妊娠中に離婚!生まれてくる子供の親権や養育費、戸籍はどうなる?
離婚する際、すでに女性が妊娠していることもあります。妊娠している状況あるいは妊娠している可能性のある状況で離婚すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。
また、離婚時に妊娠していた子供を離婚後に出産した場合、離婚後の生活費や養育費、子供の親権や戸籍はどうなるのでしょうか。
この記事では、妊娠中あるいは妊娠の可能性がある女性が離婚後に子供を出産した際にどういう問題があるのかを詳しく説明します。
- 目次
妊娠中に離婚!子供の親権や養育費はどうなる?
妊娠中に離婚し、離婚成立から300日以内に出産した子供の父親は元夫になります。しかし、子供は父親がいない状態で生まれます。
この場合、子供の親権や戸籍はどうなるのでしょうか。また元夫に養育費や生活費などを請求することはできるのでしょうか。
さらに、元夫が子供との面会交流を求めてきた場合、応じる必要はあるのでしょうか。
一方、離婚成立後300日を過ぎて生まれた子供についてはどう扱われるのでしょうか。
妊娠中に離婚した場合の親権は?
まず大前提として、元夫との子供を妊娠中に離婚し、離婚後に生まれた子供は妻(子供の母親)が親権を持つことになります。
養育費の請求はできる?
妊娠中に離婚をしても子供の養育費は元夫に請求できます。両親が離婚したとしても元夫と生まれた子供の親子関係は変わりません。
養育費はいずれの親も負担する義務があるため、父親である元夫にも請求できます。
出産後の生活費の請求はできる?
結婚している間は夫婦に婚姻費用(婚姻中の生活費)分担義務が発生します。しかし、離婚すれば婚姻費用分担義務を負う必要はありません。
したがって、離婚後の妻の生活費を元夫に請求することはできません。出産後しばらくの間、妻は仕事など生活費を稼ぐことができません。そのうえ、離婚した元夫から生活費をもらうこともできません。
このような場合に備えて、離婚時に財産分与や養育費、慰謝料などをしっかり決めておく必要があります。詳しくは弁護士に相談すると良いでしょう。
生まれた子供との面会交流は必要?
離婚後、親権を持たない親は離れて暮らす子供との面会交流権を持つことになります。これは、妊娠中に離婚し、離婚後に生まれた子供の場合も同じです。
面会交流権は、親だけではなく子供の福祉のためでもあります。もし、別れた夫と子供が面会することが子供のためにならないという場合は面会交流を制限することもあります。
しかし、正当な理由もなく面会交流を拒んだ場合、罰金を払わなければならないこともあります。
子供の戸籍はどうなる?
離婚後300日を過ぎて生まれた子供は、元夫の子供であったとしても非嫡出子として扱われ、母親の戸籍に入ります。
非嫡出子ですので、父親から認知されない限り、戸籍上父親が不在であることになり、父親からの養育費や相続の権利が得られないことになります。
一方、離婚成立後300日以内に生まれた子供は母親が親権者であっても元夫の戸籍に入ることになります。これは民法772条による嫡出推定が行われるためです。
第772条
1妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
離婚成立後300日以内に生まれた子供を母親と同じ戸籍に入れるためには「父または母の氏を称する入籍届」によって、母親の戸籍に入る手続きを行う必要があります。
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シングルマザーが受けられる公的支援制度
離婚後に出産するのですから、母親が1人で子供を育てることになります。シングルマザーなど、ひとり親家庭向けの公的支援には以下のようなものがあります。
児童育成手当
ひとり親の児童(18歳になった年のの年度末まで)や親が重度の障害を持つ児童の家庭などに自治体から支給される手当。児童の保護者の所得制限がある。
児童扶養手当
ひとり親の児童(18歳になった年のの年度末まで)や親が重度の障害を持つ児童の家庭などに国から支給される手当。児童育成手当と異なり、受給者だけでなく扶養義務者の所得制限がある。
母子父子寡婦福祉資金貸付金
ひとり親家庭の親が仕事に就いたり、子供の就学に資金が必要な場合に貸付を受けられる資金。
ひとり親家庭医療費助成(自治体によって名称が異なります)
ひとり親家庭の方が医療を受ける際に自己負担額を一部助成する制度。
ひとり親家庭の市営住宅などへの優先入居制度
20歳未満の子供を持つひとり親家庭が市営住宅などの公営住宅に優先して入居できる制度。
なお、これらの支援は自治体やあなたの収入などによって内容が変わります。必ずお住まいの地域を管轄する役所などで確認しましょう。
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離婚後に発覚する妊娠と300日の問題
ここまで、離婚前に妊娠が判明しているケースについて説明していきました。しかし、実際は妊娠している事実に気付くのが離婚後というケースも珍しくありません。
離婚後に妊娠していることがわかった場合はどのような問題点があるのでしょうか。
元夫との子供を妊娠した場合
離婚後に妊娠したことがわかった場合であっても、離婚後300日以内に子供が生まれた場合は元夫の戸籍に入ります。
また元夫が認知すれば離婚後300日を過ぎても、養育費の請求や相続権は得られます。
新しいパートナーや再婚予定の人との子供を妊娠した場合
離婚後に妊娠が発覚した場合、元夫との子供ではないケースも多くあります。この場合、離婚後300日以内に出産するのかどうかで子供の扱われ方が変わります。
離婚後300日以内に出産した場合は、実際は新しいパートナーとの子供であっても、子供の父親は元夫と判断されてしまいます。
離婚後300日以内に妊娠・出産した子供が元夫の子となる理由
民法では、実際の父親が誰であろうと離婚成立後300日以内に生まれた子供の父親は別れた夫と推定されます。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
「嫡出の推定」という法律的な解釈による
子供は母親が妊娠し、出産しますよね。したがって子供の母親が誰なのかはすぐにわかります。しかし、場合によって子供の父親が誰かわからないということがあります。
そのため、生まれてきた子供の父親を推定する目的で民法による嫡出推定が行われます。
民法第772条
1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
民法では、子供の父親が元夫でなかったとしても離婚成立後300日以内に生まれた子供の父親は元夫と推定されるため、元夫の子供として出生届を提出するしかありません。
離婚後の妊娠・出産と300日の法律による問題点
前述のとおり、民法によって離婚成立後300日以内に生まれた子供は元夫の戸籍に入れるしかありません。
実際の父親が元夫とは別の男性であり、子供を実際の父親の戸籍に入れたいのであれば、子供を一時的に元夫の戸籍に入れたあと、実の父親に認知してもらうことになります。
このように、離婚成立後300日以内に生まれた子供の戸籍に関して複雑な手続きや問題が伴うことになります。
出生届を提出しないという問題
離婚成立後300日以内に生まれた子供に関して、「子供の出生届を出さない」という問題が発生しています。
母親のなかには、「一時的とはいえ、元夫の戸籍に我が子を入れるなんてありえない!」と思う人もいるでしょう。
離婚成立後300日以内に生まれた子供は出生届を出すことで自動的に元夫の戸籍に入るため、出生届を出さないことがあるのです。
子供の出生届を提出しないリスク
子供の出生届を出さなければ子供は戸籍を取得することができません。つまり、生まれてきた子供は無戸籍児童になるということです。
法務省が把握している無戸籍者数は715人(2018年8月10日時点)ですが、実際はもっと多いと言われています。無戸籍になるとどういう問題があるのでしょうか。
まず、戸籍がないと参政権を行使することができません。これは参政権とはその名のとおり、政治に参加する権利のことです。代表的なものに選挙権・被選挙権があります。
これについては公職選挙法附則に定めがあります。
公職選挙法 附則
2 戸籍法(昭和22年法律第224号)の適用を受けない者の選挙権および被選挙権は、当分の間、停止する。
一方、住民票については出生届を出さなくても作成が可能です。
「戸籍がないため住民票を作れない」と思い込む方もいますが、戸籍がなくても住民票は作成できます。住民票があれば無戸籍であっても受けられる行政サービスもあります。
詳しくはお住まいの市区町村役場や役所に問い合わせをしてみましょう。
離婚後300日以内に生まれた子を実の父親の子にする方法
子供の出生届を出さないリスクについて説明しました。
離婚成立後300日以内に生まれた子供は一時的にでも元夫の子供として出生届を出し、実際の父親に認知してもらうことになります。具体的にはどのようにすれば良いのでしょうか。
嫡出否認調停
離婚成立後300日以内に生まれた子供を実際の父親の戸籍に入れる方法として、まず嫡出否認調停があります。
嫡出否認調停とは、元夫が家庭裁判所に対して「元夫と子供の間に親子関係がないこと」を申し立てるものです。
嫡出否認調停によって「生まれた子供が元夫の子供ではない」ということを元夫婦が合意し、裁判所の調査によって合意内容が事実だと証明された場合、生まれてきた子供が元夫の子供ではないと判断されます。
嫡出否認調停の際、元夫と生まれた子供の間に親子関係が存在しないことを明確にするためにDNA鑑定を行うことがあります。この鑑定費用は申立人が負担することになります。
また、戸籍法では子供が生まれてから14日以内に出生届を提出する必要があります。
戸籍法第49条
出生の届出は、14日以内(国外で出生があつたときは、3ヶ月以内)にこれをしなければならない。
嫡出否認調停は14日以内に結果が出ることは考えにくいため、役所に「嫡出人調停を行っている」ということを相談しておきましょう。
これによって、出生届が提出されていない状態であっても子供の住民票を作成することができます。
嫡出否認調停は夫が子供の出生を知ってから1年以内に申し立てる必要があります。
また、嫡出否認調停は元夫しか申し立てができません。そのため元夫から協力を得る必要があります。
親子関係不存在確認調停
離婚成立後300日以内に生まれた子供を実際の父親の戸籍に入れる方法として、家庭裁判所に親子関係不存在確認調停を申し立てる方法もあります。
これは、「元夫になんらかの理由があり、元妻が元夫の子供を妊娠することが客観的にありえない」と判断されることで元夫と子供の親子関係を解消するものです。
例えば、元夫が長期間海外に単身赴任をしていた場合や、長期間入院していた場合などがあります。
親子関係不在確認調停においても、元夫と子供の間に親子関係がないことを明確にするためにDNA鑑定を行う場合があります。この場合、申立人が鑑定費用を負担する必要があります。
嫡出否認調停は元夫しか申し立てができませんが、親子関係不存在確認調停は、生まれてきた子供とその両親、さらに親子関係に対して利害関係がある第3者が申し立て可能です。
また、親子関係不存在確認調停の申し立てには期限がありません。
離婚後の妊娠の証明
離婚後に妊娠が発覚するケースのなかには離婚後に妊娠した場合もあります。
この場合は「離婚後の妊娠である」という医師の証明書があれば、元夫の子供ではなく事実上の父親の子供として出生届を出すことができます。この証明書を「懐胎時期に関する証明書」といいます。
ただし、このケースで認められるのは「妊娠したのが離婚後である」場合のみに限られます。
まとめ
妊娠中に離婚し、離婚後に出産した場合の問題点について説明しました。シングルマザーとして子供を育てるとなると生活費の確保など、さまざまな問題が発生します。
また、出生届を出す際も複雑な問題があります。
離婚は慎重に行うべきものですが、特に妊娠中に離婚を考えるなら、離婚後の生活や子供を出産したあとのリスクなどを考え、冷静に判断すべきです。
離婚問題に強い弁護士なら、妊娠中の離婚後のリスクや法的な問題など総合的にアドバイスをしてくれます。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚問題が得意な弁護士を多数掲載しております。ぜひ活用してください。
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