借金があると財産分与はどうなる?借金のケース別に注意点を解説!

財産分与
弁護士監修
借金があると財産分与はどうなる?借金のケース別に注意点を解説!

夫婦の財産は離婚するときに、原則、折半することになります。これを財産分与といいます。土地や建物などは夫名義になっていることが多いので、ほとんどの場合、形式上は夫から妻に財産を分け与えることになります。

ただ夫婦で築き上げたものはプラスの財産だけではないはずです。夫婦で一緒に借金というマイナスの財産をつくることもあります。プラスの財産のことを積極財産といい、マイナスの財産を消極財産といいます。

夫婦のモノであれば積極財産も消極財産も離婚時に分けなければなりませんが、「夫婦のモノかどうか」の判定が意外に難しいのです。

目次
  1. 借金は財産分与の対象になるのか
  2. 財産分与の対象となる借金とは
  3. 財産分与の対象にならない借金とは
    1. ギャンブルで100万円の借金がある夫の銀行口座に預金が100万円ある場合
    2. 婚姻前に借金があった妻が婚姻後に夫の借金を肩代わりしていた場合
  4. 夫婦に借金があるが財産分与の対象となるケースとは
  5. 夫婦に借金があるが財産分与をおこなわないケースとは
    1. 住宅ローンを夫婦名義で借りて妻が離婚後もそこに住み続けた事例
  6. まとめ

借金は財産分与の対象になるのか

結論を先に紹介すると、「借金は財産分与の対象になります」が「債務超過になる場合は財産分与をおこなわない」というのが原則です

例えば、夫婦の積極財産として1,000万円の預金があり、さらに夫婦の借金として300万円があったとします。

このとき預金から借金を差し引くと 「1,000万円-300万円=700万円」 となります。したがって700万円を夫婦で財産分与することになります。

もし1,000万円の預金が夫名義の銀行口座に入ってあれば、夫は妻に350万円(=700万円÷2)を渡すことになります。

消極財産も計算に組み込んでいるので「借金は財産分与の対象となる」といえるわけです。

しかし、夫婦の積極財産が300万円の預金だけで、夫婦の借金が1,000万円あったとします。この場合、預金から借金を差し引くと「300万円-1,000万円=-700万円」 となり債務超過になっています。

この場合は、財産分与の考え方は採用しません。

要するに債務超過になる場合は財産分与をおこなわないということなのです。では700万円の借金は誰が返済するのか、という問題が残ります。

その答えは2つあり、

「借金の名義人が返済する」または「夫婦で協議する」

となります。

「夫婦の責任で債務超過になったのに、なぜその責任を離婚後に分担しないのか」という疑問が残りますが、これが家庭裁判所の基本的なスタンスなのです。

さて、消極財産の基本スタンスを把握したところで、次は「夫婦の消極財産」と「夫または妻個人の消極財産」をどのようにわけていくのか、みていきましょう。

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財産分与の対象となる借金とは

財産分与の対象となる借金、すなわち夫婦の消極財産には次のようなものがあります。

  • 夫婦の生活費として借りたお金
  • 子供の教育ローン
  • 夫婦で住むための住宅のローン
  • 夫婦で使う目的の自動車のローン

これらが夫婦の消極財産であることは理解しやすいでしょう。

財産分与の対象にならない借金とは

それでは財産分与の対象にならない借金、つまり夫または妻個人の消極財産にはどのようなものがあるでしょうか。

  • 夫または妻がギャンブルでつくった借金
  • 婚姻前に持っていた借金

これらは一見すると迷わず夫または妻の消極財産と認定できそうですが、実はそう簡単な話ではありません。

ギャンブルで100万円の借金がある夫の銀行口座に預金が100万円ある場合

ギャンブルは勝つこともあれば負けることもあります。

例えば夫がギャンブル好きで、結婚後に、100万円勝って、200万円負けて、さらに300万円勝って…と繰り返していたとします。

そして、離婚時に消費者金融に100万円の借金があって、さらに夫名義の銀行口座に100万円の預金があったとします。

このとき、以下の場合はどうでしょうか。

「消費者金融の100万円はギャンブルでつくったものだが、預金の100万円はギャンブルで稼いだお金。だから相殺して0円になるから、財産分与の対象となるお金はない」と夫が抗弁した

消費者金融の100万円が夫のみの消極財産であることは明らかでしょう。

しかし、100万円の預金が夫名義の銀行口座にあったとしても、以下の場合はどうでしょうか。

その銀行口座が生活費や夫婦の買い物をするときに多用されていた

この場合、その預金は夫婦の積極財産と考えることもできます。このように認定されれば、夫は預金から50万円をおろして妻に財産分与しなければなりません。

では、以下の場合はどうでしょうか。

夫が詳細なギャンブル収支をつけていたり、ギャンブル用のお金は専用の銀行口座で管理していたりした

この場合、預金100万円は夫独自の積極財産とみなすことができ、その100万円で消費者金融の借金を返済すれば、財産分与する積極財産が消えることになります。

婚姻前に借金があった妻が婚姻後に夫の借金を肩代わりしていた場合

婚姻前の借金についても夫婦のものか個人のものかの判定は簡単ではありません。

例えば妻が婚姻前に300万円の借金を持っていて、離婚時にその借金がまったく返済できていなかったとします。

妻にお金を貸した人に余裕があって返済を猶予している場合、そのようなことが起きます。

しかし、

婚姻中に夫がギャンブルで300万円の借金をつくり、妻が自分の貯金からその借金を返済していたとします。そして離婚時のこの夫婦に300万円の預金があった

とします。

この場合、預金の300万円を財産分与して、夫婦で150万円ずつ取り合うとしたら、妻は応じるでしょうか。

このとき、

妻が夫のギャンブルの借金300万円を返済しなければ、妻は自分の借金300万円を返済できた

と考えれば、夫婦の預金の300万円は妻が総取りしてよさそうです。

一方、夫が下記のように主張したら協議は難航するでしょう。

「妻の借金はあくまで個人のもの。自分(夫)のギャンブルの借金300万円は確かに妻が返済したが、自分はその後に妻に高額のプレゼントをしているので、夫婦間の貸し借りはないに等しい。だから預金の300万円は折半して財産分与すべき」

こうなると、妻の元の借金の使われ方や、夫のギャンブルの借金の内容、夫から妻への高額プレゼントの中身などを精査する必要があります

夫婦に借金があるが財産分与の対象となるケースとは

夫婦に借金があるが財産分与の対象となるケースとは

ここまで債務超過にならない場合は夫婦の借金は財産分与の対象となることを説明してきました。財産分与の対象となる借金の例としては以下のようなケースが考えられます。

  • 夫婦の生活費の借金の残債:200万円
  • 子供の教育ローンの残債:100万円
  • 夫婦で住むための住宅のローンの残債:2,000万円
  • 夫婦で住むための住宅の価値:1,500万円
  • 夫婦で使う目的の自動車のローンの残債:100万円
  • 夫婦で使う目的の自動車の価値:50万円
  • 夫婦の生活費を管理している銀行口座の残高:2,000万円
  • 夫婦の財産としての株式の価値:500万円

この場合の積極財産と消極財産は以下のとおりです。

積極財産=夫婦で住むための住宅の価値(1,500万円)+夫婦で使う目的の自動車の価値(50万円)+夫婦の生活費を管理している銀行口座の残高(2,000万円)+夫婦の財産としての株式の価値(500万円)=4,050万円

消極財産=夫婦の生活費の借金の残債(-200万円)+子供の教育ローンの残債(-100万円)+夫婦で住むための住宅のローンの残債(-2,000万円)+夫婦で使う目的の自動車のローンの残債(-100万円)=-2,400万円

よって、財産分与は1,650万円(=4,050万円-2,400万円)を夫婦で折半することになります

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夫婦に借金があるが財産分与をおこなわないケースとは

財産分与をおこなわない債務超過とは、以下のようなケースです。

  • 夫婦の生活費の借金の残債:200万円
  • 子供の教育ローンの残債:100万円
  • 夫婦で住むための住宅のローンの残債:2,000万円
  • 夫婦で住むための住宅の価値:100万円
  • 夫婦で使う目的の自動車のローンの残債:100万円
  • 夫婦で使う目的の自動車の価値:0円
  • 夫婦の生活費を管理している銀行口座の残高:100万円

この場合、積極財産は200万円しかないのに消極財産は2,400万円もあります。都合、2,200万円の債務超過となり、原則、財産分与の考え方を採用することができません

ローンの名義人がそのまま返済を続けるか、夫婦で協議して借金の返済方法を決めることになります。これは根深い問題に発展する可能性があります。

住宅ローンを夫婦名義で借りて妻が離婚後もそこに住み続けた事例

離婚時に債務超過になり、借金の返済方法でもめたケースを紹介します。共稼ぎの夫婦がマンションのローンを両者の名義で借りました。

離婚時の財産は、ローンの残債2,400万円、マンションの価値1,000万円だけでした。したがって1,400万円(=1,000万円-2,400万円)の債務超過となりました。

離婚するときに夫婦は以下のように取り決めました。

  • マンションには妻が住む
  • 夫はマンションの所有権を放棄する ★ローンの名義は夫婦のままにしておく
  • ただローン残債2,400万円は妻が単独で支払っていく(夫の支払い義務分も妻が支払う)

問題を複雑にしたのは「★ローンの名義は夫婦のままにしておく」という取り決めでした。これは金融機関が、

  • ローンの名義を妻単独にするのであれば、いったん残債を全額返済してもらい、その後、妻に2,400万円の新規ローンを組んでもらうしかない
  • ただ現状では妻単独で2,400万円の新規ローンを組むことは難しい(審査は通らない)

という見解を示したからです。

そこで夫は下記を提案しました。

「マンションを1,000万円で売り、それを夫婦で500万円ずつ分け、ローン残債もそれぞれ1,200万円ずつ返済すること」

しかし妻が下記のように強く要望してきました。

「ローンの名義は夫婦のままにしておく、ただローン残債2,400万円は自分(妻)が単独で支払っていくこと」

夫もこれに応じました。

その後夫が再婚し、再婚相手と一緒に住む住宅を購入しようとしました。

ところが、住宅ローンの審査で、元妻が住んでいるマンションのローン残債が引っかかってしまったのです。

夫は元妻に、「元の住宅ローンの名義から外れたい(連帯債務から外れたい)」と申し出ましたが断られました。

夫はさらに、「ならば元妻にそのマンションを出ていってもらい、自分たちがそこに住み、ローンの残債の返済を自分が全額引き受ける」と提案しました。

しかし、これも元妻から却下されました。夫の主張に正当性がありそうですが、元妻もローン残債2,400万円の返済を滞らせたことがないので、その言い分が不当であるとは言えません。

元妻はいったん夫婦で取り決めたことを遂行しているだけです。この問題の解決の糸口はみつかりません。

まとめ

最後に紹介した事例からは、「離婚時の債務超過の処理は、トラブルの火種になることを想定して厳格に進めたほうがよい」という教訓が含まれています。

後々もめないためには、財産分与を夫婦で話し合うときに、過去のお金のやり取りについて可能な限り事細かに検討することです。

積極財産の認定はそれほど難しくありませんが、消極財産の認定は感情も入るため慎重に進めましょう。このような場合は弁護士に間に入ってもらったほうがいいでしょう。

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