卒婚とは|離婚との違いや卒婚したいと思ったときに知るべきこと
最近、熟年夫婦の間で卒婚が話題になっています。
卒婚とは、離婚せずにこれまでの夫婦関係を解消するという新しい夫婦の形です。
長年夫婦として関係を続けたものの、「これからは自由に生きたい」と考える人が増えているのです。
この記事では卒婚とはどういうものか、卒婚のメリット・デメリットなどについて解説します。
- 目次
卒婚とは
卒婚とは、戸籍上は婚姻関係を維持したまま、夫婦関係を解消(卒業)することです。
2000年代以降の日本で生まれた夫婦の新しい形です。書籍「卒婚のススメ」で使用された造語で、法的な定義はありません。
芸能界でも清水アキラさんや上沼恵美子さんなどが卒婚を公表され、話題になっています。
卒婚と離婚の違い
離婚と卒婚の決定的な違いは「戸籍上の婚姻関係の有無」です。戸籍に変更はないため、戸籍上は夫婦ということになります。
卒婚は別居か同居かを問わないため、別居している夫婦もいれば、同居しながら互いに自由に暮らすスタイルをとる夫婦などさまざまです。
卒婚のメリット
離婚ではなく、あえて卒婚を選ぶメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
面倒な手続きが不要
離婚には役所での手続きや相手方との交渉など、面倒な手続きがたくさんあります。
卒婚は戸籍の変更がないため、面倒な手続きは不要です。
互いに干渉することがない
法律上は婚姻関係を維持していますが、夫婦関係を解消しているため、無理に相手に合わせる必要はなく、干渉されることもありません。
自由に生活できるため、精神的にも楽になります。
居住スタイルを自由に選択できる
卒婚は、別居か同居かなど居住スタイルを問いません。お互いに同意できれば別居でも同居でも良いのです。
離婚後に同居を続けていると偽装離婚を疑われることもありますが、卒婚ならその心配はありません。
なお、卒婚の主な居住スタイルは次の3つです。
別居卒婚
完全に別々の生活を送りたいなら別居卒婚が良いでしょう。
別居すれば、相手と顔を合わせる頻度もぐっと少なくなりますし、伸び伸び過ごすことができます。
離婚はしていないため、配偶者としての権利を維持したまま、自由に生活を楽しめます。
家庭内卒婚
別居するとなると引越費用や家賃などの費用が発生します。
「卒婚をしたいけど経済的に余裕がない」という場合は家庭内卒婚も選択肢の一つです。
一緒に暮らしているため、別居卒婚と比較すると顔を合わせる頻度は増えます。
しかし、夫婦が別々で家事をしたり、家事に対して報酬を払ったりするなど干渉し合わないよう工夫することもできます。
週末卒婚
週末婚ならぬ、週末卒婚という形もあります。平日は同居し、週末だけどちらか一方がホテルなどに宿泊するスタイルです。
ちょっとだけ一人になりたい、仕事や家事の都合で平日は互いのサポートが必要という夫婦は週末卒婚も選択肢に入れると良いでしょう。
相続関係を維持できる
卒婚は離婚とは異なり、配偶者の相続権を持ち続けることができます。
離婚してしまうと、配偶者の財産を相続することはできません。相続権を持ったまま、相手に縛られることなく自由に生活できるのが卒婚です。
互いに世間体を保つことができる
卒婚は離婚ではないため姓が変わることはありません。また、書類に家族構成を記入する際も配偶者の名前を空欄にする必要もありません。
特に同居卒婚の場合、周りからは変化が見えにくいため、詮索される可能性も少なくなります。
元の夫婦関係に簡単に戻ることができる
離婚と違い、戸籍の変更がないため、卒婚したあとも簡単に元の夫婦関係に戻ることができます。
「ちょっとだけ自由がほしい」「少し距離を置きたい」というケースであれば、期間限定で卒婚するというのも一つでしょう。
卒婚のデメリット
卒婚はメリットだけではなく、デメリットもあります。
再婚できない
卒婚は離婚ではないため、戸籍上は夫婦のままです。配偶者以外の異性と再婚したいと思っても離婚していないため再婚はできません。
周囲に理解されにくい
卒婚は定義があいまいなため周囲からの理解が得にくいことがあります。
卒婚宣言する芸能人の影響で、最近は卒婚という言葉も浸透してきていますが、それでも、いぶかしがられたり、周りの理解が得られなかったりすることもあります。
恋人を作ると不貞行為とみなされる可能性がある
卒婚中は再婚ができないだけでなく、恋人を作ると不貞行為とみなされる可能性もあります。
卒婚中は、法的には配偶者と婚姻関係を継続していることになります。
そのため、配偶者以外の異性と肉体関係を持った場合は不貞行為とみなされる可能性があります。
経済的に自立していなければ難しい
相手に干渉されず、自由に生活したいなら、経済的に自立している必要があります。
別居卒婚や週末卒婚はもちろんですが、家庭内卒婚であっても、ある程度は相手に頼らず生活できるだけのお金が必要です。
離婚に発展する恐れがある
卒婚するとどうしても離婚に発展するリスクが高くなります。
別居することで、互いへの愛情が冷めてしまい、「離れて暮らしたほうが幸せだ」と思うこともあります。
また、卒婚をするくらいですから、元々相手に対する不満があるはずです。
「関係を修復してまで一緒にやっていく気がしない」「卒婚するような相手に財産を渡すのは嫌だ」と思うこともあるでしょう。
互いに干渉せず、顔を合わさないということはストレスも減りますが、愛情が減るリスクもあるということです。
特に別居卒婚の場合、別居期間が長期におよぶと「婚姻関係が破綻している」とみなされる可能性があります。
そのため、相手方から離婚を切り出されると裁判で離婚が認められる可能性があります。
卒婚中のトラブルを防ぐためにも、契約書を作成し、夫婦が卒婚に合意していることを書面の形で残しておくと良いでしょう。
なお、卒婚の契約書については「取り決めた内容を書面の形で残しておく」で後述します。
卒婚中の浮気に対して慰謝料を請求できるのか
卒婚中に浮気をされた場合、相手に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
婚姻関係が破綻していると認められれば慰謝料を請求できない
卒婚は離婚ではありません。そのため、配偶者以外の異性との浮気は、民法上、不貞行為とみなされる可能性があります。
ただし、「婚姻関係がすでに破綻していた」という場合、不貞行為に対する慰謝料請求が認められないというのが一般的です。
浮気によって慰謝料が発生するのは、浮気によって婚姻関係が破綻し、精神的苦痛を与えられたことによるものです。
そのため、すでに婚姻関係が破綻していた場合は慰謝料請求が認められない可能性があるのです。
例えば、下記のような場合は婚姻関係が破綻しているとみなされる可能性があります。
- DV・モラハラ
- 長期間の別居
なお、婚姻関係が破綻しているかどうかについては、上記以外に、当事者の事情を総合的に鑑み、「客観的に見ても夫婦関係の修復が難しい」と判断する必要があります。
卒婚中の浮気に対して慰謝料請求ができるケース
一方、「婚姻関係が破綻している」とはみなせない場合、卒婚中の浮気に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
例えば、以下のようなケースでは慰謝料を請求できる可能性があります。
- 家庭内卒婚中で一緒に外出したり、性交渉があったりするケース
- 夫婦のどちらか一方が「卒婚したい」と言って勝手に出て行ったケース
どのような場合に慰謝料を請求できるのかについては弁護士にご相談ください。
卒婚する際の注意点
卒婚をする際、どのようなことに注意すべきでしょうか。
家族から同意を得ておく
卒婚する際は必ず家族から同意を得ておきましょう。誰にも伝えず勝手に家を出てはいけません。
このとき、配偶者からの同意はもちろん、子供からの理解も得ておくことが大切です。
離婚や結婚、卒婚は当事者の意思で自由にできるものです。
しかし、子供の理解を得ないまま卒婚をしてしまうと親子関係に溝が生まれる可能性もあります。
離婚や死別などで一人になった場合、子供との関係は非常に重要です。卒婚をする際は必ず子供の理解を得ておきましょう。
互いの生活費をどうしていくか決めておく
卒婚して自由を得たいのであれば、自分の生活は自分でなんとかしなくてはなりません。
相手から生活費を受け取りながら卒婚することは難しいと考えておきましょう。
専業主婦やパートタイマーであれば安定した収入が得られる仕事に就き、お金を貯めるなど卒婚に向けて準備をしておきましょう。
もちろん、卒婚や婚姻費用の支払いに相手方が同意していれば生活費を受け取ることは可能です。
また、家庭内卒婚なら、比較的自由に生活費の取り決めを行うことができます。
いずれの場合も、卒婚前にしっかりと夫婦で話し合っておくことが大切です。
卒婚中の浮気をどう考えるのか確認しておく
前述のとおり、卒婚中に恋人を作ると不貞行為とみなされる可能性があります。
そのため、卒婚中の異性関係についても卒婚前に夫婦ですり合わせを行っておくことが大切です。
病気になった場合や介護が必要になった場合はどうするか決めておく
一緒に暮らしていれば、どちらか一方が病気になったり介護が必要になったりした場合は身の回りの世話や面倒を見てもらえます。
もし、十分な世話ができなくても救急車やヘルパーを呼ぶことくらいはできるでしょう。
卒婚で別居している場合は家のなかで倒れていても誰も気づいてくれない可能性があります。
また、身体が不自由になっても介助や介護をしてもらうことは難しくなります。
もちろん、夫婦には扶助義務があります。しかし、別居しているとなかなか気づいてもらえないものです。
このような状態に陥ったとき、別居を解消して一緒に暮らすのか、別居したまま互いに干渉しないことにするのかを事前に決めておけばトラブルに発展しにくくなります。
別居するなら新居を探しておく
別居卒婚を選ぶなら、卒婚前に新居を探しておきましょう。その際、家具や家電など生活に必要なものも一式そろえておくと安心です。
なお、新居は以下のポイントを押さえて選ぶと良いでしょう。
- 卒婚中に夫婦で会う頻度
- 子供の住んでいる場所
- (職に就いている場合)勤務先 など
卒婚中も定期的に夫婦で会うつもりなら、あまり遠くに引っ越さないほうが良いでしょう。
また、子供や孫とも定期的に会うのであれば子供の家との距離も考慮したほうが良いでしょう。
新居から通勤する場合は勤務先も頭に入れて探すことをおすすめします。
取り決めた内容を書面の形で残しておく
卒婚には定義がないため、相手が自分と同じように捉えているとは限りません。
夫婦で話し合い、取り決めた内容について契約書を作成し、書面の形で残しておくと安心です。
卒婚について契約書を作成する際は少なくとも次のことを盛り込んでおくと良いでしょう。
- 卒婚の目的と定義
- 卒婚中の夫婦の関わり方
- 共有財産や生活費について
- 卒婚中の異性関係
配偶者が卒婚に応じない場合
卒婚に配偶者が応じない場合はどうすれば良いのでしょうか。
生活費はいらないと伝える
基本的に離婚していなければ婚姻費用を請求できます。
しかし、相手が卒婚に同意しない場合は「生活費はいらないから卒婚させてほしい」と言えば応じてもらえるケースもあります。
恋人を作ってもかまわないと取り決める
「卒婚中は自由に恋人を作っても良い」と相手に伝えることで、卒婚に応じてもらえる可能性もあります。
特に配偶者が浮気願望のあるタイプなら受け入れてもらいやすいでしょう。
配偶者から卒婚を切り出されないためには
ここまで卒婚について解説してきました。しかし、「卒婚ではなく夫婦関係を修復したい」という方もいるでしょう。
では、配偶者から卒婚を切り出されないためにはどうすれば良いのでしょうか。
日頃から感謝の気持ちを伝えておく
夫婦関係が長くなると、相手がやってくれていることが当たり前になってしまい、感謝の気持ちを忘れてしまうこともあります。
食事を準備してくれる、家を綺麗に保ってくれる、外で働いて生活費を稼いできてくれる…
相手が家族のためにしてくれていることに感謝し、それを言葉で伝えてみましょう。
頭では感謝しているつもりかもしれませんが、言葉にして伝えなければ相手には伝わりません。
それは、夫婦関係を長く続けている方であれば、より理解していただきやすいと思います。
干渉しすぎず、互いのライフスタイルや生き方を尊重する
自分とまったく同じ価値観、同じ性格の人というのはいません。
夫婦とはいえ、好みも違えば、理想の生き方・ライフスタイルも違います。
夫婦関係を円満に続けるためにも、互いの生き方やライフスタイルを尊重し、干渉しすぎないことが大切です。
また、日頃から互いに一人の時間を確保できるようにしておくことも重要です。
卒婚や離婚を考えたら弁護士に相談
「夫婦関係を継続するのが難しい」「卒婚から離婚を考えている」
このような場合は弁護士に相談することをおすすめします。
卒婚は法的な定義がないため、思わぬトラブルに発展することもあります。
また、離婚は取り決めておくことが多く、裁判に進むこともあります。
弁護士に相談すれば、現状を整理し、どのように対処すれば良いかアドバイスがもらえます。
さらに、弁護士に依頼することで相手方との交渉や法的な手続きを代行してもらえます。
最近は卒婚の契約書の相談に応じてもらえる事務所もあります。卒婚や離婚を考えた際は相談してみると良いでしょう。
まとめ
卒婚は法的な定義がなく、離婚よりも自由度が高い反面、思わぬトラブルに陥ることもあります。
卒婚や離婚を考えたら弁護士に相談し、トラブルを抑えて行動することが大切です。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。
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