養育費を強制執行(差し押さえ)で回収するには|必要な手続と条件を解説

親権・養育費
弁護士監修
養育費を強制執行(差し押さえ)で回収するには|必要な手続と条件を解説

子供を持つ夫婦が離婚する際、子供と離れて暮らす親は養育費を支払う必要があります。

令和3年度の厚労省の調査によると、母子家庭のなかで、取り決めどおりに養育費を受け取っているのは3割にも満たないことがわかっています。

養育費の支払いを求めても応じない場合は強制執行を行い、養育費を回収します。

この記事では、強制執行を行い、養育費を回収する方法について解説します。

目次
  1. 養育費には時効がある
  2. 養育費の強制執行でできること
    1. 債権執行
    2. 不動産執行
    3. 動産執行
  3. 養育費の回収では給料の差し押さえが効果的
    1. 相手方の手取り額の2分の1まで差し押さえができる
    2. 養育費は将来分の差し押さえが可能
    3. ボーナスも差し押さえができる
  4. 給料の差し押さえが難しい場合は預貯金口座や生命保険が有効
  5. 養育費を強制執行で回収するための条件とは
    1. 執行力のある債務名義があること
    2. 送達証明書を発行してもらう
    3. 支払い義務者の住所や勤務先・銀行口座名など差押え対象となる財産の情報
  6. 強制執行の流れ
    1. 強制執行申立書を作成して提出する
    2. 差押命令の発令
    3. 取り立てが行われる
    4. 相手方の勤務先や金融機関に連絡する
  7. 強制執行に必要な書類と費用
    1. 必要な書類
    2. 費用
  8. 強制執行を行っても養育費を回収できない場合がある
  9. 養育費の強制執行を弁護士に依頼するメリット
  10. まとめ

養育費には時効がある

養育費の請求はいつでもできるわけではありません。養育費を請求する権利には時効があります

養育費の支払いを夫婦の話し合いで取り決めた場合、養育費の時効は5年(消滅時効)になります。

養育費は毎月定額を支払うものですので、定期給付債権とみなされます。定期給付債権の時効は民法169条で5年と決められているため、5年が時効となります。

また、養育費は定期給付債権ですので、養育費の請求権は月ごとに発生します。つまり、弁済期の翌日から5年が時効となります。

一方、調停や裁判で取り決めた場合は確定判決の時効が適用されるため、時効は10年(消滅時効)となります。

関連記事≫≫
母子家庭への未払い率8割!養育費が不払いになったときの対処法とは?

養育費の強制執行でできること

養育費の強制執行で差し押さえができるものには以下のようなものがあります。

債権執行

債権執行とは、相手方の債権を差し押さえることを言います。

債権とは、相手方に特定の行為をさせる権利です。債権執行により、相手方が第三者に対して有する権利を差し押さえることができるのです

養育費で差し押さえることができる債権は下記となります。

  • 給与支払い債権
  • 預貯金払戻し債権
  • 敷金返還債権
  • 生命保険解約返戻金債権
  • 売掛金債権

養育費の強制執行では相手方の給与や預貯金を差し押さえるのが一般的です。

不動産執行

不動産執行とは、相手方の所有する不動産を競売にかけ、売却代金で債権を回収するものです。

不動産は高額で売却できる可能性が高いため、高額な債権を回収する場合に利用されます。ただし、競売にかける必要があるため、回収までに時間がかかります。

動産執行

動産執行とは相手方が所有する動産を差し押さえることを言います。

動産とは不動産以外の財産をいい、貴金属現金家電などが該当します。動産執行は執行官が現地に出向き、対象物を回収します。

差し押さえた財産は買い手がつくまで執行官が保管しなければならず、必ず買い手がつくとも限りません。また、換金費用や執行官の人件費などもかかります。

動産執行はあまり高額な債権を回収することも期待できないため、強制執行の効果が得られにくいと言えます

養育費の回収では給料の差し押さえが効果的

養育費を回収する場合は相手方の給料を差し押さえるのが効果的とされています。

相手方の手取り額の2分の1まで差し押さえができる

給与債権を差し押さえる際、相手方の手取り額が33万円以下の場合はその4分の1の金額までしか差し押さえができません。

しかし、養育費の回収の場合は手取り額が33万円以下であっても、その2分の1の金額まで回収することができます

また、33万円を超える部分については全額差し押さえることができます。

養育費は将来分の差し押さえが可能

通常、差し押さえすることができるのは、すでに支払い期限が来ているものに限られます。まだ支払い期限が来ていないものに関しては、改めて申立てを行う必要があります。

しかし、養育費に関しては将来の分まで差し押さえが可能です。つまり、一度給与の差し押さえを行ったら、自動的に毎月養育費が支払われることになるのです

ボーナスも差し押さえができる

給与所得者の場合、1年に2回賞与が出るケースがほとんどです。実は、賞与に関しても差し押さえが可能です

差し押さえることができる部分は給料の場合と同様です。

給料の差し押さえが難しい場合は預貯金口座や生命保険が有効

給料の差し押さえが難しい場合は預貯金口座や生命保険が有効

養育費の不払いが起きた場合、給与を差し押さえるのが効果的です。しかし、相手方が自営業であったり、現在の勤務先がわからないこともあります。

このような場合は相手方の預貯金を差し押さえると良いでしょう。預貯金であれば差し押さえを行う際の費用もあまりかかりませんし、養育費の回収もスムーズに行うことができます

また、相手方が積立式の生命保険に加入している場合は解約返戻金を差し押さえるのも良いでしょう。

相手方の加入する生命保険を差し押さえると、強制的に生命保険を解約することになります。これにより、解約返戻金相当額が支払われることになります。

養育費を強制執行で回収するための条件とは

養育費を強制執行で回収するには条件があります。以下で詳しく見ていきます。

執行力のある債務名義があること

強制執行を行うためには、執行力のある債務名義が必要です。債務名義とは、「強制執行をする権利があること」を示すものです。具体的には以下のようなものが該当します。

  • 公正証書(強制執行認諾文言のあるもの)
  • (離婚や養育費に関する)調停調書
  • (離婚や養育費に関する)審判書
  • 和解調書
  • 確定判決

関連記事≫≫
養育費の取り決めは公正証書に残すべき!作成方法や注意点を解説

執行認諾文言とは

執行力のある債務名義の一つに強制執行認諾文言のある公正証書があります。

執行認諾文言には、「取り決めたことを履行しなかった場合は強制執行されてもかまいません」という意味があります。

養育費などの金銭債権の場合、公正証書を作成しても、強制執行認諾文言がない場合はすぐに強制執行を行うことはできません

執行文を付与してもらう必要がある

和解調書、確定判決に関しても、これだけあれば強制執行ができるわけではありません。強制執行を行うには執行文を付与してもらう必要があります。

執行文の付与を申立てる際は、裁判を行った裁判所または相手方の住所を管轄する家庭裁判所になります。

送達証明書を発行してもらう

強制執行を行う際、事前に「取り決めた内容を履行しなかったため強制執行を行います」という意味合いで、相手方に公正証書などの債権名義を送達します。

送達証明書は、公正証書や判決書などの債務名義が相手方に送付されたことを証明する書類になります。

支払い義務者の住所や勤務先・銀行口座名など差押え対象となる財産の情報

強制執行を行うには養育費の支払い義務者の住所や勤務先、銀行口座(金融機関名・支店名)などの差し押さえ対象となる財産の情報が必要になります

これらの情報を調べるには以下の二つの方法があります。

  • 弁護士会照会制度
  • 探偵に依頼する

弁護士会照会制度とは、弁護士が公的機関や会社に対して資料を開示させたり、取り寄せることができる制度です。

また、相手方の勤務先や住所を調査する場合は探偵に依頼する方法もあります。探偵事務所のなかには弁護士と連携しているケースもあります。

強制執行の流れ

ここからは強制執行の流れについて解説します。

強制執行申立書を作成して提出する

必要書類をそろえ、債務者(相手方)の住所地を管轄する地方裁判所または勤務先を管轄する地方裁判所に申し立てを行います。申立てに必要な書類については後述します。

差押命令の発令

申し立て後、裁判所が提出書類を確認し、不備がなければ差押命令を発令します。差押命令が発令されると、一週間程度で「債権差押命令書」が債務者に対して発送されます。

差押命令は送達時点から効力を持つため、送達されることで預貯金口座などの取引が止まり、相手方はお金を引き出せなくなります

給与や賞与を差し押さえる際は支払われる日より前に、預貯金口座を差し押さえるのであれば多額の入金があった直後に送達すると良いでしょう。

取り立てが行われる

債権差押命令書を債務者が受け取ると、債権者あてに裁判所から「送達通知書」「第三債務者の陳述書」が送付されます。

送達通知書に記載されている日から一週間が過ぎたら債権者は取り立てを行うことができます

相手方の勤務先や金融機関に連絡する

送達通知書に記載された日付から一週間が経過したら、相手方の勤務先や金融機関、生命保険会社などに連絡します。

給与を差し押さえた場合は、毎月の給与や賞与のうち差し押さえたものを相手方の勤務先から直接自分に支払うよう求めることができます

具体的には電話や内容証明などで相手方の勤務先に連絡し、振込先の口座を指定して振り込んでもらいます。

預貯金口座を差し押さえた場合は、必要書類に記入することで払い戻しを受けることができます。生命保険の場合は加入している保険を解約して解約返戻金を受け取ることになります。

強制執行に必要な書類と費用

強制執行に必要な書類と費用

強制執行を行う際に必要となる書類や費用については以下となります。

必要な書類

強制執行を行う際は以下の書類が必要です。

  • 債権差押命令申立書
  • 債務名義(公正証書や調停調書、判決書) ※執行文を付与したもの
  • 債務名義の送達証明書
  • 当事者目録:債権者、債務者、第三債務者(勤務先や金融機関など)を記載したもの
  • 請求債権目録:不払いになっている養育費を請求する権利とその金額を記載したもの
  • 差押債権目録:差し押さえを行う債権の内容(給与債権や預貯金など)を記載したもの
  • 申立書の目録部分の写し
  • 宛名付封筒
  • 第三債務者の商業・法人登記簿謄本・代表者事項証明書(会社や金融機関、生命保険会社の商業登記簿謄本)
  • 戸籍謄本(当事者の氏名と債務名義に記載された氏名が異なる場合)
  • 住民票・戸籍附票など(当事者の住所と債務名義に記載された住所が異なる場合)※マイナンバーの記載がないもの

費用

強制執行を行う際は以下の費用がかかります。

  • 申立て手数料:4,000円 ※収入印紙で支払う
  • 予納郵便切手:3,000~4,000円程度

なお、予納郵便切手は申立てを行う裁判所によって異なります。また、どの金額の切手を何枚準備すべきかについても決まっています。

詳しくは各裁判所にお問い合わせください。 参考:裁判所「各地の裁判所

強制執行を行っても養育費を回収できない場合がある

強制執行をしたとしても財産がなければ「空振り」になってしまいます。

日本では、法律上、財産がないところからお金を取り立てることができません。むしろ、強制執行を行った分だけ費用が無駄になってしまいます。

強制執行は、どこに財産があるのかをしっかり調査したうえで行うことが大切です

養育費の強制執行を弁護士に依頼するメリット

養育費の強制執行は相手方の財産がどこにあるかをきちんと把握することが重要です。

弁護士に依頼すれば、弁護士会照会制度を利用して相手方の財産について調査してもらえます。また、強制執行の手続きも代行してもらうことができます。

いくら催促しても養育費を払ってもらえない場合、弁護士の名前で催促することで養育費を支払ってもらえることもあります。

養育費の不払いが起きた段階で弁護士に依頼し、弁護士から相手方に催促してもらえば、強制執行を行わなくても養育費を支払ってもらえることがあるのです。

関連記事≫≫
親権・養育費は弁護士に!親権・養育費の解決実績・解決事例が豊富な弁護士とは
評判が良く口コミが豊富な弁護士とは|離婚に強い弁護士の選び方
離婚に強い弁護士の選び方って?弁護士選びで失敗しないポイント。

まとめ

養育費の強制執行について解説しました。 養育費が支払われないからといってあきらめてはいけません。

弁護士に相談すれば、強制執行も含め、どのような方法で養育費を回収するのが良いかアドバイスしてもらえます。

当サイト「離婚弁護士相談リンク」は養育費や離婚問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。

離婚コラム検索

離婚の親権・養育費のよく読まれているコラム

新着離婚コラム

離婚問題で悩んでいる方は、まず弁護士に相談!

離婚問題の慰謝料は弁護士に相談して適正な金額で解決!

離婚の慰謝料の話し合いには、様々な準備や証拠の収集が必要です。1人で悩まず、弁護士に相談して適正な慰謝料で解決しましょう。

離婚問題に関する悩み・疑問を弁護士が無料で回答!

離婚問題を抱えているが「弁護士に相談するべきかわからない」「弁護士に相談する前に確認したいことがある」そんな方へ、悩みは1人で溜め込まず気軽に専門家に質問してみましょう。

TOPへ