離婚時の相手の財産の調査方法|よくある財産隠しの手口と対処法
財産分与の話し合いは、夫婦がそれぞれ自分の財産について立証する資料を提示し、それを基に計算するという流れで進みます。
自分の財産を示せば、それだけ相手方に多く分与することになります。
そのため、「財産を相手に渡したくない」「相手が知らないなら黙っておきたい」という気持ちが働き、財産隠しが行われるケースがあります。
この記事では以下のことを解説します。
- ・離婚の財産隠しは罪になるのか
- ・離婚における財産隠しのよくある手口
- ・財産隠しが疑われたときの調査方法
- ・財産隠しを調査する際のポイント
- ・財産分与後に隠し財産が発覚した場合の対処法
- 目次
財産分与とは
離婚の際、婚姻中に築いた共有財産を公平にわけることになります。これを財産分与と言います。
相手方が自分の財産をすべて開示してくれれば問題はありません。
しかし、いざ開示された財産を確認すると、自分が思っていたより少ないケースがあります。例えば以下のようなケースです。
- 〇〇銀行から郵便物が届いていたが、残高の開示がない
- 株主優待が届いていたはずだが、証券口座の開示がない
- 預金は2,000万円あると言っていたのに、開示された金額が500万円である
- 日帰り入院で保険金を請求していたが、残高一覧に生命保険が入っていない
財産分与では、「なるべく手元に多くの財産を遺しておきたい」と考え、相手方が財産を隠すことがあります。
相手方が財産を開示しない場合や隠している場合は、財産分与を請求する側が「財産がある」ということを立証しなければなりません。
財産隠しは罪になるのか
結論から申し上げますと、配偶者による財産隠しは刑事罰には問われません。
財産隠しで問われうる犯罪といえば、詐欺罪(刑法246条)や窃盗罪(刑法235条)があります。
刑法246条(詐欺)
1 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
刑法235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
しかし、刑法には親族相盗例があります。一定の親族間での窃盗や横領などの一部の犯罪行為については刑罰が免除されます。
刑法244条(親族間の犯罪に関する特例)
1 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
刑法251条(準用)
第二百四十二条、第二百四十四条及び第二百四十五条の規定は、この章の罪について準用する。
つまり、配偶者に財産隠しをされたとしても刑事罰に問うことはできないということです。
しかし、民法上の違法行為に該当する場合は損害賠償請求が認められる可能性があります。
また、財産分与のやり直しができる場合もあります。これいついては「財産分与後に隠し財産が発覚した場合の対処法」にて後述します。
よくある財産隠しの手口
よくある財産隠しの手口には以下のようなものがあります。
- 銀行の隠し口座に入金する
- ネット銀行や地方銀行、財形貯蓄に入金する
- 親族や子供名義の口座に隠す
- 貸金庫に隠す
- 有価証券や不動産・骨董品・絵画など別の形に替える
- へそくりやタンス預金
- 「使ってしまった」と主張してくる
- 会社のお金という名目で入金している
- 借金やローンの返済に充てる
それぞれについて以下で解説します。
銀行の隠し口座に入金する
よくある手口のひとつに配偶者が把握していない銀行口座を作り、預貯金を隠す方法があります。
この場合、財産分与ではあなたが把握している銀行口座しか開示しないため、注意が必要です。
ネット銀行や地方銀行、財形貯蓄に入金する
ネット銀行は財産隠しに使われやすい傾向があります。ネット銀行は店舗を持たず、オンラインでの取引が主となります。
通帳が発行されず、スマホやパソコンで取引を行うため、取引履歴が物理的に残しません。
つまり、配偶者がネット銀行を使っていることを知らなければ、そのような口座があることすら頭に浮かばない可能性があるのです。
また、現住所から離れた地方銀行についても、配偶者にバレにくいため、隠し口座としてよく利用される傾向があります。
配偶者の勤務先に財形貯蓄がある場合は財形貯蓄に入金して隠すケースもあります。
親族や子供名義の口座に隠す
親族や子供名義の金融機関の口座に財産を移すこともよくある手口です。
このとき、複数回にわけ、少額ずつ入金することで財産隠しを疑われないようにすることもあります。
貸金庫に隠す
貸金庫とは銀行が郵便局内にある小さな金庫を有料で貸し出してもらえるサービスです。
貸金庫に預けられるものは金融機関によって異なりますが、一般的には以下のようなものを預けられます。
- 預金通帳・預金証書・印鑑類
- 有価証券・公社債・公正証書・権利証・保険証書・遺言状・各種契約証書などの書類
- 宝石・貴金属・コレクション
- 手形・小切手 記念品・アルバムなど思い出の品
貸金庫に預金通帳や有価証券、権利書などを預けることで財産を隠すことがあります。
有価証券や不動産・骨董品・絵画など別の形に替える
現金を別の形に換えることで隠す方法もあります。例えば、以下のようなものに変えるケースがあります。
- 株式
- 投資信託
- 不動産
- 自動車
- 骨董品
- 絵画
- 金の延べ棒などの貴金属
骨董品や絵画などの美術品は見つけにくく、評価額もわかりづらいという特徴があります。不動産に換えるケースでは投資用不動産を購入するケースもあります。
へそくりやタンス預金
アナログな方法ですが、タンス預金やへそくりなど、現金の形で隠すのも一般的な方法です。
金融機関を通さないため、履歴が残りません。そのため、後述する弁護士会照会制度などで調査を行っても見つかりません。
ただし、口座から引き出された使途不明金がある場合は現金として隠していると推測できます。
「使ってしまった」と主張してくる
相手方が「お金を使ってしまった」などと言い、財産が残っていないことを主張するケースもあります。しかし、実際にはお金を使っておらず、隠している場合があります。
このような場合、財産を開示させることで財産分与を請求できる可能性があります。
ただし、相手方が素直に財産の開示に応じるとは限りません。このような場合は後述する方法で相手方の財産を調査する必要があります。
一方、使い込みが真実であった場合はどうでしょうか。
まず財産分与の基準日は以下となります。
- 離婚前に別居した場合:別居時
- 離婚前に別居しなかった場合:離婚時
離婚前に別居しており、別居後に相手方が使い込みをした場合、財産分与の基準日は別居時ですので、財産分与を請求できます。
一方、別居前に使い込みをした場合は財産分与の請求が難しくなります。
会社のお金という名目で入金している
会社経営者との離婚の際、財産を会社名義に変更する方法で財産を隠すことがあります。
ペーパーカンパニーを設立し、会社名義で金融機関に入金しているケースもあります。
借金やローンの返済に充てる
現金を引き出し、借金やローンの返済に充てるのも財産隠しの方法と言えます。
不動産や貴金属に換える方法と異なり、形には残りませんが事実上金額相当分の利益を得たことになります。
また、現金を引き出すのではなく、直接奨学金やローンの繰り上げ返済などに充てるケースも同様と考えられます。
こんなケースは財産隠しを疑おう
財産隠しが疑われる主な例は以下となります。
- 相手がわざわざ残高証明書を提出してきた
- 基準時の残高が収入と支出から考えて明らかに低額である
- 提出資料に黒塗りやマスキングがある
- 預貯金の基準時の残高が不自然にキリの良い数字である
- そもそも資料を提出しない など
財産分与で預貯金を開示する際、通常は通帳の写しや取引履歴を提出し、基準時の残高を確認します。
やましいことがなければ通常はそれだけで済むはずです。
しかし、敢えて基準時の残高しか掲載されていない残高証明書をわざわざ金融機関から取り寄せて提示するケースがあります。
このような場合、「相手に通帳を見せたくない」という心理が働いていると考えられます。
財産隠しが疑われるときの調査方法
財産隠しが疑われるときの調査方法としては以下があります。
- 任意で開示を求める
- 求釈明
- 弁護士会照会を利用する
- 調査嘱託を利用する
それぞれ以下で詳しく解説します。
任意で開示を求める
財産隠しが疑われる場合、まずは相手方に任意で財産を開示するよう求めることになります。
このとき、通帳を見せてもらうだけでなく、ネット銀行や地方銀行、現金、貸金庫、不動産や保険などについても確認しましょう。
財産分与の話し合いをする前に後述する事前準備で相手方の財産を調べておくとスムーズに話が進む可能性があります。
別居している場合はメールや電話で財産開示を求めます。
ただし、財産隠しが疑われるケースでは相手方が財産を素直に開示してくれる可能性は極めて低いと言えます。
仮に開示したとしても、実際より少なく申告する可能性があります。
話し合いで財産の開示を求める際は弁護士を通して行うほうが開示に応じてくれる可能性が高まります。
求釈明
求釈明とは裁判所の手続きで財産分与を進める際、相手方に対して質問をしたり、証拠の提出を求めたいと考えた場合、裁判所から要請してもらうよう求めることを言います。
相手方が任意の開示に応じない場合は離婚調停に進み、裁判所の手続きで財産開示を求めることになります。
相手方が財産開示に応じないことを調停委員に伝えることで、公平な立場から相手方に財産開示を求めます。
相手方には回答義務はありませんが、要請に応じない場合、裁判所からの心証が悪くなる可能性があるため、応じてもらえる可能性があります。
弁護士会照会を利用する
金融機関の詳細が分かっている場合場弁護士照会制度(23条照会)も検討しましょう。
弁護士会照会制度とは、依頼を受けた事件について、弁護士が弁護士会を通じて官公庁や勤務先、金融機関に対して必要事項を調査・照会する制度です(弁護士法23条照会)。
弁護士会照会制度で調査できる財産と調査内容は以下となります。
照会先 | 財産 | 調査内容 |
---|---|---|
銀行の支店 | 預貯金 | 口座の有無や取引履歴 |
証券会社 | 有価証券 | 保有株式数など |
勤務先 | 退職金 | 給与・退職金 |
市区町村役所・役場 | 不動産 | 名寄帳・固定資産台帳 |
照会を受けた側には回答義務があります。
しかし、照会の必要性・相当性が欠けている場合には回答・報告しなくてもよいものと考えられているため、回答に応じないケースもあります。
特に、訴訟を提起する前の段階では金融機関が開示に応じない可能性が高くなります。
一方、判決や調停調書、債務名義が確定した場合は開示に応じてもらえる可能性があります。
調査嘱託を利用する
調査嘱託とは、裁判所が勤務先や金融機関などに対して調査を行うものです。弁護会照会制度で納得のいく回答が得られない場合は調査嘱託を利用しましょう。
調査嘱託なら、弁護士会照会制度では応じてもらえなかった場合であっても対応してもらえる可能性があります。
隠し財産を調査するためには事前準備が必要
前述の調査を行うためには、財産隠しの端緒を事前につかんでおく必要があります。事前準備の方法について解説します。
通帳やキャッシュカード
まずは家のなかを探し、通帳やキャッシュカードを見つけ出します。通帳を見つけたら、以下の点をチェックしましょう。
- 銀行名・支店名・口座種類・口座番号・口座名義
- 別居日の残高
- 婚姻日の残高
- 他の金融機関の口座がないか
- 保険に加入していないか
- 使途不明の高額取引がないか
- 配偶者名義の通帳から別口座への送金履歴がないか
保険への加入については、郵便物をチェックすることで特定ができます。しかし、勤務先に通知書が届く設定にしている場合があります。
通帳を確認し、保険会社名や引き落としがあれば、保険契約を把握できる場合があります。
財産隠しの疑いがあると思ったら、通帳やキャッシュカードの写真やコピーを取りましょう。
上記のチェック項目に該当する部分があれば、それぞれについて写真やコピーを取っておきましょう。
他の金融機関の口座の有無については、以下の手順で調査すると良いでしょう。
- 振込元と振込先の名称を確認する
- 振込元または振込先に配偶者自身の名前がないか確認する
- 振替がないかを確認する
貸金庫のカギやカード
貸金庫は口座開設している金融機関で借りるというのが一般的です。利用料は自動引き落としされるため、通帳を見れば、貸金庫や手数料の文字があるはずです。
また、貸金庫の鍵やカードがあるはずですので、家のなかを探してみましょう。
郵便物
郵便物の確認も重要です。郵便物の差出人や内容によって、配偶者がどのような財産を所有しているか推測できます。
郵便物 | 資料 |
---|---|
クレジットカード会社からの送付物 | クレジットカード |
金融機関 | 口座預金 |
保険会社 | 保険会社の保険 |
固定資産税の課税明細書 | 不動産 |
ゴルフクラブ | ゴルフ会員権 |
株主総会招集通知や優待、決算関係書類 | 株式 |
ネット銀行やネット証券であっても金融機関からの通知書が郵送で届くケースもあります。
また、クレジットカードは口座引き落としとなっていることがほとんどです。明細書が送付されていれば、そこから口座情報が判明することもあります。
郵便物のチェックは忘れずに行い、コピーや写真の形で残しておきましょう。
ただし、未開封の郵便物を勝手に空けると信書開封罪に問われる恐れがありますので注意が必要です。
LINEのトーク履歴
スマートフォンの履歴も確認しましょう。会話のなかに財産のヒントが紛れていることもあります。
例えば、以下のようなものです。
- 〇〇銀行(または保険会社や証券会社)から郵便は届いているか
- 帰りに〇〇銀行でお金をおろしてくる
- 〇〇銀行にお金を振り込んでほしい
LINEのトーク履歴が長い場合はテキストデータにして保存すると良いでしょう。
- 「トーク」タブを押して、配偶者とのトークを選択
- 画面の右上の「ハンバーガーメニュー(三本線マーク)」をタップして、「設定」を選択
- 「トーク履歴を送信」を選択
- 「メールで送信」を選択して、テキストデータを自分のメールアドレスに送信する
インターネットの検索履歴
家族で共有しているパソコンやタブレットがあれば、検索履歴を確認しましょう。
どのようにすれば財産を隠せるか、見つかりにくい場所はどこかを検索している可能性があります。
財産隠しが疑われる検索履歴の例としては以下のようなものがあります。
- 離婚 財産隠し 方法
- 離婚 財産 隠し 成功
- 離婚 財産隠し 現金
- 隠し口座 バレない
- 離婚 離婚 財産 分 与 隠し 方
- 財産隠し バレない 離婚
- 離婚 財産隠し ネット銀行
また、検索履歴から金融機関や証券会社へのアクセスがわかる可能性もあります。
退職金(明細書または計算書、配偶者の勤務先の求人情報)
退職金も財産分与の対象になる可能性があります。そのため、退職金明細書または退職金額計算書のコピーや写真も残しておきましょう。
明細書などの資料が見つからない場合は配偶者の勤務先の求人情報を確認するのも良いでしょう。
求人情報を確認することで配偶者の勤務先の退職金の有無を確認できる可能性があります。
不動産登記簿
不動産を所有している場合は登記簿謄本(登記事項証明書)も準備しましょう。
登記簿謄本を取得したら抵当権者を確認しましょう。 抵当権者を確認すれば、配偶者がどの金融機関に口座を持っているかがわかります。
なお、登記簿とよく比較されるものに権利証がありますが、それぞれ以下の違いがあります。
- 登記簿:不動産の登記情報が記載された情報
- 権利証:移転登記が完了したことを証明する書類権利書。登記された時のみ発行される
登記簿謄本(登記事項証明書)は法務局(登記所)で取得できます。
配偶者の所有する不動産をすべて把握するのが難しい場合は名寄帳や固定資産納税通知書を確認するといった方法が有効です。
名寄帳とは、個人が所有する不動産の一覧表です。名寄帳は不動産の所在地を管轄する市区町村役所・役場で取得できます。
年金分割のための情報通知書
離婚の際、婚姻中の厚生年金の納付実績をわけることができます。これを年金分割と言います。
年金分割は財産分与とは異なりますが、情報通知書を取り寄せ、将来受け取ることができる年金についても把握しておくと良いでしょう。
年金分割のための情報通知書は年金事務所または各共済窓口で取得できます。
車検証や自動車保険の契約書、明細書
自動車を所有している場合は自動車検査証(車検証)、自動車保険の契約書や明細書も集めておきましょう。
車検証で車の有無と種類、年式を特定できます。車の存在を隠されていても、自動車保険の契約書や明細書でわかる可能性もあります。
探偵や興信所に依頼する
財産隠しが疑われるものの、家の中や郵便物を探しても証拠が出てこない…
このような場合は探偵や興信所に依頼することも選択肢のひとつです。別途費用がかかりますが、素人では見つけられない情報を取得できる可能性があります。
隠し財産を調査する際のポイント
隠し財産を調査する際は以下の点に注意しましょう。
- 離婚前に財産の保全処分をおこなう
- 保有財産は離婚を切り出す前に確認する
- 財産を把握するまで離婚に応じない
それぞれ以下で解説します。
離婚前に財産の保全処分をおこなう
財産隠しや財産の処分が疑われるという場合は、離婚前に財産の保全処分を行いましょう。
保全処分とは、裁判所が相手方に対し、相手方名義の財産の処分を禁止することを言います。財産の保全処分には以下の3つの方法があります。
- 調停前の仮処分:調停委員会が職権で行う仮処分。強制力が伴わないため実効性は乏しい
- 審判前の保全処分:強制力があるため実効性を確保できる。ただし、審判(裁判)を申し立てるのと同時に行う必要がある
- 民事保全手続:当分の間、財産処分を禁止する仮差押えを行う。相手方が財産を処分することを防ぐことができる
上記の方法はいずれも相手の財産を把握している場合の手段となります。そのため、相手方がどのような財産を隠しているのかわからない場合は保全することはできません。
また、保証金が必要なケースもあります。
なお、民事保全手続については強制力を伴うため、以下の要件が定められています。
- 相手方に離婚原因がある
- 保全手続きを要する客観的な理由が必要
詳しくは弁護士にご相談ください。
保有財産は離婚を切り出す前に確認する
相手が保有する財産を把握するまで離婚を切り出さないことも重要です。
また、財産隠しは離婚直前に行うわけではなく、離婚を意識してから1年程度をかけて少しずつ行うケースが多いです。
そのため、離婚を考えていること、手続きを進めていることが相手に悟られないようにしておきましょう。
財産を把握するまで離婚に応じない
相手方が離婚を請求されているケースでも、相手方の財産を把握するまで離婚に応じないことが重要です。
「あなたの財産をすべて開示しなければ離婚に応じない」という強気な姿勢で対応しましょう。
財産分与後に隠し財産が発覚した場合の対処法
財産分与後に隠し財産が発覚した場合は以下の流れで対処しましょう。
ただし、財産分与請求権には2年の除斥期間があり、離婚時から2年以内に請求を行う必要があります。
- 再度協議する
- 錯誤による財産分与の無効を主張する
- 損害賠償請求をする
- 家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立てる
それぞれ以下で解説します。
再度協議する
まず財産分与のやり直しについて、相手方と再度協議します。
メールや電話を無視される場合は内容証明郵便を送付し、財産分与を請求するのも選択肢のひとつです。
ただし、離婚協議書に清算条項を入れてしまった場合、相手方がそれを理由に協議に応じない可能性もあります。
清算条項とは「協議書に書いてあることを蒸し返さない」という約束です。
清算条項を締結している場合、基本的には協議書に記載している内容のやり直しは難しくなります。
しかし、相手が故意に財産隠しを行った場合はやり直しができる可能性があります。
錯誤による財産分与の無効を主張する
財産隠しをしていることを把握していれば、前回の財産分与に合意しなかったはずです。
そのため、隠された側は「財産の内容を勘違いしていた」として、錯誤による財産分与の無効を主張できます。
一方、相手方が意図的に財産隠しをしていた場合は詐欺に該当する恐れがあります。この場合は詐欺による財産分与の取り消しを主張できる可能性があります。
また、互いに把握していない財産が見つかった場合は新たに見つかった財産についてのみ財産分与の協議を行うことになります。
損害賠償請求をする
相手方が財産隠しをしていた場合、不法行為として損害賠償請求が認められる可能性があります。
財産分与の請求権は離婚から2年の除斥期間があります。
一方、不法行為に対する損害賠償請求権は「損害および加害者を知ったときから3年」または「「不法行為があったときから20年」となります。
そのため、離婚から2年以上が経過していても、3年以内なら損害賠償請求を行うことができます。
家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立てる
相手方と協議をしてもまとまらない場合や連絡が取れない場合は家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立てます。
財産分与請求権は離婚から2年以内に行う必要があります。そのため、相手方との話し合いができない場合は調停に持ち込むほうがスムーズに進む可能性があります。
調停でも合意できない場合は審判に移ります。相手方が審判に従わない場合は相手方の財産を差し押さえることができます。
隠し口座を解約していた場合
配偶者が隠し口座を解約している場合は調査嘱託を利用しましょう。
弁護士会照会制度では、すでに解約された口座の情報開示を拒否される可能性が高いです。
裁判所からの調査嘱託であれば、状況によって開示に応じてもらえる可能性があります。
ただし、この場合もどの金融機関に口座があるのかを開示を請求する側が示す必要があります。
離婚後に自己破産された場合
相手方に離婚後かつ財産分与請求前に自己破産をされた場合、あなたの財産分与請求権は破産債権に含まれてしまいます。
相手方が自己破産を申し立て、裁判所から免責が認められれば支払い義務を免れる可能性があるということです。
離婚前に自己破産された場合
財産分与の請求権は離婚成立時に発生します。そのため、財産請求権は自己破産後に発生します。
自己破産後の財産分与請求権は免責にならないため、財産分与を請求することができます。
ただし、自己破産をしたことで相手方の財産のほとんどは債権者への配当に充てられてしまいます。
そのため、財産分与を請求しても支払いを受けられない可能性があります。
財産隠しを疑ったら弁護士へ
財産の調査や適切な財産分与を行うためには弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士なら相手方が隠した財産の確認方法や対処法について適切にアドバイスをしてもらえます。
さらに、それぞれの財産について適切に算出してもらえるため、不利益を回避しやすくなります。
弁護士なら弁護士会照会制度で相手方の口座内容を調べられる可能性もあります。
また、相手方が財産開示を拒む場合、弁護士が相手方に財産開示を求めることで相手方にプレッシャーを与え、財産を開示してもらえる可能性が高くなります。
財産分与請求調停や損害賠償請求に進んだ際も適切に対応してもらえます。
まとめ
相手方の財産を把握していなければ、財産隠しがあったかどうかすらわかりません。しかし、相手方の財産を自分ひとりで調査するのは困難と言えます。
「開示された財産が少ない気がする」「財産を隠されているのではないか」など、財産隠しを疑ったら、離婚問題に強い弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
財産分与請求権には2年という期限があるため、離婚後に財産隠しが発覚した場合はすみやかに相談しましょう。
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