DVで離婚する場合の慰謝料の相場と慰謝料を増額させる方法。
DV(ドメスティック バイオレンスの略)が社会問題となり、DV防止法(配偶者暴力防止法)などの法整備が進んでいます。しかし現在でも、DVに悩んでいる方は少なくありません。
DVに悩み、離婚を検討している方のなかには、一刻も早くDVから逃れたいという思いから、離婚を早く成立させるため、慰謝料や財産分与などの請求は後日にしようと考える人もいます。
しかし、離婚後は、相手の所在が分からなくなるなどの理由で請求が難しくなるおそれがあります。また、最悪の場合、時効によって慰謝料請求権が消滅してしまうこともあります。
ですから、慰謝料の請求は、離婚の際に行うことが望ましいといえます。
今回は、DVで離婚する際の慰謝料の相場や、慰謝料を増額させるポイントなどを解説・紹介します。
- 目次
DVで離婚する場合の慰謝料の相場
慰謝料とは
慰謝料とは、不法行為によって受けた精神的な苦痛を慰めるための賠償金のことをいいます。
離婚の際の慰謝料は、不倫や暴力などで婚姻関係を破綻させる原因を作った方が、配偶者に対して支払うものです。
慰謝料の算定方法
慰謝料の算定方法については、民法などの法律に特別の規定はありません。
ですから、基本的には当事者の話し合いによって決まり、当事者間で合意ができればいくらでも構わないということになります。
有名人や大企業の社長のような社会的地位のある人の場合、裁判沙汰になるのを防ぐために高額の慰謝料の合意をする場合もあります。
慰謝料の相場
法律上、慰謝料の算定方法には特別な規定がないことを説明しました。とはいえ、何らかの目安がなければ話し合いもなかなか進展しないでしょう。
過去の裁判例などによれば、DVを理由に離婚する場合の慰謝料はおおむね50~300万円の範囲内となることが多いので、これが一応の相場といえます。
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慰謝料の算定で考慮される要素
50~300万円という範囲内でも、最大で慰謝料金額に6倍もの差があります。
ですから、慰謝料を請求する場合、なぜそのような差が出るのか、慰謝料の算定でどのような要素が考慮されているのかを理解しておく必要があります。
DVによる離婚の慰謝料を算定する際に検討されているのは、次のような事情です。
DVの回数・頻度の多さ
DVの回数や頻度が多いほど、慰謝料が高額になる傾向があります。
DVの期間の長さ
DVの期間が長いほど、慰謝料が高額になる傾向があります。
被害者の落ち度の有無・程度
DVに至った経緯について被害者の落ち度が少ないほど、慰謝料が高額になる傾向があります。
DVによる負傷などの程度
DVによって被害者の負った傷害や後遺障害が重いほど、慰謝料が高額になる傾向があります。
身体的なケガだけでなく、うつ病などの精神的な病気にかかった場合も、慰謝料が高額になる可能性があります。
婚姻期間の長さ
DVで離婚に至った場合、婚姻期間が長いほど慰謝料が高額になる傾向があります。
経済的に自立できない子どもの有無や、人数
経済的に自立できない子どものことを法律用語で「未成熟子」といいます。両親の離婚は未成熟子に大きな影響を与えます。
したがって夫婦間に未成熟子が多いほど、慰謝料が高額になる傾向があります。では、どのような場合に「未成熟子」とみなされるのでしょうか。
未成熟子は経済的に自立できない子どもですので、「未成年」「〇歳」と決まっているわけではありません。
子どもが高校を卒業して就職し、経済的に自立できるだけの収入を得ている場合は、高校卒業までが未成熟子とみなされることがあります。
一方、子どもが大学に進学した場合は20歳を過ぎても未成熟子とみなされることもあります。
ただし、子どもがあまりにも小さい場合、将来どのような進路に進むのか予測できません。この場合、裁判では「成人を迎えるまでを未成熟子」とするが一般的です。
慰謝料を増額させるポイント
証拠の収集が必要
慰謝料を増額させるには、「慰謝料の算定で考慮される要素」で解説した要素について、
などといった事情を主張していくことになります。
しかし、何ら具体的根拠を示さずに「DVの回数が多かった」などと主張しても、説得力がありません。
とくに離婚裁判で慰謝料を請求する場合、DVがあったことを被害者が証明しなければなりません。ですから、慰謝料を請求する前に、DVに関する証拠を集める必要があります。
DVの証拠になるもの
DVの証拠としては、次のようなものが考えられます。
ケガや精神的な病気にかかった場合の診断書
診断書は、傷害やうつ病などの精神疾患の有無、程度に関する最も重要な証拠です。
DVを受けて少しでも負傷した場合には、病院で診察を受けるようにしましょう。
時間が経ってから受診したのでは負傷とDVとの因果関係が疑われるおそれがあるので、可能な限り早く受診すべきです。
負傷した部位の写真
DVによって、あざや腫れ、出血など外部から見てわかる症状がある場合には、写真を撮っておくといいでしょう。
暴言などの精神的暴力の場合には録音、メールやSNSのやりとりなどの保管
DVというと身体的な暴力だけが対象と思われがちですが、暴言などの精神的暴力も離婚の理由として認められます。
ただし、暴言などの精神的暴力は身体的な暴力と比較して目に見える証拠がありません。そのため暴言の場合、言った・言わないの水掛け論になる傾向があります。
離婚の理由として暴言を証拠にするためには、録音やメール、SNSの送受信履歴を保管しておくといいでしょう。
DVの経緯や具体的内容を詳細に記録した日記、メモなど
自分で書いた日記やメモは、診断書のような客観性はありません。
しかし、詳細かつ具体的な内容であればあるほど信用性が高まるので、自分が書いたメモや日記でもDVの証拠になりえます。
第三者に相談などをしていた場合にはその第三者の証言など
親族や友人など第三者にDV被害を相談したり、助けを求めたりしたことがある場合には、その第三者の証言なども証拠になります。
警察や配偶者暴力支援センターなどへ相談していた場合の相談記録
警察や配偶者暴力支援センターなどへ相談していた記録も、DVを受けた証拠になります。
DV法には接近禁止命令という保護命令があります。接近禁止命令とは身体的な暴力や脅迫を行う配偶者が被害者に接近することを禁止する制度です。
また、裁判所に対して接見接近禁止命令などの保護命令の申立てをするには、原則として事前に警察や配偶者暴力支援センターに相談しておく必要があります。
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DVで離婚する際の注意点
- 離婚の一般的な流れは下記になります
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- 離婚協議
- 離婚調停
- 離婚訴訟
まず当事者で話し合いをし、合意ができない場合には家庭裁判所でさらに話し合いをし、それでも合意できない場合に裁判で裁判官の判断を仰ぐということです。
この基本的な流れはDVが原因で離婚する場合も変わりません。ただし、DVで離婚する場合には、特に次のような注意点があります。
居住先を確保する
性格の不一致などが原因で離婚を考えているような場合であれば、同居しながら離婚について当事者間で話し合うことも可能でしょう。
しかし、DVの被害者が加害者と同居しながら離婚について話し合いをすることは現実的ではありません。
DVの加害者は自分に非があると思っていない場合も多く、離婚を切り出すとさらなるDVの被害にあうおそれがあります。
ですから、まず身の安全を確保することが重要で、加害者と別居するための居住先を確保しなければなりません。
専業主婦で収入がないというような事情がある場合には、一時的にシェルターに避難するという方法もあります。
シェルターとは、加害者である配偶者からDV被害者を隔離し、保護するための避難先です。公的機関だけでなくNPO法人など民間機関も運営しています。
シェルターの利用料金は無料あるいは無料に近い金額になっています。
証拠の収集
居住先の確保と並行して、証拠の収集をする必要があります。
「慰謝料を増額させるポイント」で紹介したDVに関する証拠だけではなく、預金通帳など財産分与に関する証拠も、別居前に集めてコピーを取るなどの準備をしましょう。
第三者に協力してもらう
無事に別居ができれば、いよいよ相手方に離婚を切り出すことになります。しかし、当事者だけで話し合ったのではさらなるDVを受けるおそれがあります。
また、さらなるDVをおそれて被害者が自分の言いたいことを言えないという可能性もあるでしょう。
ですから、DVで離婚について協議する場合には、第三者に協力してもらい、第三者を交えて話し合いをすべきです。
保護命令の申立てを検討する
DVの被害者が第三者を交えて冷静に話し合いをしようとしても、加害者が別居先や被害者の職場に押しかけてくる場合もあります。
そのような場合には、保護命令の申立てを検討するといいでしょう。
保護命令とは、DVの被害者がさらなる配偶者からの暴力により、生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに、裁判所が加害者に接近禁止などを命令する制度です(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律10条)。
保護命令に違反した場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられるので、加害者による押しかけなどへの抑止力になります。
迷ったときは弁護士に相談を
DVで離婚を考えている場合、一刻も早くDVから解放されたいという欲求と、離婚の成立や慰謝料の増額を認めさせるために時間をかけてでも証拠を収集したいするという欲求が対立する可能性があります。
どの程度の証拠を集めたうえで別居して、離婚協議に入るかといった判断をDVの被害者自身が行うことは難しいと言わざるを得ません。
弁護士に相談すれば、事案ごとの緊急性や現時点の証拠の有無などを検討して、証拠の集め方や別居のタイミングなど、最善の進め方を助言してくれます。
また、正式に弁護士に依頼をすれば、離婚協議や離婚調停、離婚裁判に弁護士が代理人として出席してくれます。
DVの被害者が加害者と直接顔を合わさずに手続を進めることができるので、被害者の精神的な負担は軽くなるでしょう。
ですから、DVで離婚を考えている方には、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
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