悪意の遺棄とは|夫(妻)に離婚や慰謝料を請求する方法
民法で定める離婚理由の一つに「悪意の遺棄」があります。
「生活費を入れない」「出て行ったまま帰ってこない」といったケースでは、悪意の遺棄に該当するかが問われることになります。
この記事では、悪意の遺棄とは何か、悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料する方法について解説します。
- 目次
悪意の遺棄とは
民法752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定されています。
悪意の遺棄とは、正当な理由なく民法752条の同居・協力・扶助義務を履行しないことを言います。
同居・協力・扶助義務の不履行は、その行為を積極的に行ったか消極的に行ったかを問いません。
また、同居義務違反については、相手を家に置き去りにする場合のみを指すものではなく、相手を家から追い出すことや出ていった相手を家に入れない場合も含みます。
正当な理由の有無については、別居した目的や別居による相手方の生活状況、生活費送金の有無、別居期間などを総合的に考慮して判断されます。
悪意の遺棄の根拠となる3つの夫婦の義務
前述のとおり、夫婦には、法律上以下の3つの義務があり、各義務違反は悪意の遺棄を基礎づける事情となります。
同居義務
同居義務とは、夫婦が同居をして共同生活を送る義務のことを言います。
同居義務は、夫婦の基本的な義務であるため、婚姻関係が続く限り存続します。
また、一方の配偶者が、同居義務に違反をしている場合、他方の配偶者は、裁判所に対し、同居を求める調停または審判の申し立てをすることができます(家事事件手続法39条、別表第2第1項)。
なお、単身赴任などにより一時的に別居をしている状態は、正当な理由のある別居と判断され、同居義務違反には当たらないとされています。
協力義務
協力義務とは、共同生活を送るにあたり、夫婦が協力し支えあう義務のことを言います。
ほかの2つの義務と比べると抽象的な内容ですので、どのようなことをすれば協力義務違反にあたるかの判断は非常に難しいです。
ただし、悪意の遺棄の対象となる協力義務違反は、単に家事や育児に協力しないといった程度のものではありません。
「悪意を持って婚姻関係を破綻させようとした」とみなされる程度の義務違反である必要があります。
扶助義務
扶助義務とは、共同生活を送るにあたり、配偶者の生活水準を自分の生活水準と同じようにするために援助をする義務のことを言います。
具体的には、扶助義務は婚姻生活中の経済的援助のことを指し、婚姻費用請求も扶助義務を根拠になされるものです。
そのため、一方の配偶者が、扶助義務に違反をしている場合、他方の配偶者は、裁判所に対し、婚姻費用分担請求調停または審判の申し立てをすることができます(民法760条、家事事件手続法39条、別表第2第1項)。
悪意の遺棄とみなされる可能性があるもの
悪意の遺棄とみなされる可能性がある行為としては、以下のものが挙げられます。
生活費を一切家に入れない
生活費を一切家に入れない行為は、扶助義務に違反する行為となります。
同居・別居を問わず、生活費を全くもらっていない場合、婚姻費用を請求することが可能です。
今後の生活費に不安がある状態では、離婚を前向きに考えることができません。
夫が生活費を入れてくれないという理由で離婚を考えている場合は婚姻費用の請求を併せて行うほうが良いでしょう。
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正当な理由なく同居を拒否する
正当な理由なく同居を拒否する行為は同居義務に違反する行為となります。
ただし、同居義務違反が直ちに「悪意の遺棄」に該当するわけではなく、悪意の遺棄に該当するかどうかは、別居にいたる経緯や別居の目的、別居の期間などを考慮して総合的に判断されます。
また、「婚姻関係が破綻して別居した」という場合、「正当な理由がある別居」と判断され、悪意の遺棄とは認められない可能性があります。
具体例としては、価値観の相違や性格の不一致により夫婦関係が冷え切って別居をしたというケースです。
もっとも、「悪意の遺棄」にはあたらない場合であっても、別居期間が長期におよべば「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)として考慮されることになります。
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健康なのに働こうとしない
健康なのに働こうとせず、生活を支えようとしない場合は、協力・扶助義務に違反する行為となります。
もちろん、専業主婦(主夫)で家事をすることにより生活を支えている場合は、正当な理由があるため、働かなかったとしても協力・扶助義務違反にはあたりません。
問題なく働けるにもかかわらず働くことをせず、家庭も蔑ろにしているような場合には、悪意の遺棄にあたる可能性が高いでしょう。
配偶者を追い出す
配偶者を追い出す行為は同居義務に違反する行為となります。
一般的に、配偶者を追い出すような状況ではその後の生活費の支払いも滞っている場合があります。
そのため、同居義務違反に加えて、協力・扶助義務にも違反しているケースが多いです。
家出を繰り返す
家出を繰り返す行為は同居義務に違反する行為となります。
妻側に何の原因もないにもかかわらず、婚姻関係を破綻させることを意図して夫が家出を繰り返している場合、悪意の遺棄と判断される可能性があります。
不倫相手の家で生活する
不倫相手の家で生活し、配偶者と別居している状態は、同居義務に違反する行為となります。
不倫相手の家で生活するということに正当な理由はないため、悪意の遺棄にあたる可能性が高いです。
さらに、不貞行為は、悪意の遺棄とは別の離婚事由(民法770条1項1号)にあたります。
そのため、慰謝料を請求する場合は、単なる悪意の遺棄の事案と比べて高額になる可能性があります。
悪意の遺棄とみなされにくいもの
前述のとおり、悪意の遺棄とは、正当な理由なく同居・協力・扶助義務を履行しないことを言います。
そのため、以下のような「正当な理由」がある場合には、悪意の遺棄とはみなされにくい傾向があります。
- 単身赴任のため別居をする場合
- 両親の介護のため別居をする場合
- 出産のために別居をする場合
- 婚姻関係が破綻したため別居をする場合
- 病気のため働くことができず、生活費を入れることができない場合
- 失業したために生活費を入れることができない場合
悪意の遺棄を理由に離婚できるのか
悪意の遺棄を理由に離婚することはできるのでしょうか。以下で詳しく見ていきます。
夫婦が合意すれば離婚できる
離婚は夫婦がお互いに合意すれば成立します。これを協議離婚と言います(民法763条)。
協議離婚の場合、法律上の離婚原因があるかどうかや婚姻関係が破綻しているかどうかに関係なく、夫婦の合意のみによって成立します。
そのため、どのような理由であっても離婚が可能です。
悪意の遺棄があれば裁判で離婚が認められる
夫婦が離婚に合意できない場合、裁判を起こし、裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。これを裁判離婚と言います。
裁判離婚の場合、以下の法律上の離婚事由がなければ離婚は認められません。
- 「配偶者に不貞な行為があったとき」(民法770条1項1号)
- 「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(同2号)
- 「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」(同3号)
- 「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(同4号)
- 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(同5号)
悪意の遺棄については、民法770条1項2号に法律上の離婚事由として規定されていますので、悪意の遺棄が認められれば、裁判での離婚が認められます。
悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料請求するには
悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料請求するにはどうすれば良いのでしょうか。
悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料請求するには証拠が必要
裁判を起こして離婚や慰謝料を請求するためには、裁判を起こす側(原告)が悪意の遺棄があったことを証明する必要があります。
どのような証拠が必要かについては事案によって異なるため、一概には言えませんが、以下のものを準備しておくと良いでしょう。
- 預貯金通帳のコピー(生活費を一切もらっていないことの証拠)
- 住民票の写し(別居をしている証拠)
- 賃貸借契約書(配偶者が自宅とは別に賃貸物件を借りている証拠)
- 興信所の調査報告書(不倫相手の家で生活をしている証拠)
- メモや日記(配偶者の言動をまとめた証拠)
- メールや手紙(配偶者が正当な理由なく同居などに応じない証拠)
裁判に進んだ場合、思わぬものが証拠になることもあります。
日記やメモであっても普段から継続的につけているものであれば、裁判でも信用性が高いものとして扱われる傾向にあります。
そのため、証拠収集は早い段階からコツコツと行うことをおすすめします。
また、上記のほか、事案によって証拠として有効とされるものがある場合もあります。詳しくは弁護士にご相談ください。
悪意の遺棄を理由に離婚したときの慰謝料相場
悪意の遺棄を理由に離婚をしたときの慰謝料の金額は、婚姻期間や別居期間、子供の有無、悪意の遺棄に該当する具体的な事情などを考慮して総合的に決めることになります。
そのため、慰謝料の具体的な金額について一概に言うことはできません。
ただし、実際の慰謝料相場としては、50万円から300万円の範囲に収まることが多いでしょう。
悪意の遺棄を理由に慰謝料請求する方法
悪意の遺棄を理由にできるだけ高額な慰謝料を請求するにはどうすれば良いのでしょうか。
できるだけ高額な慰謝料を獲得するには
高額な慰謝料の請求が認められる事案は、長期間にわたって生活費を渡さず愛人の家に入り浸っているなど悪意の遺棄の事案のなかでも悪質なケースになります。
高額な慰謝料を請求するには、配偶者の悪質性を裁判で証明する必要があります。
そのため、有効な証拠をできるだけ多く集めることが重要となります。
また、悪意の遺棄だけでなく、複数の離婚原因があるほうが、慰謝料も高額になる傾向にあります。
悪意の遺棄だけでなく、配偶者の不貞行為などの証拠があれば、悪意の遺棄と不貞行為の両方を理由として慰謝料を請求すると、より高額な慰謝料を請求できます。
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悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料請求するなら弁護士に依頼
悪意の遺棄は、生活費を一切家に入れなかったり、正当な理由なく同居に応じないなど、配偶者が不誠実な対応をしている事案が多いです。
そのため、夫婦の話し合いでは離婚や慰謝料の請求には応じてもらえず、裁判まで発展する事案も少なくありません。
また、悪意の遺棄があったという事実は離婚や慰謝料を請求する側が証明しなければなりません。
そのため、裁判で認められる有効な証拠をそろえておく必要があります。
ただし、悪意の遺棄で悩んでいる方は精神的にも疲弊しており、上記の対応を自分一人で行うことは難しいケースがあります。
悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料を考えている場合は、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士に依頼すると、法的なアドバイスや裁判の手続きの代行など、正当な権利の実現に向けたサポートを受けることができます。
まとめ
悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料を請求することは可能です。しかし、証拠がなければ裁判に進んだ場合に裁判所に認めてもらえません。
また、悪意の遺棄は具体的な事案によって必要な証拠も異なります。
「夫が生活費を入れてくれない」「家を出て帰ってこない」などの理由で離婚を考えている方は、早めに弁護士に依頼することをおすすめします。
当サイト「離婚弁護士相談リンク」は離婚や慰謝料請求に強い弁護士を厳選して掲載しています。ぜひお役立てください。
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