不倫していた側からの離婚請求は難しい|厳しい3要件を満たせばできる

不貞行為
弁護士監修

田中 今日太

記事監修

田中 今日太弁護士弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ 難波オフィス

不倫していた側からの離婚請求は難しい|厳しい3要件を満たせばできる

不倫は悪いことだとわかっているけれど、やり直すのはもう無理。離婚したい・・・

不倫した側から離婚を切り出したいけれど相手がすんなり承諾しないことが予想される場合、裁判を起こせば離婚が認められるのでしょうか。

この記事では、不倫した側からの離婚請求は認められるのか、離婚が認められるためにはどうすれば良いのかについて説明します。

目次
  1. 不倫していた側からの離婚請求は難しい
  2. 有責配偶者でも離婚請求が認められる3要件
    1. 別居期間
    2. 未成熟子
    3. 精神的・社会的・経済的に過酷な状態
  3. 協議離婚する方が効率的
    1. 慰謝料の発生
    2. 離婚条件の調整
  4. 不倫の事実を隠して離婚が成立しても油断できない
    1. 離婚後も婚姻期間中の不貞行為が明らかになれば慰謝料請求できる
    2. 慰謝料請求の期限は2種類
  5. まとめ

不倫していた側からの離婚請求は難しい

不貞行為(配偶者以外のものと肉体関係を持つこと)は夫婦間の貞操義務に反しており、離婚事由の一つとして民法で定められています。

そのため、不倫をしたことが事実であれば、不倫された側からの離婚請求は認められることになります。

では、不倫した側からの離婚請求は認められるのでしょうか。

以前は、婚姻関係を破綻させる原因を作った有責配偶者からの離婚請求は認められないことが一般的でした。

例えば、貞操義務に反して不倫した夫が離婚を請求した場合、妻が拒否しているのに裁判でそれを認めてしまえば、妻子が路頭に迷う懸念が生じ、倫理的にも問題だと考えられていました。

ところが、1987年の最高裁判所の判決で、有責配偶者からの離婚請求であっても認める場合があるとされ、判例が変更されました。

形だけの夫婦関係を続けるより、新しい婚姻を認めてはどうかという意見もあったと言われます。

ただし、今でも有責配偶者からの離婚請求がそう簡単に認められるわけではありません。

有責配偶者でも離婚請求が認められる3要件

先の判決では、有責配偶者からの離婚請求を認める場合がある要件として、以下の3つを満たす必要があるとされました。

なお、これら3要件は総合的に判断されるものなので、離婚が認められるかどうかはケースバイケースです。

別居期間 未成熟子 精神的・社会的・経済的に過酷な状態 それぞれについて下記で詳しく見ていきます。

別居期間

別居期間が、夫婦双方の年齢や同居期間と比べて相当の長期間になっているかどうかがポイントです。

「相当の長期間?」と疑問に思われるかもしれませんが、何年あれば離婚できると決まっているわけではなく、さまざまな事情を総合的に考慮して判断します。

10年以上と言われることもありますが、それ以上の期間でも認められないケースもあります。

未成熟子

未成熟子とは、未成年の子のことではなく、経済的な自立ができない子のことを指します。

そのため、20歳を過ぎていても持病や障害があるという場合は未成熟子と判断されることもありますし、18歳でも定職についていれば未成熟子ではないとされます。

夫婦の間に未成熟子がいると有責配偶者からの離婚請求は認められにくい傾向があります。

しかし未成熟子がいても相当の送金がされていた、子供が高校卒業間際といった理由から離婚請求が認められたケースもあります。

未成熟子がいる場合であっても、別居中に十分なお金を送っておくなどきちんと対応することが重要です。

なお、離婚したら養育費の支払いが生じます。支払い能力は次項の「経済的に過酷な状態」にも関係する大事なポイントになります。

精神的・社会的・経済的に過酷な状態

判例に「相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り」とあります。

のちの判例では、不倫されて離婚を求められた側が、離婚をしたせいであまりにもひどい状況になってしまわないかどうかについては主に経済的困窮について問われます。

つまり、不倫した側が今まで生活費を払ってきたか、安定した収入があり、離婚に際して慰謝料、財産分与などそれなりのお金を払うかなどが問題になるのです。

「離婚後に相手方配偶者が経済的に過酷な状態に陥らないようにすること」を、不倫をして離婚を請求する側が示さなければなりません。

特に配偶者が専業主婦だった場合、特別な経験もなくブランクも長ければ、離婚後すぐに生活に十分な給料をもらえる仕事に就くことは期待できないでしょう。

まして、子供がいる場合はフルタイムで働けない可能性があります。

このような場合、慰謝料や財産分与である程度の額を渡す、養育費の送金を確実に行うといったように相手方の離婚後の生活保障を十分に行うよう約束したり、自分に安定した収入があることを証明したりするなどの行動が必要です。

なお、別居期間を満たすには何年もかかります。また、慰謝料・財産分与などで相応の額を出すことになり、別居中の生活費を相手に渡す必要が出てくる可能性があります。

つまり、これら3要件を満たすためには時間もコストもかかるということです。

参考:裁判所「最高裁判所判例集(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55213)」※1

協議離婚する方が効率的

「何年も別居期間を経たくない」「調停や裁判に持ち込んで何か月、何年もかけたくない」「すぐに離婚したい」などの場合は、話し合いによる協議離婚の成立を目指すほうが効率的でしょう。

協議離婚とは、夫婦が話し合いで合意して成立する離婚のことです。

不倫して離婚請求をする側に財力があり、財産分与や慰謝料などで相手に相応の金額を渡せるといった条件つきの話ではありますが、協議離婚は双方にメリットがあります。

協議離婚であれば、離婚請求をする側が相手方に好条件を提示すことで離婚を承諾してもらえるように進めることができます。

では離婚請求をされる側はどうでしょうか。

子供はいずれ未成熟子ではなくなりますし、提示される条件によって経済的過酷状態にならないと判断されれば、のちに裁判離婚が認められる可能性も出てきます。

自分に有利な条件を相手が飲んでくれるタイミングで協議に応じるのも一つの手と考えることもできます。

慰謝料の発生

離婚慰謝料は、離婚原因を作った側(有責配偶者)に対して配偶者が請求できるものです。

不貞行為が原因で離婚する場合の慰謝料は、「この不貞行為が原因で離婚にいたったこと」に対しての損害賠償金になります。

不貞行為による離婚の慰謝料の額は、100~300万円が相場といわれますが、相手の収入や資産など支払い能力にもよるので、50~300万円くらいを考えておくと良いでしょう。

離婚条件の調整

離婚に際しては、慰謝料のほか、決めなくてはならないことが多くあります。

財産分与
別居期間を除く結婚生活中に夫婦が共同で築いた財産を分配します。
親権
子供を第一に考え、夫婦どちらが親権を持つかを決めます。
養育費
親権を持たない側の親が、子供が育つうえで必要なお金を支払います。
面会交流
別れて暮らす親が子供と会う頻度、場所などの取り決めをします。

不倫の事実を隠して離婚が成立しても油断できない

不倫の事実を隠して離婚が成立しても油断できない

「不倫した側からの離婚請求はハードルが高く、時間もコストもかかる。それなら、いっそ不倫したことが配偶者にバレなければよいのでは?それが成立すれば、慰謝料も請求されないし。」

こんな風に考える人もいるかもしれません。しかし、実は不倫がバレると離婚後であっても慰謝料を請求される可能性があります。

ただし、慰謝料請求権には期限も存在します。

離婚後も婚姻期間中の不貞行為が明らかになれば慰謝料請求できる

離婚後でも、婚姻期間中の不貞行為が判明したら慰謝料を請求できます。

ただし、「婚姻期間中に元配偶者が不貞行為をしていたかどうか」が争点であり、「婚姻期間中に不倫相手と元配偶者が肉体関係を持っていた」という証拠が必要です。

では、離婚成立時に「慰謝料はなし」と取り決めていたケースではどうでしょうか。

この場合、離婚時点で不貞行為を知らなかったから「慰謝料なし」で合意したのであって、もし知っていたら慰謝料を請求していた可能性があります。

つまり、離婚成立時とは条件が異なるため、そこを主張することで離婚後でも慰謝料を請求できる可能性もあります。

慰謝料請求の期限は2種類

慰謝料請求は離婚後いつまででもできるわけではありません。慰謝料請求権には消滅する期限が2種類あり、いずれか早いほうが適用されます。

時効消滅後の慰謝料請求は難しいと言われます。民法724条に、不法行為に基づく損害賠償請求権の期間の制限について規定があります。

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効) 第七百二条 
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

つまり、不法行為に基づく損害賠償請求権の期間は下記となります。

  1. 損害および加害者を知ったときから3年
  2. 不法行為のときから20年

上記はいずれも消滅時効ですので時効を更新(時効をゼロに戻して再スタート)させる方法があります。

裁判を起こす
元配偶者へ慰謝料請求の裁判を起こすことで、時効を更新し、消滅時効の期間がリセットされます。裁判の判決が確定すると、時効の時間の進行が新たにゼロから始まります。
内容証明郵便による催告内容証明郵便を送って慰謝料請求を行う
「催告」をすると、6ヶ月間時効の完成が猶予されます。 ただし、催告から6か月の間に慰謝料請求の裁判を起こすなどの手続きをとらないと、時効が更新されません。裁判を起こすと消滅時効の期間がリセットされ、裁判の判決が確定したら、消滅時効の時間の進行が新たにゼロから始まります。

配偶者が不倫相手を特定してから3年間

損害および加害者を知ったときから3年の消滅とは、配偶者が不貞行為をしていることと、不倫相手を知った日から3年となります。

不貞行為が原因で離婚したことへの慰謝料に関しては、離婚した時点からカウントされます。不倫相手については、名前など相手が誰か特定できていることが重要です。

不倫が始まってから20年間

不法行為のときから20年とは、配偶者と不倫相手との不倫関係開始から20年を指します。

現状、配偶者が不貞行為をしていることに気付かなければ、20年経つと慰謝料請求を行う権利がなくなります。

不倫している配偶者にとっては、不貞行為をしていることを知られなければ請求されないということになっています。

まとめ

不倫していた側からの離婚請求は難しく、別居期間、未成熟子の有無、離婚後に経済的に相手が困らないかといった条件をクリアしないと、認めてもらうことは困難です。

長期間の別居期間をとることが難しい、すぐに離婚したいのであれば、財産分与や慰謝料などの額を配偶者に多く支払うこと、配偶者に有利なようにして離婚を承諾してもらう必要があるでしょう。

不倫した側からの離婚請求が難しいことを踏まえたうえで離婚を少しでもスムーズに進めるには、離婚問題に強い弁護士に相談すると良いでしょう。

当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。

※1裁判所「最高裁判所判例集

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