接近禁止命令とは|DVから身を守るための保護命令制度と手続きの流れ
配偶者からのDVに悩んでいる方も少なくありません。
DV被害を受けている方はとにかく身の安全を確保することが重要です。
このとき、所定の要件を満たしていれば、裁判所に届け出ることで接近禁止命令を出してもらうことができます。
この記事では、接近禁止命令とはどういうものかについて解説します。
- 目次
接近禁止命令とは
接近禁止命令とは、DV防止法(配偶者暴力防止法)に基づく保護命令の一つです。
配偶者からの暴力などによって、生命や身体に危険があるときに、暴力などを振るう配偶者の接近を禁止する措置を接近禁止命令と言います。
暴力を振るう配偶者からDV被害者が身を守るためには、DV防止法に基づく保護命令を利用することが有効です。
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接近禁止命令でできること
DV防止法に基づく接近禁止命令が発令された場合、以下のような行為が禁止されます。
接近禁止命令によって禁止できる行為
DV防止法に基づき発令される接近禁止命令は以下のような内容です。
「相手方は、命令の効力が生じた日から起算して6カ月間、申立人の住居(相手方と共に生活の本拠としている住居を除く)その他の場所において申立人の身辺につきまとい、又は申立人の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならない」
したがって、接近禁止命令によって禁止できる行為としては、以下のものになります。
- 申立人の身辺をつきまとうこと
- 申立人が通常所在する場所の付近を徘徊すること
このように、接近禁止命令が発令されることでDV加害者である配偶者と物理的な接触を避けることが期待できます。
そのため、DV被害者の生命・身体の安全を守る手段としては非常に有効な手段となります。
接近禁止命令の期限
接近禁止命令の効力は無期限に認められるわけではありません。接近禁止命令の期限は発令から6か月間になります。
もっとも、6か月間を超えて保護命令を継続する必要性があるときは期間の延長手続きをとることができます。
これについては「接近禁止命令の延長方法」にて後述します。
接近禁止命令だけでは不十分だと判断した場合
接近禁止命令は、DV加害者とDV被害者の直接の接触や接近を禁止するものであり、将来のDV被害を回避する手段としては非常に有効です。
しかし、実際には被害者の子供や親族、通信手段を介して間接的に接触してくることもあり、DVの態様は多種多様です。
そのため、被害者への物理的な接触のみを回避するだけでは不十分なケースも存在します。
接近禁止命令だけでは不十分という場合、以下のような保護命令を併せて申し立てることも必要です。
なお、下記のうち、電話等禁止命令、子への接近禁止命令、親族等への接近禁止命令は単独で申し立てることはできず、接近禁止命令と併せて申し立てなければなりません。
退去命令
DV加害者とDV被害者が同居している場合、同居する自宅からDV被害者が引っ越す準備をする必要があります。
このような場合、DV加害者に対し、引っ越し準備期間として2か月間自宅から出ていくことを命じたり、自宅の付近をうろつくことを禁止したりする命令が退去命令です。
電話等禁止命令
電話等禁止命令とは、DV加害者からDV被害者への面会の要求、深夜の電話やFAX、メール送信などの一定の迷惑行為を禁止する命令のことを言います。
子への接近禁止命令
子供が連れ去られるなどした場合、DV被害者がDV加害者に会わなければならなくなる可能性があります。
このような状態となるのを防ぐ必要があるとき、6カ月間、DV被害者と同居する子供の身辺につきまとったり、住居や学校など通常いる付近をうろついたりすることを禁止する命令のことを子への接近禁止命令と言います。
なお、子への接近禁止命令の対象となる子供はDV被害者と同居中の未成年者の子供になります。
親族等への接近禁止命令
DV加害者が、DV被害者の実家など被害者と密接な関係にある親族などの住居に押し掛けて暴れるなどした場合、DV被害者がDV加害者に会わなければならなくなる可能性があります。
このような状態となるのを防ぐ必要があるとき、6か月間、親族などの身辺につきまとったり、住居や勤務先などの付近をうろついたりすることを禁止する命令が親族等への接近禁止命令です。
接近禁止命令の申立てが可能な人
接近禁止命令を申し立てることができるのはDV被害者本人だけです。
たとえ接近禁止命令の対象に含まれていたとしても、DV被害者の親族や子供には申立てをする権限はありません。
ただし、DV被害者の代理人として、弁護士が接近禁止命令の申立てをすることは可能です。
接近禁止命令を申立てるための条件
配偶者によるDVがあればどのような場合でも接近禁止命令を申し立てることができるわけではなりません。
接近禁止命令を申し立てるためには、DV被害者とDV加害者との間に一定の関係があることが必要になります。
接近禁止命令を申し立てるための要件は以下の3つです。
①申立人と相手方が婚姻関係、事実婚関係、同棲関係にあること
DV防止法の「配偶者」には法律婚の夫婦だけでなく、事実婚の夫婦も含みます。
なお、平成25年の法改正によって、生活の本拠を共にする交際関係にある場合も保護の対象となりました。
②相手方による身体的な暴力や脅迫行為が①の期間になされたこと
DV加害者と①の関係にある期間に暴力や脅迫を受けたことも必要です。
ただし、DV加害者による暴力を受けたあとに離婚した場合でも、以前に受けた暴力などを理由に接近禁止命令を申し立てることができます。
しかし、離婚後に受けた暴力などを理由に接近禁止命令を申し立てることはできません。
離婚後の暴力については、ストーカー規制法によって対処が可能な場合があるため、警察に相談してみると良いでしょう。
③身体に対する暴力によって、生命または身体に重大な危害を加えられるおそれがあること
接近禁止命令が発令されるためには、「今後も引き続きDV加害者からの身体的な暴力が振るわれるおそれがある」という状況が必要になります。
「すでに遠方に引っ越した」「海外に転勤になった」というケースでは、この要件を満たさないため、接近禁止命令の発令は認められません。
接近禁止命令の申立て方法
接近禁止命令の申立てをするときには、以下の流れで行います。
事前に関係機関へ相談する
接近禁止命令を申し立てるためには、配偶者からの暴力について、事前に配偶者暴力相談センターや警察に相談をしておく必要があります。
これ以外の方法として、公証役場で配偶者から暴力を受けたことについての宣誓供述書を作成する方法もあります。
関係機関に対する相談や宣誓供述書のいずれもないという場合、接近禁止命令の申立てを行ったとしても接近禁止命令は発令されません。
接近禁止命令の申立て
接近禁止命令の申立ては、申立人または相手方の住所地かDV被害が発生した場所を管轄する地方裁判所に行います。
申立にあたって必要な書類と費用は以下のとおりです。
接近禁止命令の申立てに必要な書類
- 保護命令申立書
- 戸籍謄本、住民票(当事者間の関係を証明する資料)
- 診断書、写真(暴力などを受けたことを証明する資料)
- 陳述書、メールや手紙(今後も暴力によって重大な危害を受けるおそれがあることを証明する使用)
- 子供や親族の同意書(接近禁止命令の対象に子供や親族を含む場合に必要)
接近禁止命令の申立てに必要な費用
- 申立手数料の収入印紙:1,000円
- 郵便切手:2,300円(東京地方裁判所の場合) ※郵便切手の額や組み合わせは裁判所によって異なります。申立てをする裁判所に事前に確認をしてください。
口頭弁論・審問
接近禁止命令の申立てが受理されると、その当日か直近の日に裁判所で審問が行われます。
審問では、申立書や添付書類を踏まえて、申立人に対し、接近禁止命令発令の必要性があるかどうかについて裁判官が質問します。
質問された際は、これまで受けた暴力の経緯や内容、今後も暴力行為により危害を加えられるおそれが高いことなどを説明しましょう。
申立人からの審問のあと、相手方からも反論を聞くために同様の審問が行われます。
なお、相手方からの審問期日には申立人は出席する必要はありません。
接近禁止命令の発令
申立書や証拠、審問の内容を踏まえ、裁判官が接近禁止命令を発令するかどうかを審査します。
接近禁止の発令については、早ければ相手方の審問を行った日に発令されることもあります。
接近禁止命令の延長方法
接近禁止命令の有効期間は6か月とされています。
しかし、6か月を経過してもDV加害者から身体的暴力を加えられるおそれがあるときには、再度接近禁止命令の申立てをすることで有効期間を延長することができます。
厳密には期間の延長ではなく、再度の接近禁止命令の申立てです。そのため、改めて接近禁止命令の要件が審査されることになります。
接近禁止命令を延長できるケース
接近禁止命令を延長することができるケースとしては、すでに接近禁止命令の発令を受けてはいるものの、DV加害者が「保護命令が終わったら殴ってやる」と発言しているなど有効期間が終了後も身体的暴力が加えられるおそれがあるケースです。
単に「DV加害者が怖いから」というような抽象的な理由では接近禁止命令の延長は認められません。
接近禁止命令の延長を申立てる際に必要な書類
接近禁止命令の延長は「新たな申立て」という扱いになります。
そのため、「接近禁止命令の申立てに必要な書類」で説明した書類に加え、前回提出した保護命令申立書と保護命令謄本が必要です。
また、申立費用も初回の申立てと同額が発生します。
接近禁止命令が発令されているときの注意点
再度のDVを防止するために、接近命令が発令されたあとも以下の点に注意することが大切です。
相手方に知られない住居に住む
接近禁止命令の発令がされるとDV加害者によるつきまといや徘徊は禁止されます。
しかし、接近禁止命令が発令されたことでDV加害者が逆上し、禁止されているにもかかわらず、被害者への接触を試みようとすることがあります。
そのため、再度DV加害者から暴力を受けることのないように、DV加害者の知らない住居に住むか、自治体のシェルターを利用するなどの対策をとることが大切です。
参考:総務省「配偶者からの暴力(DV)、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の方は、申出によって、住民票の写し等の交付等を制限できます。」
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役所や警察に連絡しておく
DV加害者の知らない住居に住んだとしても、DV加害者に住民票を取得されてしまえば住所を知られてしまいます。
そのため、引っ越しして住民票を移す際は、市区町村役場でDV等支援措置の申出を行い、住民票の交付や閲覧に制限をかけておくと良いでしょう。
DV等支援措置の期間は1年間ですが、期間満了の1か月前から期間の延長の申し出が可能です。
また、接近禁止命令が発令されたら警察にも連絡し、何かあったときの対応を依頼しておくと良いでしょう。
事前に連絡しておくことで、DV加害者が押し掛けてきたなどの事態があったときにすぐに対応してもらいやすくなります。
相手方が接近禁止命令に従わない場合
接近禁止命令が発令されたにもかかわらず、DV加害者が接触してきたときは、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰が科されます。
このような制裁があるため、接近禁止命令が発令されることには一定の効力があります。
しかし、DV加害者のなかには、このような制裁があったとしても接近禁止命令に従わない人もいます。
接近禁止命令に違反してまで接触してくる場合、生命や身体に重大な危害が加えられるおそれがあります。
迷うことなく警察に通報するようにしてください。
接近禁止命令の取り消し方法
接近禁止命令の発令を受けたあと、事情が変わったなどの理由で接近禁止命令が必要でなくなることもあります。
このような場合、申立人はいつでも接近禁止命令の取り消しの申立てができます。
しかし、相手方(DV加害者)が接近禁止命令の取り消しを求める場合は、以下の要件が満たされない限り、接近禁止命令を取り消すことができません。
- 接近禁止命令の発令を受けた申立人が取り消しに異議がないこと
- 接近禁止命令の効力が生じた日から起算して3か月を経過していること
相手方から、接近禁止命令の取り消しの申立てがあった場合、裁判所は、接近禁止命令の発令を受けた申立人に異議がないことを確認します。
申立人の確認がとれた場合は接近禁止命令が取り消されることになります。
まとめ
配偶者からDV被害にあっている方にとって、DV防止法に基づく接近禁止命令は有効な手段となります。
安心・安全な生活を手に入れるためにも、早期に接近禁止命令の申立てを検討しましょう。
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