離婚したらペットはどちらが引き取る?養育費や面会はどうなるのか解説
離婚したいと考えている人のなかには、離婚後にペットを引き取ることができるのか不安な方もいるでしょう。
我が子同然に可愛がっていたとはいえ、ペットと子供を同じように扱うことはできるのでしょうか。
この記事では離婚したときのペットの扱われ方やペットの所有権について解説します。
- 目次
離婚の際にペットの親権を争うことはできるのか
我が子のようにペットを可愛がっている人も少なくありません。では、離婚後、ペットの親権はどうなるのでしょうか。
子供がいる場合、離婚時の親権は、民法819条1項により以下のように規定されています。
「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない」
ここで、親権者を決めなければならないのは「成年に達しない子」(民法818条1項)がいるときとされています。
このように、法律上、親権は人間の子供のみを対象としており、ペットには親権という概念自体が存在しません。
ペットには戸籍が存在しないことを鑑みれば、親権が問題にならないことがおわかりいただけると思います。
ペットは財産分与の対象になるのか
ペットのことを「家族の一員」とみなしていても、法律上は「物」という扱いになります。
そのため、離婚後にどちらがペットと一緒に暮らすのかについては、親権ではなく財産分与として争うことになります。
財産分与とは、離婚の際、夫婦が協力して築いた財産を分与する制度です。
財産分与の対象となる財産は婚姻中に夫婦が協力して築いた「共有財産」です。
婚姻前や別居後に取得した財産は夫婦の協力とは関係なく取得した財産(=特有財産)ですので、財産分与の対象とはなりません。
ペットは財産分与で扱うため、いつペットを購入したかによって財産分与の対象となるかが変わります。
財産分与をする際は、すべての財産を金銭的に評価し、それを原則として2分の1の割合で分けることになります。
そのため、ペットを金銭的にどのように評価するかが問題となります。
なお、ペットを金銭的に評価する際は、購入価額ではなくそのときの時価によって判断されます。
婚姻中に飼い始めたペットの場合
婚姻中に飼い始めたペットは、夫婦の共有財産に該当するため、財産分与の対象となります。
「自分のお金で買った」「自分がお金を出して世話をしていた」という事情があったとしても、婚姻中であれば「家計から支出した」とみなされるため、共有財産ということに変わりはありません。
ただし、これらの事情は、財産分与の際に「どちらがペットを取得するか」を争う際に有利に扱われることがあります。
離婚後にペットを引き取りたいと考えている場合はしっかりと主張しましょう。
結婚前から夫婦のどちらか一方が飼っていたペットの場合
結婚前から夫婦のどちらか一方が飼っていたペットは特有財産に該当するため、財産分与の対象外となります。
そのため、離婚後はペットを購入した人がペットを引き取って一緒に暮らしていくことになります。
ペットの養育費を請求することはできるのか
養育費とは、子供が社会人として経済的に独立して生活できるようになるまでに必要な費用のことです。
そのため、親権と同様、養育費が支払われる対象は人間の子供ということになります。
離婚後にペットを引き取ったとしても、相手方に対して養育費を請求することはできません。
もちろん、ペットを飼育するということは、エサ代や予防接種の費用、その他雑費などのお金がかかります。
そのため、それらの負担を相手方に求めたいという気持ちも十分にわかります。
しかし、財産分与で不動産を取得した際、不動産を受け取った側は固定資産税などの費用を負担しなければならず、その費用負担を相手方に請求することはできません。
同様に、「物」であるペットも相手方に費用の負担を求めることはできないのです。
もっとも、養育費のように、法律上、相手方に費用負担を求める権利がないというだけで、費用負担を求める行為が禁止されているわけではありません。
そのため、お互いが納得したうえで費用負担について取り決めをするのは自由です。
また、将来かかる費用負担について、財産分与のなかで考慮してもらったり、後述する面会交流の条件として負担を求めたりすることも可能です。
夫婦で可愛がっていたペットですので、お互いが納得できる方法で解決できるように話し合いをすると良いでしょう。
ペットと面会交流することはできるのか
面会交流とは、別居中または離婚後に非監護親が子供と面会をしたり、その他の方法によって子供と交流したりすることを言います。
面会交流についても、対象は人間の子供に限られているため、法律上、ペットとの面会を求める権利はありません。
もちろん、ペットとの面会交流についてもあくまで法律上の権利がないだけです。
そのため、当事者同士で話し合いをしてペットとの面会交流について取り決めることは可能です。
長い間一緒に生活をしていたペットであれば離婚して会えなくなるのはつらいことでしょう。
この場合、ペットの養育費(費用)の負担をしてもらう代わりにペットの面会を認めるというのも交渉の一つの方法です。
子供との面会交流でこのような交渉は認められていませんが、ペットであれば可能です。
費用の負担を求めたい側とペットと会いたい側で利害が一致しますので、お互いに話し合ってみると良いでしょう。
ペットの所有権の判断基準とは
ペットが夫婦の共有財産に該当するときは財産分与の対象となります。
そのため、財産分与でどちらがペットを引き取るか(所有権を取得するか)は、基本的には当事者双方の話し合いで決めることになります。
話し合いで決めることができない場合は、調停、審判、裁判へと進み、最終的には裁判所の判断に委ねることになります。
その際は、以下のような事情を踏まえ、どちらがペットの所有権を取得すべきかを判断されます。
ペットがどちらになついているか
ペットの所有権を取得するということは、今後も引き続きペットと生活していくことになります。
そのため、「ペットがどちらになついているか」ということは判断要素の一つとなります。
まったくなついていない人にペットを引き渡すのはお互いに不幸です。
そのため、ペットがなついている人のほうがペットの所有権争いにおいては有利になります。
ペットを飼育したのはどちらか
ペットを引き取って一緒に生活していくためには、ペットの飼育に関する知識と経験が必要です。
そのため、婚姻期間中にどちらが主体的にペットの飼育にかかわってきたかという事情も所有権の判断材料となります。
一般的に、ペットの飼育に主体的に関与していた側のほうがペットもなついていると考えられるため、所有権争いにおいて有利な要素となります。
ペットを購入したのはどちらか
犬をペットして購入したとき、管轄する市区町村の保健所に飼い主を登録しなければなりません。
そのため、どちらを飼い主として登録したかが一つの判断要素になります。
婚姻期間中にペットを購入したとき、基本的には夫婦の家計から支出されるため、「どちらが費用を負担したか」というのはあまり大きな事情となりません。
離婚後もペットを育てていけるのはどちらか
離婚後、別居先でペットを飼うことができるかどうかも重要です。
婚姻中の住居ではペットを飼えていたとしても、別居したあとの住居でペットを飼えなければ飼育環境が整っているとはみなされません。
また、仕事で家を空けることが多くなる場合もペットを継続的に飼育していくことが難しいと判断されることもあります。
離婚後、実家に戻る場合は同居する家族のことも考慮してペットを飼えるかどうかが重要になります。
ペットの所有権を含めて離婚する方法
離婚には大きく分けて協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3つの方法があります。
ペットの所有権については、いずれの方法でも争うことが可能です。
当事者同士で話し合う
夫婦が離婚をする際に最も多く利用されている方法が協議離婚です。
協議離婚とは、夫婦が話し合いによって離婚に合意し、市区町村役場・役所に離婚届を提出することで成立する離婚です。
夫婦が話し合うだけで離婚できるため、ほかの方法と比べて時間も費用もかからないというメリットがあります。
実際、離婚する夫婦の約9割が協議離婚によって離婚しています。
合意できればペットについての取り決めは自由
協議離婚であれば、公序良俗に反しない限り、夫婦が合意することでペットに関して自由に取り決めることができます。
そのため、どちらがペットを引き取るかに限らず、離婚後のペットの費用負担やペットとの面会交流など、法律上の権利義務ではない事項についても取り決めることができます。
裁判離婚などと異なり、協議離婚はペットに関する事項を決める際の自由度が高いため、話し合いが可能なら協議離婚で決めるほうが良いケースもあります。
離婚調停
夫婦による話し合いで離婚ができないときは、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。
調停では、男女二人の調委委員を介して、話し合いが進められます。
そのため、当事者同士が顔を合わすことなく冷静に話し合いを進めることが可能です。
なお、調停も基本的には話し合いの手続きですので、当事者が合意できれば、ペットに関する事項について、比較的自由に取り決めることができます。
離婚裁判
調停で離婚や離婚条件について合意ができないときは、調停は不成立となります。
調停が不成立となったら、最終的には離婚裁判を起こして裁判所に離婚を判断してもらうことになります。
離婚裁判では、あくまでも法律上の権利義務について裁判所が判断することになります。
そのため、ペットの費用負担やペットとの面会といった法律上の権利義務にない事項について判断がくだされることはありません。
ペットのことを踏まえた離婚協議書の作成方法
協議離婚で離婚をするときは、以下のような事項を話し合ったうえで、合意した内容を離婚協議書などの書面に残しておくようにしましょう。
養育費(飼育費)
協議離婚では、ペットの養育費(飼育費)についても取り決めることができます。
内容としては、「ペットが死亡するまで毎月○○万円を支払う」など、養育費と同じようなイメージで記載をすると良いでしょう。
相手に飼育費を負担させるためには、飼育費の金額や支払い時期、支払い方法などを明らかにしておくと後々のトラブルを防止することができます。
面会交流
協議離婚ならペットとの面会交流についても、子供との面会交流と同じように定めることができます。
面会交流の日時や頻度、方法、連絡手段などを明確にしておくことで、離婚後の面会交流に関するトラブルを回避することができます。
なお、離婚後にペットとの面会交流を要求する権利はないため、離婚時に合意しておかなければペットと面会すること自体が困難になる可能性があります。
ペットとの面会を希望するときは必ず離婚時に合意しておきましょう。
引渡し条件
財産分与で相手がペットの所有権を取得したとしても、離婚後に事情が変わり、相手がペットを飼育できなくなることもあります。
そのため、「ペット飼育不可のアパートに引っ越したとき」、「経済的にペットの飼育が困難になったとき」などの際はこちらにペットを引き渡すことを条件として取り決めておくと良いでしょう。
養育費(飼育費)の強制執行は可能か
ペットの養育費(飼育費)について、負担義務を負う者がその義務を履行しないときは強制執行をすることが可能です。
通常の離婚協議書しか作成していないときは、養育費(飼育費)の支払いを求める裁判を起こし、裁判所に養育費(飼育費)の支払いを認める判決を出してもらうことで初めて強制執行の手続きをとることができます。
一方、離婚協議書を強制執行認諾文言付きの公正証書にしておけば、上記のような手続きをスキップして、直ちに強制執行の手続きをとることができます。
トラブルを回避し、強制執行を容易にするためにも協議離婚をする際は強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することをおすすめします。
ペットがいる夫婦が離婚する際の注意点
ペットがいる夫婦が離婚をするときは、以下の点に注意しましょう。
ペットによっては登録変更が必要
ペットとして犬を飼う際は所有者の登録を義務付けられているため、所有者としてすでに夫婦のいずれかが登録されているはずです。
そのため、離婚して犬の所有者が変わるときは、所有者の登録変更手続きが必要です。
どちらもペットを引き取ることができない場合
離婚後の生活環境によって、どちらもペットを引き取ることができないという事態が生じる場合があります。
どちらもペットを引き取ることができないときは以下の方法を検討しましょう。
里親を探す
どちらもペットを引き取ることができないときは、ペットを引き取ってもらうことができる里親を探しましょう。
家族や知人だけでなくインターネットで里親を探すこともできるため、ペットの飼い主として責任を持って里親を探すようにしましょう。
ペットを捨てる行為は動物愛護法違反
ペットを捨てる行為は動物愛護法違反となり、100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
大事なペットを捨てるということは決してしないように最後まで責任を持って対応してください。
保健所に相談する
ペットの引き取り先がみつからないときは保健所に相談するという方法もあります。
ただし、保健所に相談をするとペットを殺処分されてしまう可能性があります。保健所への相談はあくまでも最終手段と考えておきましょう。
ペットを含めた離婚問題は弁護士に相談
離婚時にペットの問題が絡むと、通常の離婚とは異なる配慮が必要になります。
ペットに関する問題は法律上の権利義務で解決できない事項も多いため、相手とうまく交渉をしながら離婚条件を決めていかなければなりません。
相手方との交渉をうまく進めるためには、弁護士に相談し、アドバイスを受けながら進めることをおすすめします。
弁護士に相談することで、離婚に関する面倒な交渉を弁護士に一任することができますし、法的見地から適切な離婚条件に導いてくれるため、有利に離婚しやすくなります。
ペットの問題以外にも離婚には取り決めなければならない事項がたくさんあります。
ペットを含めた離婚問題は弁護士に相談をすることをおすすめします。
まとめ
法律上、ペットは単なる物として扱われ、人間の子供と同じように扱うことはできず、特別な配慮が必要になります。
とはいえ、飼い主となったからには責任を持ち、愛するペットの幸せも考えて結論を出しましょう。
そのうえで、離婚の際に「ペットを引き取りたい」と考えている場合はまずは弁護士に相談することをおすすめします。
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