離婚の慰謝料に税金はかかる?課税されるケースや節税法を解説。
離婚する際、どちらか一方に離婚原因がある場合、慰謝料を請求することがあります。
労働や相続で収入を得た場合、一定の条件を満たせば所得税や相続税が課税されますが、離婚の際に受け取る慰謝料には税金がかかるのでしょうか。
この記事では、離婚の慰謝料に税金がかかるのかについて詳しく解説します。
- 目次
離婚の慰謝料には税金(所得税・贈与税)がかかる?
慰謝料とは、ある不法行為(たとえば、不貞行為など)によって被った精神的苦痛(損害)に対する損害賠償金のことを言います。
一方、所得税は何らかの経済活動によってプラスとなる所得を生み出したという場合にかかるものです。
しかし、慰謝料は精神的苦痛によって生じたマイナスの損害をお金で埋め合わせ(補填)することで元に戻したにすぎず、プラスとなる所得を生み出したとは言えません。
また、所得税法施行令第30条では、「心身に加えられた損害に基因して取得する損害賠償金」は非課税とすると規定されています。
したがって、慰謝料を受け取る側に原則、所得税がかかることはありません。
所得税法施行令第30条
法第九条第一項第十七号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。
三 心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金(第九十四条の規定に該当するものその他役務の対価たる性質を有するものを除く。)
また、贈与税は、(損害賠償などを除き)個人から年間で110万円を超える財産をもらった」場合にかかるものです。
しかし、慰謝料は加害者が被害者に対して負っている損害賠償支払い義務を履行するために支払うものです。
したがって、原則、慰謝料を受け取る側に贈与税がかかることもありません。
離婚の慰謝料で税金(所得税・贈与税)がかかるケースとは
前述のとおり、原則、慰謝料は非課税ですが、以下のケースでは税金をかかることもあるため、注意が必要です。
慰謝料が高額すぎると判断されたケース
婚姻期間や不倫期間、子供の有無、不倫した相手の所得、社会的地位に照らして「社会通念上相当な金額を超えた」と判断された場合、税務署に贈与だと疑われ「贈与税」がかかる可能性があります。
慰謝料として婚姻中に不動産を受け取ったケース
慰謝料としてお金の代わりに不動産を受け取るケースがあります。
この場合、不動産評価額が110万円を超える場合であって、慰謝料の相場より高いと認められる場合は、その多過ぎる部分に贈与税がかかることになります。
もっとも、次の3つの条件を満たせば、2,000万円の配偶者控除を受けることができます。
この場合、贈与税の控除額を含めて、最大2,110万円までが非課税となりますが、不動産の配偶者控除の適用があるのは、不動産を離婚前に贈与したときに限られます。そのため、離婚後に名義変更した場合は適用されませんので、お気をつけください。
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与されたこと
- 譲渡された不動産が居住用不動産であること、または居住用不動産を取得するための金銭の譲渡を受け、その金銭で居住用不動産を取得したこと
- 不動産を受け取ったあるいは金銭で取得し、受け取った翌年の3月15日までその不動産に住み、その後も住み続ける見込みがあること
慰謝料として婚姻中に車を受け取ったケース
車の場合も不動産の場合と同様、受け取った車の評価額が110万円以上であって、慰謝料の相場よりも高いと認められる場合には超えた分につき「贈与税」がかかる可能性があります。
偽装離婚と判断されたケース
偽装離婚の場合、慰謝料名目で財産を譲り受けたとしても、離婚の実体がない以上、実質は慰謝料ではなく贈与ですから「贈与税」がかかる可能性があります。
慰謝料を支払った側に税金がかかるケース
ここまで、慰謝料を受け取る側に税金がかかるケースを紹介しました。一方、離婚では慰謝料を支払う側に税金がかかることもあります。
慰謝料の支払いを第三者に立て替えてもらったケース
慰謝料を支払う側が第三者に立て替えてもらった場合、第三者からお金の贈与を受けて慰謝料を支払ったことと同義です。
この場合、慰謝料を支払う側に「贈与税」がかかる可能性があります。
現金以外で支払ったケース
また、慰謝料を現金ではなく不動産や車などで譲渡した場合、慰謝料を支払った側にも税金がかかる場合があります。
不動産や車を相手方に渡す場合、時価で相手方に譲渡したとみなされます。
譲渡時点での時価が不動産などを取得したときの費用+譲渡費用を上回る場合は、その差額分につき譲渡所得税がかかる可能性があります。
もっとも、財産分与として「離婚後に」居住用不動産を譲渡する場合には、一定の要件のもと、3,000万円の特別控除が認められます。
この場合、上記の差額が3,000万円以下の場合には譲渡所得税はかかりません。
離婚の慰謝料で課税されないためには
離婚の慰謝料に課税されないためにはどうすれば良いのでしょうか。以下で詳しく見ていきます。
現金で慰謝料を受け取る
慰謝料の支払いを受ける際に課税されないためには、慰謝料を現金で受け取ることが重要です。
前述のように慰謝料の代わりに不動産や車を受け取った場合は、離婚のタイミングや評価額によって贈与税がかかります。
また、不動産には固定資産税、車には自動車税などがかかりますし、受け取ったあとの維持費も大きな負担となります。
不動産や車を受け取ったあとのことも考えると慰謝料は現金で受け取るほうが良いでしょう。
婚姻中に高額な財産を受け取らない
前述のとおり、婚姻中に不動産や車を受け取ると、その評価額によっては贈与税がかかる可能性があります。
したがって、婚姻中に不動産や車を受け取らないことも選択肢の一つとしておいた方がよいでしょう。
もっとも、不動産の場合、評価額が2,110万円以下、車の場合は110万円未満の場合(ただし、車を受け取った年に贈与を受けた財産の価格が110万円を超える場合は課税されます)は贈与税がかからないケースもあります。
課税されるかどうか不安な方は、事前に弁護士または税理士に相談されることをおすすめします。
慰謝料の取り決めについて書面化しておく
現金で慰謝料を受け取りたい方は、後日「物で支払う」と言われることがないよう、「現金で慰謝料を支払う」旨の取り決めをし、示談書や離婚協議書に記載(書面化)しておきましょう。
このとき、示談書や離婚協議書は公正証書にしておくことをおすすめします。
公正証書は公証人が作成する公文書のため、高い信頼性と証明力を持ちます。
公正証書の形にしておけば、税務署に脱税や財産隠しを疑われた場合でも、慰謝料が「心身に加えられた損害に基因して取得する損害賠償金」であることを税務署側に証明することができます。
また、公正証書は取り決めた内容が履行されない場合に裁判を経ることなく、相手方の財産を差し押さえることができるメリットもあります。
調停で離婚する
調停離婚を利用するのも脱税や財産隠しを疑われた際に有効です。
調停は調停委員を介して裁判所で合意を図る離婚の方法です。
調停が成立し、家庭裁判所に申請すると調停調書の謄本(写しみたいなもの)を受け取ることができます。
調停調書には慰謝料の支払い方など調停で取り決めた事項について記載されているため、慰謝料が「心身に加えられた損害に基因して取得する損害賠償金」であることを証明することができます。
また、公正証書と同様、調停調書には強制執行力も付与されます。
財産分与や養育費に税金はかかるのか
財産分与とは、文字どおり、離婚を契機として、夫婦で共有財産を分けることを言います。
基本的に、財産分与は財産分与請求権(民法第768条1項)に基づいて受け取るものですので、「贈与ではない」とみなされます。
そのため、分与を受けた側には原則として贈与税はかかりません。
ただし、分与された額が、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他の事情を考慮してもなお過大と認められる場合、あるいは贈与税の脱税を図るために偽装離婚した場合などは贈与税がかかります。
一方、前述のとおり、不動産等を譲渡して何らかの譲渡所得が生まれた場合には財産分与をする側に譲渡所得税がかかることがあります。
養育費の支払いは子に対する親の扶養義務の一つです。
また、所得税法9条1項15号では「学資に充てるために給付される金品および扶養義務者相互間において扶養義務を履行するために給付される金品」について所得税は非課税としています。
そのため、原則として養育費に所得税はかかりません。
また、贈与税についても、相続税法21条の3第1項2号で「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」は非課税としているため、養育費に贈与税がかかることもありません。
ただし、将来の養育費を一括で受け取った場合は贈与税がかかる可能性もありますから注意が必要です。
慰謝料の税金が気になったら弁護士・税理士に相談
離婚するとなれば、慰謝料や財産分与、税金といったことは多くの方が検討しなければならない問題です。
しかし、これらの多くは専門的な内容が多く、どうしたら良いかわからないという方も多いでしょう。
慰謝料の税金のことが心配になったときは、税理士や弁護士に相談することをおすすめします。
税理士は税金のプロですので、税金について包括的な相談ができます。
一方、弁護士は離婚や慰謝料などの法的な専門家です。
弁護士の資格を取る際、税理士の資格も取ることができるため、離婚と税金両方の相談を受付けている弁護士もいます。
また、税理士と連携を取っている法律事務所も多いため、そういったところを選べば相談の手間も省けます。
まとめ
慰謝料や財産分与の際に受け取った財産、養育費には原則、税金はかからないことが多いです。
しかし、例外もありますから、例外はどんなケースか、課税されないためにはどんな点に気を付ければよいのか、あらかじめしっかり確認しておく必要があります。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は慰謝料や離婚問題に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。
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