年金分割するなら情報通知書が必要!知っておくべき請求方法と注意点。
離婚したいと思ったら「一刻も早く配偶者と離れたい」と思う方も多いでしょう。
しかし、急いで離婚した結果、時間が経ってから後悔することもあります。離婚後に後悔しやすいことの1つが年金に関わる問題です。
例えば専業主婦の妻で、婚姻中会社員の夫に扶養されていたとします。この場合、将来妻が受け取れる年金はごく少額になってしまいます。
このとき、夫が支払ってきた厚生年金保険料の納付実績を夫婦の共有財産として分割する制度を「年金分割」と言い、年金分割をする際に必要となるのが「情報通知書」になります。
今回は情報通知書についての詳しい解説や必要になる理由、請求の流れや注意点などを紹介します。
離婚後に後悔したくない方や年金分割、情報通知書について知りたい方は参考にしてください。
- 目次
離婚による「年金分割」とは
年金分割とは、離婚の際に婚姻中の厚生年金納付実績を分け合うことを言います。
夫婦は互いの協力のもとに生活を営んでいます。将来受給する老齢年金の原資も、互いの協力があってこそ支払いができているわけです。
しかし、専業主婦とサラリーマンなど年金納付実績が大きく異なる夫婦は将来受給できる年金に差が生じます。
年金分割は、年金受給における夫婦間の不公平をなくすために婚姻中の年金納付実績を離婚時に分ける制度で、当事者のうちどちらか一方または双方から請求を行います。
なお、年金分割の対象となるのは婚姻中の厚生年金納付実績となります。国民年金部分については年金分割の対象外となります。
離婚による年金分割制度の種類
年金分割制度には下記の2つの種類があります。
合意分割
合意分割とは、名前のとおり、夫婦が話し合い、合意することで年金分割を行うものです。
合意分割であれば、婚姻期間中の厚生年金記録について最大2分の1までの割合で自由に決めることができます。
合意分割は2007年4月1日以降に離婚した夫婦に適用される制度のため、それ以前に離婚した場合は対象外となります。
なお、合意分割は離婚後に元夫婦が揃って年金事務所に行き、手続きを行う必要があります。
3号分割
3号分割とは第3号被保険者が配偶者に請求することで、婚姻期間中の相手方の年金納付実績を半分に分ける制度です。
合意分割と違い、相手方の同意は必要なく、第3号被保険者単独で請求ができます。
なお、第3号被保険者とは、第2号被保険者(サラリーマンなど厚生年金に加入している人)に扶養されている配偶者であって、20歳以上60歳未満かつ年収130万円未満の人を言います。
3号分割を請求できるのは2008年4月以降に第3号被保険者であった期間の年金納付実績になります。
離婚による年金分割制度の請求期限
年金分割は離婚した日の翌日から2年以内に行う必要があり、期限を過ぎると年金分割の請求権は消滅します。
財産分与や慰謝料などと異なり、年金は離婚後すぐに受給できるものではありません。
離婚時には年金のことまで考えておらず、あとになって請求しようと思っても手遅れというケースもあるため注意しましょう。
年金分割のために必須!「情報通知書」とは。
年金分割は婚姻中の年金納付実績を分ける制度で、具体的には、婚姻中の標準報酬額が多かった側が少なかった側に年金の納付実績を分けることになります。
たとえば夫が会社員としての収入で家計を支え、妻はパート勤務で自分のお小遣い程度の収入を得ていたとします。
この場合、妻の収入のほうが少なかったことになるため、夫が妻に年金の納付実績を分けることになります。
年金分割を希望する場合、夫婦それぞれがどれくらいの割合で分割するかを協議あるいは裁判で決定する必要があります。
この割合を決定するために必要な情報をまとめたものが情報通知書と呼ばれる書類です。情報通知書に記載されている内容は以下のとおりです。
年金分割をする側とされる側の情報
情報通知書においては、年金分割する側(標準報酬額が多い方)を「第1号改定者」、される側(標準報酬額が少ない方)を「第2号改定者」と表示します。
情報通知書にはこの両者の氏名や生年月日、基礎年金番号が記載されています。
年金分割可能な割合の下限
年金分割の上限は50%です。分割できる年金の割合は最大でもお互い半々までとなります。
そのため情報通知書には「○○%を超え、50%以下」と記載されており、これを按分割合と呼びます。そのほか、 婚姻期間 対象期間標準報酬総額 対象期間(年金分割の対象となる期間) などの情報も記載されています。
情報通知書が必要になる場面としては、年金分割について協議するときや分割の合意が取れずに調停の場へ持ち込むことになったときです。
按分割合を決定するにあたり、公証人は上記の事柄を確認したうえで離婚公正証書を作成します。
情報通知書の請求に必要なものと請求方法
情報通知書を請求するにあたり、必要な書類は以下のとおりです。
- 年金分割のための情報提供請求書
- 請求者の年金手帳もしくは基礎年金番号通知書
- 婚姻期間を確認できる書類(市区町村の証明書もしくは戸籍謄本・抄本など)
- 事実婚関係の場合はそれを明らかにできる書類(世帯全員の住民票の写しなど)
- 国民年金第3号被保険者加入期間証明書
「年金分割のための情報提供請求書」は年金事務所でもらうか、日本年金機構のwebサイトからダウンロードすることもできます。
その他の書類は、いずれも市役所・区役所で簡単に手に入れられる書類ばかりですので抜け漏れなく用意しておきましょう。
上記の書類を持参したうえで以下の場所にて請求をおこないます。請求場所は会社員か公務員かで異なります。
さらに公務員のなかでも国家公務員か地方公務員かによって請求をおこなう場所が異なるため注意が必要です。
- 会社員の場合:地域の年金事務所、年金相談センター
- 国家公務員の場合:国家公務員共済組合、共済組合連合会本部
- 地方公務員の場合:共済組合、全国市町村職員組合連合会、地方公務員共済組合連合会
請求後、情報通知書が郵送されてくるまで1週間程度とされています。しかし、公務員や私立の学校教員であった場合には、やや時間がかかり1ヵ月程度かかることもあるようです。
書類を用意したり窓口に足を運んだりと手間を感じてついつい後回してしまいがちですが、離婚に向けた準備をスムーズに進めるためにも早めに手配しましょう。
参考:日本年金機構「年金分割のための情報提供請求書(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/kyotsu/20181011-05.files/12_650.pdf)」※1
情報通知書を請求するタイミングは婚姻中がおすすめ!
「年金分割のための情報提供請求書」は全8ページの書類です。聞き慣れない項目も多く記入するには難易度の高い書類です。
情報提供請求書に記入するのは前半4ページ分です。後半4ページには記入方法についての詳しい解説が載っていますが読むだけでも大変です。
また、ところによっては記入の必要がない項目もあります。
何を書けばいいのかわからず詰まってしまったり誤った情報を記入して修正だらけになったりしては、それだけで精神力を使ってしまいます。
所定の請求窓口でスタッフから説明を聞きながら記入するほうが良いでしょう。
また、情報通知書を請求するのは婚姻中がおすすめです。離婚後の請求は思わぬトラブルに発展することもあります。以下で詳しく見ていきます。
婚姻中と離婚後における情報通知書の交付先について
情報通知書は、婚姻中に請求すると請求者のみに届き、離婚後に請求すると元夫・元妻の両方に交付されます。
離婚後に請求すると、請求していない側にも情報通知書が届くため年金分割の手続きを進めていることに気づかれてしまうということです。
離婚しているのであれば年金分割は正当な権利であり、なんら問題ないと思うかもしれません。
しかし、まだ年金分割をするかどうかが決まっておらず、情報通知書を見て決めるつもりだった場合はトラブルに発展しかねません。
一方、婚姻中の請求であれば情報通知書は請求した人のところにだけ交付されます。
情報通知書を確認するのは自分だけですから、情報通知書を見た結果、年金分割の手続きをやめることもできます。
しかし、離婚後に請求すると元夫(元妻)も情報通知書を見ることになります。そのため、自分だけで年金分割の手続きをするかどうかを決めにくくなるのです。
請求者の報酬額が多かった場合は要注意
離婚後に情報通知書を請求した際にトラブルになりやすいのが「情報通知書を請求した側の標準報酬総額が、請求していない側より多かったケース」です。
離婚後の請求では両者に情報通知書が交付されるため、請求していない側も按分割合を知ることになります。
つまり、請求していない側に年金分割の知識がなかったとしても、この情報通知書をきっかけに年金分割を求められる可能性が高いということです。
離婚後の年金分割を検討していて下記の情報を知りたい場合は離婚前に情報通知書を請求するようにしましょう。
- 自分が第1号改定者、第2号改定者のどちらに該当するのか
- 按分割合はいくらになのか
年金分割を請求する際は公正証書を作成して記載しておく
離婚したいと思ってからすぐに離婚届の提出にいたるケースはまれです。話し合いがもつれると、調停になったり弁護士に依頼したりと、なにかとお金や時間がかかるものです。
離婚後に揉めないためにも、離婚協議書を作成し、取り決めた内容を書面の形で残しておきましょう。
このとき、年金分割についてもしっかりと記入しておきましょう。離婚協議書を作成する際は公正証書にしておくことで法的効力を高めることができます。
離婚協議書や公正証書を作成する際は弁護士に依頼することをおすすめします。
離婚は年金分割だけでなく、決めなければならないことが多岐に渡ります。また、当事者のみで離婚協議書を作成すると抜け漏れなどが発生することもあります。
弁護士に依頼すれば、抜け漏れなく手続きを進めてくれますし、法的に有効な書類を作成してもらえます。
また、わからないことがあれば相談しながら進められますし、公証役場での手続きも代行してもらえます。
離婚の手続きを穏便かつスムーズに進めるためにも弁護士に依頼することをおすすめします。
まとめ
夫が外で働いている間に家庭を守っていたのはまぎれもなく妻です。財産分与や養育費などと同様に正当な権利ですので、離婚後の生活のためにも請求を検討すると良いでしょう。
年金分割の情報通知書は請求する時期や交付先など注意点が多くあります。弁護士に相談しながら抜け漏れなく進めることをおすすめします。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は年金分割をはじめ、離婚問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。
※1 参考:日本年金機構「年金分割のための情報提供請求書」
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