育児休業給付金とは|育休中に離婚を考えたら知っておくべきこと

出産直後や育休中といえば、「子供が生まれて幸せに違いない」と思われるかもしれませんが、女性が離婚を考えることの多い時期でもあります。
ある調査によると、産後女性の半数以上が「育休中に離婚を考えたことがある」というデータもあります。
会社で働いている人が育児休業を取る際、条件を満たせば育児休業給付金がもらえます。では、育休中に離婚する場合、育児休業給付金はどう扱われるのでしょうか。
この記事では育休中に離婚する際、育児休業給付金はどう扱われるのかについて解説します。
- 目次
育児休業給付金とは
育児休業給付金とは、条件を満たす人が育児休業中(以下、育休中)に申請することで受け取れる給付金です。
育休を取得した従業員は出勤したり、仕事をしたりすることができません。会社としても育休中の従業員に通常の給料を支払うわけにもいきません。
そのため、一定の条件を満たす従業員に限り、育児休業給付金として月給の半分程度を受け取ることができるのです。
なお、育休といえば育児休暇を思い付く人もいるかもしれませんね。実は、育児休業と育児休暇には以下のような違いがあります。
- 育児休業:育児・介護休業法に基づき、取得できる休業制度
- 育児休暇:育児のために取得する休暇。法律で定められたものではない
本記事では「育児休業=育休」として説明します。
育児休業給付金の受給条件
育児休業給付金は雇用保険から支払われます。したがって、育児休業給付金を受け取るためには雇用保険に加入している必要があります。そのほかの受給条件は以下となります。
- 雇用保険に加入しているおり、65歳未満であること
- 1歳未満の子供がいること
- 育休前の2年間で賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あること
- 育休終了後に復職予定であること
- 育休前の給与の80%以上の金額の支払いを受けていないこと
- 育休中の就業日数10日/月以下であること
有期雇用契約の場合
契約社員やパートなど、有期雇用契約で働いている方は上記の受給条件に加えて以下の条件も満たす必要があります。
- 子供が1歳6か月になるまでの間に雇用契約が満了しない(更新予定である)こと
- 育休開始日まで同じ会社(事業主)で1年以上就業していること
パパ・ママ育休プラスとは
2010年6月からパパ・ママ育休プラスという制度が始まりました。
パパ・ママ育休プラスとは母親と父親がともに育児休暇を取得する際、1年間の育休期間を2か月延長できる制度で、特に父親の育休取得を促す目的があります。
パパ・ママ育休プラスは子供が1歳2か月になるまで育休が取れる制度になりますが、注意すべき点があります。
パパ・ママ育休プラスは、夫婦が同時に1年2か月育休を取得できるわけではありません。子供が1歳2か月になるまでの間、夫婦がそれぞれで与えられた1年間の育児休業を振り分けることができるという制度なのです。
育児休業給付金を受給できないケース
育児休業給付金は受給資格を満たす必要があります。つまり、以下のような場合は育児休業給付金を受給できません。
- 雇用保険に加入していない場合
- 育児休業を取得しない場合
- 一人の子供に対して複数回育児休業を取得する場合
- 育児休業を取得後、復職予定がない場合
- 育休中に退職した場合
- 育休中に育児休業前の給料の80%以上の金額が支給されている場合
育児休業給付金の受給期間
育児休業給付金はいつからいつまで支払いを受けられるのでしょうか。
育児休業給付金は産後休業期間が終わってから支給される
育児休業給付金の受給期間は、分娩の翌日から8週間経過(産後休業期間)後から子供が満1歳の誕生日を迎える前日、あるいは父親または母親が職場復帰するまでで、最大10か月間となります。
育児休業給付金は申請してから2か月以上経過しなければ支給されない
育児休業給付金は申請後2~5か月程度経過してから支給されます。申請後すぐに支給されるわけではありません。
育児休業給付金を継続して受け取るためには
育児休業給付金は2か月ごとに申請が必要です。継続して育児休業給付金を受け取るためには、初回の申請手続き後、2か月ごとに申請書を提出する必要があります。
育児休業給付金の申請方法
育児休業給付金の申請は雇用主(勤務先の会社)が行うのが一般的です。しかし、状況によっては自分で申請を行うケースもあります。
育児休業給付金の申請の流れ
会社が育児休業給付金の申請をするのは産前産後休業(以下、産休)の1か月前までになります。自分で申請する際は育児休業期間に入ってから4か月後の末日までに手続きを行う必要があります。
育児休業給付金の申請に必要な書類
育児休業給付金の申請の際は以下の書類が必要になります。
- 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
- 育児休業給付金支給申請書 ※初回のみ
- 育児休業給付受給資格確認票
- 賃金台帳や出勤簿、タイムカードなど ※雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書の記載内容を確認できる書類
- 母子健康手帳の出生届の写しや住民記載事項証明など ※育休中であることを確認できる書類
- 育児休業給付金受取口座の通帳の写し
育児休業給付金の支給額
育児休業給付金は受給期間中に金額が変わります。
- 育児休業開始から180日まで
- 休業開始時賃金日額(育児休業開始前6か月間の賃金を180で割った金額)×支給日数×67%
- 181日から育児休業最終日まで
- 休業開始時賃金日額(育児休業開始前6か月間の賃金を180で割った金額)×支給日数×50%
育児休業給付金支給期間中に給与が支払われる際、支払われた給与金額が休業開始時賃金月額×13%を超えて80%未満である場合には育児休業給付金の支給額が減額されます。
また、休業開始時賃金月額の80%以上となる場合、育児休業給付金は支給されません。
育児休業給付金の支給額には上限がある
育児休業給付金の支給額には上限があります。育児休業開始から180日まで(休業開始時賃金日額×支給日数の67%が支給される場合)は30万4,314円が上限となります。
一方、181日から育児休業最終日まで(休業開始時賃金日額×支給日数の50%が支給される場合)は22万7,100円が上限となります。
育児休業給付金の具体例
ここからは月給23万円の人が出産後一年間会社を休んだ場合の育児休業給付金の具体例を紹介します。
- 育児休業開始日から180日
- 23万円×67%=15万4,100円/月となります。
- 181日から育児休業終了日まで
- 23万円×50%=11万5,000円/月となります。
- 育児休業終了日までに受け取ることができる金額
- 15万4,100円/月×6か月+11万5,000円/月×4か月=138万4,600円となります。
育児休業給付金受給中の注意点
育児休業給付金受給中はいくつか注意点があります。
育児休業給付金の申請には期限がある
育児休業給付金の申請には期限があります。
前述のとおり、雇用主が申請する場合、産休の1か月前までに手続きを行う必要があります。自分で申請する際は育児休業期間に入ってから4か月後の末日までに手続きを行う必要があります。
社会保険料の免除を受けるには申請が必要
育休中の健康保険や厚生年金といった社会保険料は、事業主と被保険者ともに免除されます。
ただし、育休中に社会保険料の免除を受けるためには、事業主が日本年金機構に「育児休業等取得者申出書」を提出する必要があります。
育児休業を取得する際は必ず会社や担当部署に確認するようにしましょう。
会社から給与が支給された場合は雇用保険料を納める
育休中に会社から給与が支給された場合は雇用保険料を納める必要があります。
育児休業給付金の受給期間は延長できるのか
原則として育児休業給付金の受給期間は延長できません。
ただし、子供の1歳の誕生日後に育児休業を取得する際、例外的に1歳6か月に達する日の前日まで育児休業給付金の受給期間を延長できるケースがあります。ではどのようなケースで延長が認められるのでしょうか。
①保育所などに申し込みを行ったが保育所の理由で預けられない場合
保育所(認可外保育施設を除く)などに申し込みを行ったにも関わらず、保育所側の理由で子供を預けることができず、職場復帰ができない場合は育児休業給付金の受給期間の延長が認められています。
このとき、子供の1歳の誕生日の翌日に保育が実施できるように申し込みを行っていることが前提となります。
②養育者が死亡あるいは疾病などで職場復帰困難な場合
養育者が死亡あるいはケガや病気で養育ができない場合は職場復帰が難しくなります。このようなケースも育児休業給付金の受給期間の延長が認められます。
③養育者が妊娠中や産後間もない場合
養育者が出産間近(6週間以内に出産予定)あるいは産後8週間以内の場合は子供の養育ができず、職場復帰が難しいことがあります。このような場合も育児休業給付金の受給期間の延長が認められます。
④離婚によって養育者と子供が同居できなくなった場合
離婚などの理由で養育者と子供が別々に暮らさざるを得なくなったという場合も職場復帰が難しいため育児休業給付金の受給期間の延長が認められます。
シングルマザーという理由だけでは育児休業給付金の延長は認めらない
離婚に伴う育児休業給付金の受給期間の延長は、「養育者と子供が別々に暮らさざるを得なくなった場合」に認められるものです。
「母親が子供を養育しており育休中に離婚した。親権は母親が獲得した」という場合、育児休業給付金の受給期間を延長することは認められないということです。
一方、平成29年10月1日に改正育児・介護休業法が施行されました。
これにより、子供が1歳6か月に達した日のあとに育児休業を取得する際、上記①~④に該当する場合は子供の2歳の誕生日の前日まで育児休業給付金の受給期間を再延長できるようになりました。
ただし、2歳の誕生日前日までの延長ができるのは、誕生日が平成28年3月31日以降の子供に限られます。
育児休業給付金の受給期間を延長するための手続き
育児休業給付金の受給期間を延長する際は育児休業給付金支給申請書に必要事項を記入し、延長事由に該当していることを確認できる書類を添付して提出します。
育児休業給付金の受給期間の延長手続きに必要な書類
育児休業給付金の受給期間延長事由に該当していることを確認できる書類には以下のようなものがあります。
- ①の場合:市町村が発行した保育所の入所保留の通知書など
- ②の場合:世帯全員について記載された住民票の写しおよび母子健康手帳や養育者の病状についての医師の診断書
- ③の場合:母子健康手帳
- ④の場合:世帯全員について記載された住民票の写しおよび母子健康手帳
なお、①~④は「育児休業給付金の受給期間は延長できるのか」の項に記載した延長理由のいずれかになります。
育休中に離婚したいと思ったら
冒頭で述べたように、育休中は女性が離婚を考えやすいと言われています。育休中に離婚した場合、受給している育児休業給付金はどうなるのでしょうか。
参考:Hanakoママweb「やっぱり!?出産後「離婚」を考えたことがあるママは〇%!【ママの本音のYES&NO】https://hanakomama.jp/topics/23760/」※1
育児休業給付金を受給中の婚姻費用や養育費はどう計算されるのか
離婚を検討する際、別居してから離婚するかどうかを考えるケースも多いです。夫婦には婚姻費用(結婚生活に必要な生活費)分担義務があるため、別居中であっても収入の多い側に婚姻費用を請求することができます。
また、育休中ということは未成年の子供がいるわけですから、離婚後に親権を持たない親(非監護親)には養育費分担義務があります。そのため、非監護親に対して養育費を請求することができます。
産休中や育休中に会社から給与が支給されている場合は源泉徴収票や給与明細によって基礎収入を計算し、婚姻費用や養育費を算出することになります。
では給与が支給されず、育児休業給付金が支給されている場合はどうなるのでしょうか。この場合、以下の2つのケースが考えられます。
- 育休中と育休後にわけて算出する
- 育休中の収入で計算し、育休終了後に金額の変更を申し出る
ただし、婚姻費用や養育費は家庭の状況や事情を考慮して総合的に判断されるものです。育児休業給付金受給中の婚姻費用や養育費の計算については弁護士に相談することをおすすめします。
育児休業給付金は財産分与の対象になるのか
離婚する際、婚姻中の共有財産を夫婦で公平に分けます。これを財産分与と言います。では、育休中に支給された育児休業給付金は財産分与の対象になるのでしょうか。
育児休業給付金は給料ではなく休業手当のようなものです。そのため育児休業給付金は財産分与の対象となりません。
職場復帰してから離婚することも検討しよう
主に子供の養育に携わっているのが母親の場合、離婚後の親権は母親が持つ可能性が高いでしょう。しかし、育児休業給付金は「離婚してシングルマザーになった」という理由だけで延長を認めてもらうことは難しいのが現実です。
育児休暇中に離婚し、1歳前後の子供を育てながら仕事に復帰するのは大変です。
DV被害に遭っているなど、やむを得ない事情を除き、まずは職場復帰して生活を安定させ、それから離婚するかどうかを考えるという選択肢も視野に入れておきましょう。
まとめ
育児休業給付金の申請方法や育休中に離婚する際の育児休業給付金の扱われ方について説明しました。
育休中に離婚を考える人は多いですが、まずは職場復帰して生活を安定させることも視野に入れましょう。どうしても離婚をしたいというなら、デメリットも踏まえて慎重に検討する必要があります。
離婚問題に強い弁護士なら、離婚の際の育児休業給付金の考え方や相談者の状況に合わせた解決策をアドバイスしてくれます。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。育休中に離婚を考えたら一人で悩まず、弁護士に相談することをおすすめします。
※1 参考:Hanakoママweb「やっぱり!?出産後「離婚」を考えたことがあるママは〇%!【ママの本音のYES&NO】」
関連記事≫≫
育児に非協力的な夫と離婚できる?ワンオペ育児で離婚にいたる原因と対処法。
子供の親権を勝ち取るために離婚前にすべきこと|親権の相談は離婚弁護士へ
母子家庭向けの手当や制度って?シングルマザーが安定して暮らす方法
産後クライシス|離婚を回避して夫婦仲を改善する方法とは
離婚の養育費の相場|できるだけ多くもらう方法とは
都道府県から弁護士を検索する
離婚コラム検索
離婚の基礎知識のよく読まれているコラム
-
1位基礎知識弁護士監修2020.10.28離婚したいけどお金がない人が離婚する方法と知っておくべき全知識専業主婦やパートタイマーなど、離婚後の生活やお金がないことが理由で「離婚したいけ...
-
2位基礎知識弁護士監修2019.02.05離婚を決意する瞬間は妻と夫では違う!決意後に考えなければいけないこと離婚したいけど踏みとどまっている人と離婚した人の最大の違いは決意したかどうかです...
-
3位基礎知識弁護士監修2018.09.072度目の離婚後は旧姓に戻せない?離婚後に姓と戸籍がどう変わるのか離婚によって自分自身と子どもに関係するのが苗字の問題です。離婚はしたいけれど自分...
-
4位基礎知識弁護士監修2020.01.17親が離婚した子供の離婚率|子供も離婚しやすくなる理由と解決策とは「親が離婚すると子供の離婚率が上がる」と言われることがあります。実際、「親の離婚...
-
5位基礎知識弁護士監修2019.10.04産後セックスを再開する目安はいつ?身体の変化と夫婦生活が減ったときの対処法妻の妊娠・出産を機にセックスがなくなったという夫婦も多いのでは?産後は子供のこと...
新着離婚コラム
-
不貞行為2023.05.02離婚の浮気調査で探偵を利用すべき?しないほうがいい?「夫(妻)の行動が怪しい」「浮気をしているかもしれない」など、パートナーの浮気を...
-
基礎知識2023.04.27離婚届のもらい方~書き方~提出方法ついて解説協議離婚の場合、離婚届を提出し、受理されれば離婚が成立します。また、調停や裁判に...
-
基礎知識弁護士監修2023.03.28バツイチは再婚が難しい?再婚で失敗しないポイントを解説バツイチとは、離婚経験が一度ある人の俗称です。由来には諸説ありますが、「改正前の...
-
その他離婚理由2023.03.24同性愛・LGBTを理由に離婚したい同性愛・LGBTであることを隠したまま結婚した、あるいは同意のうえで結婚したもの...
-
基礎知識弁護士監修2023.03.01日本の離婚率はどのくらい?離婚の実態と原因について解説日本では「3組に1組の夫婦が離婚している」と言われていますが本当にそうでしょうか...
離婚問題で悩んでいる方は、まず弁護士に相談!
離婚問題の慰謝料は弁護士に相談して適正な金額で解決!
離婚の慰謝料の話し合いには、様々な準備や証拠の収集が必要です。1人で悩まず、弁護士に相談して適正な慰謝料で解決しましょう。
離婚問題に関する悩み・疑問を弁護士が無料で回答!
離婚問題を抱えているが「弁護士に相談するべきかわからない」「弁護士に相談する前に確認したいことがある」そんな方へ、悩みは1人で溜め込まず気軽に専門家に質問してみましょう。