離婚を前提とした正しい別居の方法|別居のメリット・デメリットは?
「離婚したいけれど法的な離婚理由がない」「配偶者が離婚に同意していない」など、「離婚したいけれど、まずは別居から」「子供を取られたくない」と考えたときに、不利にならないための別居の方法について解説します。
- 目次
離婚を前提に別居を進めるべきケースは?
離婚を有利に進めたいなら別居は慎重に進めなければなりません。ただし、以下のような場合はすぐにでも別居すべきです。
上記のような理由は、「別居すべき正当な理由」とみなされやすい傾向があります。つまり、これらの理由で別居したからといって、自分が不利になることは少ないということです。
特に、DVを受けている場合は身を守ることを優先すべきです。すぐにでも別居すべきでしょう。
そもそも離婚理由となる要因は?
別居したいということは、離婚を視野に入れているわけですが、そもそも離婚はどのような理由で認められるのでしょうか。
大前提として、夫婦が離婚に同意していればどのような理由であっても離婚できます。しかし、配偶者が離婚を拒んだ場合は、最終的に裁判所に離婚を認めてもらうことになります。
裁判で離婚を認めてもらうには、民法で規定されている以下の5つの法定離婚事由が必要です。反対に法定離婚事由がなければ離婚は認められないということです。
別居の定義
離婚につなげるための別居を説明するにあたり、まず別居とは具体的にどういうものか定義を確認しておきましょう。
別居の定義
別居は「別々に暮らす」と書きます。しかし、世のなかには単身赴任をしている夫婦もいますし、「週末婚」なんて言葉もあります。これらは別居とは言いませんよね。
別居とは夫婦が生計をともにしていない状態のことです。つまり、夫婦としての共同生活がなくなることです。
別居の判断が難しいケース
単身赴任からだんだんと疎遠になるケース
先ほど、「単身赴任は別居とは言わない」と説明しました。では、別々に暮らすきっかけは単身赴任だったが、だんだん家に帰らなくなった場合はどこから別居と判断されるのでしょうか。
このときのポイントは「一緒に暮らす気がない」と判断されるかどうかです。
一緒に暮らす気があるかどうかなんて何とでも言えそうですよね。
では、赴任期間が終わったのに家族の待つ家に戻らず、新たに家を借りて住みだしたらどうでしょうか。客観的に見ても「家族と一緒に暮らす意思がない」と考えられますよね。
上記は比較的わかりやすい例です。しかし、非常に判断が難しく、実際のところはケースバイケースの判断になります。
家庭内別居のケース
最近は「家庭内別居状態」なんて言葉もよく聞きますよね。文字通り、一緒に暮らしているけれど夫婦の会話や交流がない状態のことです。
家庭内別居は一緒に暮らしているので別居と認めるのは非常に難しいことが多いです。家庭での夫婦の状況なんて誰にもわかりませんからね。
家庭内別居も単身赴任のケースと同じく、期間や状況を踏まえてケースバイケースで判断することになります。
別居が意味することは?
法的に離婚が認められる理由に「別居」はありません。
しかし、別居の方法や理由によっては法定離婚事由の「悪意の遺棄」とみなされてしまうことがあります。原則として、離婚原因を作った側からの離婚請求はできないことになっています。
したがって、「悪意の遺棄」と判断されると自分から離婚を請求することができなくなります。
反対に、別居したことによって配偶者から離婚請求されることもあります。この場合は、別居という事実が離婚条件などに大きな影響をおよぼすことになります。
このように離婚前に別居することは非常に重要な意味を持ちますので詳しく解説していきます。
夫婦関係の破綻を判断する条件になる
法定離婚事由には「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」というものがあります。
つまり「婚姻関係が破綻していて関係修復が困難かどうか」が離婚の判断材料になるのです。
「婚姻関係が破綻しているかどうか」を判断する際、まず「別居しているかどうか」が考慮されます。夫婦は同居・協力・扶助の義務があるため、別居の事実があると、「婚姻関係が破綻している」とみなされる可能性があるのです。
別居で離婚するために必要な期間は?
前述のように、「単身赴任からだんだん家に帰らなくなる」というケースは、別居してすぐに婚姻関係が破綻したわけではありません。
では、どのようにして婚姻関係の破綻を判断するのでしょうか。
この場合、別居していた期間を考慮することになります。
つまり、客観的に「これだけ長く別居していたら夫婦としてやり直すのは無理でしょうね」と思えるかどうかということです。別居期間が何年あれば離婚できるというものではありません。
このような場合は、別居期間だけでなく別居にいたった経緯や別居中の態様など複数の要素を踏まえて判断されるため、ケースバイケースで判断されることになってしまいます。
財産分与の基準時になる
民法では離婚時に財産分与をおこなうことが認められています。財産分与は「婚姻中に築いた共有財産」を夫婦で公平にわけることです。
「婚姻中に築いた共有財産」は原則として「夫婦が一緒に暮らしながら築いてきた財産」と考えられています。
したがって、別居後に夫婦それぞれが築いた財産は財産分与の対象外となります。
専業主婦の場合に知っておきたい「婚姻費用の請求」
別居中の夫婦の財産は財産分与の対象にはならないと説明しました。
「これでは別居してから離婚すると経済的に不利じゃないか」と思いますよね。
は、別居する際、収入が少ない側は収入が多い配偶者に婚姻費用(生活費)を請求することができます。
第760条
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
これは、「別居していようが同居していようが夫婦である限りはお互いの生活を保持する義務がある(生活保持義務)」とされているためです。婚姻費用は裁判所のHPにある以下の婚姻費用算定表で算出できます。
参考:裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について(https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html)」※1
請求に応じない場合は婚姻費用の分担請求調停を申し立てる
婚姻費用を請求しても相手が応じない場合、婚姻費用の分担請求調停を申し立て、裁判所で話し合いを行います。調停を行っても解決しない場合は審判に移行し、裁判所が婚姻費用を決めることになります。
別居のメリット・デメリット
別居をするメリット
ここからは離婚前に別居をするとどのようなメリットがあるのかを見ていきます。別居のメリットには以下のようなものが挙げられます。
離婚事由を作る手段になる
別居していることで婚姻関係が破綻しているとみなされる可能性があります。したがって、別居は離婚事由を作る手段になると言えます。
配偶者に離婚の意思が固いことを伝えられるため、離婚に進めやすくなる
別居すれば、あなたの「離婚する意思が固い」ということが配偶者に伝わります。そうすると「もう修復は不可能なんだな」と配偶者に思わせることができ、離婚に進みやすくなる可能性があります。
別居をするデメリット
離婚前の別居にはメリットだけではなくデメリットもあります。別居のデメリットには以下のようなものが挙げられます。
夫婦関係を修復しにくくなる
これは別居のメリットの裏返しになりますが、別居をすると配偶者が「修復は不可能なんだな」と思い、離婚を考えるようになる可能性があります。
こうなると、もしこちらの気が変わって「やり直したい!」と思っても、修復は不可能になる可能性があります。
「悪意の遺棄」を理由に配偶者から離婚請求されることがある
別居したことを「悪意の遺棄」とみなされ、配偶者から離婚請求されることがあります。こちらに離婚原因があるとみなされると、離婚条件などで不利になってしまします。
配偶者の財産や不貞行為の証拠などを把握できなくなる
離婚する際、財産分与をすることになりますが、別居してしまうと配偶者の財産を把握しにくくなります。もし、配偶者が隠し財産などを持っていた場合は財産分与を行う際に不利になります。
また、別居にいたった原因が配偶者の浮気などであった場合、不貞行為の証拠などを収集しにくくなります。こうなると配偶者に離婚の原因があったと証明できなくなってしまいます。
別居前にしておきたい準備
別居をすると決めたら、その前に準備しておくべきことや知っておくべきことがあります。
今後の生活で経済的な自立ができるかという問題
離婚を見据えての別居ですので、別居中だけではなく離婚後も含め経済的に生活していけるのかを考えておく必要があります。
子供を連れていく場合は子供を養育することを考慮したうえで生活していけるのかを考えなければなりません。
仮に現時点で経済的に自立できない状態であっても、自立手段の準備はできるはずです。
特に考えておきたいポイントとしては以下のようなものがあります。
離婚後に母子家庭となる場合は生活費の確保が課題になります。
国や自治体の制度には児童扶養手当や住宅手当など、母子家庭が利用できる制度があります。年齢や親の収入など条件を満たせば利用できますので、積極的に利用しましょう。
子供の親権の問題
子供がいる夫婦が離婚する際は、離婚後にどちらが親権を持つのか考えておく必要があります。
基本的に親権は、「離婚時に誰が子供を育てているか」、また「その養育環境が子供の成育にとっていいものか」ということによって判断されます。
別居した後、子供と同居していない場合には、現在の法律・裁判所の実務上は、子供の親権を持つことは難しい状況です。
養育費の問題
未成年の子供を持つ夫婦が離婚すると、親権者は元配偶者から養育費の支払いを受けられます。
しかし、平成28年度の厚生労働省の調査によると養育費の支払いを受けている母子家庭は2割程度となっており、養育費の不払いが問題となっています。
養育費の不払いを防ぐためにも、離婚時点で養育費の支払いについて詳細まで決めておくことが重要になります。
最低でも以下の項目は必ず決めておきましょう。
慰謝料の問題
慰謝料とは精神的な苦痛に対する損害賠償金のことをいいます。
離婚する際、離婚原因を作った配偶者に対して慰謝料請求をすることができます。
もし離婚の原因が不倫であった場合、不貞行為を理由に慰謝料請求するには証拠が必要です。
配偶者が不貞行為をした証拠を別居後に集めるのは非常に困難です。このような場合は必ず別居前に証拠を集めておきましょう。
財産分与の問題
離婚する際、財産分与によって婚姻中に築いた共有財産を夫婦で分けることができます。
しかし、配偶者が何を・いくら持っているかを知らずに別居すると、相手が財産を隠している場合に不利になることがあります。
別居してしまうと、配偶者の財産や預金の情報を集めるのは困難です。必ず別居前に把握しておきましょう。
まとめ
離婚前に別居することは、やり方次第で有利に働くこともありますが不利になることもあります。
別居後の離婚を有利に進めるためには、別居する前にしっかりと準備をしておくことが大切です。また、別居の準備をする際には弁護士などの専門家に相談することが大切です。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚に強い弁護士を多く掲載しています。ぜひご活用ください。
※1 裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」
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