養育費の取り決めは公正証書に残すべき!作成方法や注意点を解説
子供を持つ夫婦が離婚する際、子供と離れて暮らす親は養育費を支払う必要があります。
しかし、厚労省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果」によると、実際に養育費を受け取っているのは母子家庭のうち3割にも満たないことがわかっています。
養育費の不払いを防ぐ方法として有効と言われるものに「公正証書」があります。この記事では、養育費を公正証書に残すメリットや作成方法について解説します。
- 目次
公正証書とは
公正証書とは公証人(公証役場で公証事務を行う公務員)が法律に基づいて作成する公文書のことです。
公正証書は多くの法的効力を持ち、養育費などの金銭の支払いを含む契約の際に使われることが多いです。
養育費の取り決めを公正証書に残すメリット
養育費の取り決めを公正証書に残すメリットには以下のようなものがあります。
証拠能力が高い
公正証書は公証人が法律に基づいて作成するため、記載した内容は「証拠能力が高いもの」とみなされます。そのため、裁判に進んだ際も証拠として有効です。
また、離婚協議書を公正証書にした場合、公証役場にて20年間保管されるため、紛失したときも安心です。
法的な効力がある
公正証書に養育費の支払いについて記載してあり強制執行認諾文言が付されている場合、裁判を経ずに強制執行を行うことができます。
強制執行とは財産を差し押さえて養育費を回収することです。離婚後、元配偶者が取り決めどおりに養育費を支払ってくれると限りません。
養育費の不払いが起きたときに強制執行時の手間が省けるため、養育費の取り決めについて公正証書の作成を勧められることが多いのです。強制執行認諾文言については後述します。
養育費の不払いリスクを軽減できる
養育費の取り決めについて公正証書を作成しておけば、裁判を経ることなく強制執行が可能になります。
そのため、「養育費がきちんと支払われるだろうか」といった不安を軽減することができます。
養育費の取り決めに対する公正証書の作成の流れ
離婚では養育費だけでなく、慰謝料や財産分与などさまざまな取り決めを行います。そのため、「何をどのように盛り込むか」が重要になります。
養育費の取り決めについて公正証書を作成する際の手順は以下のとおりです。
離婚協議書あるいは公正証書原案を作成する
公正証書に盛り込む内容を決め、離婚協議書または公正証書原案などを書面化したものを公証役場に持参します。
なお、公正証書の手続きは夫婦二人で行いますが、弁護士が代行することも可能です。
離婚協議書や公正証書原案に盛り込む内容は以下となります。
- 離婚に合意したこと
- 親権者と監護権者
- 養育費と面会交流
- 財産分与
- 慰謝料
- 住所変更の通知義務
- 強制執行認諾文言
- 清算条項
精算条項とは、「公正証書に記載した内容以外に当事者間には債権債務がないこと」を当事者双方で確認する条項になります。
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離婚協議書作成費用を抑える!自分で作成する方法
公証役場に行き公証人と面談する
公証役場で公証人と面会する日時については事前予約が可能です。公証役場は夫婦二人で出向くことになりますので、夫婦それぞれの居住地から近い場所を選ぶと良いでしょう。
なお、公証役場では以下の手続きを行います。
- 必要書類の提出
- 離婚協議書の内容を公証人に確認してもらう
- 公正証書を受け取る際の流れや作成したあとの注意点について説明してもらう
公証人に離婚協議書の内容を確認してもらう際、必要な条項はないかなどアドバイスをもらうと良いでしょう。
また、離婚給付契約公正証書(原案)を弁護士が作成している場合はその場で公正証書の作成が終わるため、手続きを大幅に短縮できます。
公証役場の営業時間は平日9:00~17:00(場所によってはこれより短いところもあるようです。)ですので、平日に仕事などがある場合は調整が必要になります。
公証役場に行く際に準備するもの
公証役場に行く際は以下のものが必要です。忘れずに持参しましょう。
- 離婚協議書または離婚給付契約公正証書(原案)
- 夫婦双方の実印・印鑑証明書
- 夫婦双方の本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
- 夫婦双方の戸籍謄本
- 登記簿謄本・物件目録 ※財産分与の対象となる財産に不動産が含まれる場合
- 夫婦双方の年金手帳・情報通知書 ※年金分割を行う場合
手数料 なお、手数料については後述します。
後日夫婦で再び公証役場に行き、原案をチェックする
離婚協議書を提出したら、公証人が作成した公正証書原案のチェックを行います。そのため、再度公証役場に出向く必要があります。
チェックが終わり、記載内容に合意できたら謄本が二通発行されます。手続はこれで終了です。
公正証書を作成する際の注意点
養育費の取り決めについて公正証書を作成する際は、いくつか注意点があります。
公正証書は作成に時間がかかる
公正証書は完成まで10日ほどかかります。また、公証役場は平日の昼間しか窓口が開いていないため、時間を割くのが難しいこともあります。
公正証書作成の際は手数料が必要
公正証書を作成する際は手数料が必要です。手数料は取り決める養育費の金額によって変わります。詳細は関連記事のとおりです。
なお、弁護士に依頼する際は別途弁護士費用が発生します。
夫婦が揃って公証役場に出向く必要がある
前述のとおり、公正証書作成の際は夫婦二人で公証役場に出向く必要があります。
平日に時間を合わせて公証役場に出向くのは面倒ですし、離婚する相手と会うこと自体がストレスに感じる人もいるでしょう。
一方、弁護士に公正証書の作成を依頼すれば、公証役場に行く手間も省けますし、ストレスも軽減できます。
養育費の公正証書は「強制執行認諾文言(条項)付き」で作成すべし!
養育費や慰謝料などお金に関わる取り決めを盛り込んだ場合、公正証書に強制執行認諾文言を付与しておきましょう。
強制執行認諾文言の付いた公正証書を作成しておくと、養育費の不払いが起こった際に裁判を経ることなく強制執行を行うことができます。
養育費の不払いが起こったときの手続き
養育費の不払いが起きたら、まずは元配偶者に連絡をして養育費を支払うよう求めます。相手方の対応に誠実さが見られない場合は強制執行を行います。
公正証書を作成している場合、強制執行の手続きは以下となります。
- 公証役場に公正証書を持参する
- 債権差押命令申立書を作成する
- 裁判所に強制執行の申立てを行う
- 債権差し押さえ命令の発令
- 勤務先等の第三債務者に連絡して取り立てる
なお、強制執行を申し立てる際は、公正証書のほかに以下の書類が必要です。
- 申立書の目録部分の写し ※必要部数については各裁判所までお問い合わせください
- 宛名を書いた封筒
- 送達証明書
- 相手の勤務先の商業登記簿謄本または資格証明書 ※給与を差し押さえる場合
- 対象となる金融機関の商業登記簿謄本または資格証明書 ※預貯金を差し押さえる場合
- 相手方の住民票(住所変更がわかるもの) ※公正証書に記載している住所から相手方の住所が変わっている場合
- 差押債権目録 ※差し押さえを行う債権について記載した書面
- 請求債権目録 ※養育費を請求する権利について記載した書面
- 当事者目録 ※給与を差し押さえる場合に申立人・相手方・相手方の勤務先について記載
強制執行を行う前にすべきこと
養育費を差し押さえるためには、どこに財産が存在して、何を差し押えるべきかを把握しておく必要があります。
財産が存在しない場合、養育費を回収できないという事態が起きかねません。強制執行を行う際は、以下の情報を把握しておきましょう。
- 相手方の現住所
- 相手方の勤務先
- 相手方の預貯金口座
ただし、これらの情報は相手方からの自己申告になります。そのため、相手方と連絡が取れない場合や正確な情報を教えてくれない場合は強制執行ができないという問題がありました。
また、仮に教えてくれたとしても、裁判所には家宅捜索を行う権限がないため、回答が虚偽であることを見抜くことができませんでした。
2020年4月に施行された「改正民事執行法」により、裁判所の調査権限が拡大されることになりました。
そのため、裁判所が金融機関や自治体に対して情報開示を求めることができるようになりました。
なお、財産開示手続を申し立てるには裁判または執行認諾文言付き公正証書が必要になります。
公正証書作成後も養育費の増額や減額請求は可能
離婚後、何らかの事情により、取り決めた養育費を支払うのが困難になることもあります。
離婚時に予想できなかった出来事が発生した場合、取り決めた養育費を増額または減額することができます。これは公正証書を作成している場合も同じです。
どのような場合に養育費を減額または増額できるかについては弁護士にお問い合わせください。
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公正証書を作成する前に決めておくべきこと
公正証書を作成する前に、養育費についてしっかり取り決めておくことが大切です。
養育費の金額
養育費の金額は夫婦が合意できればいくらでもかまいません。しかし、養育費というのは毎月継続して支払われるものです。
収入に対して高額すぎる条件で合意した場合、月日とともに支払いが厳しくなり、養育費の不払いを招く可能性もあります。
一般的には裁判所の養育費算定表を基準に金額を決めることが多いです。
参考:裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」
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離婚の養育費の相場|できるだけ多くもらう方法とは
養育費の支払い期間
養育費の支払い開始時期は「離婚届が受理された月の翌月〇月から」とすることが多いです。すでに離婚している場合は「令和〇〇年〇月から」とすることがほとんどです。
一方、養育費の支払い終期は「子供が20歳になる月まで」とすることがほとんどです。
なお、子供が大学に進学するのか、高校を卒業して就職するかによって「大学を卒業するまで」「18歳になったあとの3月まで」とすることもあります。
2022年4月に成年(成人)年齢が20歳から18歳に引き下げられます。
養育費の支払い終期を「子供が成人になるまで」と決めていた場合、今回の成人年齢引き下げに関係なく、「支払い終期は20歳と考えるのが相当」と考えられています。
しかし、今後法律がどのように変わるかはわかりません。
養育費の支払い終期を「成人になるまで」「大学を卒業するまで」とするのではなく、「〇〇歳になるまで」のように具体的な年齢で決めておくことをおすすめします。
まとめ
離婚後は何があるかわかりません。養育費を取り決める際は公正証書を作成し、リスクに備えておきましょう。また、強制執行認諾文言を付けておくことも重要です。
公正証書を作成する際は弁護士に依頼すると公証役場に出向く手間も省けます。また、弁護士なら公正証書に盛り込む内容や手続きの取りこぼしがないため安心です。
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