離婚後も同じ苗字を名乗れる?旧姓に戻すメリット・デメリットとは。
離婚した場合に氏(苗字)はどうなるのでしょうか。
日本では結婚するときに女性が男性の氏を名乗ることにするのが多数だと思います。そのようなケースを想定した場合、離婚後、女性の氏はどうなるのでしょうか。
また、子供がいる場合には子供の氏はどうなるのでしょうか。
以下、結婚時に女性側が氏を変えた場合を例に説明します。
- 目次
離婚した人の苗字はどうなる?
現在、日本では民法によって夫婦同氏と定められています。したがって、結婚したら、夫婦いずれかの苗字に統一しなければなりません。
第750条
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
では、離婚した場合は夫婦の苗字はどうなるのでしょうか。
離婚した場合、結婚する際に苗字を変えた人(この場合は妻)は、原則として以前の苗字に戻ることになります(=復氏)。
ただし、離婚から3か月以内に届出をすれば、離婚前(婚姻中)の苗字を使い続けることができます(=婚氏続称)。
つまり、結婚する際に苗字を変えた人は、離婚の際に自分の都合に応じて離婚後の苗字を選ぶことができるのです。
仕事の都合などで婚姻中の苗字を使い続けたい人にとってはありがたい制度です。
なお、離婚から3か月が過ぎてしまうと、この届出をすることはできません。
離婚して3か月以上経過してから婚姻中の苗字を名乗りたい場合、家庭裁判所に氏の変更許可の申し立てをしなければ苗字を変更することはできません。
氏の変更には「やむを得ない事由」があることが必要であり、必ず変更が認められるとは限りません。くれぐれも期間を過ごしてしまうことには注意しましょう。
旧姓に戻る場合
離婚後、特別な手続きをしなければ妻の苗字は旧姓に戻ります。では、旧姓に戻るとどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
旧姓に戻るメリット
離婚後に旧姓に戻るメリットには以下のようなものがあります。
気持を切り替えて新しい生活に踏み出しやすくなる
離婚するということは、結婚生活を続けるよりも、離婚して他人に戻るほうがメリットがあると考えたからではないでしょうか。
それなのに、離婚後に離婚前の苗字(この場合夫)を名乗り続ければ、違和感を感じることもあるでしょう。
旧姓に戻れば、心機一転、新しい生活に踏み出しやすくなるでしょう。
元夫も気持ちを切り替えられる
妻が旧姓に戻ることで夫にもメリットがあります。
たとえば、夫は離婚後に再婚したいと思うこともあるでしょう。このとき、元妻が離婚前の苗字を使っていることに対して夫の再婚相手がよく思わないこともあります。
再婚後に離婚しても旧姓に戻れる
夫の場合と同様に妻も離婚後に再婚する場合があります。ただし、この場合は注意が必要です。
実は、離婚後に戻せる旧姓は「ひとつ前の苗字」に限られます。
したがって、一度目の離婚後に旧姓に戻さなかった場合、再婚して離婚すると(いわゆるバツ2)、戻ることができる苗字は一度目の結婚相手の苗字だけなのです。
しかし、一度目の離婚で苗字を旧姓に戻しておけば、再婚後にも旧姓に戻ることができるのです。
旧姓に戻るデメリット
次に旧姓に戻るデメリットについて解説します。
名前や名義の変更手続きが必要
離婚して旧姓に戻ると、婚姻中と苗字と変わることになります。したがって、さまざまな場面で名前や名義変更の手続きが発生します。
これらのほかにも、勤務先や名前が入ったものに関して変更手続きが必要になります。
子供が親権者と同じ苗字を名乗れない
子供を持つ夫婦が離婚し、母親が親権を持ったと仮定します。このとき、母親は通常どおり旧姓に戻ったとします。
では、旧姓に戻った母親と生活をする子供の苗字はどうなるのでしょうか。
実は、親が離婚しても子供の戸籍には何の変化も起こりません。したがって離婚によって子供の苗字も変わりません。
親権者の定めと苗字に関係がありません。つまり、旧姓に戻った母親が親権者であっても、子供の苗字は離婚前の苗字と変わらないのです。
このとき、親権者と子供の苗字が異なるという事態が発生します。親子であれば同じ苗字の方がいいと考えるのは自然なことです。
また、子供が友だちから「どうしてお母さんと苗字が違うの?」などと言われ、傷つくこともあります。
では、子供の苗字を母親の苗字と同じにすることはできるのでしょうか。
子供の氏の変更を許可する審判を家庭裁判所に申し立てると、子供の苗字を自分と同じ苗字に変えることができます。
この場合、家庭裁判所が審判手続で審理したうえで氏の変更を許可するかどうか決めます。
子供が母親と同じ苗字を名乗るための氏の変更は母親自身の氏の変更とは違って認められやすくなっています。
氏の変更は通常書面のみで許可の審判が出るため、手続は簡単です。費用も印紙代800円と切手代程度で済みます。
氏の変更許可の審判が出た後、入籍届を出せば子供は父親の戸籍から母親の戸籍に入ることができます。その後、子供は母親の苗字を名乗れることになります。
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期限が過ぎてから申請する際、どのような場合に家庭裁判所の許可がおりるのか
離婚後3か月以上経過したあとに氏の変更許可の申立てを行う際、どのような理由であれば家庭裁判所の許可がおりるのでしょうか。
氏の変更については以下のように定められています。
「やむを得ない事由によって氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」(戸籍法107条1項)
どのような場合に許可がおりるのかについては統一的な判断がなく、ケースバイケースと言わざるを得ないのが現状です。
ただし、「離婚時に復氏を望んでいたが仕事や子供の関係で婚氏続称を選択した。その後、状況が変わり、復氏にすることに支障がなくなった」というようなケースでは婚氏続称後に旧姓に戻す判断がおりる可能性もあります。
なお、家庭裁判所が判断する際は以下のような項目を総合的に鑑みて判断することになります。
- 借金などの不当な目的がない
- 子の氏についての意思
- 祭祀継承者になるなどの事情がある など
氏の変更が認められるかどうかについては、専門知識が必要になります。詳しくは弁護士にご相談ください。
離婚後も離婚前の苗字を用いる場合
前述のとおり、離婚から3か月以内に届け出をすれば離婚前の苗字を名乗ることもできます。
では、妻が離婚しても離婚前(婚姻中)の苗字を名乗ると、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
離婚前の苗字を用いるメリット
離婚前(婚姻中)の苗字を離婚後に用いるメリットには以下のようなものがあります。
名前の変更手続きが不要
旧姓に戻る場合とは反対に、苗字が変わらないため、クレジットカードなどや銀行口座などの変更手続きが不要になります。
結婚して苗字が変わった人は結婚の際に、さまざまな変更手続きを経験したと思います。離婚で面倒な手続きを省けることはメリットといえます。
周りに離婚が知られずに済む
離婚しても苗字が変わりませんので、自分から「離婚しました」と言わなければ離婚の事実を知られずに済みます。
では、子供に関してはどうでしょうか。この場合、母親と子供の苗字が同じになります。したがって生活するうえでの不都合はなくなることになります。
ただし、ここで注意することがあります。それは母親と子供の苗字が同じであっても法律上、戸籍は別であるということです。
両親が離婚しても子供は母親ではなく父親の戸籍に入った状態のままになります。
母親が復氏しない(旧姓に戻らない)で結婚中の苗字を使う場合、母親は母親単独の戸籍が新たに作られることになります。
しかし、この場合も子供の戸籍には何も変化はありません。したがって、母親と子供が同じ苗字であったとしても戸籍が異なるということになるのです。
子供を自分と同じ戸籍に入れる場合、前述で説明した子の氏の変更許可を家庭裁判所に申し立てる必要があります。この場合も、親権者の申し立てなら許可が出やすい傾向があります。
離婚前の苗字を用いるデメリット
離婚前(婚姻中)の苗字を離婚後に用いるデメリットには以下のようなものがあります。
離婚しても気持ちの切り替えがしにくい
離婚した夫婦のなかには「二度と元夫(妻)と関わりたくない!」と考える人もいるでしょう。
それにも関わらず、離婚後も夫の苗字を名乗り続けることは不愉快だと感じるのは当然です。
また、せっかく離婚して気持ちを切り替えたいのに、離婚した夫の存在がチラついてしまうこともあります。
なかには「離婚した夫に未練があるのか」と思われることもあります。
再婚後に離婚したとき旧姓に戻りにくい
離婚したあと、再婚後に離婚するということも珍しくありません。このとき戻ることができる旧姓とは「ひとつ前の苗字」です。
つまり、婚氏続称の手続きをとり再婚後に離婚した場合、一度目の結婚相手の苗字に戻ることになるのです。
一度目の離婚後に婚氏続称の手続きをとると、再婚後に離婚する場合、ふたつ以上前の苗字に戻すには家庭裁判所の氏の変更許可が必要になります。
ですから、離婚後の苗字や戸籍をどうするについては慎重に考える必要があります。
まとめ
以上、離婚後の苗字について説明してきました。
離婚後の苗字や戸籍は、自分だけでなく子供の生活にも影響があります。わからないことがあったら、弁護士などの専門家に相談してみましょう。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。
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