中絶を理由に離婚できる?強要された場合の慰謝料と法的手順
「産みたかったのに、夫から『諦めてくれ』と言われた」
その経験は、あなたの心と身体を傷つけただけでなく、法律上も不法行為として認められる可能性があります。
本記事では、中絶を強要された場合の離婚や慰謝料請求の可否、今すぐ取れる行動についてわかりやすく解説します。
- 目次
夫からの中絶強要は違法行為になりうる
妊娠・出産の選択は女性の身体に関わる問題であり、女性が自分自身で選択し、決定できる権利です。
夫婦であっても、「産むなら〇〇する」など強要によって中絶を迫ることは、法律上の不法行為(民法第709条)にあたる可能性があります。
民法第709条(不法行為)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
また、「中絶しなければ危害を加える」といった脅迫や暴力をふるうことは、強要罪や傷害罪に該当する可能性があります。
- 脅迫や暴力を伴って中絶を強いた場合は強要罪(刑法第223条)
- 身体への暴力(DV)によって中絶に追い込まれた場合は傷害罪(刑法第204条)
なお、2023年の刑法改正により、婚姻関係があっても同意のない性行為は刑事罰に問われるようになりました(刑法第177条不同意性交等罪)。
妊娠中絶の背景に性的暴力(強姦)が背景にある場合は、刑事罰に問うことが可能です。
性的暴力が背景にある場合は、法的手続きと並行してワンストップ支援センター(#8891)への相談を強くお勧めします。
混乱している場合は弁護士に相談することで被害を整理でき、より有効な対応を取りやすくなります。
強要の証拠がない場合
「明確な脅し文句がなかった」
「証拠を残していなかった」
このような場合でも、状況証拠を複数集めることで請求が認められる可能性があります。
具体的には次のようなものを複数集めることで証拠になりえます。
- 中絶を促すLINE・メッセージ・メール
- 産婦人科・カウンセラーへの相談記録・領収書
- 中絶手術の領収書・同意書
- 夫の言動を記録した日記・メモ(日付入り)
- 身近な人への当時の相談内容(第三者の証言)など
証拠が不十分に思えても弁護士に相談することで現状を整理でき、道筋が見える場合があります。諦めずに相談しましょう。
中絶を理由に離婚できるのか

離婚について合意ができ、提出した離婚届が受理されれば協議離婚が成立します。話し合いがまとまらない場合は、調停、裁判へと進みます。
夫が離婚を拒否している場合、裁判で離婚を認めてもらうには民法に定められた以下のいずれかの法定離婚事由が必要です。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
中絶の場合、主に4「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかが争点になります。
中絶単体で「婚姻を継続し難い重大な事由」と認められるか
残念ながら、中絶の事実だけでは4の「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められることは難しいといえます。
裁判所は「客観的に見て夫婦関係が破綻しているか」を重視するため、中絶という出来事を単独で見るのではなく、婚姻関係全体を総合的に見て判断します。
そのため、中絶を強要された経緯や夫の言動、その後の夫婦の関係性などをセットで主張することが重要です。
中絶以外に離婚事由があるか
中絶以外に以下の事情が重なる場合は離婚が認められやすくなります。
DV・身体的暴力
中絶前後を問わず、殴る、蹴る、髪を引っ張る、物を投げつけるといった暴力は婚姻破綻の有力な根拠になります。DV防止法上の保護命令の申立ても可能です。
モラルハラスメント
「産むなら勝手にしろ、俺は何もしない」「手術費は払わない」「生活費は入れない」「お前が避妊に失敗したからだ」など、精神的に追い詰める言動は継続的な精神的DVとして評価される可能性があります。
不貞行為
夫に不倫の事実があれば、1「不貞行為」として単独で離婚事由になります。妻子より不倫相手を優先したい、不倫相手と一緒になりたいことが理由で中絶を迫るという場合は慰謝料額も増額しやすくなります。
婚姻関係の破綻
中絶に伴い夫婦間の信頼が回復せず別居状態にあるなど、客観的に見て婚姻関係が破綻している状態であることを示すことで離婚が認められやすくなる可能性があります。
繰り返しの中絶強要
複数回にわたって中絶を強要された場合は、継続的な権利侵害として評価が高まります。
中絶で離婚・慰謝料請求するなら何を証拠として残すべきか
離婚の話し合いが始まると、夫が証拠を隠滅・削除するリスクがあります。
離婚に向けて動き始める前に、できるだけ早い段階で以下の証拠を意識的に保全しておくことが重要です。
- 「産むな」「産んだら出ていけ」などの発言が残るLINE・メール(スクリーンショットを別端末やクラウドに保存)
- 中絶を強要する内容の録音・録画
- 産婦人科・心療内科の診断書・受診記録 中絶手術の同意書・領収書(手術日・費用の証明)
- 警察や公的相談窓口への相談記録(第三者機関の記録は証拠力が高い)
- 当時の状況を記録した日記・メモ(日付・具体的な言動を記載)
- 信頼できる友人・家族への相談履歴 など
証拠が不十分な場合でも、弁護士に相談すれば現状の証拠でどこまで戦えるかを客観的に評価してもらえます。
中絶だけが理由だと裁判離婚のハードルは高くなりますが、強要の態様やDV・モラハラ、不倫が加わると状況は大きく変わります。
まずは弁護士に相談し、あなたのケースがどの類型に当たるかを整理してもらうことをおすすめします。
中絶で慰謝料請求が認められやすいケースと相場

中絶を理由に慰謝料請求が認められるかどうか、また、認められた場合の金額については中絶の背景や経緯によって大きく異なります。
この場合の慰謝料相場は数十万から300万円ですが、強要の態様や精神的苦痛の程度、婚姻期間、離婚の有無、未成熟子の有無などによって変わります。
以下のように、夫側の悪質性が高いと判断された場合は高額になる可能性があります。
- 中絶を強要・強制された
- 中絶後に後遺症が残った
- 夫側にDVや不倫がある 避妊していると嘘をつかれた
- 夫側に婚姻関係破綻の帰責性がある
なお、中絶手術後に身体的・精神的な後遺症(不妊・PMS悪化・PTSDなど)が残った場合、その損害も慰謝料の増額要素となります。
ただし、後遺症と中絶との因果関係を医学的に示す必要があるため、産婦人科・心療内科の診断書を早めに取得しておくことが重要です。
中絶費用は夫に請求できるか
中絶手術にかかった費用についても状況によって夫に請求できる場合があります。
特に夫からの強要が認められるケースでは、中絶費用の全額または相当額を損害として請求できる可能性があります。
領収書や明細書を受け取ったら必ず保管しておきましょう。
性的暴力(強姦)が背景にある場合
冒頭で述べたとおり、2023年の刑法改正により、婚姻関係があっても同意のない性行為は刑事罰に問われるようになりました。
配偶者からの性的暴力によって妊娠し、中絶を余儀なくされた場合、民事上の慰謝料請求に加え、刑法上の不同意性交等罪が適用されるため、刑事告訴も選択肢になります。
性的暴力の被害に遭っている場合は、ご自身が相談しやすい窓口を活用し、身の安全確保を最優先に考えましょう。
- 最寄りの警察署(緊急性が高い場合)
- 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(#8891)
- 性犯罪被害相談電話全国共通番号(#8103(ハートさん))※発信された地域を管轄する各都道府県警察の性犯罪被害相談電話窓口につながります。
全国共通番号「#8891」をご利用できない場合は、都道府県の各ワンストップ支援センターに直接おかけください。
以下のリンクに一覧が掲載されています。
参考≫≫
内閣府男女共同参画局「ワンストップ支援センター(行政が関与する性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(一覧)(https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/pdf/one_stop.pdf)」※1
警察庁「各都道府県警察の性犯罪被害相談電話に つながる全国共通番号「#8103(ハートさん)」https://www.npa.go.jp/higaisya/seihanzai/seihanzai.html」※2
中絶で離婚するために今すぐできること—証拠保全~離婚準備―

「中絶を強要されたが離婚するかどうかまだ決めていない」
このような段階でも、今後のために今できることがあります。
証拠を今すぐ保全する
離婚や慰謝料請求の成否には証拠収集の有無と証拠の質がものを言います。
しかし、離婚を切り出せば夫が証拠を隠蔽したり、削除したりする恐れがあります。
「離婚するか決めていない」という場合であっても、LINEのスクリーンショットや診断書、領収書などを普段使用しているスマホやPCとは別の端末(またはクラウド)にバックアップするなどして、証拠保全を始めましょう。
婦人科や精神科などの受診が済んでいない場合は、身体的・精神的な影響を示すためにも、できるだけ早めに受診することをお勧めします。
診断書や領収書をとっておくことで、後遺症や中絶による精神的苦痛を証明する材料になります。
カウンセラーや支援機関に相談する
暴力があるなど、身の危険が迫っている場合はすぐに避難すべきです。
警察や配偶者暴力相談支援センター、女性相談センターなどの公的機関に相談し、DVシェルターなどへの避難を検討してください。
まずは現状を整理したい、何をすべきかわからないといった場合はカウンセリングなどを受けることも検討しましょう。
別居の前にまず弁護士に相談する
離婚や別居を検討し始めたら、まず弁護士に相談することを強くお勧めします。
前述のとおり、離婚や別居する前に証拠を集めることが非常に重要です。
しかし、どのような証拠をどれだけ集めれば良いのかについては法的な知識が必要です。
また、いきなり別居すると、女性側に同居義務違反があるとみなされ、不利な立場になるケースがあります。
離婚後共同親権が導入されましたが、親権者として不適格と判断されれば、親権を獲得できないリスクもあります。
弁護士に相談することで、以下のようなアドバイスを受けることができます。
- いつ・どのように別居すべきか
- 離婚や別居後に生活していけるのか
- 離婚成立の見通し 離婚で受け取ることができるお金
不利益を回避するためにも弁護士に相談し、アドバイスをもらうことをおすすめします。
また、弁護士に依頼することで、離婚や別居する際の交渉も代行してもらえますし、複雑な調停や裁判の手続きも安心して任せられるため、精神的な負担を減らすことにつながります。
まとめ
中絶を理由にした離婚について解説しました。本記事のポイントは以下のとおりです。
- 夫から中絶を強要された場合、民法上の不法行為や刑事罰の対象になりうる
- 中絶だけを理由にした裁判離婚は難しい
- 中絶以外にDV・モラハラや不倫などの理由があれば裁判で離婚が認められやすくなる
- 慰謝料は強要の態様・後遺症・他事由の重複によって変わる
- 中絶費用・後遺症による損害も請求の対象になりうる
- 証拠保全は離婚を決める前から始める
- 身の安全が担保されない場合は避難する
- 身の安全が担保されている場合は弁護士に相談してから別居を考える
「産みたかったのに中絶させられた」
「中絶を強要された」
これらの苦痛や事実は法律で対処すべき問題です。一人で抱え込まず、専門家に相談しましょう。
また、「別居したい」「離婚したい」「どのような証拠を集めればいいかわからない」などのお悩みは離婚に強い弁護士にご相談ください。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚・男女問題に強い弁護士を多数掲載しております。ぜひお問い合わせください。
※1 内閣府男女共同参画局「ワンストップ支援センター(行政が関与する性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(一覧)」
※2 警察庁「各都道府県警察の性犯罪被害相談電話に つながる全国共通番号「#8103(ハートさん)」」
都道府県から弁護士を検索する
離婚コラム検索
離婚のその他離婚理由のよく読まれているコラム
-
1位その他離婚理由弁護士監修2019.07.25姑が嫌いすぎて我慢できない!嫁姑問題を理由に離婚できるのか夫はうまくやっているけれど、姑との折り合いが悪い… 嫁姑問題は昔も... -
2位その他離婚理由弁護士監修2020.09.11マタニティーブルーとは|妊娠中に離婚を考えてしまう理由と克服方法「マタニティーブルー」という言葉をご存じでしょうか。妊娠中や出産直後は子供が生ま... -
3位その他離婚理由弁護士監修2021.05.27立会い出産は離婚率が高い?メリット・デメリットと離婚を回避するコツ立会い出産は、子供が生まれる感動や苦労を夫婦で共有することができます。しかし、立... -
4位その他離婚理由弁護士監修2020.12.25帰宅恐怖症(帰宅拒否症)とは|改善法と離婚したいと言われたときの対処法「夫がまっすぐ家に帰ってこない」とお悩みの方もいるでしょう。特別仕事が忙しいわけ... -
5位その他離婚理由弁護士監修2021.08.16旦那が逮捕されたので離婚したい|離婚手順と解決に向けてすべきこと何らかの理由で旦那が逮捕されたら、どうしたら良いのかわからず、パニックになってし...
新着離婚コラム
-
親権・養育費弁護士監修2026.06.30別居中の親子交流(面会交流)|拒否された際の対処法・手続きを解説別居中でも、子供と離れて暮らす親には親子交流(面会交流)を求める権利があります。... -
親権・養育費2026.06.30養育費の返還請求は可能?過払い・支払い不要ケースを解説養育費を支払ってきたが、後から「実は支払い義務がなかった」とわかったとき、過去に... -
その他離婚理由弁護士監修2026.06.04育児放棄を理由に離婚する方法|証拠の集め方・手順・法的知識を解説「パートナーが子供の世話をまったくしない」 「配偶者が子供に食事を与えようとない... -
親権・養育費弁護士監修2026.04.27法定養育費とは?金額・いつから・請求方法を解説【2026年4月施行】「離婚の際に養育費の取り決めができなかったら、子供の生活費を受け取れないまま生活... -
親権・養育費弁護士監修2026.04.24共同親権で何が変わる?2026年施行の改正民法をわかりやすく解説2024年5月に成立した改正民法により、2026年4月1日から日本でも「離婚後共...
離婚問題で悩んでいる方は、まず弁護士に相談!
離婚問題の慰謝料は弁護士に相談して適正な金額で解決!
離婚の慰謝料の話し合いには、様々な準備や証拠の収集が必要です。1人で悩まず、弁護士に相談して適正な慰謝料で解決しましょう。
離婚問題に関する悩み・疑問を弁護士が無料で回答!
離婚問題を抱えているが「弁護士に相談するべきかわからない」「弁護士に相談する前に確認したいことがある」そんな方へ、悩みは1人で溜め込まず気軽に専門家に質問してみましょう。

