「子供がほしいから…」不妊で離婚を考える人が知っておくべきこと。

その他離婚理由
弁護士監修
「子どもがほしいから…」不妊で離婚を考える人が知っておくべきこと。

現代では不妊に悩む夫婦が増えています。子供を儲けるかどうかは夫婦にとって大きな問題です。したがって、子供ができないことや不妊治療が原因で、夫婦の関係がギクシャクしてしまうこともあります。

ここでは、不妊が夫婦関係を悪化させる理由について分析し、不妊を理由に離婚できるかどうか、離婚の際に慰謝料を請求できるかについて解説します。

目次
  1. 不妊の定義と現状
    1. 不妊とは
    2. 現代の日本で不妊に悩む夫婦は多い
  2. 不妊が原因で夫婦間に溝ができることがある
    1. 不妊をきっかけに夫婦の価値観の違いが浮き彫りに
    2. 不妊治療が夫婦関係を悪化させることも
  3. 不妊は離婚事由として認められる?
    1. 法律上の離婚事由とは?
    2. 不妊自体が離婚事由になるわけではない
    3. 不妊から夫婦関係が悪化し離婚事由に該当することがある
    4. 2人目以降ができない場合の離婚可否
  4. 不妊で離婚する場合の慰謝料は請求できるのか
    1. 離婚の慰謝料が発生するケースとは?
    2. 不妊が原因の離婚で慰謝料を請求するのは困難
    3. 不妊が理由で一方的に離婚を言い渡された場合には?
  5. 不妊離婚を回避して夫婦で乗り越えるために大切なこととは。
  6. まとめ

不妊の定義と現状

不妊とは

不妊とは、健康な男女が避妊をしないで性交を続けているにもかかわらず一定期間妊娠しない状態を言います。ここでいう一定期間は、WHOや日本産科婦人科学会では1年間と定義されています。

過去には不妊というのは、女性に原因があるものと考えられていた時代もありました。しかし現在では、不妊の原因が、男性、女性のどちらにあるケースもあることが明確になっています。

WHOの発表によると、加齢を考慮しない場合、不妊の原因が女性のみにあるケースは約4割、男性のみにあるケースは約2割、両方に原因があるケースが約2割、そもそも原因がわからないケースが約1割と言われています。

現代の日本で不妊に悩む夫婦は多い

現代は、晩婚の時代と言われています。

厚生労働省が行っている人口動態調査によると、1910年の初婚年齢は男性27.0歳、女性23.0歳という結果でした。それ以降ほぼ上昇の一途をたどり、90年後の2020年には男性31.0歳、女性29.4歳にまで到達しています。

1995年の時点では男性28.5歳、女性26.3歳でしたから、直近25年間だけで男女とも3歳程度上昇していることになります。晩婚化が進んだことは、不妊治療を受ける人を増加させる結果にもつながっています。

国立社会保障・人口問題研究所の2015年の出生動向基本調査によると、不妊を心配したことのある夫婦は全体の35.0%、不妊治療をしたことがある夫婦は全体の18.2%となっています。

現代の夫婦の3組に1組は不妊に悩んだことがあり、5.5組に1組程度は不妊治療も経験していることがわかります。

参考:内閣府「平成16年版 少子化社会白書(全体版)5 平均初婚年齢の推移(https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/html_h/html/g3350000.html)」※1
厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況 結果の概要(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/kekka.pdf)」※2
国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査) 第Ⅱ部
夫婦調査の結果概要(https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/NFS15_report4.pdf)」※3

不妊が原因で夫婦間に溝ができることがある

不妊をきっかけに夫婦の価値観の違いが浮き彫りに

昔は、結婚すれば子供ができるものと、当たり前のように考えられていました。

しかし、晩婚化や価値観の多様化により、今は子供のいない夫婦も珍しくはなく、敢えて子供を儲けない選択も受け入れられる時代となっています。

「不妊治療をしてでも子供を儲けたい」
「自然に任せたい」
「子供はほしくない」

など、一人一人考え方は違います。夫婦で子供をめぐる意見が一致しないこともあるでしょう。

子供についてよく話し合わないまま結婚した場合、不妊という状況に直面してはじめて、お互いの価値観の違いに気付くことがあります。

子供を儲けたいかどうかは、人生をどう生きたいかにもつながってくる問題です。

子供のことでお互いが歩み寄ることができなければ、夫婦で協力しながら生きていく意味を見いだせなくなってしまうこともあるかもしれません。

不妊治療が夫婦関係を悪化させることも

子供がほしいにもかかわらず不妊の状態である場合、不妊治療をするかどうかを考えると思います。不妊治療は費用がかかるうえに、治療すれば確実に効果が見込めるものでもありません。

不妊治療にはパートナーの協力も欠かせず、一方の意思だけで進めるわけにもいかないという側面もあります。

また、夫婦で納得して不妊治療を始めたけれど成果が出ない場合に、一方が「治療をやめたい」、他方が「治療をやめたくない」と、意見が分かれてしまうこともあります。

不妊治療の過程では、特に女性は心身の負担が大きくなってしまいます。夫は自分の意見を押し付けすぎず、妻にできるだけ配慮すべきでしょう。

しかし、現実には夫婦間のコミュニケーションがうまくいかず、すれ違ってしまうこともあります。

たとえば、妻が不妊治療に疲れてしまったとき、夫の心無い言葉や態度が妻の心を傷つけてしまい、修復が難しくなってしまうようなことも起こりがちです。

不妊は離婚事由として認められる?

不妊は離婚事由として認められる?

法律上の離婚事由とは?

夫婦間に問題が起こったとき、理由は何であれ双方とも離婚に合意すれば、協議離婚という形で離婚できます。

一方が離婚したいのに他方が離婚に応じない場合には、どうしても離婚したければ、裁判所を通さねばなりません。

この場合、裁判で離婚を認めてもらうには、民法770条1項1~5号に定められている離婚原因(法定離婚事由)のいずれかに該当している必要があります。

法定離婚事由は、次の5つになります。
  1. 配偶者に不貞な行為があったとき
  2. 配偶者から悪意で遺棄されたとき
  3. 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
  5. その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

不妊自体が離婚事由になるわけではない

不妊、すなわち子供ができないこと自体は離婚事由には該当しません。ただし、不妊であることが「婚姻を継続し難い重大な事由」(5号)と言える場合には離婚事由となる可能性はあります。

たとえば、跡継ぎを産まなければならないなど、子供を儲けることが結婚の主な目的であった場合には、不妊を理由にした離婚も認められる余地はあるでしょう。

結婚して子供を儲けるかどうかは、個人の価値観が大きくかかわってくる繊細な問題です。

不妊を理由に離婚できるかについて、判例上明確な基準があるわけではありません。

基本的には、裁判になった場合でも、他の事情と合わせてケースバイケースの判断がされることになります。

不妊から夫婦関係が悪化し離婚事由に該当することがある

上述のとおり、不妊自体が離婚事由になることはありません。しかし、不妊をきっかけに夫婦関係が悪化し、結果的に離婚事由に該当することはあります。

たとえば、不妊治療に疲れて一方が浮気をした場合には、不貞行為(1号)となります。一方が出て行ってしまえば、悪意の遺棄(2号)となることもあるでしょう。

その他にも、不妊をきっかけに婚姻を継続し難い重大な事由(5号)が発生してしまうこともあります。

たとえば、

    • 喧嘩がエスカレートして暴力をふるってしまった場合
    • 不妊でうつになってしまった場合
    • 子供を作らねばというプレッシャーが大きく逆にセックスレスになってしまった場合

などが考えられるでしょう。

不妊がきっかけで、結婚生活を続けていくことが困難な問題が起こることがあります。

不妊自体が離婚事由になることはまれですが、不妊を原因に夫婦関係がぎくしゃくしてしまうことはよくあります。

夫婦関係が悪化した結果、離婚事由に該当してしまうことも珍しいことではありません。

2人目以降ができない場合の離婚可否

最初から不妊だったわけではなく、「2人目がほしいのにできない」という2人目不妊のケースもあります。

2人目以降ができない場合でも、それ自体が離婚事由になることはないですが、それをきっかけに夫婦関係が悪化すれば離婚事由に該当することはあります。

ただし、裁判になった場合、1人目の不妊よりも2人目の不妊のほうが、離婚が認められにくい傾向があります。

というのも、すでに1人目の子がいる以上、子供の福祉を優先する必要性が出てくるからです。

たとえば、離婚によって子供が経済的に不安定な状態に置かれてしまう場合、一方の「離婚したい」という要求を簡単には認めるわけにはいきません。

子供の福祉と照らし合わせても離婚を認めたほうがよいような事情がなければ離婚はできないことになります。

不妊で離婚する場合の慰謝料は請求できるのか

離婚の慰謝料が発生するケースとは?

慰謝料とは、他人に精神的苦痛を加えてしまった場合の損害賠償金のことです。

離婚するとき、みずからの有責行為により離婚原因を作り相手を傷つけてしまったなら、他方に対して慰謝料を払う義務があるとされています。

離婚原因がどちらか一方にあるようなケースでなければ、基本的には慰謝料は発生しません。

また、相手に慰謝料を請求できるケースでも、必ず慰謝料をもらわなければならないわけではなく、実際に慰謝料を請求するかどうかは任意になります。

不妊が原因の離婚で慰謝料を請求するのは困難

離婚の慰謝料が発生するのは、離婚原因を作った側の行為に違法性があるときです。

不妊は本人に責任があるようなものではありませんから、不妊自体が原因で離婚にいたっても慰謝料は通常発生しません。

たとえば、相手が不妊であることを自覚していたにもかかわらず、その事実を意図的に隠して結婚した場合には、相手に落ち度があるとも考えられます。

しかし、この場合でも慰謝料を払わなければならないほどの違法性があるとは言い難いため、慰謝料を請求するのは困難でしょう。

もちろん、不妊をきっかけに不貞行為や暴力行為などの違法行為を行った場合には、そのことについて慰謝料を請求できます。

不妊が理由で一方的に離婚を言い渡された場合には?

不妊を理由に相手から離婚を要求された場合、仮に裁判で離婚が認められたとしても、相手の行為に違法性がなければ慰謝料は発生しません。

しかし、法律的には慰謝料の支払義務がなくても、離婚したい側が慰謝料名目の金銭を支払って離婚したくない側の了承を得ることは、協議離婚ではよく行われています。

一方的に離婚を要求され納得がいかない場合には、弁護士に相談して間に入ってもらうことで、金銭的な決着を図り、円満な形での協議離婚ができる可能性があります。

不妊離婚を回避して夫婦で乗り越えるために大切なこととは。

不妊が原因で離婚することにならないように、

  • 子供を儲けるかどうか
  • 不妊の場合に不妊治療をするかどうか

など、夫婦間で最初によく話し合っておくことが大切です。

不妊は本人に責任がある問題ではありません。思い通りにならないことへの不満よりも、相手に対する思いやりの気持ちを持って、夫婦で乗り越えていくことを目指しましょう。

まとめ

不妊は離婚事由には該当しません。しかし、不妊が「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するような場合、離婚が認められる可能性があります。

もし不妊がきっかけで夫婦関係が修復不可能になってしまった場合、離婚するにしても慰謝料などのお金の清算が必要です。

離婚を考えたら弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。

当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。

※1 内閣府「平成16年版 少子化社会白書(全体版)5 平均初婚年齢の推移
※2 厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況 結果の概要
※3 国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査) 第Ⅱ部夫婦調査の結果概要

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