婿養子の離婚手続き方法|苗字や戸籍はどうなるか
妻が一人っ子や姉妹しかおらず家を継ぐ人がいないというときなど、妻の両親からお願いされて婿養子を選択することもあるでしょう。
しかし、結婚後、妻の両親との関係になじめなかったり、肩身が狭い思いが続き、離婚を考える人もいます。ただし、婿養子として結婚した場合、そうでない結婚と比べて離婚の手続きが複雑になります。
この記事では、婿養子として結婚した夫が離婚する場合、通常の離婚と場合と比べてどのような手続きが必要なのかを説明し、婿養子が離婚する際の手続きの流れや注意点について解説していきます。
- 目次
婿養子の離婚手続き方法
そもそも婿養子とはどのようなものでしょうか。
婿養子といえば、「結婚後に妻の苗字を名乗っている人のこと」と思っている人も多いと思います。
しかし、これは間違いです。実は法的に婿養子と呼ぶには以下の2点を満たしている必要があるのです。
- 婚姻届を提出している
- 妻の両親と養子縁組をしている
婿養子ということは、「妻の両親と養子縁組をしている」状態です。
婿養子になるということは、養父母(妻の両親)の推定相続人の権利を得ることになります。
なお、推定相続人とは「仮に現時点で相続が起こったとすれば相続人になるであろう人」を指します。法定相続人と同じように扱うことが多いですが、法定相続人は「民法で定められた相続人」であり、実際に相続が起こった場合の相続人の範囲を指します。
婿養子になる際、「婚姻」「養子縁組」の2つの手続きを踏んでいますので、婿養子が離婚する際も「離婚」と「離縁(養子縁組解消)」の2つの手続きをとる必要があります。
離縁届の提出
前述のように、婿養子が離婚する場合は「離婚」と「離縁」の2つの手続きが必要です。離婚の際は離婚届を提出しますが、離縁する際は養子離縁届を提出することになります。
養子離縁届の入手方法についてはお住まいの自治体に直接お問い合わせください。また、養子離縁届の提出先は各市区町村役場・役所の戸籍住民課となります。
なお、担当課の名称は自治体によって違いますので、管轄の市区町村役場・役所にお尋ねください。
このとき、最初に養子離縁届を提出し、そのあと離婚届を提出することが重要です。なぜ養子離縁、離婚の順に手続きする必要があるのでしょうか。
離縁すると夫は妻の両親の養子ではなくなりますが、夫婦の婚姻関係は続きます。このあと、所定の離婚手続きを取れば離縁と離婚が両方できたことになります。
一方、離婚すると夫婦関係は解消しますが、このままだと妻は両親と別の戸籍、夫は妻の両親と同じ戸籍になります。
このとき、一方が離縁したくないと言い出したりするとどうなるのでしょうか。
「結婚と養子縁組を同時に行ったのだから、離婚と同時に離縁も認められる」と思うかもしれません。
しかし、婚姻関係の解消と養子縁組の解消はまったく別のものとして扱われます。
離縁の場合も、離婚と同様に当事者の話し合いで決めることになりますが、話し合いで成立しない場合は調停や裁判に進むこともあるのです。
裁判で離縁が認められるには民法で定める3つの事由が必要です。
民法第814条
縁組の当事者の一方は、次に掲げる場合に限り、離縁の訴えを提起することができる。
1 他の一方から悪意で遺棄されたとき。
2 他の一方の生死が三年以上明らかでないとき。
3 その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。
離婚に伴って離縁する場合であれば、上記の3に該当する可能性が高いですが、離婚した後に、養親子関係だけが続いていた場合には、3に該当しないと判断される可能性が出てきます。
こうなると、妻とは離婚しているのに妻の両親とは同じ戸籍に入っているという奇妙な状態が続いてしまうことになるのです。
このような事態を防ぐためにも、必ず離縁手続き後又は離婚手続と並行して離婚の手続きを取るようにしましょう。
引用元:札幌市「養子離縁届(http://www3.city.sapporo.jp/download/shinsei/procedure/00342_pdf/presen_00342_000.pdf)」※1
離婚届の提出
離婚届は各自治体の役場・役所の戸籍住民課に行けば入手できます。また、離婚届の様式は全国統一ですので、ダウンロードして入手することもできます。
ダウンロードした離婚届は必ずA3サイズに印刷して使用するようにしましょう。
参考:札幌市役所「離婚届(http://www3.city.sapporo.jp/download/shinsei/procedure/00334_pdf/presen_00334_000.pdf)」※2
また、離婚届は様式が変わることもありますので、最新のものかどうかを確認してから利用することが大切です。
さらに、役場や役所のなかには、ダウンロードした離婚届を受理しないところもあるため、必ず確認してから利用するようにしましょう。
離婚届に必要事項を記入したら、役所の住民戸籍課に提出します。
離婚するときに決めること
離婚するときは事前に決めておくべきことがあります。決めておくことは婿養子であるかどうかに関わらず通常の離婚と基本的に同じですが、若干話が複雑な部分もあります。
離婚の合意成立
離婚するには、まず夫婦双方が離婚に合意している必要があります。話し合いで離婚に合意できれば良いのですが、協議が成立しないこともあります。
この場合は離婚調停や離婚裁判に進むこともあります。
話し合いで離婚する場合はどのような理由であってもかまいません。しかし、裁判を起こす場合は法律で認められる離婚理由(法定離婚事由)が必要になります。
慰謝料請求の有無
離婚では、相手に離婚原因がある場合、慰謝料を請求できる可能性があります。
- 不貞行為(不倫)
- 悪意の遺棄
- 家庭内暴力(DVやモラハラ) など
また、離婚原因が妻の両親(養父母)による暴言や嫌がらせである場合は、妻の両親に対して慰謝料請求できる可能性もあります。
いずれの場合も、慰謝料請求をする場合は「実際にその行為によって精神的な損害を受けた」ことを証明する証拠が必要になります。
例えば不貞行為を理由に慰謝料請求をするのであれば、配偶者と不倫相手の間に肉体関係があったことを示す証拠が必要です。
とはいえ、不貞行為そのものを映像や画像に残すことは難しいため、配偶者と不倫相手が2人でラブホテルに出入りする写真などが有効になります。
不倫相手とのLINEやメールの履歴も内容次第では証拠となり得ます。
どのような証拠が慰謝料請求で認められるかについては弁護士などの専門家に相談すると良いでしょう。
財産分与
離婚する際、婚姻中の共有財産を夫婦で公平に分けることになります。これを財産分与といいます。婿養子の場合も離婚する際、夫婦間で財産分与を行うことになります。
ただし、養子離縁に関しては財産分与の規定はありません。つまり、離縁する際に妻の両親(養父母)の財産を分ける必要はないということです。
一方、妻の両親と養子縁組をしていると、夫は養父母の相続権を得ることになります。そのため、婚姻中に養父母が他界した際、夫は養父母の遺産を相続できます。
婚姻中に養父母から相続した財産は夫の特有財産になります。離婚の財産分与では夫婦の共有財産のみを分けるため、特有財産は財産分与の対象外となります。
つまり、養父母の死後妻と離婚することになったとしても、婚姻中に養父母から相続した財産を妻と財産分与する必要はないということです。
子供の親権・面会
未成年の子供を持つ夫婦が離婚する場合、どちらか一方を親権者として決めなければなりません。
話し合いでスムーズに決まれば良いですが、ほとんどの場合は親権争いへと発展し、調停や裁判に進むこともあります。
調停や裁判では、これまでの養育状況や離婚後の養育環境などを総合的に鑑みて、どちらと一緒に暮らすのが子供の利益になるのかを重視して判断します。
では、親権を持たない親(非監護親)は離婚後、自分の子供と会うことはできないのでしょうか。
民法では非監護親が離婚後に離れて暮らす子供と面会する権利を認めています。これを面会交流権といいます。
離婚する際には面会交流の条件や方法についてもしっかり決めておく必要があります。面会交流を話し合う際は以下のような項目について具体的に決めていきます。
- 面会頻度
- 面会時間
- 面会場所
- 付添人の有無 など
子供の養育費
未成年の子供を持つ夫婦が離婚する場合、非監護親は親権者に対して養育費を支払う必要がります。養育費の金額は夫婦が合意すればいくらでもかまいません。
しかし、親は未成年の子に対して生活保持義務があります。そのため、離れて暮らす子供が非監護親と同程度の生活を送れるだけの金額を養育費として支払う必要があります。
つまり、「養育費を支払う余裕がない」「養育費を払うと生活が苦しくなる」などの理由で支払いを免れることはできないということです。
養育費について話し合いが成立しない場合は調停や裁判に進むことになります。この場合、「養育費・婚姻費用算定表」を使って養育費を算出するのが一般的です。
引用元:裁判所「養育費・婚姻費用算定表(https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/index.html)」※3
この算定表は、非監護親と親権者の収入金額や職業、子供の人数や年齢で金額が決まります。
しかし、子供が私立に通うのか公立に通うのかなどの教育方針によって、実際に養育に必要な金額は変わりますよね。
このように、算定表以上の金額を受け取りたいという場合は、教育方針などをしっかり話し合っておく必要があります。
養子縁組の解消
冒頭で説明したように、婿養子が離婚する場合、まずは養子縁組を解消(養子離縁)する必要があります。では、養子縁組を解消すると何が変わるのでしょうか。
離縁する必要性
養子縁組とは、血縁がない者同士を法的な手続きによって親子関係にすることです。離縁せず、養子縁組をしたままだと、養父母との間に扶養義務や相続権が残ってしまいます。
つまり、離婚しただけで離縁の手続きをしないままだと、妻と婚姻関係を解消しているにも関わらず妻の両親とは親子関係が続いているという複雑な関係になってしまうのです。
離縁しないケース
前述のように、離縁せずに離婚するということは複雑な関係になるため、離縁と離婚を両方行うケースがほとんどです。
一方、何らかの理由で夫に養父母の相続権が必要だという場合は、離縁せずに離婚手続きのみ行うということもあります。ただし、これは限られたケースといえるでしょう。
離婚後の苗字
通常の離婚と同じく、婿養子の場合も離婚後の苗字は基本的に旧姓に戻ります。ただし、何らかの理由で離婚後も婚姻中(縁組中)の苗字を名乗りたいという場合もあるでしょう。
このとき、養子縁組後7年以上経過している場合に限り、離縁から3か月以内に「離縁の際に称していた氏を称する届」を提出することで養子縁組中の苗字を使うことができます。
離婚後の戸籍
婚姻中、婿養子だった人は離婚すると結婚前の戸籍に戻ります。では、子供の戸籍は両親の離婚でどうなるのでしょうか。
実は、夫婦のどちらが親権を持つかに関わらず、子供の戸籍は両親が離婚する前と変わりません。
離婚後に親権者が旧姓に戻り、子供を親権者の戸籍に入れたいと思うのであれば、親権者と子供が同じ氏である必要があります。
そのためには裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立てなければなりません。
「子の氏の変更許可」を行っただけでは子供の戸籍は変わりません。そのため、子供を親の戸籍に入籍させる手続きを取る必要があります。
まとめ
婿養子の離婚の手続きについて説明しました。 婿養子の離婚は、妻の両親と養子縁組をしていない離婚と比べて手続きが増えるうえ、手続きの流れも重要になります。
また、婚姻中に妻の両親が他界した場合は相続の問題も出てきます。
このように婿養子が離婚する場合は通常の離婚よりも複雑になります。離婚は自分だけでも手続きできますが、相続や財産分与など、さまざまな法的知識が必要になります。
このような場合は離婚問題に強い弁護士に相談するとあなたに合ったアドバイスをしてくれます。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚に強い弁護士を多数掲載しています。依頼するかどうかは相談してから決めることができますので、気軽にご利用ください。
※1 札幌市「養子離縁届」
※2 札幌市役所「離婚届」
※3 裁判所「養育費・婚姻費用算定表」
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