暴力を受けた際はぜひ活用すると良いでしょう。
アルコール依存症によって働かなくなった場合
アルコール依存症患者のなかには仕事に行かず、家で一日中お酒を飲み続けている人もいます。
アルコール依存症によって生活費を家に入れないという場合、法定離婚事由である「悪意の遺棄」に該当すると判断されれば離婚が認められることがあります。
悪意の遺棄とは、正当な理由がないのに夫婦の義務を怠ることです。お酒を飲み続けて働かず、生活費を家に入れないことは夫婦の義務である扶助・協力義務に反します。
そのため、アルコール依存症によって生活費を家に入れないと、悪意の遺棄とみなされる場合があるのです。
アルコール依存症によって働かず、生活費を家に入れないことで経済的に困窮したことの証拠としては以下のようなものがあります。
- 生活費が足りなくなり、定期預金や学資保険などを解約したことがわかる書類
- アルコール依存症によって生活費を入れなくなった履歴がわかる通帳
- アルコールの購入履歴がわかる領収書やクレジットカード明細
- 家計簿などの記録やメモ
このほか、お酒を飲んで大きな声で叫んだり、暴れたりしているときの動画や音声も取っておきましょう。
証拠を組み合わせることで、アルコール依存症によって婚姻生活を継続することが難しいことを立証できる可能性があります。
アルコール依存症と診断される前に離婚する
アルコール依存症だけを理由に離婚するのは難しいのが現実です。また、夫婦には扶助や協力の義務があります。
そのため、配偶者がアルコール依存症と診断されたあとに離婚を切り出すと「夫(妻)を見捨てた」とみなされることもあります。
夫のお酒の飲み方や飲酒時の言動に悩み、離婚を考えるなら、アルコール依存症と診断される前に離婚を切り出すのも一つの方法です。
ただし、診断前であっても、離婚理由として認められる理由や証拠を集めておく必要があります。
離婚で認められやすい証拠の例、証拠集めの方法などは弁護士に相談すると良いでしょう。
まとめ
配偶者のアルコール依存症を理由に離婚できるのかについて説明しました。
アルコール依存症と診断されただけで離婚を認めてもらうのは難しいのが現状です。
また、ほかの理由と比べて、アルコール依存症の配偶者と離婚するには注意すべき点がたくさんあります。
配偶者のアルコール依存症に悩んでいる場合は早い段階で医療機関に連絡し、修復が難しいと判断したら離婚問題に強い弁護士に相談すると良いでしょう。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚問題に強い弁護士を多数掲載しています。ぜひご利用ください。
※1参考:厚生労働省「アルコール健康障害対策推進基本計画」
※2厚生労働省「e-ヘルスネット アルコール関連問題の分類」
※3厚生労働省「アルコール健康障害に係る参考資料」
※4厚生労働省「依存症って?- 依存症を「正しく知って」「支える」ために-」
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